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悪役令嬢と呼ばれたがそれより隣のカリスマがこわい【連載版】  作者: 良よしひろ
2.シナリオ探索だがそれよりノート提出である
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生徒との距離は信頼関係によります 1

あけましておめでとうございま…した。

まだ五月…だと…いやあれですよ、季節の先取りですよ…(震え声




2016.3.31 どうしてもつながらなくて末尾改変しました。

申し訳ありません。

――まあ、暗殺に走るのは最終手段だろうから。

  滅多なことではないし、そこまで警戒しなくても大丈夫だよ。


 と、赤宗は言っていたが。それが、暗殺予告された小市民にとってどれほどの慰めになるというのだろうか。

 そもそもそこまで警戒しなくていいなら、最初から口にしなくてもよくないか?

 日常生活が少し挙動不審染みたとしても、仕方ないと思う。


 ましてや、ゴールデンウイーク明け一カ月は保護者面談期間だ。明らかに学生服ではない、見慣れない大人の姿があちこちうろうろする。

 監視カメラの死角を探す方が難しい学園内で、まさか凶行に及ぶまい、とは思う。思うが。

 

 抜き足差し足。隅々まで磨かれた廊下を、背中を丸め恐る恐る進む。皆怪しく感じてしまうのである。きょろきょろと落ち着かないのに、すれ違う相手が不審そうに見てくるのが、我ながらツライ。


 面談室前に保護者が並んでいる他、廊下に生徒の姿はない。部活勧が始まったので、残っているのは保護者と一緒に帰ろうとしている子どもぐらいだ。

 掃除指導の時に持っていた箒を握りしめながら、壁を陰に恐る恐る廊下をのぞき込むと、面談待ちの保護者の声が漏れてきた。


「まあ旦那様……銀行にお勤めですの」

「そうですの、夫は運に恵まれているようで。幸い今度昇進が決まりまして、…――」

「そうでしたのおめでとうございます、私の会社なぞ業績が頭打ちでしてね――」

「ご謙遜ですわ、他と水をあけていらっしゃるというのに――」


 うふふ、おほほ、わっははは。

 面談室前、並ぶ母親、肩をたたき合う父親たちの、空々しく聞こえる謙遜に見せかけた自慢とやっかみの応酬。


 これが上流階級のマウント取り合戦……? うわっ……怖くないですか……?


 ハイソな会話に耐性のない一般人な私が震えあがっていると、掃除当番が不満たらたらの顔で、終了した旨を伝えてきた。

 出来をチェックして解散を告げると、「礼も言えねえのかよ使えねえ」と小さく毒付くのが聞こえた。


 …ちなみに、先生が掃除の礼を言う必要はない。

 そもそも自身が汚したところを清掃しているのだし。周辺の生活空間を清潔に整頓できるか、生活習慣の定着のためにしているので、どちらかというと生徒の為である。男子学生が母親に自室を掃除されるのとは全く違う、指導の範疇だ。

 別に金を払って頼んでもいいのだ。実際本校は金銭に余裕があるので、トイレや玄関ホールなど生徒にはハードルの高い場所は依頼している。


 が、私が何か言う前に、生徒たちは箒などを用具入れに突っ込み、廊下を走り去った。追いつけずに、生徒たちが逃げるように行くのを、まあいいかと自分を納得させた。結局不平不満を言っては来るが、指示はきちんと聞いて掃除はしたのだから。


 これまで大人の教えてきた既存の規律模範に疑問を持つことが、即ち自我の確立につながる。そのルールを自分なりに咀嚼し、新たに自分で定義づけすることにより、ルールは継承される価値を持つ。

 その過程を、我々大人は甘んじて受け止めなければならない。自分も通ってきた道だから。

 

 人、それを「反抗期」という。


 「先生」という存在は、既存のルールを守らせる大人の代表、「規則のシンボル」みたいなものだ。親兄弟と違ってイマドキ教職員が生徒に強く出ることもしない、わかりやすくちょうどいい八つ当たり相手だ。


 ……だがこれは少し違う気がする。


 最近、生徒が私に対して無暗に反抗的だ。突っかかってくるというか、普段よりストレスのはけ口にされやすいというか。先日立花嬢と鉢合わせた時も感じた、悪感情だ。

 女子に嫌われるのは分かる。不本意ながら学園の支配階級(レインボーズ)とつるんでいるから。「出る杭は打たれる」というあれだ。

 不思議なのは、例年よりも大分嫌われ具合が強い上に、態度があからさま過ぎること。そして、嫌っているのが、内部進学の「生え抜きお坊ちゃまお嬢様達」より、外部進学の生徒の方が多いことだ。

 一年間の最初の方は、出身が一般家庭で、迫力のない見た目から馬鹿にされる。だが大学進学のためにこの学校にきているのだから、外部進学者はもっと割り切った態度で、表立って教職員と衝突などしない。さらに私は、なぜか赤宗に庇護を受けている。そうして一年の最後には、赤宗という恐怖に、「授業中はお互い行儀よく」という暗黙の了解を共有する。

 そんな風に、二年間で、ある程度子どもとは分かち合えたと――分かち合ったのは恐怖だけれど――思っていたのだが。


 幸いにして、掃除やホームルームでは、他の先生方が見回っているし、授業中も監視カメラが動いているため、特に困ったことは起きていない。こちらの指示に抵抗することはあっても、ボイコットをしないし。

 ……特に藍原先生はよく顔を出しては「いい子にしてろよ」と笑いかけていく。その後は女子は勿論、男子も上機嫌だからすごい。



 まあとにかく、掃除が済んだら、次は教室の施錠だ。

 箒を振り回しながら再び教室をのぞき込むと、ポツンと席に座り込んでいる影一つきり、どうやら読書中のようだ。


「失礼、そろそろ施錠してもいいかなー…あら、早苗か」

「っは、はいっ…」


 早苗は、私の呼び声に顔を上げて固まった。私が反射的に廊下に身を隠したからだろう。鼻から上だけ、廊下側の窓の縁に覗かせている姿は実に異様だ。

 どうせ言葉を交わさなくてはならないのだから、身を潜める意味はないのだが。ビビっちゃうのである。


「こめんね、ちょっと今疑心暗鬼で…つかぬこと聞くけど暗殺依頼の予定ある?」

「え? いえ、あの」

「ごめん何でもない。悪ふざけだから。ああ、そんなに帰りの準備慌てないでも。急がないでいいから」

「あ、あの、すみません…」


 声をかけるごとに慌て、それが余計に机をがたがた揺らして、彼女をうろたえさせた。

 申し訳なくなると同時に、これで「緑」のライバルキャラかと困惑する。

 

 早苗蕾は、ヒロインと攻略対象小緑獅央を争う恋敵である。

 ゲーム内では「蕾見薔薇」、甘いマスクに美しいアルトの声、上背のあるすらりとしたスタイルの、 中性的、というよりは男性的な魅力のある、レディ・ファーストを体現したような紳士的な態度の、宝塚の男役のような人気者だった。

 だが実は、お菓子と花、きらきらして綺麗な、可愛らしい物が大好きで、誰より「女の子らしい」ことに憧れており、それが自分の見た目にそぐわないと自覚している分、悔しさと悲しみは根深かった。

 自分にも女の子として優しくしてくれた小緑に、憧れと、淡い恋心を抱いていたが、自身には似合わないとそれを押し殺していたのである。

 それが、同じくお菓子作りが得意なヒロインが、小緑と接近することで事態は急変する。


 小柄で華奢な体格、女の子らしい趣味、可愛らしい声と仕草、素直に甘え優しくできる性格。ヒロインは彼女の成りたかったもののすべてだった。


 その彼女の羨望と嫉妬でいっぱいの心に「黒瀬百合」は付け込む。コンプレックスを刺激し、ヒロインと対立させ、ヒロインが孤立するよう仕向けるのである。蕾見は嫉妬に潰されそうになりながら、それでも小緑のことを思い、苦悩する。


 …この設定を聞いた時、原案者のアコちゃんに「その少女漫画の続きはどこに売ってますか」と身を乗り出したのは私です。

 事実、アコちゃんの前世でゲームが発売された時、人気が出てスピンオフ小説が出たそうである。シナリオを書いたのはアコちゃんではないので、大筋と大きなイベントしか覚えてないということなので、詳細を聞くことはできなかった。閑話休題。


 で、目の前の「早苗蕾」はというと。


「…早苗って部活入ってなかったっけ」

「入っていないです」

「何か興味ある部やら、ないの?」

「…部活は、必須じゃないです」

「あ、うん。ちょっと日常のスパイスになるんじゃないかと思って」

「……」

「…早苗、岩崎先生が提出物ちょっと遅れてるっていってたよ」

「…明日出します…」

「……えーと」

「…私何か、成績…わるかったですか、へんなことしちゃいましたか…?」

「いや、関係ない。なんか騒がせてごめんね」

「……」

「……うん」


 話は続かないし目線が全然合わない。

 もともと目を伏せて話すクセがあったが、今は伏せるどころか明後日の方向に首をねじってうつむいている。さらに、恐らく無意識だが、荷物をまとめながら早苗の体はもっと私と距離を取ろうとしている。

 物理的距離も遠いが、心の距離はもっと遠かった。


 早見蕾は静かで、地味で、高い上背を小さくして、教室カーストの隅っこに座っている。

 いじめられているわけではない。いじめにすらならない。背景のどこかに埋没して、クラスの視線は彼女の前を後ろをするする過ぎていく。だから、彼女は注目されるのが苦手だ。自分に自信がなく、視線から隠れるように、人の影に逃げようとする。

 …ここまで酷く避けられるのは初めてだけど。


 窓の外を遠く眺める。日が少しずつ長くなって、この時間はまだ空が青い。早苗の涙を見た日、一月前は、すっかり橙色に染まっていたと思うのに。

 電柱のような体躯を、誰彼はばからず堂々とさらしていた小緑。いつも誰かにおびえるように、体を小さくしている早苗と、ちょうど反対で。


「早苗、小緑と何かあったのか」

「…………それは、何故ですか」


 「何故黒瀬先生が聞いてくるのか」という意味だと解釈する。この前ちょっと二人が話しているとこ見てさ、と軽く答えると、早苗は眉をしかめて「先月の…」と呟いた。直ぐに思い当たるとは、彼女にとっても印象深い何かがあったようだ。…悪い意味で。


「あいつが赤宗ら以外と絡んでるの、珍しいから。何かあった?」


 返答は無言。視線はずっと、彼女自身の手に向かって伏せられたまま。

 これは、答えてくれそうにない。大人になったら「小さなこと」と済ませられる程度のことだが、今の当人にとってはそうではないらしい。

 何より私は、彼女に信頼されていない。


「まあいいや。あいつ絶対授業中寝てるでしょ、コミュニケーションの為に、この調子でかまってやって」

「絶対嫌です」


 即答。


「…絶対、嫌…です」


 自分でも「やってしまった」気はするらしい、苦虫を噛み潰したように、それでも頑なに二度、彼女は「嫌だ」を繰り返す。

 あまりに強く間髪入れない言葉に驚いて目を見張ると、早苗に「何か」と尋ねられる。


「や、授業の質問でもさ、あまり聞かないような感じだったから」

「…それは、先生が微妙に難しい質問の仕方ばっかりするから」

「そ、その件については誠に……ここまではっきり否定するの珍しいな。小緑と昔何かあったの? 昔の幼馴染だったとか、校外でばったり…前世で、何かあった、とか?」

「…やだ、先生。前世なんて、古典やり過ぎ…」

「あー、そーだねー」


 早苗は呆れたような、初めて表情を緩めた。まあ教育熱心の結果と解釈してくれたので…。しかしやっぱり彼女も前世の記憶なんてないんだろうか。

 早苗はふと遠い所を見つめるようにして、ゆっくりと続けた。


「…この、前の、一度しか…話したこと、ないです……でも、昔からの、幼なじみ、だったら。そうですね…」


 彼女は静かに微笑んでいった。


「…学校、やめてます」


 失礼します、早苗はささやき鞄を抱え込むと、小走りに扉を抜け廊下をかけていく。思わず呼び止めようとするが、声が小さかったためか、止める間もなく、早苗はそのまま姿を消した。廊下の真ん中で、邪魔くさくぽかんと棒立ちになってしまった。

 ここまで一か月前と同じとか。学校止めるって、小緑と昔からずっと一緒にいたら嫌気がさして、同じ学校にも行きたくなくなっていったということ? 何で? 小緑、お前何でここまで嫌われたの? 何したの?


「どいてよ、邪魔」


 生徒が二人、通り過ぎようとするのに声をかけてきた。これはいかん、わきに寄って「すまなかった」といおうとして、


「ムダな点数稼ぎ、ご苦労さんでーす」

「子ども相手にご機嫌取りとかよくやるぜ、おばさん」


 にやにやと、すれ違いざま捨て吐いた。狭くない廊下に、はっきりと聞こえた。

 廊下の奥、立ち並ぶ面談者に、冷笑がじわじわと広がるのが、見なくともはっきりわかった。

 ――躾が行き届いてはない、指導力不足だわ、不安だこと。

 表面上は良識的な侮蔑の感情が伝わってきた。

 これはきつい、新任の教員がいつかないのも道理だ。想像していた以上に面倒くさい。

 ここで。

 にゅっと肩口から白い腕が生えるなり、男子の片方の首に巻き付いた。腕の持ち主が穏やかに締。


「先生に対してあんまりだろ、近藤」

「し、白井…!?」


白井の美貌が、青年の首を締め上げていた。


ちょっと切ります。


久しぶりに見たらブクマ数伸びててビビった件。

ありがとうございます。

2020.3.21 改訂

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