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悪役令嬢と呼ばれたがそれより隣のカリスマがこわい【連載版】  作者: 良よしひろ
2.シナリオ探索だがそれよりノート提出である
19/35

教員にもプライベートはある 3

時間軸は前話の直後。

 黄葉は、自身の指を力強くひらめかせ訴える。


「だからさあ! このマニキュア!」

「今日はベース赤か。似合ってるね、良い模様してる」

「でしょ!? オレだもん当たり前!! 新着の色でラインやデザインも流行取り入れたんだよ自信作!

なのにその子ときたら「マニキュアとかイメージと違う」「男らしくない」「そんな人だと思わなかった」とか、挙句の果て「気色悪い」とかいうんだよ、ありえないでしょ!?

 まあ初めて告られたし?悪い気しなかったし? それなり相手したよ? ダサいかっこされるのはヤダから買い物付き合ったり! センス悪くてそのトップスにアンダーはないでしょって組み合わせするし? 奢り?センスは自分でお金払って磨くもんだし! それでオレが振るならまだしもなんであっちの方が振ってくるのさマジ信じられないホント鬼ムカツク!」

「……ああうん。今まで付き合った子の話ね、そういうことだったの」


 どうやらちゃんと浮かれていたし、ちゃんと相手したこともあるようだ。ただ聞く限り、黄葉は人を見る目がなかった。赤宗たちは正しい。


山吹(やまぶき)先輩にも言ったんだけど碌に相手してくんなくてもーサイテーいつの時代の男だよってカンジあれじゃ女にモテないよ絶対そう!

 オレの話最後まで聞かずに「お前部活は?」だよ! そんな話してないっての!」

「誰だ山吹先輩」

「オレの30分聞いてた!? 部活開始前だからいいでしょ?酷いわ先輩!」

「わからんけど私そいつ好きだよ。天使だよ」


 もうドリンク・バーは何杯目か、途中で数えるのをやめた。

周囲の好奇の視線は、「あっ、なんだ愚痴か」という納得と共にそれぞれの相手へと戻った。

友人たちは、フルコースを経て現在デザート2品目である。私のお財布がどんどん寒くなっていく。


「ダサいって言えば百合ちゃんもだよ何その服スカートの一枚もはきなよファスト・ファッションも嫌いじゃないけどいかにもなジーパン姿で今年のトレンドとか分かってんの?それデニムでもオシャレで来てるわけじゃないでしょ、ストリートとかクールって言うより手抜きじゃんちょっと可愛いのも挟まなきゃ! ちゃんと服買ってる?着回しできるセットアップとかちゃんとあるんだよ? アウターよれすぎヘビロテにも程があるよね、小物もいいじゃんストローハットとかこれからの夏にどう?」

「麦わら帽子って言えよ」

「化粧もロクにしてないし学校でもそんな感じでしょ? 元は悪くないのにさーテキトーすぎるんだよだから学校でも馬鹿にされてんだよ! スーツ一枚で学校通勤してどうしてんの? 家帰って姉さんたち見た後だとホント百合ちゃん悲惨、女子力どこに落っことしてたんだろ。オレの姉さんたち見る?」


出されたスマホの画面には、なんとほぼ同じ顔が5つ。黄葉自身は中性的で危うげな美貌に見えるが、他は黄葉が女性として生まれたらこうだろう、と思うのが、年齢を違えて並んでいる。


「ほらかわいい!」

「1番年上の方見たことあるような」

「女優だからどっかドラマで見たんじゃない? 姉はそれぞれスタイリストとデザイナーとモデルしてるんだよ」

「女子力トップランカーじゃん。比較される私サンドバッグじゃん」

「女子力の死体のクセして何を言う」


 ここでスマホに、友人達からメッセージ2つ。


 ――ジャケットくらい買え。

 ――お前の女子力はもう、死んでいる。


 後半やかましいわ。

 愚痴くらいならいくらでも聞いてやる。そう告げて凡そ40分。ついさっきの自分のセリフを、早くも後悔し始めている。

黄葉の口から迸るように思いの丈が溢れ、あっち行きこっち行き、尽きることがない。一応ひそひそ声での会話であるが、内容はまるきり、女子の愚痴。黄葉は私の、相槌のボキャブラリーを試してくる。試すまでもなく、私の相槌は5分で尽きたが。

 こいつ、女にフラれた理由は、相手以外にもある。絶対ある。


 黄葉が私に関心を示した理由も、一応は話してくれた。


「最初はアンタみたいな珍獣が物珍しくて、テルはアンタのこと構ってると思ってた。珍獣が調子乗って、なんかバカするんじゃないかと警戒したワケ」


 超有名財閥の御曹司に取り入ろうという輩は、かつての講師の中にも何人かいたらしい。

大体は、赤宗の微笑みという鉄壁に阻まれことごとく失敗し、とっつきやすい黄葉の方へ流れていった。それらを黄葉がすべて陥落したところで、赤宗に報告し排除するというのが、お決まりのパターンだったらしい。


「化けの皮はいでやろうと思った。でも思ったより手強いなーと。

市居サンと、あともう1人は入学式の、さっきオレにまとわりついてきた、誰だっけ?まあいいや、その2人に挟まれてさ、がんばってんなー、って意外だった。あっ、ちゃんと可哀想だとも思ったけど」

「名前覚えてないのかよ。そしてかわいそうと思うなら教員を助けてよ」

「ヤダ。オレ、あの人苦手」

「「婚約者」って私初めて現実に耳にしたよ。もしかして、「許婚」って他にもいるの? 私またあんな目にあうの?」

「んなわけないでしょー。市居サンは結構、プライドが高い感じだから、あーゆーのはもうないと思うよ」

「へー、婚約者ってのはいるんだ。誰だろ、赤いのの他には、青いのとか、緑のデカイのとか?」

「ブッブー。二人ともいません。橙も、紫もいないよ」


 個人情報を公で言うには障りがあるので、レインボーズを色だけで呼んでみると、黄葉もそれに合わせてくる。


「じゃ、藍色さんと、あなたにはいるんだ」


 ここで、この1時間近くの会話の中で初めて、黄葉が言いよどんだ。顔を背け目が泳ぎ始め、声に勢いがなくなった。

ははあん?


「…べっつに、あの人は婚約者だけどさ…」

「いいの、婚約者いるのに、付き合ったりして」


 ここが弱り目ですかニヤニヤ揶揄してみると、黄葉は頬を膨らませ、完全に拗ね始めた。唇とがらせ、早口にまくしたてる。


「いいんだよそんなの、あの人は全然気にしてないし!

そりゃあの人は綺麗だしカッコイイし頭良いしいい女だと思うし潔癖なところもあるけど優しいけど、カンケーないから!

小さい頃から何しても振り向いてくれなくて何言っても本気にしてくれないし、相手にもしてくれない。オレなんてまったく、視野にも入ってないもんね! 何かリアクション来るかと思ってたけど、オレが付き合い始めたって言ったって、なーんにも反応してくれなかった! あの人はもー、ぜんっぜん、無関係だから!」


 この反応。まるで恋する乙女が、振り向いてくれない男子に拗ねているよう。

 つまりこの子は、その「婚約者」とやらに、小さい頃からべた惚れなのだ。

 何だ、質問して損した。途端興味が無くなって、またやってくるだろう愚痴に心の準備を整えようとし、あることに気づいた。

今までの彼の愚痴や、言葉をつなぎ合わせていくと。愕然とした。

 ……こいつ、まさか、つまり。


「つまり、初めての告白に舞い上がって調子乗って、片思いの婚約者にヤキモチ焼かせたくて何にも考えずオーケー出して、肝心の婚約者が無反応だったのが悔しかったところにフラれて、自棄になってかねてから気に入らなかったゴマすりどもをひっかけて八つ当たりしまくって後始末を友人に任せ続けてるとこういうことかキサマー!?」

「わー! ひ、人の恋愛に口出さないでくれる!?」

「図星か、図星なのか! 真面目に愚痴を聞いていた私の40分を返せ!」

 

なんてことだ、なんて馬鹿馬鹿しいことだ。

赤宗の黄葉に対する雑な対応の理由が良く分かった。真剣に説教じみたことして損をした。


「もー知らん、黄葉なんて、2か月後くらいに黒歴史にじたばたしやがれ!」

「ちょっと、拗ねないでよ、大人のくせに!」

「これが拗ねないで居れるか、これが!」


青春の潔癖さで人間不信に陥っているのかと。

あまり詳しく聞いてもまずいかと、頑張って頭をひねっていたのに! 


「さらに理由も分からず人間性疑われて、八つ当たりされて試されて」

「悪かったよ。これまでのセンセーが、センセーだったから」

「そいつらは先生ではない。まったく、「教員の恥」らめ…。それとは別に、おかしいと思うんだよ」


 黄葉の言っていることは分かる。

友人の傍にいるのは得体のしれない、胡散臭い奴だ。騙されているかもしれない。

これは自ら出て行って、人間性を確かめてやらなければならない。

成程、正しいかどうかは別にして、理解できる理屈ではある。

 だがこの場合は、友人が問題だ。


「黄葉の方がとっつきやすいし、これまで何人かの「教員の恥」が貴方に陥落されたのも確か。

だから「陛下」がほだされたことに危機感を持ったのはわかる。

だけど、「陛下」だぞ。放っておいたって、黄葉が私を排除しようとするより、「陛下」がその気になって解決した方が簡単だろう」


これまで黄葉は、赤宗とコネクションが作れなかった脱落者を相手に籠絡して、その後始末を赤宗にさせてきたのだ。

つまり、赤宗が直々に相手してやっている者たちには、手を出してこなかったのでは? 手を出す必要がなかったのでは?

だって、あの「赤宗真輝」なのだ。


 私の指摘に、黄葉は返す言葉が見つからず、口元をもごもごとさせるのに、畳みかける。


「白井とあなたたちに、何かあった?」


 黄葉は散々逡巡した。困惑と不安で、目がうろついている。やっと口を開いたと思ったら、よたよたとした話し振りになってしまう。


「だって、テルが最近、おかしいから」

「おかしい?」

「おかしいよ。ただでさえ、アンタが学園に来た時から、変に上機嫌で」

「上機嫌? 前はそうでもなかったのか?」

「もっと……静かだった、いや、静かというか……何て言えばいい?

それに、今はなんだか、ユキヒコがいた時みたいにしようとする」


「ユキヒコ」とは?


「なのに何だか、3年前みたいに、ずっと怖い(・・)


 ぴたりと、黄葉の口が止まった。顔がどんどん気まずそうに眼が見開かれる。どうしたのかと、尋ねようとして、


「ああ、すまない、颯翔(はやと)を余程、不安にさせたようだ。悪かったね」


 背筋に震えが走った。背後に、いるはずのない声を聞いたような気がする。

かつかつと優美な音が進んでいき、通路を挟んだ向こう側の席にいる、あっけにとられている友人二人の傍らに立った。


「こちらのお二人も、黄葉がご迷惑をかけたようで」


 隣二人も関係者であると、一目で看破された。流石というべきか、それぐらい当然というべきか。

 だって彼は、赤宗真輝なのだから。


「黄葉が世話になったね」


 そうして今度こそ、私と黄葉に、にっこり笑った。


「なんで、黄葉のいるところが分かったの」


 私の声は震えていないだろうか。

ごく普通の、平均を地で行くようなファミレスで、赤宗はひどく場違いに浮いている。彼がこのファミレスで待ち合わせというのは、ありえないように思えた。


「ネットに、黄葉の映っている写真があがっていたんだ」


 あまりに整い過ぎた容姿の為に、芸能人か何かと勘違いしてSNSに載せた輩がいたのである。

 ぞっとした。黄葉が写されていたことではなく、それを見つけてここまで追って来たという事実に。


「元々この辺りで遊ぶ約束をしていたし、その付近に情報を絞れば、どうということもない。大丈夫、もう、削除させてもらったよ」


 私の心中に応えるように、赤宗は微笑みを深めて続ける。


「颯翔は小学校に上がる前に一度、誘拐まがいのことをされかけているから」


 初耳である。

馬鹿じゃないのかコイツ、という私と友人たちの視線に、黄葉は「オレは覚えてないよ!」と必死に否定した。成程覚えてないなら仕方ない、というはずもない。そんな奴が一人でふらふら歩くんじゃない。

 だが、いくら目星がついているとはいえ、そのたった数枚の画像を探し出し、なおかつ我々のいる場所を導き出すとは。

ネットを監視しているのは赤宗本人ではないだろうが、むしろそれはそれでうすら寒い気がする。


 赤宗は微笑みながら、「これから皆で食事に行くんです。先生も一緒に」と誘ってきた。


「席を用意させましょう」

「行く前提かよ。いや行かないよ? 私はこちらの友人たちと遊びに行くんだからね」


 赤宗は片方の眉を上げて、微笑みながら聞き返す。


「せっかくの生徒の心遣いを。どうせここまでほったらかしにしたんなら、今から俺たちの方に来ても同じですよ」

「違うよ? 全然違うよ? 何があろうと行くよ?

何ならここで子ども顔負けの駄々こねてやるよ」


 赤宗は一応頷くと、ゆっくり友人たちの席に向き直り、「いつも黒瀬がお世話になっています」と言った。私が「お世話されている」点に、一種のアイロニーを感じる。


「今日のところは、黒瀬の面倒をお願いします」


 小梅嬢と遥香嬢が生返事をしながら会釈を返すと、赤宗は再びにっこりと笑った。黄葉に立つよう促すと、簡単な挨拶をしてファミレスから去って行った。帰りがけ「学校で、また!」と呼びかけた黄葉は、何か不安をぬぐいきれない様子だった。


 生徒二人の姿が完全に見えなくなって、深い深いため息をつき友人達の席に滑り込む。

驚いた、あそこで皇帝陛下の登場とは。ここまでチートだとは思っていなかった。

40分以上の女子会もとい愚痴と言い、心臓に悪い陛下の登場と言い、友人たちとのハッピーホリデーは散々である。だが。


「ユキヒコ」。3年前。白井。藍原先生と、黄葉の婚約者。


 さて差しあたって、乙女ゲームのシナリオ獲得のために、藍原先生と黄葉の婚約者にアタックでもしてみようか。

考え込んでいると、遥香嬢は憐れみいっぱいに「アンタも苦労してるのね」と同情してきた。

 どういうことかと問うと、小梅嬢は顔を顰めて、遥香嬢は肩を竦めた。


「だってあの子、凄い目で私たちを見てたわよ」


 彼女らに呼び掛けたその直前、確かに彼は恐ろしく無表情だった。二人を見た時にはすでに笑顔だったそうだが、目は一切笑っていなかった。

冷たくて静かな、目だったという。


「あれだけ冷たい目で見られたのは初めてよ」

「個人情報は、そんなに漏らしてないし、小梅さんたちから漏れる心配もないから、そんな目で見る必要ないのにな」

「本当にそうなのかしら?」


 気をつけなさい。遥香嬢と小梅嬢は交互に、私の頭を撫でた。

 ファミレスを出るとき、結局私が友人二人に奢ったのは、デザート分だけだった。

 この容赦ない友人たちに、同情されるほどの出来事だった、という事実に、私は憮然とした。


という訳で、黄葉編はいったん終了。


黄葉のモデルである光源氏が須磨に流された時、月を見てわが身を嘆く姿が女性的で美しい、と源氏が褒められるシーンがあります。

当時は、女性的な美しさ、中性的要素が美として認められていた、と習った覚えがあります。

という訳で、黄葉は、女子枠です。女子枠。


感想ありがとうございます。返信する余裕がありませんが、すべて目を通しております。毎度毎度、執筆の燃料であります。ネタにもしております。今後とも是非お言葉頂戴したく思っております。

テンションが上がったり下がったり大変ですが、こんな感じで進んでいきます。

想定より長くなっています。

末永くお付き合いください。


2020.1.14 改訂

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