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悪役令嬢と呼ばれたがそれより隣のカリスマがこわい【連載版】  作者: 良よしひろ
2.シナリオ探索だがそれよりノート提出である
14/35

対決イベントはチャイムまでに終わらせましょう

二か月…だと…!?

ひそっと更新。


2020.1.4 副題含め改訂

 A子嬢と同じ「前世の記憶」を持つのか、早苗に確認しよう、もしくは他の記憶保持者を探そう、と決意して数日。成果は芳しくない。

 わかってたけど。上手くいかないだろうなって思ってたけど。

 そもそも、前提からハードルが高いのだ。


まず忙しい。授業中・授業外関係なく、分掌の仕事を終わらせ教科の会議に行きを部活の諸々申請を出して学年の雑務を済ませ時々電話番、そしてやっと、授業準備。

そして早苗が捕まらない。授業が終わって座席に顔を向けたらもう居ない。早苗蕾は妖精だった? いや、先日廊下で出くわしたのが私だと知って避けている。もしや呼びかけても走っていったのは無視してたのか。この事実は私を傷つけた。


ただでさえ「前世」とか、単語出しただけでも「ちょっと頭がスピリッツ方面行き過ぎ?」ってなるのに。これに「前世やっていた乙女ゲームに転生した記憶持っている人探してます」とか。ライトノベルの読みすぎである。

 道行く人皆に、「ちょっと失礼、あなた前世の記憶あります?」と聞いて回った日には。私だって聞かれたら、黙って相手に精神科病院のパンフを渡す。あ、渡されるのは今回私か。


 なんだかな。ずっともやもやしている。何か、根本的なことが抜けている気がする。本当にいるかわからない転生者、前世の記憶、個人の妄想と言うには奇妙に一致する人物たち、A子嬢の確信ある言動、その根拠。赤宗が先にA子嬢の行動を掌握してしまえば、どうなるかわからないのに。

 面倒くさいな、A子嬢、興奮してペロッと口滑らせないかな。

 というわけで、嘆息。


「ちょっと、百合ちゃーん。何考えてんの?」

「現実逃避」


 今、イケメン黄葉に詰め寄られている現実から。

授業が終わって呼び止められたと思ったら、黄葉に足止めされたのである。中等部の廊下真ん中で、今日も美々しい顔に笑みを浮かべ、色鮮やかなカーディガンを洒落た風に着こなす回りは、化粧をして着飾る取り巻きの女子で華やかだ。何人かはA子嬢の時にも居合せた子だった。あの時は災難でしたね。


「先生をつけなさい、先生を」

「オレ、百合ちゃんとゆっくりしたいんだけどなあ」

「退いてくれない? 次の授業もあるんだが?」

「大丈夫、オレたちは間に合うから」

「私は?」

「オレにちょっと付き合ってよ」

「聞いてる? 速やかにガバディやめよ?」


 右に行けば右に、左に行けば左に。私が動く度に黄葉も動いて、ど真ん前で私の行く手を遮る。私ももはや反復横跳びの体だが、どうにか脇をすり抜けようとするが、黄葉は意に介さない。


「黄葉くぅん、何してんのよお。こんなおばさんほっといていこーよ」


 黄葉のすぐそばに控える女生徒の一人が、甘えて黄葉の腕をからめ取る。周りのうら若き乙女たちと一緒に凄まじく睨みつけてきた。とても中3とは思えない、「女」の眼だ。肉食系。


「いい年した「おばさん」がさあ、みっともなくない? 調子のらないでくれる? 教師のくせに、セクハラあ?」


 遺憾である。

 「おばさん」呼びはどうでもいい。実際、私も「おばさん」になった、この前覚えのないところに打ち身が…いやどうでもいいか。

 セクハラ。この単語。実に遺憾である。

通せんぼ被害者なのに、セクハラ加害者になった。ガバディされて「先生つけろ」と言っただけで、それがセクハラ疑惑。もしかして、これが噂のゲーム補正。こういうセクハラ(仮)が積み重なって、「悪徳教師」と呼ばれるようになってしまうのか。やだ、カッコ悪い。

 私はしかし、へらりと笑った。勿論、赤宗陛下には威圧感において遠く及ばない。同輩たちには「その顔ホント情けない。しっかりしろ」と大変好評である。いいよいいよ、黄葉ちゃん連れてって?


「レディたち、よろしければ黄葉をお連れになって? 私授業あるので。がっつり捕まえちゃって」

「えっ! 百合ちゃん!?」

「「えっ」じゃないよ、どうして昼食に勝てると思ったんだよ。「先生」つけろ」


 取り巻きの女子たちは随分面食らって、ぽかんとした空白がしばらくあった。口と目をぽっかり開けていたのをゆっくり赤くさせていく。

 おばさん、何を間違えたんでしょうか。下心がばれた? 咄嗟に、廊下の窓の外に視線を逃がした。


「アー今日ハトテモ緑ガ綺麗デス、…ねぇ?」

「あんた…」

「うわ、面倒くさ」

「ちょっ! あんた教師のくせにそんな口聞いていいと…!」

「いや、貴方じゃなくて、窓の外」


 校舎から出たところで、誰かが言い争っている。今や見慣れてしまったチェリーブラウンの髪。A子嬢が、明らかに中高等部の生徒ではない人物の腕を捕まえて、遠目から見てもかなりの勢いでまくしたてている。


「言い争ってるのは誰だ? あの…」


 少し迷って、結局第一印象。


「…赤いの」


 私に罪はない。だって凄い赤いじゃん。あんなに赤いのは世界一有名な配管工くらいでしょ? 赤宗だって赤いのは名前くらいだよ。

見たところ身長は私より少し高い、年も少し上くらい。真っ赤なハイヒールに、抜群のプロポーションを惜しげもなく、紅のワンピースでさらしている。赤いルージュを引いた唇が、A子嬢に負けるとも劣らないせわしさで動いている。この方気が強い。絶対だ。

 応える黄葉は、何となく歯切れが悪い。


「ああ、市居(いちい)サン…」

「知り合い?」

「うん、まあ」

「止めに行けよ」

「え、でも、入学式の子と、あの人だし。オレあんまりカンケ―ないし?」


 なんだよ、頼りにならないな。

他に誰かいないか見回すと、今日に限って廊下にどの教員もいない。それに先程まで凄まじい視線を送っていた取り巻き嬢たちが心底嫌そうな顔をしている。どういくこと?

 ため息交じりに身を翻すと、「させないよ」と低い声がして行く手が遮られた。目の前に、黄葉の鮮やかなカーディガンとシャツが広がる。女生徒たちの悲鳴が聞こえた。黄葉が、私よりはるかに上背のある体格で、私を囲うように窓に押し付ける。


「ほっときなよ、あんなの。あんただってカンケ―ないし、一円の得にもならないじゃん。それより、オレ、百合ちゃん先生に興味あるんだよね」


 見上げると、息がかかるような近さで、黄葉の美麗な顔があった。


「…サネテルと、仲、いいよね。やけちゃうな」


 うっすらと顔に浮かぶ微笑は、確かに魅力的だった。

囁くような声は、中3とは思えない大人びた響き。

水晶のように澄んだ、美しい切れ長の目が、冷やかな鋭さで私を見下ろしている。

かすかな衣擦れの音、身じろぎも許さない近さ。

私はゆっくりと息を吐き。


「邪魔」


 同時に腕を振り上げた。黄葉の顎の辺りを下から思い切り良く突き上げる。いきなり首を押し上げられて、ぐえ、蛙をつぶしたような声が黄葉からした。いや、つぶしたことはないが。


「カンケ―ないはずないだろ。こっちは教員でしかも高1付なんだから」


 放置してたら、私、各方面から怒られる。

 顎を押さえて「ちょっと!?」と抗議する黄葉の傍らから抜け出して、黄葉を、きょとんとした取り巻きの女子の方におしつける。


「こいつよろしく。あと誰か、他の先生呼んで」

「百合ちゃん、オレには!?」

「先生つけろ」

「百合ちゃん!?」


 階段を駆け下りながら、とにかく「大ごとになりませんように」「目立ちませんように」と一心に祈る。

 そのままざわつく一介の廊下を駆け抜け校庭に飛び出し…そのままくるりと踵を返したくなった。


「赤宗くんから離れなさいよ!」

「何よ小娘、あんたあたしが誰だかわかってるの!?」

「政略結婚のくせに威張ってんじゃないわよ、この淫乱女!?」

「なんなのこの馬鹿娘は!!!放しなさい下賤が!」


 帰っていい?

 A子嬢は「市居サン」の腕をとって、なにやらまくしたてているが、相対する婚約者嬢も負けていない。強烈なパワーで叫び返し、互角の戦い。

淫乱、下賤。

私、日常生活でそんな単語聞いたことない。あの間に行くの?

 うう、行きたくない。でも行くしかない。

 二人の間につるんと入り込んで、黄葉の時と同じく、「市居サン」から目を逸らさず、A子嬢を後ろに押しやるように後退する距離を開けていく。


「な、何すんのよこの悪徳教師!!」

「いい加減になさいよ、部外者に対して失礼な態度を」

「あんた!?」


「市居サン」は腕を振りほどくと、まなじりをつり上げ睨みつけてくる。近くで見ると、思っていたより肌にハリがある。装いより若いかもしれない。


「このあたくしを、部外者ですって?!」


 え、そっち?

 女性は豊かな胸を…世辞でなく同性から見ても大変立派だと思う…突き出して高らかに宣言した。


「市居コーポレーションの市居蘭(いちいらん)、赤宗真輝の許婚よ!!」


 彼女の宣言に、残念ながら私とA子嬢は、彼女が期待するような反応はできなかった。なぜなら、聞いた一方の私は「え、イイナズケって言葉、現代日本で実際に使うんだ」という感想しか浮かばなかったし、A子嬢は分かっていてケンカを売ったのだろう、それがどうしたといわんばかりに鼻を鳴らしたから。


「な、なによその反応は!? あの、市居コーポレーションなのよ!?」

「はあ」


 どのイチイ・コーポレーションでしょう。すみません、無学で。


「大体何よこの子!どんな躾をしてるのよ!!」

「何よ、あんたなんてむぐ!」

「申し訳ありません当校の生徒がとんだ粗相を!」


 噛みつこうとするA子嬢の口を無理やり塞ぎ、物凄い勢いでまくしたてようとする市居サンを遮る。これ以上はお止めいただきたい。


「こんな大勢見ている前でキャット・ファイトなど、赤宗理事長やご子息にも、勿論市居さんにも、望ましいことではないでしょう?」


 途端、若い娘二人は、ぐっと喉を詰まらせそれきり静かになった。凄いぞ赤宗親子、名前だけで烈女二人を黙らせた。他人の威を借りたのは情けないが、生産性がない口喧嘩で校内を騒がせ生徒の評判落すのもよろしくない。この際、どんな手を使っても早々に二人にはご退場願いたかった。


「何分、若い生徒のやったことですので、赤宗さんのことや学校のこともありますし……」


言いながら、「事なかれ教員のダメ見本みたいな言い方だな」と変に冷静になった。

 市居さんは白い歯を見せながら歯ぎしりをして、


「しっかり躾けときなさいよ、能無し!」


 ようやっと捨て台詞を吐くと、彼女は大股で校門に向かう。ハイヒールの音高く、颯爽と去って行き背中に「申し訳ありません出した」、私は深々と頭を下げた。

 さて。

 ピリピリしながら去って行く赤い背中を見送って、今度はA子嬢に向き直った。


「またあんたのなのね」


 A子嬢の声は低く、威嚇の唸りにそっくりだった。


「またあんた! 黄葉くんとのことだって、初めて会ったときは名前聞いてお茶に誘ってくれるはずなのに、全然うまくいかなかった! あんたが邪魔するから! あんたが出張ってくるのは、もっと後の方じゃないの、シナリオ通りやってよ! ゲームの登場人物に過ぎないくせに!」


 いや、邪魔しなくてもあなた、お茶は断られてたんですよ、もともと。


「さっきのイチイのイベントだって、赤宗くんの許婚との口論から、颯爽と赤宗くんが出てきてわたしを助けてくれて、政略結婚だって言って憂鬱なカレを慰めるとこで好感度が上がるのに!! なんでいちいち出てくんのよ、呼んでないわ!」


 その赤宗、やたらと口が軽くありませんか。私の知ってるのと違うんだが。


「…私は、仕事をしてるだけなんだがね」


 勤めて平坦な声で答えると、A子嬢はひがんだ目で、予想外のことを言ってきた。


「大体、ここの礼拝堂ってどこなのよ! このままだとフルート吹いてる太陽くんのフラグ立たないじゃない!」


 礼拝堂?


「あんたが隠したの!?」

「あなたの中で私は世紀の奇術師か何かなの?」


 乙女ゲーム上の「私」って、いったい何者。私の懐、そこまで大きくないんだけど。


「あのね、そもそもこの学園、礼拝堂はないの」

「はあ!?」


 A子嬢は「聖ウルスラ学園」といっていたから、ゲーム上の学園名だろう。聖ウルスラはキリスト教の守護聖人だから、恐らくミッション系の設定、礼拝堂の一つや二つあるかもしれない。

だが瑠守良実学園は、一個人が建設した私立高で、宗教色は一切ない。

礼拝堂は「神に祈りをささげる」場所である。宗教的な関係がなければ、必要がない。

 それにフルートを吹くなら、講堂か体育館、多目的ホール、音楽ホールといくつかある。それにあったとしても、きちんと鍵がかかっていて、赤宗でもない限り開けられないだろう。


「それに橙野、フルートやってなかったと思うぞ」


 顔は可愛いけど、ガチガチの体育会系である。放課後は1に部活、2も部活で、休み時間は必ず外に出て遊んでいる。朝練が楽しくて仕方ないと言っていたから、フルートを校内で吹く暇なんてないはずだ。

 A子嬢は、体を震わせ、顔を真っ赤にした。


「そんなはずない! 太陽くんは素直で明るくって、でも自分が男らしくないことを気にしてて、進路のことで思い切りがつかないでいる、音楽が好きな可愛いワンコ系なんだから! ゲームのシナリオ通りにしないなら、いいわ、私にだって、考えがあるんだから!!」


 まあ、概ね否定はしないんだけど、なあ。


「だけど、あの子は…」

「あんたのいうことなんて、信じないわ!」


 捨て台詞を吐くと、A子嬢は背筋を伸ばし、颯爽と去って行く。やはりあの背中だけは、いつ見ても羨ましい。

遅ればせながらやって来た他の先生が、めくぱせをしてA子嬢を追いかける。後で私も事情を聞かれるだろう。

 というか、A子嬢。あなた、礼拝堂じゃなくて直接教室か部活見学しに行けばいいんじゃないの。

 取り残された私は、校舎から刺さってくる視線に耐えながら考え込んだ。

今の展開は、本来のシナリオとは違うのか。A子嬢が、興奮して口を滑らしている。私は、意図せずして、A子嬢の思惑を阻止しているらしい。

やはり、私や赤宗が「シナリオ」を意識しているせいで変化が起こっているのか、それとも「イベント」自体は発生しているということは、ゲーム補正によって無理やり起こされているということか。彼女の「考え」とは、一体。

 そこで、チャイムが耳を貫いた。

……あ、授業!

 黒瀬先生は、チャイムと同時に授業を始めて、チャイムの少し前に終わらせる主義なのだ!

あわててきた道を辿…間に合わない!

花壇を飛び越え、窓から飛び込む!


「黒瀬先生!」

「モモイシセンセイ、スミマセン!!」


 副校長に見られてた! 怒られた! 後でお小言決定! 辛い!

 息を切らして教室に飛び込む。筆記用具、出席簿、教科書、講義用ノート、忘れ物落とし物なし。よかった前の授業が同じ教科で!

ぜーはー息を整えていると、橙野が「だいじょぶ? 百合先生」と呼びかけてきた。くりくりとした目がこっちを見ている。

次は橙野のクラスの授業だ。この子、いい子なんだよな。


「…橙野ってさあ、何か楽器してる?」

「オカリナなら! 教えてもらったんだ! 楽譜よめないけど!」


 こっちもまったくの予想外だった。オカリナって趣味で吹くもんなのか。

「そうか、オカリナか」と笑みを浮かべて橙野を彼の席へ押しやる。他の生徒たちが必死に目配せしてくるが、しったことではない。

 教卓に立つと、号令をかけ着席と同時に閻魔帳を開いた。


「出席を取ったら、予告しておいた通り、古典文法用言の暗唱テストだ。橙野が頑張って時間稼ぎしてくれたぞ、勿論みんなクリアだよな」


 主に男子から唸り声があがった。何人か憎々しげであるが、そんなことをしても、授業に関しては私は一歩もひかない。


「では、本日授業最後に、授業ノートを集めるので、暗唱クリアしたものはノート整理でもしておくように。では、出席番号順に…」


 諸連絡をしながら、今更気が付いた。

 許婚って、彼女も、シナリオ展開を知っていたり転生者だった時があるじゃないか。つまり、市居サンにも前世の記憶持ちの可能性アリ。

 これ完全に嫌われた。赤宗つてで頼んでも協力してくれるかどうか。

 私、不覚。後の祭りだった。


まだ少し忙しいので、更新遅いです。

申し訳ない。感覚開けないためのツナギ更新とお考えください。


2020.1.4 改訂

2020.2.29 訂正。誤字指摘ありがとうございます。

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