幻聴
最近、幻聴が聞こえるようになった。
耳栓をして作業をしていたときに、ふいに集中力が切れた瞬間に頭のなかで鳴り響く音に初めて気が付いたのだ。
周りを確認したが、耳栓の外部から聞こえるものではなかった。
鮮明だが小さな、明らかに人間の声が耳の奥で鳴り響いていた。
もしかしたら気が付いていなかっただけで、もっと昔から聞こえていたのかもしれない。
その耳の中の声に気が付いて以来、眠っているときをのぞいて、夜昼ともなく聞こえてくる。
日常生活では気になる程度ではないが、静かな場所で気を抜くと鮮明な声になる。
大声を出すようなことはなく、国営放送のニュースキャスターのように淡々とした口調で話し続けている。
内容はまったく理解できない。
意味がわからないのではない。
流れてくる言葉がすべてスペイン語なのだ。
『アミーゴ』
『エスペランサ』
『トルティーヤでパタータ』
『メヒーコ』
その程度の、どうにか聞き取ることのできた言葉から判断をした。
本当にスペイン語かどうかも定かではない。
最後に聞き取れた『メヒーコ』という言葉は、多分だが、メキシコのことだと思う。
たしかにメキシコはスペイン語を使っているらしい。
メキシコと聞いても、濃い顔のおじさんがつばの広い帽子をかぶってポンチョを着てマラカスを振っているイメージしかわかなかった。
そうした影響だろうか、家の和室に小さなサボテンを置いた。
角の丸い円筒形で十センチにも満たない本当に小さなサボテンだ。
そのサボテンが、サイズに似合わない大きな赤い花を咲かせた。
いまは花も散ってしまい、依然となんら変わりなくサボテンは鉢の上に小さく佇んでいた。
スペイン語の幻聴の中でうつらうつらとしながら、こんどの休みにサボテンを連れてメキシコかスペインに行こうと考えていた。




