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紫……だと……

「なー、リサー。ボタン止めてー」

「ユート様、先ほどから何回も言っていますが、それぐらい御自分でおやりになって下さい」

 とある夏の日、俺はリサに手伝ってもらいながら、自室で儀礼用のスーツに着替えていた。普段はこんな物着ないんだけど、他の貴族に合うとなれば、着ない訳にもいかないんだが、今回も今回で、また別の意味で着替えたくなかった。

「ユート様! 御早くなさっていただかなければ、約束の御時間に遅れてしまいますよ?」

 リサが、完全に着替える気が無い俺を窘めながら、上着のボタンを留めに掛かる。

「えー、良いじゃん。別に。ガフティのおっさんなら、1億年くらい余裕で待っててくれるって」

「よくありません! 折角ガフティ様から、御招きいただいたのですよ?」

「だから、それがいやなんだって!」

 はい、今日のやる気が出ない理由はズバリこれ! ガフティのおっさんから招待を受けた! 

 別に、他の貴族から招待を受けたって、嫌だとも何とも思わないが、あのおっさんだけは特別だ。前にも言ったけど、あのおっさんは、俺に対してやたらと対抗心を燃やしてて、事あるごとに絡んでくる。事が無くても、俺に絡んでくる。正直、かなりうざい。

 だから、今回の招待も、どーせ何もなくても俺に絡んでくる方のパターンだろう。

どうも、ガフティのおっさんは、国王への献上品プレゼントを、王都に送る前に俺に見せないと気が済まないらしい。事あるごとに俺を呼びつけては、献上品を自慢してくる。だから、どーせ今回のも、俺に何かを自慢するためのものだろう。

 しかも、その献上品とか言うのがかなり下らない。純金製の国王の胸像だとか、装飾過多の悪趣味な剣だとか、どう考えても偽物の不老不死の薬とか、そんなの。そんな下らねぇもん人にあげるなよ! って言いたくなるような物ばっかりだ。感性が他の人と違うのか、周りが見えてないのか知らないが、いつもどっかが致命的にずれてるんだよな。

 そんな物の自慢話とか、聞きたくないだろ? あれだよ、気分的には、先輩に全く興味のない話を延々と聞かされる感じ。俺も、貴族の中では新米だから、一応付き合っとかないといけないんだよ。

「なー、リサ。今からベッドに戻ろうぜ? ほら、昨日の夜みたいに、激しくお互いの身体を貪り合おうぜ」

「ユート様? どうやら、妄想と現実の区別がつかなくなっていらっしゃるようで御座いますが、頭でも打たれたのですか? 何でしたら、今すぐ領内一の御医者様を御及びいたしますが?」

「ふ。そんなに恥ずかしがるなよ? 熱っぽい声で、何度も何度も俺のことを求めてきたこと、忘れたとは言わせないぜ?」

「ああ。申し訳御座いません、ユート様。わたくしとしたことが、勘違いをしておりました。どやらユート様の御病気は、『バカ』という物の様で御座いますので、呼ぶべきは御医者様ではなく、棺桶屋様の様でございます。『バカにつける薬はない』『バカは死ななければ治らない』と昔から言われていますので、御医者様を御呼びしても、ご迷惑で御座いますよね?」

「すんませんでした」

 ちょっとふざけただけなんだから、怒るなよ?

「ちょっと? どうやらユート様は、セクハラという概念について一から学ぶ必要が御ありの様で御座いますね」

「いや、知ってるから。セクハラぐらい」

「さて、こうして居る間に、御召し替えが終りましたよ?」

 そう言って、リサは一旦俺から離れる。目の前の姿見には、完全に正装に身を包んだ俺が経っている。クッソ! 必死に抵抗したのに。

「えー、なんで着替えさせちゃったの!」

「なんで、では御座いません。さぁ、行きますよ?」

「いーやーだー」

 俺は、抵抗虚しくリサに部屋から引きずり出されていく。例によって、背中に当たるリサのおっぱい気持ち良い。


「いいか二人とも、俺からあんまり離れるなよ?」

 さて、そんなこんなでガフティさん家に到着です。

 あの後、俺はリサに、無理矢理アヤメが操る馬車の載せられ、半強制的にガフティさん家の前まで連れてこられた。てか、片道一時間って、遠いわ! だから来たく無かったんだよ!

 しかも、ここは俺のとこと違って、奴隷制が普通にやられてるから、リサとアヤメの面倒まで俺が見なきゃいけないから、超メンドクサイ。ここでは、リサたちは物と同じ、場合によっては、それよりも酷い扱いを受けかねない。下手したら、誘拐されてそのまま奴隷市場行きだ。ここの法律では、奴隷を誘拐したところで、大した罪に問われないからな。

 だから、リサもアヤメも、きっちりとメイド服と儀礼用の鎧に身を包んで、俺に張り付いている。こうしてれば、俺の奴隷だって、すぐに分かるからな。流石に、隣国の領主の奴隷に手を出す奴はいないだろうからな。それでも、ここに来る時には、一応、2人を即刻買い戻せるくらいのお金は持ってくることにしてる。なんかあったら、嫌だから。

 まぁ、これはこれで、合法的に二人とくっつけるから良いっちゃいいんだけども!

「ユート様?」

 あ、ごめんなさい。真面目にやります。

 俺は、二人と並んで、ガフティの屋敷の門をたたく。ちなみに、今俺たちが居るのは、屋敷の庭じゃなくて、敷地を囲ってる城門みたいなとこだ。別に、わざわざ俺が馬車を降りて行かなくても、リサあたりに行ってもらえば、馬車のまんま中に入れたんだけど、万が一ってことがあるからな。俺には自分の女を寝取られて喜ぶような性癖は無いんだよ!

 暫くすると、門扉の一角に設置された通用門が開いて、門番らしき兵士が一人、中から出てきた。彼は、俺の顔を確認するや、慇懃な口調で話し始めた。

「これはこれはユート様。遠方よりのお越し、お疲れ様でございます。ユート様がわざわざお越しいただかなくても、そこの妾のどちらかをよこして下されば、門をお開きいたしましたものを」

 ついでに、リサかアヤメの門も開きますってか? 目がいやらしいぞ? 門番君?

「え、ああ。いや、せっかく招いて頂いたんだから、本人が出向かないと、失礼かと思ってな」

 俺は、門番の視線と声にイライラしながらも、笑顔で応じる。まぁ、これがこの王国での普通の反応だろうな。こんな事でいちいち腹を立ててたら、きりがない。リサもアヤメも、内心を隠して、顔に営業スマイルを張り付かせている。

 その後、出入表の記入とか、手続き的なことを終えた俺たちは、再び馬車に乗り込んで屋敷の庭に入って行く。

 無駄に広い庭園が、俺たちの目の前に広がる。何回来ても思うが、滅茶苦茶立派な庭園だった。季節ごとの花が咲き、芝生は綺麗に刈りそろえられている。シンプルイズベスト、みたいな家の前庭とは違うな。ま、こんなにでっかい庭園が有っても、リサが過労死しちまうから、こうは行かないだろうけど。

ちなみに、家にも、屋敷の裏手に見せる用の庭園が有るけど、面積はこれの10分の1くらいだ。本人曰く、それがリサが一人で管理できる限界らしい。こんだけでかいと、どんだけ管理が大変なんだろうな。多分、結構な数の奴隷が働かされているんだろう。

 俺は、これまた何回来ても思うことを繰り返しながら、屋敷へと向かっていく。


「おお、これはこれは、ユート殿! 良くいらっしゃって下さった!」

 屋敷の中の一室。そこで俺は、アイラ・ガフティというおっさんから熱烈な歓迎を受けていた。足の長い絨毯が敷かれ、その上には豪華なソファとテーブルのセットが置かれ、さらにその上では、紅茶とお茶菓子が、うまそうな匂いを放っている。

 そんな部屋の中で、いかにも小物臭漂う30代後半のおっさんが、両手を広げて、大げさな動作で、俺のことを出迎える。俺は、適当に挨拶をしてそれに応える。

「ささ、こちらにどうぞ」

 そう言って、こちらに近い方のソファを指ささすガフティ。俺は、遠慮なくそれに腰かける。さらに俺に倣って、リサとアヤメも両隣に腰かける。

 一応、二人は、それぞれ護衛と雑用、という名目で同行してる。でも、これじゃあどう見たって、妾か愛人だよ。ま、部屋の隅で立たせとくよりは安心だから、見た目はあえて無視してるんだけど。

「ほほう。相変わらずユート殿の妾はお美しい」

 ほら、早速来たよ。

「え、いや、それほどでもありませよ」

 俺たちが腰かけると、ガフティの後ろに控えていた給仕の女性たちが、一斉に動き始める。俺とおっさんに紅茶を注ぎ、適当な菓子を目の前に置く。

「で、その二人はもうどこまで開発なされましたかな? もう、理性をなくすぐらいのところまで行かれましたか?」

「いやいや。前にも言いましたが、それでは二人が可哀そうなので、そこまでする気はありませんよ」

「ユート殿はお優しい方だ」

 普段だったら、とっくにブチ切れてるはずの二人も、今回ばかりはおとなしく俺の隣で微笑んでる。

「いや、でも、これはこれで、なかなか色っぽくていいんですよ?」

 ウソです。僕はまだ童貞です。ごめんなさい。でも、この話題をさっさと切り上げるのはこれが一番なんです。これ以上続けると、色々とマズいことになりそうだから、さっさと終わらせてください。冷や汗が止まりません。

「おお。なんと、そうですか。今度からは、妾の扱いを変えてみますかな」

 ガフティが、作法として俺のことを褒める。でも、完全に変人扱いされてるのが、こっから見てても分かるほどだ。

「さて、本日お越しいただいたのは、貴殿に見ていただきたい物があるからなのですよ」

 ほらきた。やっぱりか。俺は、安心したのと、うんざりしたのが半々ぐらいの内心を隠して、さも興味を持ってますよ、という感じで相槌を打つ。

 目の前では、ガフティがテーブルの上に置いてあったベルを鳴らす。

「実はですな、私も貴殿を見習って、美しい奴隷を仕入れてみたのですよ。きっと、貴殿も驚かれることでしょう」

 ガフティが、嫌な感じの笑顔を浮かべる。

「まあ、私がどうこうしよう、という訳ではなく、国王様に献上するための品なのですがな。一度、そんなに美しい妾をはべらせている貴殿に見てもらって、国王様への献上の値する品かどうか、御意見を頂きたいと思って、お呼び立てしたのですよ」

 嘘つけ。俺に自慢して、悔しがるところを見せたかっただけだろ?

「いやいや。わたくしなど、女性のことなどまだ何も分からぬ若輩者ですゆえ」

 とは言わずにおこう。てか、やるなら早くしてくれないかな? そいつには可哀そうだけど、リサとアヤメのそんなもの見せたくないんだよな。

「またまた、御謙遜を」

 そこで、部屋の扉が開き、一人の男が入って来る。ずいぶんと屈強そうなやつだが、多分、奴隷用の調教師かなんかだろう。その証拠に、その手には、鎖が握られている。

 そいつは、鎖を引きながら部屋の中に入って来る。そして、その先には、一人の少女が繋がれていた。年齢は、10歳くらいだろうか? 俺は何の気なしに、そいつのことを見たが、その瞬間に、思わず息を飲んでしまった。

 確かに少女は美しかった。まるで白檀のよう肌はまだ序の口。俺が息を飲んだのは、少女の髪と瞳の色だった。

 彼女の髪と瞳は、紫だった

 およそ人の備える色ではない、そんな色の髪と瞳を持っていたのだ。しかも、それが不気味さを湛えることはなく、その端正な顔立ちと相まって、神秘的な美しさというか、可愛らしさを演出していた。

 少女は、その長い紫の髪と、紫の瞳が映えるように、紫のドレスに身を包み、髪も綺麗に整えられていた。だが、その顔や身体には、至るところに、鞭で打たれ、殴られたような傷跡が残り、顔には絶望が浮かんでいる。

 ふと気づけば、いつの間にやらリサとアヤメが、俺の手を片方ずつ、固く握っていた。ガフティは、そんなことには気づかずに、鎖を手に取って、少女を引き寄せる。そして、自慢げに言う。

「どうですかな、ユート殿。これなら、国王陛下もお喜びになると思いますかな?」

 俺は、その言葉で我に返る。どうやら、相当間抜けな顔をして少女のことを見ていたらしい。

「え、ええ。確かに美しい。これなら……」

 俺は、慌ててその少女のことを褒めようとしたが、最後まで言い切ることが出来なかった。鎖に引かれ、ガフティの近くまで行った少女が、そこで唐突に、ガフティの襲いかかったのだ。

 今までその顔に浮かんでいた絶望は鳴りを潜め、そこには、顔一杯の、憎悪が浮かんでいた。罵詈雑言を叫びながら、ガフティに向かっていく。両手は、鎖で封じられているので、噛みつこうと、飛び掛る。

 だが、鎖で縛られた状態で、しかも大人相手に、そんな攻撃が通るわけがない。彼女は、ガフティに軽く受け止め慣れると、テーブルに向かって放り出された。

 テーブルの上の菓子や茶が、騒々しい音を立てて床に落ち、周りでは給仕の女性が悲鳴を上げる。

「っち。この! ガキが! 何しやがる!」

 ガフティは、テーブルの上に転がった少女を、何度も殴りつけていく。その様は、まるでいうことを聞かない家畜でも殴るかの様だった。少女を殴りつけながら、ガフティは俺の方を向く。

「いや、これはお見苦しいところをお見せしてしまいましたな。ご心配なさらず。献上する折には、きちんと躾て、このようなことは無いようにいたしますから。それで、これはどうでしたか? 国王陛下もご満足いただけそうですかな?」

 ガフティは、少女を殴りながら、笑顔で続ける。正直に言って、吐き気がした、だが、目を逸らす訳にもいかない。事実、奴隷の扱いなんて、普通はこんなもんだ。俺の方が、異常なんだ。

「……」

 リサが、何か言っている。よく聞き取れなかったが、俺はそっちに顔を向けもしない。多分、言ってることはこうだ。『何とかしてあげてください』

 いや、俺だって、こんな光景見たくはない。でも、ここで変な行動をとると、俺の邦の存亡に、関わりかねない。分かるだろ? 奴隷制を基本とした王国の中で、唯一、非奴隷制を採ってることの意味? 他の邦や中央に、俺の邦のことがばれるとマズいんだよ。

 それに、こんな事は、この王国では日常茶飯事だ。これを見るたびに助けてたんじゃ、それこそ、両手両足股間に華でも足りない。だから、彼女には悪いけど、諦めてもらうしかない。

 だが、リサもアヤメも、そうは思ってくれそうにない。今度はリサばかりではなく、アヤメまでも、俺に耳打ちしてくる。しかも、その顔は、リサと違って、恐怖ではなく、怒りに彩られている。

 いや、でもさ? ムリだよ? なんて言われても? 目の前で苦しんでる人だけでも助けたい、とか、都合のいい偽善者じゃん?

「ガフティ殿、少し、よろしいか?」

 って言っても、やっぱり納得してくれないんだろうな。しょうがない、俺もこれを見せつけられるのは嫌だし、何より、ガフティのおっさんに一泡吹かせられるならいいか。

「実はわたくし、その娘がすっかり気に入ってしまいましてな」

 言いながら、アヤメを俺たちの馬車へと向かわせる。

「ほう。そうですか。やはり、これなら、陛下もお喜びになるでしょう」

 ガフティは、俺の口からその言葉が聞けたことが嬉しいのか、すっかり満足したという顔だ。少女を殴るのをやめて、ソファに座り直す。少女の方は、テーブルの上で、完全に気絶していた。

「ですが、これは譲りませんぞ。何しろ陛下への献上品なのですからな」

 やはり、譲る気は無いか。

「いや、そこを何とかしていただけませんかな?」

「いやいや。ユート殿の頼みとはいえ、それはできない相談ですな」

 目の前のおっさんは、これがただの社交辞令だと思ってるらしい。つまり、敗北を認めた俺が、少女のことをほめたたえてる、くらいにしか思ってないんだろう。

「そうですか」

 そこに、大きなトランクを2つ抱えたアヤメが戻ってくる。なんか、随分早かったな。どんだけ頑張ったんだよ。

「どうしても、ですか? わたくし、どうしてもその娘を、彼女らの中に加えたい、と思いまして」

 そう言って俺が、ソファに残っているリサの方を流し見ると、そこでようやく俺の真意を悟ったらしく、ガフティは、ようやく俺の言葉が本気だと気付いたらしい。そりゃそうだ。普通だったら、ここで俺が引き下がって終わりだしな。

 そして、ガフティは、少女を俺から引き離すように鎖を引っ張り、少女を自分の方へと手繰り寄せる。少女が、テーブルから落ちて、小さく呻く。

「ユート殿、初めに言いましたが、これは陛下編も献上品。他の方に差し上げる訳には参りませんな」

「そうですか」

 俺は、出来るだけ穏やかな顔で返事をすると、アヤメに合図する。すると、アヤメは、トランクの一つをテーブルの上に置いた。テーブルが、トランクの重さに悲鳴を上げ、ギシギシときしむ。

「これでも、ですか?」

 俺は、テーブルの上のトランクを開ける。そこには、ギッシリと金塊が詰まっていた。元々、これはリサとアヤメになんかあった時のために持ち歩いてるカネだ。それぞれのトランクに、一人を買い戻すのに十分な量の金塊が詰まっている。しかも、リサもアヤメもかなり可愛いから、トランク一つだけで、相場の8倍くらいの量の金額が詰まっている。

 一瞬、ガフティの顔に迷いが浮かぶ。だが、それはすぐに消え去る。

「で、ですから、これは陛下への……」

「これでも、ですか?」

 俺は、すぐにもう一つのトランクもテーブルの上に置かせる。そして、さらに畳みかける。

「ガフティ様。確かに、その少女は美しいが、陛下もそのような者をもらっても、喜ばないと思いますよ? 髪と瞳の色は美しいが、それだけだ。躾は行き届いておらず、身体は起伏に乏しく、至るところに傷痕がある。さらに、そのような年端もゆかぬものを献上するなど、陛下をそのような趣味の持ち主とみなしている、ということで、逆に陛下のご機嫌を損ねてしまうでしょう」

 『陛下』という単語を出した瞬間に、あからさまに動揺を示すガフティ。多分、もうひと押しだ。

「それでは、これではどうでしょう?」

 俺は、懐からとっておきの物を取り出す。

「な……」

 それを見た瞬間に、目の前のおっさんが言葉を失う。俺が出したもの、それは、『今年俺の屋敷で作ったワインのすべての利権を譲る』という内容のものだった。まぁ、当然だな。家のワインの人気っぷりを考えれば。全く、こんな物まで出させるなよな。

 ガフティは、しばらく口をパクパクさせていると、考え込み始めた。とは言っても、ここまでやれば答は決まってるけどな。

 まず、国王はロリコンじゃない。どう考えても、10歳の少女なんかをそういう奴隷として献上すれば、機嫌が悪くなるだろう。

 第二に、世間体だ。貴族の間では、多少なりとも気風の良さが大事だってこと。いくら珍しい髪と瞳をしてるからって、少女一人にこれ以上金品を要求すれば、世間体は悪くなる。

 第三に、少し冷静になれば、少女よりも大量の金塊とワインの利権のほうが美味しいって気づくはず。どう考えても、それを元にしてもっと良い物が送れるはずだ。

 こんだけやれば、いくらあのおっさんでも、色々と気づくだろう。そして、事態はやっぱりその通りに進んでいく。

「い、良いでしょう。今回ばかりは、貴殿に免じて、これをお譲りいたしましょう」

 その言葉を聞いた瞬間、リサが少女に駆け寄っていく。

 ったく、とんでもなく高い買い物だったな。邦に帰ったら、それこそ領内一の医者を呼ばないとな。俺みたいなバカにつける薬は無くても、彼女に付ける薬はあるだろうから。

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