リサの怒りに触れてしまいました
「はい、ユート、あーん」
アヤメの国から戻って来てから1週間ほどしたある朝、俺の右横では、ルフが、ナイフに刺さった目玉焼きを俺の口に運んで来る。
「ユート殿、おかずばかり食べていないで、しっかりと主食も食べないといかんぞ?」
そう言って、左隣に陣取ったアヤメが、俺にパンを食べさせてくれる。はっきり言って、俺はハーレム状態だった。
どうだ? 俺が戻ってきたその日に練兵場でアヤメに踏まれたいって言ってた新兵よ! アヤメはもう、俺のオンナだ! ふははは。残念だったな!
12月の半ばごろ、俺はアヤメの国から戻ってきた。どうやら、何か月にも感じられた船旅は、片道が1か月ちょっとだったようで、日出国に居た期間を合わせても、3か月ほどに旅だったみたいだ。
で、戻って来た瞬間から、俺はハーレム状態だった。
ルフには、「あたしはユートの彼女なのだから」と言ってイチャイチャされ。
アヤメには、「ユート殿は私の主人なのだからな」と言ってイチャイチャされ。
で、俺はアヤメとルフと一緒に、ハーレム生活を送っている。送っているのだが……
なぜか、リサの機嫌が悪いのだ。いや、帰ってきたその日と、次の日は普通だったんだけど、なんか、段々と日が経つごとに、機嫌が悪くなって行った。今だって、一人だけ、俺たちの前で、黙々と朝ごはんを口に運んでいる。
初めは、ふざけて、「こっちに入れないのが悔しいのか? さぁ、遠慮はいらない! 飛び込んでおいで!」とか言っていたんだが、拒否されるし、そのくせいつもみたいに踏んでこないし、どんどん機嫌が悪くなっていくしで、そんなことも言えなくなっていた。いや、本当に、こういうのを見せつけられるのは嫌なんだろうけど、それならこっちに入るか、いつもみたいに嫌だって言えばいいのに。俺も、そんな態度を取られると、反応に困ってしまう。
「ごちそうさまでした」
そんな俺たちの前で、リサが、ナイフを置く。ナイフが皿に当たる音がした瞬間、俺とアヤメ、ルフが、静まり返る。それぐらい、リサの声は冷たかった。そして、普段だったら全員が食べ終わるまでここで談笑しているのだが、リサは、
「食器は、ワゴンの上にお願いいたします。後で、取りに参りますので」
と言って、一人で部屋を出て行ってしまう。
「一体、リサは何に怒ってるんだ?」
俺は、答えが分からずに、ついそんなことを口に出す。俺としては、後数日でクリスマスだし、何とかそれまでに機嫌を直したいんだが。
「え? ユート、まだ本気でそんなこと言ってんの?」
それを聞いたルフが、俺にそんなことを言う。ルフは、今回のことについてきちんと原因を把握している様なのだが、何故か、ずっと教えてくれないのだ。俺が、それについて言うたびに、
「ほんっと、ユートってばデリカシーなさすぎ!」
と言うばかりで、教えてくれないのだ。というか、今回のことに関しては、あのアヤメですら原因を分かっている様なのだが、何故か、教えてくれない。俺が聞いても、
「私が教えるのは容易いが、それではリサ殿が可哀そうだ。これは、当人同士の問題であるわけだし」
と言って教えてくれない。一体何なんだろうか?
「全く、本当にデリカシーのない小僧だな!」
さらに、白虎さんもこう言うだけで、本気でお手上げだった。
ん? 白虎さん?
「うお! ジジイ! てめぇ、どっから現れた!」
なんで! なんでここに居るの!
「あ、そういうこと言うんだ、義理の父親に向かって! いいのかな? アヤメ、連れて帰っちゃうよ?」
「ごめんなさい」
なんかよく分からんけど、取りあえず謝っておこう。
朝食の席を後にしたわたくしは、自室のベッドに倒れ込みます。また、やってしまいました。いい加減にしないといけないのは、十分わかっています。ユート様のことですから、悪気はないのでしょう。というか、気づいていらっしゃらないのでしょう。あの方は、優しさが一周回って、残酷さになっていることに気づくべきです。
いえ、わたくしが入れて下さい、と言えば、ユート様はきちんとわたくしも加えて下さるということも、分かってはいるのです。ですが、わたくしが一番最初に行動したというのに、ユート様から何もないのは、やはり駄目です。アヤメ様とルフ様は、自分から行ったようで御座いますが、それでは、ダメなのです。
わたくしは、彼女たちの様に、自分が一番でなくても良い、とは思えません。ユート様のあのような部分に目をつぶることも、できません。勿論、アヤメ様やルフ様が居ないのもだめですが、やはり、ユート様には、わたくしのことを、一番に想ってもらいたい。いえ、一番でなくては、嫌です。
……………………………………………………………………
わたくしは、浅ましい女なのでしょうか? 一人だけ特別扱いしてもらえないからと言って、このように不機嫌な顔をして皆様に迷惑をかけて。
温泉であのような事をする前に、『ユート様は三人で平等に所有する』と取り決めてありました。アヤメ様とルフ様は、それできちんと納得していらっしゃるようで御座いますが、わたくしは、やはり無理です。御二人の様には、できません……
そもそも、このような事になった遠因は、わたくし自身にもあるというのに。お互いに、いつかはそうなるだろうと思い、相手の方から来てくれるだろうと思い、有耶無耶なままにしてきた結果が、現状なのですから。
こんな事なら、いっそ、死んでしまいましょうか? 別に、今のような世界に未練など御座いませんし……でも、やはり死ぬならユート様と……
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
そこで、わたくしは自分の頭を抱え込んでしまいます。ついでに、普段だったら絶対に出さないような声まで出して、恥ずかしさを誤魔化そうとしてしまいます。
やはり、わたくしは浅ましい女です。何度考えても、同じ結論に至ってしまいます。
「うわ! なんだ今の声! リサ、相当機嫌悪くね!」
俺が、何故か白虎さんに頭を下げたタイミングで、リサの部屋からありえない声は聞こえた、普段のリサなら絶対にあげないような雄叫びが、ここまで聞こえてきたのだ。ヤバいよ。多分、怒りを発散してるか、何かを思い出してイライラしてるやつだよあれ。
「いや、これって、リサの姉さんが乙女になってる声だと思うけど?」
リサの声を聞いて焦りまくる俺とは対照的に、ルフは落ち着いたまま、というか呆れたままそんなことを言った。アヤメも、
「うむ。ああ見えて、リサ殿は、我々の中で一番乙女だからな」
なんて言ってる。しまいには白虎さんも、
「いい加減に気づいてやれよ、小僧」
とか言ってあきれてる。って、そうだった!
「白虎さん、一体どこから現れたんですか! なんで他所の国に居るはずの人が、当たり前みたいな顔して、うちの朝食にまじってんですか!?」
俺は、平気な顔してテーブルの上に置いてあったフルーツを口に放り込んでいる、白虎さんに向き直る。
「どこからは、当然日出国からに決まっているだろうが。なんでは、ワシ、言ってただろ? 出発の日に、すぐにそっちに行ける体勢を整えるから、と。あれから、すぐに貿易船が手に入ったのでな、暫く暇をもらって、こっちの国に来たのだ。ああ、リサちゃんとルフちゃんには、昨日の内にあいさつ済ませてあるから。あと、荷物置き場として、お前んとこの練兵場に、簡単な野営地作ったから。まぁ、部下は港の船にもどして、中で待機させてあるから、その点は安心せい」
いや、それなら俺の所にも来いよ! あと、人んちに勝手にキャンプ張るんじゃない! んっとに、恐ろしい行動力の爺さんだな。
「いえ、あの、ですね、それなら、事前に連絡ぐらい……」
という代わりに、俺は下手にでる。いや、連絡が無理なのは勿論わかってるけど、お堅い武士にハーレムしてるとこ見られたんだから、ここは何とか誤魔化しとかないとな、じゃないと、アヤメが国に連れ帰られることになるかもしれないし。
「あ、ユート、心配しなくても、このジイさん、ハーレム賛成派の人だから、大丈夫だよ?」
そんな俺の考えを見越したのか、ルフが先回りしてフォローしてくれる。
「ルフちゃん、ジイさんはやめてって言ってるだろ?」
でもこのジジイ、聞いちゃいない。孫に向けるみたいな気持ち悪い笑顔を、ルフに向けるばかりだ。
「ユート殿、安心しろ、日出国では、権力者は沢山の妻を娶り、多くの子を成すものとされているからな」
代わりに、アヤメが説明してくれる。なるほど、確かに、そう言う考え方も、分からないではない。うん、それはいいんだけど、これはいつまで続くんだろうか。ボケ要員が多すぎて、収拾がつかなくなってきそうなんだけど。あと、いい加減にリサが怒ってる理由を、俺にも教えてほしい。
「小僧、貴様まだ分からんのか?」
白虎さんが、額を摩りながら言う。どうやら、シラヌイ家は親子二代でルフのデコピンの餌食になったようだ。
「しょうがないじゃん? だってユートだもん。分かれって言う方が無理?」
ルフが、右手をデコピンの構えにしたまま言う。
「うむ。全面的に同意だ」
アヤメは、フルーツを食いながら言う。白虎さんの動きと似ていて、いかにも親子って感じだ。
「いや、訳わかんないし。てか、今までこんな事なかったのに、なんで急にリサは怒りだしたんだよ? あれか、やっぱりハーレム見せられるのが嫌なのか? それなら、いつもみたいに蹴って来るとかすればいいだろ!?」
「いや、それじゃいつもと同じじゃん」
いつもと同じことのどこが悪いのだろうか?
「ユート殿は、温泉でリサ殿に何をされたのか、覚えていないのか?」
心なしか、アヤメの目が残念なものを見るようなものになっている気がする。
温泉のことを覚えていないか、と聞かれたら、覚えているに決まっている。リサにキスされて、三人に告白された。でも、それがどうした? 確かに、あの時にそういうことがあったけど、リサはアヤメとルフと違って、その後特に変化があったわけでもない。今みたいに俺にくっついて来たり、もう一度きちんと告白してきたわけでもない。それなら、別に、いつも通りでいいんじゃないだろうか? 温泉のことは、あれが特別だったのだと考えた方が、リサも嬉しいんじゃないだろうか? 雰囲気に流されてやったことなんて、一々蒸し返して欲しくないだろ?
「菖蒲にルフちゃん、この小僧、本気でそれが正しいと思ってるのか?」
「まぁ、ユートだもん」
「恐らくは、そうでしょう」
いや、何でそこであきれ顔なんだよ? だって、こういうことを決めるのは、リサの方だろ? 俺から、とやかく言うことじゃないだろ?
「さて、馬鹿小僧は放っておいて、今から菖蒲の部屋に行かんかね? 菖蒲とルフちゃんが朝飯食ってる間に、向こうから持ってきた畳と炬燵の設置を終わらせておいたぞ?」
「それはありがたい。父上の厚意にあずからせてもらうとしよう」
「ジイさん、コタツって何? あたしそう言う日出国のもの初めてだから、すっげぇ楽しみ」
おい、俺を無視して話を進めるんじゃない。今回に関しては、本気で困ってるんだから。このままリサの機嫌が悪いままとか、俺、死んじゃうよ? リサがハーレム入ってくれなかったら、あの世に逝っちゃうよ?
「小僧」
俺が、大げさに三人を引き留めようとしていると、白虎さんが、振り返った。
「たまには、強引になることも大切だぞ?」
でも、それだけ言うと、二人を連れて去って行ってしまった。俺は、三人を見送ると、食卓に肘をつき、その上に顔を乗っけて考える。
白虎さんが最後に言った、強引ってなんなんだろうか? アレかな、たまにはレ○プしに行けってことかな? いや、それは、流石にマズいだろ。いくらなんでも、洒落じゃすまなくなるだろ。でも、それなら一体どういうことなんだろうか? 強引になる? つまり、こっちから何かしろってことか? でも、何を? もしかして、俺の方からアヤメやルフみたいにしろってことか? いやでも、それは無いだろ。恋愛に関してどうしたいかは、リサが決めることだし。
そこで部屋の扉が開いた。
暫くして、気を取り直したわたくしは、リビングのドアを開きます。流石に、皆さまも御自分の御部屋に御戻りになられた頃でしょうし。それに、一人で片づけをしていれば、気分も落ち着くでしょう。
「あ!」
さて、自室に戻りましょう。
「ちょ、何で引っ込むんだよ!」
食堂には、ユート様がおひとりでいらっしゃいました。仕方がありません。ここで引っ込むのも、変ですし、戻りましょう。それに、珍しく真剣な顔をして何かを考えていいらっしゃる様ですので、もしかしたら……
「いや、なんかさ、リサって、ここしばらく、機嫌が悪いだろ?」
「ええ。そうで御座いますが? 流石のユート様も、気づいていらっしゃいましたか。どうやら、ゾウリムシよりはマシな脳をお持ちの様で御座いますね?」
「いや、ゾウリムシに脳ないし、お前は俺を何だと思ってるんだよ!」
いけません、ついいつもの癖で。ですが、やはりユート様は虐め甲斐があります。
「まぁいいや。いや、なんかさ、アヤメたちが、リサの機嫌が悪いのは、俺のせいだって言うんだよ。で、たまには強引になれ、とかなんとか」
これは、もしかしたら、本当に気づいて頂けたのでしょうか? アヤメ様たちから、多少の入れ知恵があったのは、少し残念ではありますが、ついに……
「いやでも、あいつらの言葉をそのまま解釈すると、リサが俺から告白されるのを待ってるってことになるんだけど、」
「そうで御座いますか」
思わず、胸が高鳴ってしまいます。
「でも、そんなこと無いよな? 真面目な話、やっぱりそう言うことはリサが決めることで、俺がどうこう言うことじゃないし、そもそも、そんなことでリサが怒る訳ないだろ? ほら、あれだよ、運命の赤い糸ってやつ? そんなこと言わなくても、どーせ俺と結婚するんだからな? ほら、なんだったら、今すぐ俺の胸に飛び込んできても……」
気づいたら、窓から放り出していました。ユート様をで御座います。勿論、あれがユート様なりの気遣いだということや、わたくしの今まで態度にも問題があることは、分かっています。
ですが、あの言い分は、あんまりという物です。それに、今の話し方からして、おそらく、それだけではないと思うのです。ええ、いくらユート様でも、やはり、わたくしに対して、いえ、女性に対してそのような態度を取ることだけは、許せません。
幕間 アヤメの部屋の炬燵にて
「あー何この布団付きの机! 超温かい! あとこの蜜柑!」
「これが、日出国の冬の風物詩の炬燵と蜜柑だ! ふふふ。どうやら、ルフもすっかりコタツの虜になってしまったようだな」
「ああ、二人が喜んでくれて、おじさん、わざわざ炬燵を運んできた甲斐があったよ!」
「うっせぇよジイさん! あたしら今からガールズトークするんだから、こっちに入って来るなよ。それか部屋から出てけ!」
「いや、だって、それ運んできたの、ワシ……」
「てゆーかさ、リサも大変だよね。あんなのに惚れちゃって」
「うむ。そこは同意しないではないが、彼女には彼女の理由があるのだろう。それに、我々だって同じではないか?」
「いや、そうだけどさ。でも、ユートの奴もさっさと告るなり夜這いするなりすればいいのに。リサの姉さんだったら、喜んでOKするか、ユートの餌食になるでしょ? だって、それがリサの姉さんの望みでしょ? あれだよ、上の口では嫌だいやだと言いながら、下の口は涎でビショビショってやつ?」
「ルフちゃん、女の子がそんなこと言っちゃいけないな?」
「うっせぇよジイさん。何しれっとガールズトークに入って来てんだよ?」
「えー、だって、ワシ乙女だしー。てゆーかー、二人が無視するのがいけないんだしー」
「父上、おやめください……」
「このキモイおっさんはほっといて、どうかな、さっきのでどうにかなるかな?」
「ほっとかないで、もっと、構って……」
「あ、死んだ。で、どうなの?」
「ふむ、私は無理だと思うぞ。ユート殿のあの性格は、筋金入りだからな。まさか、あのような事をした上、最初から実家にあいさつに行くと言っているのに、あんな風に考えているとは思わなかった」
「あれ、でもアヤメのねぇちゃん、結局自分からいったんでしょ?」
「それは、まぁそうなのだが。私の場合は、残酷なくらい優しいのがユート殿のいいところだと思っているし、リサ殿のように、ユート殿の方から来てほしいとは思っていないからな。一緒になれるなら、きっかけはどうでもいいだろう。そう言うルフの方は、どうなのだ? 結局、もう一度言い直したんだろう?」
「あー、うん。いや、別に、言い直さなくてもよかったんだけど、あの時は、ユートがさ。あんまりにもアホだったから、ついむきになっちゃって。人がせっかく頑張ってデートに誘ってるのに、ボケてやがるんだもん。だから、本気になっちゃった」
「そうか。私としては、少し意外だったぞ? ルフは、てっきりリサ殿とユート殿が一緒になることを望んでいるとばかり思っていたからな」
「あ、いや、そうなんだけど。一番は、そうだよ。やっぱ、リサとユートがいてこそじゃん? でも、なんか、あの時は、ユートがあんまりにもダメダメだったからかもしんないけど、あたしのことを一番に見てもらいたかったっていうか、なんか、そんな感じ」
「まぁ、私としても、リサ殿とユート殿には一緒になってもらいたいな。やはり、皆がいてこその、この家だと思うのだ」
「でもさ、やっぱりリサは苦労すると思うよ?」
「うむ。リサ殿にとって、ユート殿は全てだからな。闇から救い上げてくれた救世主であり、いつも守ってくれる頼もしい存在だからな。それにリサ殿は、奴隷であの性格だからな。親しい友も、居ないようだ」
「あー、やっぱ、リサって友達いなんだ。ドSのクセに、乙女だもんね。白馬に乗ったユート様が迎えに来て、お姫様抱っこでベッドまで連れて行って、耳元で愛の言葉をささやいた後、ラブラブ○○○○してくれないといやだって感じ? なんか、こうやって見ると、リサって結構めんどくさいよね?」
「うむ。いい人では、あるのだがな」
「でもさ、あたし的に、ユートに方にも問題があると思うんだけどさ、よく分かんないだよね。なんか、優しいは優しいんだけど、なんか、ムカつく?」
「やはり、ルフもそう思うか? 私の分析では、ユート殿の保身的な感情のせいだな。私たちに判断をゆだねる、という思いやりに嘘はないのだろうが、恐らく、その裏には自分が傷つきたくない、という思いがあるのだろう。相手の感情を薄々察してはいても、こちらからいって、間違っていたら嫌だ。というところだろうか?」
「あーうん。そんな感じだわ。あたしが言いたかったことだ。てかさ、こう聞くと、ユートってヘタレのクソ野郎じゃん?」
「まぁ、そうだろうな。いい人ではあるのだが、やはりその辺が欠点だろうか?」
「これさ、教えてあげた方が良いんじゃないの? ムリでしょ? あの二人だけでどうにかするのって?」
「いや、やはりそれでは可哀そうだろう。私たちが入れ知恵することは簡単だが、それでリサどのが納得すると思うか?」
「むり!」
「なんか、三人ともめちゃくちゃ苦労してるみたいだのう」
「だから、ジイさん! こっちの話に入って来るんじゃねぇ! いつの間に復活しやがったんだよ?」
「ワシも混ざりたい……一人、寂しい……」
「ところで父上、テーブルの上の蜜柑が、そろそろ終わりそうなのですが?」
「あーそれなら、外に止めてあるワシの馬車のところにあるぞ?」
「行け! ジジイ!」
「あ、そんなに蹴らないで……いや、もっと蹴って……あっ」
寒かった。『身体』がじゃなく『心』がだ。
俺は、何か悪いことを言ってしまったのだろうか? 仮に、アヤメやルフの言葉が本当だとしても、やっぱり、あれはリサの決めることだと思う。リサの態度からして、多分、あいつらの言ってることは当たってるんだろう。謝って、一応の仲を取り戻すことは可能だ。でも、それじゃあ、ダメな気がする。それじゃぁ、きちんと納得した上じゃないと、絶対に将来よくないことが起こる。
「お? 小僧? そんなところで何をしとるんだ? ミミズの真似事か?」
俺だって、多少ふざけすぎたとは思ってる。でも、
「無視するな!」
なんだよ、五月蠅いな。
「その様子だと、やはり上手くいかなかったか?」
俺は、すこし癪だったけど、素直にうなずく。
「っち。仕方ない」
白虎さんは、そう言うと、俺に手を差し出す。弱り切っている俺は、特にためらうことなく、それを掴んだ。
「ほれ、小僧」
白虎さんに起こされたおれは、何故かそのまま練兵場に連れてこられた。そして、俺は、白虎さんが荷物から取り出した刀を一振り、投げてよこされる。白虎さんも、腰に刀を差している。
「さて、小僧、貴様はまだ分からんの……か!」
そして、白虎さんは、俺に質問を投げかけながら、切りかかってきた。
「ふ! いえ、まぁ」
それを予期していた俺は、渡された刀を鞘から抜き放ち、初撃を受け止める。
「全く、情けない小僧だ」
白虎さんが、強引に刀を押し込んでくる。
「小僧、貴様は、何故このようなことになっていると思う?」
白虎さんが、俺から離れる。こんどは、俺の方から撃ち込んでいく。
「それは、俺がリサに告白しないから、ですか?」
「そうだ!」
でも、カウンターで返されそうになったから、急いで刀を引く。
「それが分かっていて、何故、そうしない!?」
刀を引いた俺に、白虎さんが追撃を仕掛ける。俺は、それを見様見真似で、カウンターで返そうとする。
「それは、そういうことは、女性が決めることだと思うからです。一生を共にする相手なのですから、やはり、自分で決めるべきだと思うのです」
でも、白虎さんは、構わずに撃ち込んでくる。
「貴様は、人に対して優しければいいと思っているようだが、それは違うぞ!」
受け流そうとした俺の刀は、白虎さんの刀に、押し切られてしまう。俺は、慌てて体勢を整える。
「大体、貴様はどうなのだ?」
白虎さんが、次々に斬撃を繰り出してくる。俺は、それを受けるだけで精いっぱいだった。
「一生一緒に居るというのなら、貴様だってそうだろう? なら、こちらから言ったところで、良いではないか? 相手が嫌だと思うなら、貴様がフラれて終わりだ。では、何故そうしない?
良いだろう、貴様では分からないだろうから、答えてやる。貴様は、自分が傷つくことを恐れているのだ。もし、自分の勘違いだったら? もし、フラれたら? そんな考えが、貴様の優しさの裏にはあるのだ! だいたい、それは優しさとは言わん。それは、自分勝手と言うのだ!
いいか、そもそも、貴様が純粋に優しいだけの人間なら、リサちゃんもあんなに怒らないだろう。貴様がミミズの真似事をすることはなかったはずだ。リサちゃんは良くできた人間だから、朝みたいに怒ることはあっても、そのうち気を取り直して、貴様に対して何かしらの行動を起こしたはずだ。だが、それを裏切ったのは貴様だぞ!」
剣戟が、数を重ねるごとにドンドン重くなってゆく。俺は、もはや喋る余裕すらなかった。
「小僧、貴様、今すぐ謝って来い。それか、」
一際重い一撃を何とか受けきる。
「腹掻っ捌いて死ねや!」
直後、腹に激痛が走った。どうやら、俺の隙をついた白虎さんに、柄で腹を殴られたらしい。俺は、堪らず地面に倒れ込む。
「さて。待っててね、ルフちゃん! 今みかん持ってくからねー」
俺を倒した白虎さんは、刀を荷物の中に戻すと、馬鹿でかい木箱を担いで、去って行ってしまう。本当に、訳の分からない人だ。
俺は、動くことが出来なかった。白虎さんの一撃一撃が重すぎたせいで、動けないでいた。
悔しいけど、白虎さんの言うことは、きっと、全部当たってる。その言葉の一つ一つが、あまりにも重く、俺の心に突き刺さっていた。
「ハハ……」
俺は、地面に倒れ込んだまま、乾いた笑いをもらす。本当に、自分の悪いところを史的されるのは、つらいものだ。
気づけば、俺は、泣いていた。
幕間 アヤメの部屋の炬燵にて
「ジイさん、遅い!」
「あ、ルフちゃんそんなに蹴らないで。だって、小僧があまりにもふがいなかったから、成敗してきたんだもの。ほら、代わりに蜜柑たっぷり持ってきたから!」
「父上、いくらなんでも、箱ごと持ってくるのはどうかと?」
「菖蒲までワシのこと否定して、あれか、これが反抗期というやつか?」
「うるさい! ジイさん! それより、ユートどうしたの? 成敗って言ったけど? もしかして殺しちゃった?」
「ワシが人を殺すように見えるか? 安心しろ。ちょこっと説教してきただけだから。あ、でも、早く何とかしないと、自殺しちゃうかもしれんな」
「おい! ジジイ!」
バンッ!
「な、何事だ! 敵襲か!?」
「アヤメのねぇちゃん、落ち着け! リサの姉さんが来ただけだから!」
「ユート様が、死んでしまわれる、というのは、本当で御座いますか?」
「リサの姉さん、怖いからそんな泣きそうかつ真剣な顔で来るな! てか、どこで聞きつけた!」
「あー、うん。そうそう。なんか、リサちゃんにフラれて生きる自信を無くしたから、死ぬと言っていたな。今は、練兵場で最期の分かれをこの世に告げているころかの?」
「ジジイ! ややこしくなるから適当言うんじゃねぇ!」
「あ、リサ殿! そんなに急いでどこへ行くのだ? 炬燵に入って行かんか?」
「行っちゃった……」
「ふむ。彼女にしては、珍しく焦っていたな」
「どーせ、自分のせいでユートが死んじゃうとか思って焦ってるんでしょ? 全く、普段ユートを虐めまくってるくせに、本当にヤバいとああなんだから。どんだけ、めんどくさいんだよ」
「さて、二人とも、リサちゃんを追いかけるとするか? 今行けば、二人が寒空の下で○姦してるのを見られるかもしれんぞ?」
『黙れジジイ!』
俺は、空を見上げたまま、泣いていた。気づけば、雪が降り出していたが、そんなことはどうでもいい。
白虎さんにはっきりと指摘されて、自分が、情けなかった。涙が、後から後から、流れてくる。本当に、どうしようもないな、俺って。
「ユート様?」
唐突に、視界がリサの顔で埋まった。
「え……」
俺は、言葉を失う。なんで、リサがここに?
「こんなところで何をなさっているのですか? 空を見上げて、これからお世話になる、天国にあいさつをなさっているので御座いますか?」
リサは、何故か安心したような顔で、俺のお腹の横辺りにしゃがみ込んで、俺の顔を覗き込んでいる。俺は、いつものリサの言葉に、何も返せない。
「もし、本当に、逝かれるのでしたら、どうか、わたくしも、連れて行って下さい。それが、奴隷の務めで、御座いますから」
なんか、ゆっくりと言い聞かせるようにして訳の分からないことを言われた。
「いや、何言ってんだ?」
訳が分からな過ぎて、涙も引っ込んでしまった。
「いえ、あのですね、ユート様が、わたくしのせいで、その、死のうとなさっている、とお聞きしましたので……」
そこで、リサは言葉を飲み込む。そして、俺と入れ替わるように、泣きそうな顔になると言った。
「あの、ですから、わたくしも、一緒に逝かせて下さいませ……あの、それから……わたくし、ユート様に……ひどいことを……」
リサの涙が、ポタポタと俺の顔に落ちてくる。温かかった。
俺は、何をしているのだろうか? こんなに、可愛い娘を泣かせて……
「え? あ、ユート様!?」
俺は、しゃがんで俺のことを覗き込んでいるリサを抱きよせた。そして、そのまま強く抱きしめる。最初こそ、戸惑っていたリサも、徐々に身体を俺に預け、最後には、リサの足を俺の足に絡めて、完全に抱き合う格好になる。でも、それでも、自分の腕を折りたたんで、俺との間に挟んでいるのが、少し悲しかった。
俺は、リサの耳元に口を寄せると、言った。
「リサ、好きだ。俺と、結婚しよう?」
その言葉を聞いた瞬間、リサが、ぽろぽろと涙をこぼしているのが、肌伝わる温かい感触で分かった。俺は、リサを抱きしめたまま。答えを待つ。
すると、ゆっくりと、リサの腕が伸ばされ、リサが、俺を抱きしめ返してくる。そして、自分の顔を俺から見える位置に持ってくると、言った。
「はい。勿論で御座います」
リサの顔は、涙でぐしゃぐしゃだったけど、俺は、この笑顔が、今までのリサの顔の中で、一番可愛いと思った。
「あー、ユートの奴、本当に○姦してる! あ、でも雪降ってるから、雪姦?」
とそこで、ルフの声が聞こえてくる。
「ユ、ユートにリサ! そ、それは一体何をやっているのだ! いかんぞ!結婚前の男女が、そのような事! いいか、そういうことは、私のような結婚を約束した者とやることであって……」
アヤメは、やっぱり敬称がぶっ飛んでいた。そんな二人に、俺は呼びかける。
「ほら、ルフとアヤメもこっち来いよ? 羨ましいんだろ?」
「え! いいの!?」
「な、なんだと!」
その言葉に、二人が一斉にリサを見る。それに、リサは笑顔で応じる
「はい、勿論で御座います。今まで迷惑をおかけして、申し訳御座いませんでした」
その言葉を聞いた瞬間に、二人が、飛び込んでくる。俺は三人分の重みを、しっかりと、受け止めた。
クリスマスイブの夜、俺たちは、全員でリサの部屋に居た。ちなみに、白虎さんは、何故かアヤメの部屋で伸びていたので、感謝しつつも、荷物と一緒に船に送り返しておいた。アヤメがしきりに『すまぬ父上、あまりにも態度がアレだったので、つい手が出てしまった』とか言ってたし、ルフも少し気まずそうな顔してたけど、まぁ、問題ないだろ。
「ユート、このベッド、狭い」
「申し訳御座いません。元々、一人用ですので」
「いや、これはこれで、良いのではないか?」
今、三人は、トナカイのコスプレをしてベッドの上に座って居る。衣装は、三人の選んだやつだ。それも、かなりエロい。露出が多い、とかそう言う訳ではないのだが、何故か、三人が着ると、エロいのだ。ちなみに、俺はサンタのコスプレをして、ベッドの脇に立っている。
つまり、こういうことだ。『処女のクセに淫乱なトナカイ三人娘は、サンタさんに美味しく食べられてしまいましたとさ』
ゲヘヘ
「ユート様、もう少しマシな御顔をなさっていただけませんか?」
「うっわ、キモ!」
「ユート殿、流石にその顔はどうかと思うぞ?」
おっと、いかんいかん。
「まぁいいや。これ以上ユートの顔がキモくなる前に、さっさとヤろうよ?」
「うむ。それが良かろう」
「はい。では、ユート様、こちらに」
俺は、三人の招きに応じて、ベッドに上がる。
「んじゃ、いただきま……」
「ユート様、その前に」
俺が早速三人を押し倒そうとしたところで、リサに止められる。俺は、俺のことを見つめている三人の顔を見て、何となく、察する。そして、全員で見つめ合うと、四人で声を合わせて、幸せで真面目な顔で、言った。
「わたくしは、ユート様の妻として、ユート様と死した後まで添い遂げると誓います」
「私は、ユート殿の妻として、死した後までユート殿と添い遂げると誓います」
「あたしは、ユートに妻として、死した後までユートに添い遂げると誓います」
「俺は、リサ、アヤメ、ルフの夫として、死した後まで三人に添い遂げると誓います」
このお話で、全て終わりです。
予定よりラブコメっぽくなってしまった・・・
活動報告に、なんか書きます。




