番外編1 アヤメの実家にあいさつに行ってきました
「さあ、着いたぞ、ユート殿! ここが、私の国だ!」
温泉からさらに何か月か経った頃、俺は、アヤメの故国の土を踏みしめていた。ていうか、何日経ったのか全然分からない。
温泉であんなことがあった数日後、いつもの朝食の席で、アヤメが唐突に言い出したのだ。
「ユート殿、私は一生貴殿のもとで過ごそうと思うのだが、その前に実家にあいさつに行っておこう」
いや、勿論、俺は反対したんだぞ? 鎖国中の国に行くなんて無理だし、まだまだやることがあったし。なのに、俺以外のやつが誰も反対しないわ、アヤメがとんとん拍子で話を進めて、気づいたら日出国行きの貿易船に乗せてもらえることになってるわ、朝起きたらなぜか船の中だわで、本当にもう、言葉が出ない。しかも、船、すっごいゆれる。慣れるまで、性欲すらわかなかった。
ちなみに、今回はアヤメと俺との二人旅だ。船のなかでアヤメが説明するところによると、日出国の街道には関所が多くあり、とてもじゃないが、外国人を三人も引き連れて歩けないそうだ。
さておき、もう、ここまで来たらしょうがない。せっかくだから、日出国を楽しんでやる。
とは言うものの、今のところ普通だった。俺たちが降り立った港町だが、確かに、王国とは違う空気を纏ってはいるものの、建物とかは王国と変わらないようだった。
あ、でも、一つだけあるぞ! すっごい変なところが。さっきから見慣れない着物を着て腰に刀を差してる人達がいるけど、そいつらにすっごい変なところがあるのだ。
「なあ、アヤメ、一ついいか?」
「なんだ、ユート殿?」
他所の文化に一々ケチつけるのも失礼かなとは思ったが、俺は、意を決して聞いてみる。
「あの刀を差してる奴ら、なんで頭の上に犬のウ○コの乗せてるの? ハゲを隠すにしても、あれは無いだろ?」
スパーンって、すっごい綺麗な音がした。いや、アヤメが俺の頭を叩いた音な。
「全くユート殿は、少しは言葉に気をつけてくれ」
俺の横を歩くアヤメは、未だにそんなここを言っている。
「いや、だから、悪かったって」
あの後アヤメに説明されたが、あれは髪の毛だという。あれは、戦の時に被る兜から、頭を守るための物なのだそうな。ああやって、頭の毛を剃って、髪の毛を一か所のに盛ることで、頭と兜が当たったり、頭が蒸れたりすることを防ぐらしい。
ちなみに、街並みが王国とそんなに変わらないのはここが外国人のために作られた街だからだそうだ。
さておき、俺たちは今、港町の中を歩いていた。俺もアヤメも、今は船内で調達したこの国の服を着ている。アヤメは桜色の『着物』という物を着て、帯に脇差を差し、俺は『袴』という物を着て刀を差している。刀と脇差は、どっちもアヤメの持ち物だ。アヤメが両方持ち歩くのは目立つ、ということで、刀の方は俺が借りている。これがこの国では一番目立たないらしい。あ、流石にウ○コは乗っけてないけどな。髪型はいつものままだ。
普段は、可愛いものが好きでも、あんまり似合わないアヤメだが、この着物というやつは、見惚れるほど似合っていた。ふむ。お土産は、三人分の着物で決まりだろうか? 帰ったら、早速リサとルフにも着せなければ。
ちなみに、俺は船の中でアヤメにしごかれたおかげで、この国の言葉をある程度話せるようになっていた。こんな事やってるから、気持ち悪くなったんだろうな。
「ところでさぁ、俺たちどこにむかってるんだよ?」
「ん、いや、この港町にも関所があるはずだからな。それをすり抜けるために、人を探しているのだ」
これもアヤメから言われたことだが、この国では外国人は港町の外に出ることが許されていないらしい。だから港町から続く街道には、ことごとく関所があるというのだ。それをすり抜けようというのだろう。でも、
「いや、それはいいんだけどさ、なんでさっきから人んちの便所の辺りばっか探してるんだよ?」
そう、アヤメは、さっきから街の中を歩き回っては、人のうちのトイレの辺りを覗き込んでいるのだ。あれかな、スカトロプレイでもしようってのかな? いやー、そういう上級者向けのは、まだ早いんじゃないかな?
「ふむ。丁度いい。ユート殿、探し人が見つかったぞ!」
そう言うと、アヤメは突然駆け出してしまう。でも、その見つかったぞ、という人は、はっきり言って、小汚いじいさんだった。馬鹿でかい桶を積んだ荷車を引いているけど、それ以外は、着ている服はぼろいし、全体的にヨボヨボで、とても関所を抜けるのを手伝ってくれるとは思えなかった。
というか、思いたくなかった。いや、じいさんの方はそこまで問題はないんだけど、問題はじいさんの持ってる桶の方だった。縮こまれば俺とアヤメが入れそうな大きさがあるんだが、なんか、全体的に汚い。桶そのものは黄ばんでるし、あっちこっちに茶色いのとか、紙とかがへばりついてる。
なぁ、これってさぁ、じいさんが汚く見えるのって、この桶のせいなんじゃねぇの? ていうか、じいさんの仕事ってさぁ、アレなんじゃねぇの?
「ユート殿、入れてくれるそうだ!」
俺がそんなことを考えていると、じいさんと交渉していたアヤメが笑顔でこっちにやってくる。この国の金貨を一つ渡してたっぽいけど、そんな笑顔でこっち来ないでほしい。あと、いくら入れてくれるって言っても、俺は嫌だからな? 入れてくれるって、どう考えてもあの桶のことだろ?
「ん? なにを突っ立っているのだ? そこまで時間に余裕のある旅でもない。行くぞ?」
だーかーらー、嫌だって言ってるでしょ! だから、そんなに引っ張るんじゃない! おい、何でそんなに力があるんだよ、お前は! やめろ! やめろって! ……………………………………………………………………………………………
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うむ。無事に関所も抜けたし、一安心だな」
「うむ、じゃない!」
俺たちは、街道を歩いて居た。ここから、アヤメの実家のある江戸という街まで行くらしい。らしいのだが……
「なんで、あんなところに入ったんだよ! おかげで臭いが移っちゃっただろ! 見ろ! 周りの人達が明らかに避けてるだろ!」
あの後、俺は、笑顔のアヤメに無理矢理桶の中に押し込まれた。あの爺さんは『下肥取り』という職業の人らしく、人家からウ○コとかを集めて、肥料として売る職業の人らしい。だから、あの桶は、つまりは、そういうことだ。
「なんだユート殿? 桶の中で私の身体をしっかりと堪能しただろう? それなのに、まだ不満だというのか? 全く、ユート殿の性欲には驚かされるばかりだな」
あの後、俺はアヤメに桶の中に押し込まれたわけだが、いくら大きいと言っても、桶は桶だ。流石に人が二人入るのは厳しかったから、俺とアヤメは、お互いに抱き着くような恰好で入ることになった。
いや、アヤメの身体は、正直言って気持ちよかったよ? リサとは違って、色んなものがでかいし、鍛えてるから、ただ柔らかいだけじゃない。これが、東洋の神秘か! って心のなかで叫びましたとも。
問題は、桶の方だ。桶には、匂いが出来るだけ漏れないように蓋が付いているのだが、当然、それは閉める。関所の役人も、わざわざウ○コの詰まってる桶の蓋までは開けないから、これで関所を抜けられるらしい。
でも! 蓋なんか閉めちゃったら、臭いだろ! とてつもなく! いや、なんか、アヤメの身体の感触と臭いで、変な扉が開きそうになったわ! キレたくもなるわ! てか、なんでこの国に来てからウ○コばっかなんだよ!
「だが安心しろ。宿場に着いたら、きちんと風呂に入れるからな。それに、この国の風呂は、混浴が当たり前だぞ?」
え? マジで?
「さて、怒りも収まったところで行こうか?」
「たのもー。私だ! 菖蒲だ! 今帰ったぞー」
あれからさらに二週間後、俺たちは、江戸にあるアヤメの実家の前に立っていた。あれから、関所を超えるたびに、桶の中に入ったり、迂回して道なき道を進んだりしたせいで、俺は心身共にボロボロだった。というか、アヤメが元気すぎるんだよ。故郷にいるせいなのか、いつも以上に元気なのが、若干腹が立つ。
アヤメの実家は、なんか無駄に立派な門構えだが、アヤメ曰く、直参旗本、つまりは将軍直属の家臣ならこのぐらいは当たり前だな、とのこと。なんか、俺の屋敷とは違う迫力があって、こういうのを見慣れてるはずなのに圧倒されるな。
というか、普通に家の門を叩いてるけど、もうちょっとなんか無いのかよ? 確か、六年ぶりなんだろ、帰って来るの? もしかして、恥ずかしいのか?
とか思っているうちに、通用門から一人の女性が出てくる。多分、この家で働いてるメイドさんか何かだろう。きっと、突然アヤメが帰ってきたことに驚くだろう。
「菖蒲お嬢様、お帰りなさいませ」
あれ、普通だ。なんか、散歩から帰ってきただけ、みたいな対応をされた。なんだろう、俺がおかしいのかな?
「あの、それで、そちらの方は?」
「ああ。彼は、私の主人だ」
「そうですか。当主さまー、お嬢様がお戻りになられましたよー?」
あまりにも普通すぎて俺が固まってる前で、メイドさんが屋敷の奥に声を掛ける。すると、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
とかいう雄叫びと一緒に、ドドドドドドッ! って感じの足音が聞こえてくる。そして、
「あやめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
とか叫びながら、顔と存在感のやたらと濃いおっさんが現れた。そして、アヤメに抱き着く。
「心配したんだぞ! 散歩に行ったきり六年も! 一体どこまで散歩に行っていたのだ!」
「父上、人前でそのような事……」
どうやら、この色々と濃ゆいおっさんは、アヤメの父親らしい。アヤメに抱き着いて髭をジョリジョリと擦り付けている。
ていうか、離れてくれないかな? いくら父親でも、アヤメに抱き着くことだけは許さん!
「あ? 何この外国人? なんで俺にメンチ切ってんの? みせもんじゃねぇぞこら?」
なんか、因縁つけられた。
「ああ、そうか。紹介しよう。父上、彼が私の主人だ」
「おう、小僧、腹切れや!」
で、色んなことがありすぎて圧倒されてた俺は、気づいたら、畳の上でアヤメの父親と向かい合っていた。俺の横には、アヤメが座っている。
この人の名前は、不知火白虎というらしい。アヤメの父親だ。なんか、一人だけ座布団と肘掛を使っていて、態度が滅茶苦茶でかい。後、俺にも座布団下さい。なんでアヤメには座布団があって、俺は畳の上で正座なんだよ!
さておき、腹を切れってあれかな、切腹ってやつ。昔読んだ本によると、武士と言うのは責任を取る時に、腹を切って死ぬらしい。でも、腹を切ると言っても、ちょこっと切ったあとは、介錯人が首を落としてくれるらしい。
「ふむ。ユート殿、それは少々違うな。確かに、最近の切腹はそのようになりつつあるが、本当の切腹という物はそうではない。介錯人はつかない。死ぬまで全て自分でやらなければならないのだ。
よいか? 切腹というのは、先ず、短刀でもって、自分の腹を十字に切り裂くのだ。この時の注意点として、先に横に切ってしまうと、腹筋が収縮して上手く縦に切れない。大抵の場合十字ではなく丁字になってしまうし、切ろうとしている間に内蔵が出てきてしまう。だから、素人の場合、最初は縦に切るのだ。そして、腹を十字に切ったら、右の乳首の下に短刀を突き立てる。これが、止めだ。本当の切腹とは、このようなものなのだ」
へー、勉強になるなー……
「って違う! 俺はそんなことを聞いてるんじゃない! 切腹の仕方とか聞いて無いんだよ! なんだよ注意点って! なんだよ素人って! 切腹なんかみんな素人に決まってるだろ! てか、グロいわ!」
ダメだ、突っ込みが追い付かない。
「黙れ小僧!」
「あ、ごめんなさい」
俺が叫んでいると、白虎さんに注意されてしまった、まぁ、そりゃそうか。でも、この人、とんでもない迫力だな。きっと、剣の腕も相当のものだろう。
「小僧、貴様、菖蒲の主人らしいな!」
「あー……」
そう言われて、俺は言葉を濁す。確かにその通りだけど、何って言ったものか。いくらなんでも、父親に向かって「あなたの娘さんは僕の国で奴隷やってます。僕が娘さんのご主人様です」なんて言えないだろう? ていうか、門のところのアヤメの一言で、すでに怒っていらっしゃるし。向かい合った俺に対する第一声が、自殺しろってなるほどには。
「はい、父上。わたくしは、彼の許で一生を過ごすと考えています!」
うわー、アヤメが深々と頭下げてる。ヤバい、逃げ出したい。
「おい、貴様! 貴様なんぞに娘はやらん! いいか……」
ほら、来たよ。
「貴様にむしゃぶりつかせるくらいなら、ワシがむしゃぶりつくわ!」
「は?」
何言ってんだこのおっさん?
「主人ということは、あれだろ? 菖蒲の旦那ということだろ! 結婚するってことだろ? わかりやすく貴様の国の言葉で言うと、ゴールインって言うやつだろ? あれか、貴様のチ○コを菖蒲の○○○にゴールインってか! 誰がうまいこと言えと言った!」
頭、大丈夫かな……
「いいか、ワシが手塩にかけて育てた娘は誰にもやらん! 他人に菖蒲をどうこうされるくらいなら、ワシが近親相姦してやるわ! ワシが膜破ってやるわ!」
いや、取りあえず、色々と無視して、分かったことが一つ。どうやら、このおっさんは、『主人』という言葉を『夫』的な方向で捉えてるらしい。いや、確かに、普通の人が聞いたら、そう聞こえるのかもしれないけど。ていうか、他の部分には触れたほうがいいのかな? 正直、アヤメだけで手一杯だから、他のボケ要員はいらないんだけど。
「父上! 人前でそのような事を言うのはおやめください!」
助かった。流石に、アヤメもボケられないみたいだ。父親が強烈過ぎて、突っ込みに回って……
「それに、わたくしはもう、身も心もユート殿の物です!」
おいー! きちんと奴隷制について説明しような?
「ほ、ほう……」
アカン。白虎さんの眉毛が、ピクピクってなった。
「あと、わたくしはすでにユート殿に膜を破られておりますゆえ、膜はありません!」
嘘吐け! 確かに、温泉で多少エロイことはしてもらったけど、本番はまだしてないぞ!
「小僧、ちょっと表に出ろ。部屋が血で汚れる」
あーもー、このバカ親にそんなこと言うから!
「なるほど、唯一の非奴隷制を……」
で、あの後さらに一時間ほど二人にボケ倒されてから、ようやく本題に入れた。
俺は、白虎さんに、王国の現状について説明する。白虎さんは、真面目な話になると、アヤメの父親とは思えないほどしっかりした人だった。さっきのボケも、アヤメのことを思えばこそなのだろう。
「どうだろうか、父上、私が彼の許で過ごすのを、許してはくれないだろうか?」
アヤメが、改めて頭を下げる。それをみた白虎さんは、腕を組んだまま考え込んでしまう。そして、
「菖蒲、少し、二人だけにしてくれ」
と言って、アヤメを部屋から出してしまう。ていうか、このおっさんと二人だけとか、本気でやめてほしい。
アヤメが出ていくと、白虎さんは俺のことをジーッと見つめる。そして、暫くすると、唐突に頭を下げて言った。
「菖蒲を、よろしくお願いする」
いや、そんな娘を嫁に出す父親みたいな言い方するなよ。反応に困るだろ?
「いや、あんなに生き生きとしている菖蒲は、あまり見たことがない。それに、貴殿のことを人としても尊敬しているようだ。私も、話を聞く限り、悔しいが、貴殿が立派な人物であることを認めざるを得ない」
「え、あの……」
言いよどむ俺に、白虎さんが畳みかける。
「いいか、くれぐれも、大切にしてやってくれ! 妻に早世されて、菖蒲には散々苦労を掛けてきた。もう一度言うが、くれぐれも、大切にしてやってくれ!」
俺の目を見て、真剣な顔で言う。ちょっと前までの、ふざけた雰囲気が嘘のようだった。その真剣な様子に、俺も、心の底から本気で応える。
「はい! もちろんです!」
で、夜。俺は、何故かアヤメの部屋に泊まることになったんだけど、
「なんで、布団が一枚しかないの?」
これって、アレかな? 親公認てやつかな? 良いの? ヤッちゃって?
「ユート殿、私は構わんが、リサ殿がなんと言うかな?」
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畳って、意外と硬いのな。
次の日、俺たちはアヤメたっての希望で、墓参りに行った。でも、何故か俺とアヤメの二人だけで、白虎さんはついて来なかった。
どうやら、アヤメの母親は、アヤメが3歳の時に死んだらしい。原因は、病気。それからは、武人の父親に育てられたという。アヤメが強いのも、ボケてるのも、全部、父親譲りのようだ。しかも、アヤメは一人娘だという。なるほど、白虎さんがバカ親というか、親ばかになる訳だ。あと、母親が生きてれば、ここまで残念な事にはならなかっただろう。
「さて、着いたぞ。ここが母の墓だ」
そう言ってアヤメが示したのは、何故か不知火家の庭の一角だった。朝、家を出たおれとアヤメは、街中で花とお供え物を買って、何故か家まで戻って来てしまった。初めは、忘れ物でもしたのかな、と思ったけど、アヤメはそのまま家の裏手に回り込んで行ってしまった。そして、桜の木の下にある墓石を、母の墓だと言って俺に紹介した。うん、白虎さんがついて来なかった訳だ。
アヤメが言うには、この国でも、こんな所に墓を作る人はいないそうだ。でも、俺は、何となく、この方がアヤメらしいと思ってしまう。
俺たちが戻ってきたのに気付いた白虎さんも、俺たちに合流してきた。俺たちは、すでにピカピカの墓石をさらにピカピカにした後、そろって手を合わせる。
俺の隣では、アヤメが何かを呟いているが、多分、母親に何かを報告しているのだろう。俺は、そのいつになく真剣で、それでいて穏やかな顔のアヤメに、つい見惚れてしまった。
それから数日間は、アヤメの引っ越しの準備で大忙しだった。なんか、帰りはアヤメの荷物を港まで持ってくついでに、白虎さんが送ってくれることになった。関所は、権力でどうにかするらしい。本当に親ばかだけど、俺としては、またウ○コにまみれなくて済むから、嬉しい限りだ。
で、港町。俺たちは、船の上に居た。白虎さんは、わざわざ出向いて来て、荷物の積み込みの陣頭指揮を取っていたが、今は荷物の積み込みも終わって、アヤメと向かい合っている。
「いいか、菖蒲。何かあったらすぐに連絡するんだぞ? 近々、ワシも貿易船を買って、いつでもそっちに行ける体勢を整えるからな」
「全く、父上は心配性ですね。大丈夫ですよ。ユート殿の所に居る限り」
すごく寂しそうな顔で、とんでもないこと言ってる。いいのかな、鎖国してる国の偉い人が、そんな事で。
「いいか、こいつに酷いことされたら、いつでも帰って来るんだぞ?」
「大丈夫ですよ」
いや、だからさ、その娘を嫁に出すみたいなテンション、やめようよ?
そして、出航の時が来た。
俺たちは、甲板に出て、白虎さんに手を振る。白虎さんも、俺たちに向かって手を振りまくっている。しかも、アヤメに向かって別れの言葉を叫びまくってて、滅茶苦茶目立ってる。
「いいか~、向こうに着いたら、手紙を書くんだぞ~」
しかも、割と無茶苦茶言ってる。いや、あんたの国、鎖国してるんだから、手紙とか無理だろ。
「早くそいつから搾り取って、孫の顔を見せに来るんだぞー」
「父上も、お元気でー」
って、ちょっと待て! おっさん! やたらと変なテンションになってると思ったら、そういうことか! 相変わらず誤解が解けてなかったのかよ! アヤメも、普通に別れを惜しんでないで、誤解を解け!
「ちょ、アヤメ、おい!」
俺は、横で手を振ってるアヤメに、急いで言い募る。
「ん? なんだ、ユート殿?」
「いや、白虎さん、お前が嫁に行くって誤解したままだぞ!?」
「いや、何を言っているんだ?」
アヤメは、俺の言葉に、怪訝そうな顔をする。だが、そのすぐ後に、何かに気づいたような顔をすると、悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
今までに見たことのない、アヤメの女の子らしい笑顔に、俺は思わず、ドキリとしてしまう。
「ユート殿こそ、何を言っているんだ? 私は、旦那を連れて、実家に結婚のあいさつに行ったのだぞ?」
アヤメの眩しすぎる笑顔に、俺は、色々な意味で倒れそうになってしまうのだった。
予想以上にヒロインっぽくなってしまった……
いえ、メインヒロインの一人だからそれでいいのですが。
ということで、リサの番外編も書きます。
追記
本編とは関係ないのですが、描写が抜けていて気になるところがあったので、少しだけ追加しました。
更に誤字や変換ミス等を直しました。いつも以上にミスが目立ってしまい、申し訳ありません。




