まさかの奴隷エンド!?
「はーあ。今日も疲れたつかれた」
裁判から1か月ほどたったある晩、俺は今日も疲れ切った身体をベッドに横たえる。1か月前の裁判で俺は言いたいことを全部言った。王国の制度に対して、俺が感じていること、奴隷制を廃止している理由とか、そんなのを全部ぶちまけた。で、裁判の結果はと言うと、
「奴隷とは物であり、その物をどう扱おうとも自由である。例え実質的な奴隷の開放を実現していても、反逆罪に問われる謂れは無い」
というものだった。なんだそりゃ、と思うような理由だけど、それが限界でもあるのかもしれない。今の王国の制度の下で、俺を無罪にしようと思ったら、ちょっと無理のある理由にならざるを得ないだろう。
それでも、俺の裁判の反響が何にもなかった訳じゃない。判決が出たのは今から2週間くらい前だけど、その頃の新聞は、大手から弱小まで、俺の裁判の話題で持ち切りだった。『王立最高裁判所が非奴隷制を肯定! 今後の奴隷の扱いは!?』みたいな見出しが一面に踊って、俺は、色んな所から取材を受けたり、内政の処理で忙殺されていた。
内政も、他の領地から移住してきたいという奴隷とその主人への対応やら、他の領主が放った密偵や、革新的な判決を導いた俺を狙う暗殺者への対策やらで、政治から軍事まで大忙しだった。それでも、最近は多少の落ち着きを見せている。
ちなみに、裁判の相手のガフティについては、その後どうなったのかは知らない。判決が出たすぐ後に、恨み言がたっぷり書かれた手紙が来たけど、それっきりだ。でも、まぁ、あんまり関わらない方がお互いのためだろう。
ついでに、裁判をおこした元家臣は、元通り俺の領内で暮らしてる。流石に、裁判の相手方を難癖付けて牢屋に放り込むのは、後味が悪すぎる。奴らも、今回のことで今まで以上に動き難くなっただろうし、放っておいても問題はないだろう。
俺がベッドに入ってから数分後、眠る寸前だった俺の耳に、僅かな音が飛び込んでくる。俺は、どこぞの暗殺者でも来たのかと思い、急いで身構える。
だが、俺の目に入ったのは、扉を開け、俺の部屋へと入って来るリサの姿だった。
「こんな時間にどうしたんだよ?」
俺は、基本的に夜遅い時間にリサたちに頼み事をすることはない。寝ているところを起こしてまで何かを頼むのは、気が引けるからだ。
だから、今回のこれも、俺が何かを頼んだからじゃあない。リサの方に、何か用事があるのだろう。でも、一体何の用なんだろう? こんな時間に、しかもメイド服で。
リサが、俺の言葉に答えることなく、ドアを閉め、部屋の中に入ってくる。俺は、不審に思いながらも、その様子を見守る。リサが、徐々に俺のベッドに近づいてくるが、どうも、その顔が紅く上気しているようだ。しかも、緊張でもしているかのように息が荒い。もしかして、風邪でもひいたのだろうか?
「なんだよ? 風邪でもひいたのか? だったら、俺がなんか温かいものでも……」
俺のその言葉は、リサに遮られてしまう。ベッド脇まで歩いてきたリサが、俺の唇に、そっと人差し指を置いて、俺の言葉を、遮ってしまう。
リサは、俺が言葉を飲み込むのを確認すると、指を俺の唇から離す。リサのぬくもりが離れて行ってしまうのが、何となく名残惜しく思う。でも、俺のそんな思いは、すぐに別の思いに塗り替えられてしまう。
リサは、緊張した様子で微笑むと、ベッドの上で上半身を起こしている俺に抱き着いてきたのだ。リサの心臓が早鐘を打っているのが、如実に伝わってくる。多分、俺の心臓も、同じ状態だろう。そのまま、俺の耳に口を寄せると、リサは、囁くように言った。
「ユート様、わたくしを抱いて下さい」
「!」
俺は、声にならない声を上げる。
「いえ、ユート様も裁判で頑張っていらっしゃいましたし、そのおかげでこうして生活できている訳ですので、ご褒美を、と思いまして。あの、それで、いつもユート様がわたくしにいたずらを……」
俺の驚いた様子に気づいたリサが、必死に言い訳を始める。今度は、俺がリサの唇の指をあててそれを遮る。そして、リサをベッドの中へと招き入れる。
俺は、リサを仰向けに寝かせると、優しく抱きしめる。最初は、リサのサラサラの銀髪に顔をうずめる。
「ユート様、そんなところ……くすぐったいです……」
リサが何か言っているが、俺はあえて無視する。リサの髪を十分に味わうと、俺は、顔をリサの顔へと近づけていき、唇でなぞるように愛撫する。
額に口づけをすると、吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳、すっきりと通った鼻筋、そして、小刻みに震えている唇へ。今、ついに、リサが俺のものになるのだ。それは隷属とかそういうことじゃない、リサが望んでのこと。お互いがお互いのものになるのだ。
俺は、リサの唇に、自分の唇を重ね……
「キモイ顔してないで起きろユート!」
ようとしたところでルフに蹴り起こされた。かなりの勢いで蹴られたのか、わき腹の辺りが超痛い。やっぱり、夢だったか。ええ、はい。分かってましたとも、いくらなんでも、リサがあんなことする訳ないって。でもさ、もうちょっと待ってくれても良いだろ! せめて、夢の中でくらい良い思いしたって良いだろ! 俺は、恨みのこもった視線でルフを睨み付ける。
「ユート、あたしのことなんか見てないで、下見たら?」
すると、ルフに呆れたような声で返されてしまった、てか、下って何? そう言えば、股間の辺りに違和感があるけど、しょうがないじゃん、あんな夢見たあとだもん。息子が少し元気になるくらい、許してくれても良いだろ?
俺は、違和感の正体を確かめるために、ルフに言われるまま下を向く。すると、そこにはリサが居た。寝転んだ状態の俺と、ベッドの上に立っているリサとで、目が合う。
「おはようございます。ユート様」
「おう、おはよう」
……………………………………………………………………………………………………………
ってそうじゃない! なんだこれ! あまりの状況に、つい普通に対応しちゃったじゃん! なんぞ、これ! なんか違和感があると思ったら、リサが俺の息子踏んでるじゃん! それも踏みつぶすためじゃなくて、優しく! しかも、リサの格好は、メイド服はメイド服でも、コスプレ用のやつだ。上は水着ぐらいの布面積しか無くて、下も超ミニ。見せる用の縞パンが、ばっちり見えてる。しかも、おれを 踏んでる足にはニーソを装備してて、太腿の辺りでは、ちょっとだけ余ったお肉が、ソックスに押されてムチッと段差を作ってる。
なんぞこれ!?
「え、いえ。あの、これはですね、その、ルフ様から、ユート様に裁判のお礼をした方が良いのではないかという提案があったもので……」
俺の視線に気づいたのか、リサが言い訳を始める。かなり恥ずかしいのか、ずーっと話し続けてる。ていうか、話しながらそんなことするなよ。気持ち良いだろ。リサにそんなことされてるとか思うと、すぐに出ちゃうぞ?
「そうか、そういうことか!」
俺は、言い訳を続けるリサを無視して言う。
「リサもついに俺への溢れる愛に気が付いたんだな! さあ、遠慮はいらない! 飛び込んでおいで! 今すぐ快楽の向こう側へ行こう!」
「いえ、ですから!」
俺の言葉を聞いてリサが、言い訳を中断する。そして、さらにむきになって言い訳を始める。でも、そんなものは今の俺の耳には入らない。
ていうか、リサよ! ダメだろ、そんなんじゃ! 恥ずかしがってるのもいいけど、やっぱりこういうのは蔑んでくれなきゃダメだろ。
ゴミを見るような目で俺のことを見て、「こんな事をされて喜んでいるなど、どんだ変態でいらっしゃいますね」とか言って。その後は「っち。わたくしの足にこのような汚らわしい物を掛けるなど、一体どういう了見で御座いますか?」とか言ってすっごく冷たい目で俺のことを睨み付けてきて。んでもって、白いのが付いたニーソを嫌がる俺の口に押し込んで。最後は、「うるさいですよ、肉バイブのクセして。ユート様は黙ってアソコをおったててさえいれば、いいのです」とか言いながら自分から腰を下ろしてくる!
そういうことするなら、こういう風にしきゃダメだろ? ついでに、腰を下ろしてくるときに、本当は初めてで怖いけどそれを隠して強がってるとなおよし!
「ねぇ、ユートってさ、なんでいつもそういうことを口に出して言うの?」
「え?」
信じられないような出来事に大興奮していた俺は、ルフのその一言で我に返る。気づけば、リサが俺の股間に足を乗っけたまま固まっていた。
なんでって、そりゃ、こんだけ興奮してたら、そりゃ声にも出るだろ。それが当たり前だろ。ていうか、こんだけの美少女にこんなことされてるのに、声の一つも出さないとかありえないだろ?
さておき、
「リサ、一ついいか?」
「はい、何で御座いましょう?」
なんか、リサがすっごくいい顔してる。でも、これはヤバい方の良い顔だ。
「この位置からだとパンツが見えるんだけどな?」
「ええ。そうで御座いましょうね」
「リサ、良いスジしてる!」
「天誅!」
「恥ずかしいならやるなよーーーーーーー!」
そんなこんなで目覚めた俺は、リビングスペースでリサ、アヤメ、ルフの三人と朝食をとっていた。なんか、リサに踏みつぶされたせいで、椅子に座るとまだ違和感がある。いくらなんでも、あんなに思いっきり踏むなよ。子どもが出来なくなっちゃうだろ?
どうやら俺は、昨日の夜ベッドに入って、考え事をしているうちに寝てしまったらしい。多分、裁判結果のところまでは現実で、そこから先が夢が夢なんだろう。ていうかさ、やっぱりリサのせいだと思うんだよね。俺がああいう夢見たの。だって、あんなことされたら夢に影響出たって仕方ないだろ? というか、普通出るだろ? そして何か出るだろ?
「ユート殿、聞いているのか?」
俺が考え事をしていると、珍しくアヤメに注意された。どうやら、これまた珍しく、アヤメから何か提案して来ているらしい。
「ん? 何を?」
何も耳に入っていなかった俺は、素直に聞き返す。
「だから、温泉に行くぞ!」
「は?」
俺の領内のとある山の中腹。そこに、温泉はあった。そもそも王国では、こういうものに入る習慣は無い。温泉自体は昔から知られてるけど、そこに入るという発想ではなく、そのお湯を何かに利用する、という発想の方が王国では普通のことだ。だから、石積みの湯船の中に、地中から湧き出したままのお湯がたまっているのを見た俺は、色んな意味で目が点になっていた。湯船の横では、アヤメがドヤ顔で立っている。
そのアヤメ曰く、この温泉は、他国の密偵を警戒するために行った、国境警備の途中で見つけたらしい。普段はあまり行かない山奥の国境線を巡視しているときに見つけたのだそうな。
で、天然の温泉がこんなに都合よく湯船まで備えている訳もなく、これもアヤメの作らしい。一人で作ったのかと聞いたら、
「ユート殿は、少し前に私に突っ掛かってきた青年を覚えているだろうか?」
と言われた。どうやら、その青年を中心とした、騎士団に入隊が決まっている人たちに作ってもらったらしい。曰く、本当は騎士団に手伝ってもらいたかったのだが、彼らは今忙しいからな。曰く、君たちは温泉に入りたくはないか、と言ったら喜んで手伝ってくれたぞ? とのこと。
アヤメ、そいつらにきちんとお礼言っとこうな。多分、そいつらが頑張った理由って、お前と一緒に入れると思ってたからだぞ? というか、騎士団を私物化するんじゃない!
さておき。何となくここまで付いてきたけど、俺はなんでアヤメがこんな事したのか、知らないんだよな。あれか、故郷が懐かしくなったのか? でも、その割にリサとルフも一枚噛んでるっぽいんだよなぁ。
「アヤメよ」
俺は、早速何事かの準備を始めてしまったリサとルフをひとまず置いておいて、アヤメに娘声を掛ける。
「なんだ、ユート殿? フフ。ユート殿はどうも私のことを残念な目で見ることが多いが、私だってこれくらいは……」
「違う! そんなことが聞きたいんじゃない!」
「そ、そんなこと……」
アヤメがまた残念なことになってるけど、無視する。
「なぁ、なんでこのタイミングで突然こんな所に連れてきたんだよ? いくら一段落したからって、俺はまだまだやることがあるんだぞ?」
「え? ああ、なんだ。そんなことか。私はてっきり、今朝リサ殿から説明されたものとばかり……」
俺の言葉を聞いた瞬間に、アヤメが正気に戻る。ふむ。今回は早かったな。というか、
「は? 説明? 何を? 何にもされてないけど?」
いや、ナニか、はされたけど、結局タマと棒を踏まれただけだったし。
「リサ殿、ユート殿への説明は任せておけ、と昨日の夜に言っていなかったか?」
俺の様子を見たアヤメが、持ってきた荷物を広げて、入浴の準備をしているリサに声を掛ける。
「ひゃい!」
だが、リサは、アヤメから声を掛けられた瞬間に、奇妙な声を上げてそのまま何秒間か停止してしまう。どうやら、今朝のことを思い出しているらしい。というか、そんなに恥ずかしいなら、何でやったんだよ。
「全く、仕方がないな」
その様子を見たアヤメが、説明を始める。
「いや、何、私たちが今こうして居られるのもユート殿が裁判を頑張ってくれたおかげだからな。色々なことがひと段落したら、お礼でもしようかと思っていてな。それで今日、このような事になったのだ」
なんか、予想外だった。つまり、今朝のあれは、こういうことか。『頑張ったご主人様にご褒美を~ユート様、わたくしを食べて~』ってことだったのか!
「ユート殿、また変な事を考えていると、リサ殿に怒られるぞ?」
「いや、それは分かったけど、何で温泉なんだよ?」
え? 別に、変な事なんか考えてないよ? ほら、だから、こっち見ないでリサ。
「いや、ユート殿のことだから、温泉で混浴とか、ヌーディストビーチに連れて行くとか、酒池肉林の乱痴気騒ぎとか、そういう変態チックなものの方が喜ばれるかと思ってな」
「お前らは人を何だと思ってるんだよ!」
いや、ほぼ正解だけども。
「冗談だ。一応、疲れが取れるような物を考えていたのだが、なかなか良いものが思いつかなかったのだ。それに、裸の付き合いをすれば、より一層親密になれるだろう?」
裸の突き合いとか、そりゃ親しくなれるだろう。リサたちどんだけ大胆なんだよ。まぁあれだな。それだけ俺に感謝してるってことだろ。
「でも、あれか。突くのは俺一人だろ?」
「ユート殿が何を考えているのか知らないが、背中に気を付けたほうがいいぞ?」
「え? 大丈夫だって。リサなら未だにフリーズしてるから。俺にかまってる余裕はないだろ?」
でも、あれだな。やっとリサたちも素直になってきたんだな。今までの悪逆非道な行いに耐え忍んで来た甲斐があったってもんだ。
「そうで御座いますか。わたくしは今まで悪逆非道なことを行っていたので御座いますか?」
「あ……」
水面から立ち昇る蒸気の無効に、少しずつ力を失い始めた木々の葉を眺めながら、俺は息を吐く。あの後、いつものようにリサにボコられた俺は、一足先に湯船の中に居た。
着替えを見られるのは嫌だ、ということだったので、俺はリサ、アヤメ、ルフよりも先に服を脱ぎ、一人で温泉につかっている。ちなみに、湯船の横にはちゃっかりと脱衣所まで作ってあった。屋根と壁がある本格的なやつ。三人は、今はその中で着替えているころだろう。
俺は改めてあたりを見回す。お湯と自分の出す音以外の音が一切しない中、俺は一人で湯につかっている。俺は今までこういうことをしたことはないが、なるほど、これは気持ちいい感もしれない。日出国の人間の気持ちが少しだけわかったような気がする。これなら疲れも取れるだろう。それに、なんか、こんだけ静かだと、疲れと一緒に煩悩まで解けて流れていきそうな感じだ。
とそこで、脱衣所のドアが開く音がする。どうやら、リサたちが来たようだ。
「おう、遅かった……な?」
なんか、バスタオルだけを身体に巻いた状態の三人が居た。俺は、どーせ水着か何かで来るのだろう、と思っていたから、思わずその場で固まってしまう。
「いえ、あの、ですね、これは、アヤメ様が……」
リサが、真っ赤になって説明しているが、そんなことはどうでもいい。俺の目は、三人の釘づけだった。リサの、全体的に小ぶりだけどバランスの取れてる身体も、アヤメの引き締まってるくせに色々が大きい身体も、ルフの発達してるけどもやっぱりロリロリな身体も、全てがそこにあるのだ。タオル越しとはいえ、普段の何万倍も身体が強調されている。俺は、必死になってその姿を脳に焼き付ける。
「イエーイ、いっちばーん」
俺が必死になってリサたちを眺めていると、ルフが唐突に走り出した。そして、湯船に飛び込む。水しぶきがそこら中に飛び散り、水面が激しく揺れる。
「ほら、リサの姉さんとアヤメのねぇちゃんも、早く来なよ」
そして水面から顔を出すと、リサとアヤメを手招く。二人は、それに従って湯船に入って来るが、その顔はすでに赤いような気がする。だが、二人はそれを無視して、リサは俺の正面に、アヤメは、ルフの後ろに隠れるようにしてそれぞれ湯船の中に座る。後、水に濡れると、タオルが体に張り付いて、さらにエロい。やっぱ、煩悩は消えないわ。これが溶けて流れ落ちるとか、無理があるだろ。てか、煩悩最高!
「ユート様、どうしたので御座いますか?」
リサが、何でもないというように、普段と同じ口調でそう言う。でも、いつもは俺の顔をきちんと見て話すリサだが、今回ばかりは目を合わせようとしない。一応、顔自体は俺の方を向いているけど、目だけは完全に逸らされている。
「ほら、リサ、そんなに恥ずかしがって無いで、言うことがあるんじゃないの?」
そんなリサに、ルフが何かを促す。アヤメはと言えば、完全に固まっている。
「い、いえ、言うことなどありません。そもそも、変態のユート様と一緒にこのような事をして差し上げているだけでも、ありがたく思って頂きたいくらいで御座います」
なんか、目を逸らしたままそんなことを言われた。多分、リサとしては最上級に恥ずかしいんだろうな。でも、それを見たルフは、
「あーも、じれったいなー」
リサのそんな態度がじれったいのか、リサの背中をこちらに向かって押す。本人としては、先を促すためにやったんだろうけど、不意を衝かれるような恰好になったリサが、座っているにも関わらず、バランスを崩してしまう。そして、俺の方へと倒れ込んでくる。
「え? ちょ、ま!」
「え! いや!」
「あ……」
俺、リサ、ルフがそれぞれに声を上げる。だが、もう遅かった。俺は、倒れてくるリサを抱き止めるような恰好のまま、背中から湯船に沈んでいく。
早く浮き上がらなければともがいてみるけど、咄嗟のことでパニックになっているのか、リサが、俺にしがみついてくる。こう、女の子らしい柔らかいものが、俺のいろんなところに押し付けられる。具体的に言うと、胸とか太腿とか。ヤバい、超気持ち良い。
って違う! 早く何とかしないと! つーか、ルフも見てないで助けろよ! 俺は、どうにかリサを引きはがそうとするが、リサは俺が引きはがそうとすればするほど強くしがみついてくる。これでは、どうにもならない。
いや、待て! 逆に考えるんだ! 引きはがしてダメなら、逆に抱き着いてみるんだ。そうすれば、離れるかもしれない。それに、これは合法的にリサに抱き着けるチャンスだ。つまりは、そういうことだな、ルフよ! だから助けに来ないんだな! 悪かった! もっと早くその心意気に気づいてあげられなくてごめんよ! ということで、イきます!
俺は、そっとリサの背中に腕を回す。すると、パニックが収まったのか、案の定、リサの抵抗が収まる。これで、浮上できるだろう。
なんか、酸欠で段々と気持ちよくなってきたな。いや、だって、抱き着いても放してくれないんだもん。俺の方から抱き着いたら、リサの抵抗は無くなったけど、今度は俺に抱き着いたまま動かなくなっちゃうんだもの。しかも、ご丁寧に背中にまわした俺の腕をホールドするようにリサの腕を動かした後で。両腕封印とか、これじゃあどうにもならない。動きたくても動けない。でも、どうしよう。いい加減にしないと、死んじゃうよ? 天国でイチャイチャすることになるよ?
俺が水中で困り果てていると、ふと、ある物が目につく。
それはリサの唇だった。
いや、こう、リサと二人でお互いの肺の中の空気を循環させれば、少しはマシになるのかな、と思って。でも、流石に怒られるかな? ダメだよね? 多分、後であの時死んどけばよかったっていう目にあわされるよね?
だが俺のそんな迷いは、次の瞬間には打ち消されることになる。
なんと、リサが、自分から俺の唇に吸い付いてきたのだ。
リサは、抵抗する俺を抑え込むと、そのまま強引に俺の口の中に侵入してくる。温かいものが、俺の口内を蹂躙していく。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は、堪らずに、リサを首にぶら下げたまま浮上する。さっきまではどうしても ムリだったけど、あまりの事態に火事場の馬鹿力でも発揮したのか、今度はすんなりと浮上する。
「あ、浮いてきた」
水の上では、危機感の全くないルフと、水音を聞きつけてこちらまでやってきたのか、これまた危機感の全くないアヤメが待ち受けていた。いや、ていうか、なんぞ! リサ、自分から吸い付いてきたよね! しかも、明らかに空気の交換のため、とかじゃなくて、しっかり舌入れてきたよね! え! 何? つまり、そういうこと!?
リサは、浮上してもしばらく、俺から離れてくれなかった。そして、俺から離れると、
「いえ、緊急事態で御座いましたので。わたくしとしては不本意なので御座いますが、あの場合は致し方なかったかと」
と言い訳を始める。でも、そんなことでどうにかなるわけもなく、
「姉さん! 何やってんの! なんで水中でユートとエロイことしてんの! いつの間にあんなに大胆になったの!」
「リサ! それは 一体なんだ! 何故ユートと水中でそのような事! いかん! いかんぞ! 女性はもっと貞淑であるべきだ! だから、今後はそのような事は控えるべきだ!」
とか言う感じで、二人が大騒ぎし始めてしまう。アヤメなんか、慌てすぎて呼び捨てになってるし。つか、一番騒ぎたいのは俺だっての!
「え! 何! リサ、もしかして、そういうことだったの! 俺に裸を見られて、発情してたんだな! それなら、あんなことせずに、はっきり言ってくれればよかったのに! さあ、リサ、飛び込んでおいで!」
「さ・ん・に・ん・と・も♪」
「いやー、たまにはこういうのもいいねぇ」
「うん、そうだねユート」
「これが和の心というやつだ」
ええ、はい。しっかりとリサに虐待されましたとも。騒ぎが収まった後、俺たちは、改めて四人で湯船につかる。ついでに俺たち三人は、場をごまかすために不自然な会話を繰り広げる。リサは、一人だけすまし顔でくつろいで居た。俺は、流石にこれ以上騒ぐ気は起きず、リサを見習ってくつろぐことにする。本当に、これは気持ちがいい。確かに、親睦も深まりそうだ。
それからしばらくして、リサが、ぽつりとつぶやく。
「ところで、ユート様には、今日一日わたくし達に自由に命令をしていただきたいので御座いますが?」
「ふーん、何で?」
「いえ、色々あって言うのが遅くなってしまいましたが、これが本当のお礼で御座いますので。頑張っていただいたユート様に、今日一日わたくし達を自由にしていただこう、ということで御座います」
「ふーん……は?」
いや、あんまりにも普通に言われたから、思わず普通に返しちゃったけど、今、何かすごいこと言われた気がする。
「ですから、今日一日わたくしたちを、ユート様の自由にしてください、と申し上げているので御座います!」
リサが、今日何度目かの照れ隠しをする。いや、何で? 裁判頑張ったからって、どうして? 意味わからん。ていうか、
「いや、ちょっと待てよ。良いの? そんなこと言って? 俺のことだから、エロイこと言うかもしれないぞ? ほら、取りあえず、やめとこうぜ?」
俺は、ひとまずリサたちを止めようとそんなことを言う。だって、おかしいだろ。どう考えても、裏があるだろ?
「裏など御座いません」
俺の表情から察したのか、リサがそんなことを言う。
『だって』
そして、リサ、アヤメ、ルフの三人が声をそろえて、はにかんだ顔で、言う。
「わたくし達は、ユート様の奴隷で御座いますから」
「私たちは、ユート殿の奴隷なのだからな」
「あたしたちは、ユートの奴隷なんだから」
一応、本編完結。明日の昼ぐらいまでに、活動報告で色々と書きます。




