表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

そう言えば、リサってなんでメイド服着てるんだろうな

 俺たちは今、王都の貴族用の高級ホテルの中に居た。ここは、遠方から王都に来ている貴族を泊めるための、専用ホテルだ。裁判が中断した後、俺たちは、用意されていたこのホテルまで戻ってきて、今は思い思いに過ごしている。

 ちなみに、なんで裁判の当事者の俺たちがこんなところに泊まってるかって言いうと、疑わしきは罰せず、という制度のおかげだ。つまり、有罪が確定するまでは、貴族で善良な市民ってこと。

 も一つおまけに、今回は四人で一つの部屋に居る。なぜかって言うと、単に部屋が一つしかないから。ここは貴族用のホテルだから、奴隷のためだけに部屋は用意できないそうな。他の場所にリサたちのホテルを取ることもできたけど、王都での奴隷の扱いを考えれば、四人で一つの部屋を使う方が良いだろう。

 さておき、俺は、裁判から戻ってきてからこっち、ずっと最高裁判所の判例集と格闘していた。裁判が終わったのが15時くらいで、今が19時。今日の裁判の様子からして、このままだと有罪になることが120%くらい確実だ。だから、過去の裁判結果を王立図書館から片っ端からひっぱり出してきて、必死に解決策を探っているところ。

「どうぞ。グリーンティーで御座います。気分が落ち着きますよ?」

 リサが、部屋の中の簡易キッチンで入れてくれたお茶を、机の上に置く。

 リサたちは、裁判から戻ってきた直後こそ、青い顔をしていて何かを話す余裕すらなかったが、1、2時間くらい前からは、いつも通りに過ごしている。リサは、俺にお茶やお菓子をくれたり、一緒に判例を呼んだりしてくれているし、フルは、ベッドの上に寝っ転がって、足をパタパタやりながらずっと何かを読んでいる。アヤメだけは、ベッドの上で正座して瞑想か何かをしているが、そのうち戻って来て元の残念な娘に戻るだろう。

 それで、俺の方はと言うと、正直お手上げだった。過去の記録を漁ったところで、ろくな判例が出てこない。出てくるのは、俺みたいなのが有罪になった判例ばっかり。おまけに、俺の裁判を担当しているアール・ウォーレンとかいう裁判長。どうやら俺の事件が裁判長になって最初の事件みたいで、過去の記録が一切ない。裁判長になる前は、どこぞで法律学を教えてたみたいだ。

「んーー、どうしよっかなぁ」

 いい加減調べものがいやになってきた俺は、大きくを伸びをした後、リサの淹れてくれたお茶をすする。元は日出国のお茶らしいが、リサの言うとおりに少し気分が落ち着く。すると、俺が休憩に入ったことを察したのか、ルフがベッドから降りて近づいてくる。

「なー、ユートまだそんなことやってたの?」

 そして、机の上の判例集を見つけると、そんなことを言う。

「いや、そんなことって、これをやっとかないと、俺たち全員、めでたく明日から刑務所暮らしだからね?」

 この裁判の当事者は俺だけだけど、リサやルフ、アヤメも、適当な理由を付けて刑務所に入れられることは目に見えていた。

「別にそれでいいじゃん? 同じ独房に入って、ユートが他の人にセクハラして、別にいつも通りじゃん? てか、邪魔する人が居ないから、ユートのハーレム状態? 凌辱展開まっしぐら? 死ぬまで淫らに幸せに暮らしました、でいいじゃん?」

「おい! すでに諦めモードかよ!」

 いや、俺もふざけてそんなこと言ったけど、やだよ、刑務所とか。ハーレム展開どころか、俺が今以上にリサに虐められるハード展開まっしぐらだ。

「それにな、同じ裁判で有罪になっても、同じ独房に入れられる、なんてことはないんだぞ? むしろ、脱獄とかしないように分けられるだろ?」

「え? そこは、ほら、ユートが頑張ればいいんじゃないの?」

「いや、さらっと無理難題押し付けるなよ。しかも刑務所に入る前提で」

 そこで、唐突にルフが俺に耳打ちする。

「それに、リサの姉さんも満更じゃないと思うよ? 一生ユートと同じ独房で暮らすの?」

「え!?」

 マジで? マジなの!? いやでも、ルフはいつもこんな感じだからな。否しかし! リサと一生狭い独房の中でイチャイチャネチャネチャしながら暮らすとか、最高じゃないですか! あれだろ、一日中倒錯的なプレイにふけるんですね! 最初は恥ずかしがってたリサも、徐々に自分から俺を求めるようになっていくんですね!

「ユート、顔キモイ」

「最高だな! 独房生活! 俺、頑張って無期懲役を勝ち取るよ!」

「お、ふ、た、り、と、も?」

 さーて、真面目に裁判で勝つ方法をみつけるぞー。


「全く、こんな時にまで悪ふざけをなさるなど! 御自分の置かれている状況が分かっているのですか?」

「深く反省しております」

「ルフ様も! 真面目になさっているユート様をわざわざ不真面目にするようなことを言うものではありません」

「反省してます」

 悪ふざけしてるところをリサに見つかった俺たちは現在、説教を食らってる真っ最中だった。しかも、俺とルフは床に正座させられ、リサは椅子に座ってそれを見降ろしているというか、見下している。アヤメはと言えば、巻き込まれないように、ベッドの上で正座を継続中だ。さっきからチラチラとこっちを見てるから、あれは間違いなく瞑想するためじゃなくて、避難するためにやってる。

 俺とルフは、謝罪の言葉に合わせて床に額を擦り付ける。いわゆる土下座の体勢だ。俺は、そのまま床に額を擦り付けながら、リサが後頭部を踏んでくれるのを、もとい、許してくれるのを待つ。

「はぁ。ユート様、この裁判は今後の運命を決するものなのですよ?」

 どうやら、リサの怒りが少し収まったらしい。俺は、姿勢を低くしたままで、少しだけ顔を上げる。足、脛、太腿、の順番に、リサが俺の視界に入って来る。

「それなのに、ルフ様と一緒になってあのような事をなさるなど……」

 リサの足が、俺の視界を埋め尽くす。そのままリサの顔の方まで視界を上げていこうとした俺は、そこでふとあることに気づいた。

「いえ、休憩をなさるのをとがめている訳ではなくてですね……」

 これ、リサのパンツ見えないかな? リサは今、いつものメイド服を着ている。スカートがくるぶしくらいまである正統派のメイド服だ。でも、この体制なら、見えると思うんだよね。パンツ。こう、もうちょっと前に行けば。俺は、何とかしてリサのパンツが見えないかと首を動かす。でも、ダメだ。いくら土下座の体勢でも、あんなにスカートが長くちゃ無理だ。椅子の下にでも行かないと、見ることは不可能だ。俺は、諦めてリサ顔を下から見上げる。

 でもさ、今まで身近すぎて考えなかったけど、どうしてメイド服って人気なんだろうな? 中にはそう言うのもあるけど、基本的に露出はゼロだし、なんかの拍子にエロイことになるわけでもない。それなのに、俺も含めて、世の人間はどうしてメイド服が好きなんだろうな? 

 奴隷から奴隷じゃない職業としての給仕まで、誰かの身の周りの世話をするのが仕事の人は、メイド服を着てることが多いのはなんでなんだろうな? 別に、他の作業着でもいいじゃん?

 確かに、ちょっとコスプレっぽい感じはするけど、それだけだ。基本的にメイド服は作業着で、色っぽいなんてことはない。なのに、どうしてだ? 透けブラとか大きい胸とか小さい胸戦争とかと違って、メイド服が嫌いとか他の服装の方が良いってのは、あんまり聞いたことがない。他の服装の方がいいという人も、別にメイド服に否定的なわけでもなく、単にそっちの方がメイド服よりも好きと言うだけだ。

 しかも、最大の違いとして、メイド服は他のエロい服と違って、女性もあんまり嫌がらないということだ。リサだって、俺が頼んだわけでもないのに、『メイドと言えばこの格好で御座いますから』とか言って自分からメイド服を着始めたし、今じゃあ他の服装の方が珍しいくらいだ。なんでなんだろうな?

 あれかな、こう、女の子がメイド服を着て、自分のために甲斐甲斐しく世話を焼いてくれることで、男の征服欲が満たされるとか、そんなのかな? んー、でもそれだと、何にもしてくれなくても可愛く見えたり、女性が嫌がらない理由が説明できないんだよな。それに、俺の場合、甲斐甲斐しく世話してくれてるってよりも、尻に敷かれてるし。あと、俺はそう言う亭主関白みたいなの好きじゃないし。

 それなら、もしかして、可愛いいは正義というやつか? 全人類的に可愛いものは愛されるってやつか? アヤメは、完全に可愛い物好きだし、リサだって、口を開かなければぬいぐるみみたいなルフを、しょっちゅう抱っこしている。俺だって、ルフは可愛いと思うし、ぬいぐるみだって、時々は可愛いと思う。

 つまり、そういうことか。メイド服ってのは、露出を極力減らして、エロ成分をなくしてある。代わりに、長い丈のスカートで清楚さを演出して、可愛さを引き立てるようなデザインや飾りがそこら中にちりばめられている。だから、着ている人の可愛さを極限まで引き出してくれるんだろう。きっと、だからこそ、見ていても楽しいし、着てて嫌な気分になったりしないんだろう。それどころか、場合によっては楽しくなるんだろう。

 しかも、メイド服の可愛らしさは、人工的なものじゃない。あれらは全て、給仕服としての機能を追求するがゆえに生まれたものだ。普段は飾りにしか見えないようなものだって、給仕をするときに袖が食べ物に触れないようにとか、掃除をするときに服が汚れないようにとか、様々な用途があるのだ。それは、紛れもなく機能美であって、可愛さの中にも紛れ込んでいるのだ。

 きっと、可愛さと機能美が合わさっているからこそ、見てる方も飽きないし、着る方も、そこまで嫌じゃないんだろうな。

 ふぅ。なんか、久しぶりに真面目に考察してしまった。

「ユート? さっきから何ブツブツ言ってるの?」

「え? そんなの『メイド服はなぜ人気なのかに対する個人的考察と結論』に決まってるだろ?」

「やっぱり? えっと、全部聞こえてるし、リサの姉さんのおでこで、血管がヒクヒクしてるよ?」

「えー……っと?」

 そこで、俺は改めて自分の状況を確認する。どうやら俺は、土下座させられてリサに説教されているうちに、自分の世界に入り込んでいたらしい。隣では、神の怒りに触れてしまったような顔をしたルフが、俺の方を見ている。頭上では、リサが、微笑んでいる。ものすごくいい笑顔。でも、これは、怒ってる時の笑顔。

「リサ、そのメイド服似合ってるな」

「ありがとうございます♪」

 まて、話せば分かる! だから、その拳を納めよう。な?

「ちょ、ま……」


「ユート、大丈夫?」

 リサにボッコボコにされた俺は、ベッドの上に横になっていた。周りでは、心配そうな顔のルフとアヤメが、俺のことを覗き込んでいる。

「ああ、生きてるって素晴らしい」

「大丈夫じゃないね」

「ふむ。ユート殿はいい加減に学習したらどうだ?」

 俺は、そんな二人をよそに、組んだ腕を枕にして、天井を見上げる。いい感じに休憩もとれたし、いい加減に裁判のことを考えないと。

 でも、正直言って、お手上げなんだよな。今日の裁判が終わった後、俺はヒントを求めて、ありとあらゆる判例を当たってみたけど、収穫はゼロだった。せめてリサたち三人だけでもどうにかならないかと、奴隷開放の判例も色々と当たってみたけど、ダメだった。そっちに関しては、ドレッドスコット判決が強すぎる。どうやっても、リサたちを市民にすることは無理だった。

 でも、ここで諦める訳にはいかない。美少女三人とのハーレムエンドも悪くはないけど、やっぱり、自由が一番だ。それに、こんな下らない制度に負けるとか、死んでも死にきれない。

 俺は、もう一度頭の中を整理する。こう、なんというか、お手上げではあるんだけど、何となく引っかかるものが無い訳じゃない。何か、こう、当たり前すぎて見落としてることがある気がするんだ。それも、割と今回のことの根幹にかかわるようなことだ。でも、それがうまく頭の中でまとまらない。

「あたしさ、いっつも思うんだけどさ、なんでユートってこうなる前に真面目にならないの?」

 急にまじめな顔になった俺に、ルフがあきれ顔で声を掛けてくる。俺は何とはなしに、視線を天井からルフの顔に移す。

「ふむ、仕方あるまい。それが、ユート殿の性のような物だからな」

 なんか、アヤメが失礼な事を言ってる。でも、今は無視だ。

 でも、この二人って、もとは市民だったんだよな。それが、一度奴隷になったせいで、おしまいとか、どんだけ理不尽なんだよ。ルフなんか、リサと話してる時に、思いっきり泣いてたし……

 そこで、俺はさらに強い違和感を覚える。何か、今の部分にヒントがある気がする。あの晩、ルフは何と言っていた? 何と言って、泣いていた? そして俺は、何に違和感を覚えた?

「ユート? 聞いてる?」

 ルフが、何にも反応しない俺に焦れたのか、顔を近づけて、指で鼻をつまんでくる。その瞬間、俺の中の違和感の正体がはっきりした。そして、これなら、うまくいけば、無罪に出来るかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ