そう言えば、リサと二人だけって久しぶりじゃね?
ルフの家具を受け取りに行った次の日、俺は、久しぶりに執務室にこもっていた。普段、執務なんて、リサやアヤメ、ルフにセクハラする片手間に終わらせるんだけども、今回はちょっと、そうも言ってられなかった。
「どうぞ。コーヒーで御座います」
リサが、書類が積まれた俺のデスクの上に、黒い液体が入ったカップを置く。ちなみに、今屋敷の中に居るのは、俺とリサの二人だけだった。ルフとアヤメは、朝から街に行っていた。ルフは嫌がっていたが、わざわざ屋敷まで来た指物師のおばさんと、ルフのことがやたらと気になっているアヤメに、無理矢理引っ張られて行ってしまった。
俺は、せっせとペンを走らせていた書類から目を上げると、カップに口を付ける。そのタイミングを見計らって、リサが声を掛ける。
「ユート様、それは、裏工作で御座いますか?」
神妙な表情のリサに、俺は、あくまで軽い調子で返す。
「は? 裏工作? 何言ってんだよ」
「いえ、別に、そのようにとぼけられなくとも、結構で御座いますよ。昨日は、密偵に会いにいっていらっしゃったのでしょう?」
リサが、真面目に答えろ、という言外の圧力を放ちながら言う。なんだよ、やっぱり、分かってたのかよ。
昨日、俺は、自国内の反体制派のところに忍び込ませてあった、密偵のところに行っていた。理由は、まぁ、端的に言っちゃうと、ルフのせい。どうも、俺がルフをぶんどったことが、ガフティのおっさんは、相当気に入らなかったらしい。それで、今までの恨みも含めて、俺に仕返しをしてやろう、ということらしい。んで、昔俺がクビにした家臣団を中心とした、反体制派の組織に接触してるようなのだ。
そりゃな、ぎゃふんと言わせてやろうと思ってた俺に諭され、おまけに献上品のルフまで持ってかれたんだ。怒っても不思議はない。貴族ってのは、大抵は我が侭放題で生活してるんだ。ほとんどのやつは、怒りの沸点が極端に低いか、怒りのツボがどこにあるのか謎だ。
で、怒ったガフティのおっさんが、俺んとこの反体制派に接触したらしい。俺の足もとをすくってやろうっていう腹なんだろう。しかも、的確にこちらに痛いところを突いて来ている。俺の領地は、奴隷制の王国の中で、唯一の実質的な非奴隷制の邦だ。だから、下手したら、国家反逆罪で、極刑だってあり得る。だから、一生懸命裏工作に勤しんでいるのだ。
「全く、それならそうと、おっしゃって下さればいいのに」
リサが、俺の説明を聞きながらため息を吐く。
「わたくしも、お手伝いの一つくらいは致しますのに」
そう言うと、リサは、別の部屋から椅子を一つ持ってくると、デスクの反対側に着いた。完全に、俺からの指示を待つ体勢に入ってしまった。
いや、手伝ってくれるのは嬉しいし、リサと二人でやるのも激しくやる気を引き出してはくれるんだけど、今俺が手紙を書いてる相手は、王都のお歴々や、王立連邦最高裁判所の判事の人たちだ。その人たちに、『これから何かあるかもしれませんが、聞き流してくれたら、嬉しいなぁ。あ、そう言えば、うちの領地は良質のワインと銀細工が特産品でしてね』的なやつを書いているのだ。こればっかりは、俺が書かないと意味がない。それに、俺の領地の中ではリサに代筆させた物もそれなりの価値を持つけど、全国的には、それは奴隷のたわごとなのだ。
「えー、いいよ。別に。リサの俺とずっと一緒に居たいって気持ちは、痛いほど分かるけど、これは俺が書かないとダメだって、分かるだろ? は! それとも、あれか! 俺の作業を邪魔して、二人仲良く牢屋の中で暮らしましょうってことか!? そこなら、だれからも邪魔されずに、二人でイチャイチャできるってわけだな!」
書類仕事に飽きていて不真面目モードの俺の台詞を聞いた瞬間、リサがその辺に転がっていたペーパーナイフを手にした。そして、
「えい♪」
「あっぶな!」
勢いよく振り下ろされたペーパーナイフは、デスクに突き刺さり、ビィーンとか言う音を立てながら小刻みに震えていた。これ、避けなかったら、掌ぶち抜かれてたんじゃね?
「なにすんだよ! いくらペーパーナイフでも、刺さったら痛いんだぞ!」
「痛くしているのですから、そうなっていただかないと困ります」
リサは、すまし顔でそんなことを言う。怖いから、もうふざけるのはやめておこう。俺は、デスクに刺さったナイフを引っこ抜きながら言った。
「んじゃ、せっかくだし、いつも俺がやってる領内の政治に関することをやってもらおうかな。時々手伝ってもらってるから、一人でも出来るだろ……んしょっと」
やっと抜けた。たく、どうやったら、樫木のデスクにペーパーナイフの刃を半分以上も打ち込めるんだよ。
「はい、承りました」
リサは、そう言うと、ナイフとデスクを交互に見て青ざめている俺をよそに、早速仕事に取り掛かる。だが、朝からずっと下らない事をやっている俺は、目の前の書類に戻る気が起きなかった。だって、もうすぐ15時だもの。昼もおやつも無しで、ずっとやってれば、そうなるって。
俺は、目の前でデスクに齧りついているリサに目を向ける。どうせ向かい合って仕事するなら、もっとやる気の出る服装をしてもらいたいんだよな。考えてみたら、久しぶりに二人だけな訳だし。もうちょっと、サービスしてくれても、いいと思うんだよね。例えば、メイド服じゃなくて、もうちょっと胸元の緩い服を着るとか。
そうすれば、字を書くために屈んだ時に、見える気がするんだよね。胸が。こう、チラチラと、俺を誘惑するように、魅惑的な谷間が。
あ、でもあれか。リサの胸じゃ、谷間はできないかな。別に、ペッタン娘って訳じゃないんだけど、そこまで大きいわけでもない。例えるなら、掌サイズ? 膨らみかけ? でも、リサはもう17歳だから、これ以上大きくなることも期待できない。
いや、それはそれで、胸チラした時に、別の興奮があるんだけど! 膨らみかけって、なんか興奮するよね? それに、このぐらいのサイズだと、下手したら見えると思うんだよね、先っちょが! やっぱ、着替えてもらうか?
「て、言うのは冗談で、さーて、仕事するぞー」
リサよ、文房具は武器じゃないんだぞ? だから、万年筆の先をこっちに向けるな! 俺は、その後もリサをチラチラ見ながら仕事を続ける。絶対に無理なのは分かってるんだけど、何となく、胸チラしないかな、とか思いながらも仕事を続ける。何とか、今日中に発送してしまいたいのだ。
それから数時間、リサと二人して黙々と仕事を続けていると、突然、執務室のドアが開いた。そして、ルフが、元気よく中に入って来る。その遥か後方では、アヤメがいつも通りにルフに精神を傷つけられ、すっかり落ち込んでいた。
ルフは、部屋に入って来るなり、一通の手紙を俺に差し出した。
「なあ、なんか王立の最高裁から手紙が来てるけど、何これ? ユートってセクハラかなんかで訴えられてたの?」
それを聞いた瞬間に、俺の顔から血の気が引いていくのが分かった。




