プロローグ:とある車掌の独白
2回OVL大賞応募用の作品です。
スチームパンクダークファンタジーの予定です。
感想やアドバイスなどもらえるとうれしいです。
列車が走っていた。どことも知れぬ場所を。あるいはどこでもある場所を。蒸気を巻き上げて、機関は原初の火にて駆動する蒸気機関車が、どことも知れぬ場所を走っている。
乗員はただ一人。夜行列車の車掌がただ一人。ここにはただ一人だけの車掌がまだ見ぬ乗客を待ち望んでいる。
「さて――」
そう車掌は言った。
それは未だ、年若い、少年。遊び盛りと評するのが最も適切だと思える少年であった。薄紫色の黒い上着と帽子、様々なホルダーの付いたベルトを締めたいかにもな車掌の少年。
まだ子供。見た目は彼をそう思わせる。だが、その姿は貫禄のある車掌そのもの。彼は名乗らない。ただ、車掌とだけ名乗る。それで十分とでも言うように。
少なくともそれで十分なのだ。この列車に乗る者は少ない。必要とされなくなったもの。そして、必要とされるようになったもの。
それらが乗って、運ばれるだけの列車であるから。車掌もそう運ぶだけ。ただ運ぶだけの存在であるからこそ、十分。名は体を表していればいい。己は車掌。それ以上でも以下でもない。
そんな車掌は、目の前の誰かへと語りかける。
誰か。客ではない。だが、列車に乗っている誰かへと、車掌は語りかける。かつて名があり、今は名も無き蒸気機関車の客席で、車掌は紅茶片手に相手へと語りかける。
「これは、誰かが失ったものを取り戻す物語。
それはきっと儚き幻想でしかないのだろうけれど、あらゆる可能性はそこに確かに存在するだろう。
おそらくは、全ての狂想のままに」
車掌は語る。大仰なしぐさで。
狂想とは何か知っているだろうか? と。
狂想。辞書によれば、常識はずれでまとまりのない考え。また、気まぐれな考えのことである。だが、狂想とはこういう意味にもとれないだろうか。
狂えるほどの想い。すなわち狂想と。
狂えるほどの想いは狂気であり、それは凶器である。ならば、狂えるほどの想いを生み出す心はまさに刃だ。
人はそれを狂気として、凶器と呼ぶ。
「それこそ、まさに、君が提唱した真理機械時計の理論じゃないか」
対する者は無言。差し出された紅茶には一口もつけずただ沈黙を続ける。
「そうかい。ならば、期待しようかな」
狂えるほどの想いは狂気だ。何かを狂うほどに想うことなど、普通にはありえない。だが、想いがあるからこそ、狂気は確かにそこに在る。
目の前にも、あるいは、これから目にするのかもしれないが
「まあ、良いさ」
車掌は言う。
「ボクの仕事は、ただ運ぶだけさ。必要なものを必要な場所へ」
それこそが、誰かが望んだことで、誰かのためでもあるのだから。
――これは、誰かが望んだ物語。
――失ったものを取り戻す為の物語。
ライアーソフトのスチームパンクシリーズが大好きでスチームパンクが書きたくて書き始めました。
スチームパンクの雰囲気を感じてもらえるとうれしいです。
正午に第一話更新します。