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$4$ 後日談


    $4$ 後日談


    # THE THRID PERSON


 当然のことながら、校内殺人はそれきり、二度と起こる事はなかった。宮野利久という男の人生の終幕と時を同じくして。

 そしてこれも当然のことながら、藍は警察にこってりと絞り上げられた。

『道』については当然伏せて、というか真実を語っても信じてもらえなかっただろう。しかし藤堂の証言や、藍の持っていたナイフが、宮野が去年の十二月にホームセンターで購入しているという裏づけが取れたり、そのナイフから当然にルミノール反応がでたり宮野の指紋がベッタリと付着していた上、宮野の飛び降り自殺は疑いようが無く――無論、宮野の両腕の不自然な折れ方は藍は自分がもみ合いになってやったと嘘をついた――結局のところ、刃物を所持していた殺人犯、宮野利久を相手に女子高校生の国枝藍の正当防衛が認められた。

 が、無論それだけで済むわけもなかった。

 当然、親の叱られた。あの時間に外に出歩いていたから当然である。それから母親は藍が寝たのを確認して、その上藍の部屋に外から鍵をかけるという徹底ぶりだ。ろくにトイレにもいけない日々が一週間続いた。

 学校側は、特に何も言わなかった。というのも、藍が夜中に出歩いていた事よりも、自分の学校の生徒が殺人犯であった事、そして自殺した事に関してのマスコミの対応に忙しかったからだ。藍も自分が眼を向けられる事は覚悟していたが、その辺の事情は学校側が揉み消し……ではなく、プライバシーの保護の一環として伏せているらしく、藍としては非常にありがたかった。

 無論この話は藤堂以外、生徒は誰一人として知っておらず、藍に対して接し方を変える人間は一人もいなかった。藍としては、元々孤立気味であったために知られていても変わることはなかっただろうと自虐していたが。

 だが、一人だけ知らないでよかった人もいた。


 そして、あれから二週間あまりが過ぎた。

「藤堂先輩。ご退院おめでとうございます」

 放課後の文芸部室。そこに波乱を除いて二人の生徒がいた。一人は当然、この部の部員であり先輩の藤堂東吾。そしてもう一人が……。

「おお。わざわざアリガトね。何コレ? 菓子?」

「ええ、まぁ。同じ部の先輩ですし、退院祝いにと思って作ってきました」

 クラス委員の緑川未空だ。

 彼女は宮野の死を知っても、悲しみはしても毅然としていた。宮野の自業自得とはいえ、原因を作った藍としては、どういう顔をして彼女を見ればいいのか分からなかったが、緑川は藍に特に何も言わなかった。何か察していたのかもしれないとも思ったが、流石にそれは考えすぎだと自身の意見を却下した。

「そりゃどうも。もう入部届けだしたんだっけ?」

「はい。今日の昼休みに先生に」

 そして、この辺ぴな部活に彼女が仲間入りを果たした。最初この話を聞いたとき、面食らったものだと藍は思い出す。まるで想像もしていなかった展開で一応理由を聞いてみると、人間関係が楽そうな部活がよかった、とのことだ。

 ――まぁ、同じ場所にいるってだけで、特に何かするわけでもないしね。

 休日に部員でどこかに遊びに行くというのも青春らしくていいが、人と付き合うのが面倒くさいという人種も少なからずおり、そして緑川はどちらかというとその類らしい。当然藍もだ。

 彼女曰く、

「こういうさ、サバサバした関係の方が気にしなくていいから楽でいいような気がする」

 という事らしい。

 藍はこういう人間関係しか築いたことがないから、それ以外がどういうものか比較できずにいるのだが、隣の芝生はナンとやらというものなのだろうか?

「じゃあ私はこれで」

 緑川が席を立つ。しかし藍は立たない。まだ藤堂と話したいことがあったからだ。

「お疲れさん」

 察していたのかそうじゃないのか、藤堂も緑川を見送る。

 緑川は扉を開けると、昇降口のある方向に曲がった。


「先輩、体の方は本当にいいんですか?」

 そんなヤワな体じゃねぇよ、と藤堂は一蹴する。

「気持ち悪い心配はしなくていい。なんか訊きたいことがあるんじゃないのか?」

 訊ねる、というほどのことでもない。藍からしてみれば答えは出なくてもいいものだ。だが愚痴というのか、そんな感覚でだが、一応訊いてみる。

「私、何で結局宮野を止めようとしたんですかね。結局アイツ、勝手に死にやがりましたけど」

 なぜかあの顔を思い出すとイライラする。その原因は分らない。

 藤堂は枕代わりに使っていたハードカバーの本を本棚に戻しながら、一言。

「お前の場合、嫌悪は二つだ。同属嫌悪。そして自分を否定された故の嫌悪。分る?」

「よく分りません」

 分ってたら説明も求めないか、と藤堂はぼやく。

「お前、アイツが言ってたの覚えてるか? 目的なんて持つべきじゃなかったってヤツ。俺はお前らの会話をあそこから聞いてたんだがな、後姿だったけど、お前すんごいイヤそうだったぞ」

「後ろからで分かるんですか?」

「佇まいでなんとなくさ」

 雰囲気から分るものなのだろう。少なくとも藍には経験がないが。

「つまりさ、お前は嫌いなんだよ。宮野利久って人間が。まずは自分と同じことをしてるから。お前もわかってたんだよ。自分がやってる事は悪い事だって。悪い事をしてるヤツがいたらそいつを嫌う。普通の反応だ。で、最期にあいつが目的なんて持つべきじゃ無かったって言った。で、お前は自分が否定されたと感じたんだろ。飛び降りる瞬間見たけど、アイツ笑ってたからな。それが裏づけでもある。自分が肯定した道をアイツは否定して、しかも意見をぶつけるまもなく逃げた。自殺という安易だが確実な逃亡を図った」

 最期の笑いが気に障ったのは、そういう事だったのかと思う。

 一度たりとも見たことはない、自分が走っていたときに浮かべていた表情と、ひどく似通っていたのだろう。

「行動と目的が同一化してしまっている、過去の自分を見ているのが嫌なんだよ。行動がどうであれ、得られる感覚の細かい違いはどうであれ、結果として到達する感想は悦楽だからな。あんなことで満足しているってことが、お前は許せなかったんだよ。ま、所詮宮野利久は死んだから、無意味な感傷だな」

 そこまで言うと、藤堂は鞄を持って立ち上がる。

「ま、あんま深く考えすぎんなよ。お前が選んだ道が間違ってるなんて、俺は思わないからさ」

 がらがらと、藤堂は廊下を出ると、昇降口とは反対方向に曲がった。


    # THE THRID PERSON


 目的は動機という原因から生まれる。故に最初に二人が辿っていた道は同じ。だが最後に藍と利久が選んだ道は違う。


 何のためにそれをするのか。それが目的。

 それをしようと思ったきっかけ。それが動機。


 行動の原因には変わりない。だがそれは、性質としては違っている。


 目的は、行動を起こし後にも意味を持つ。

 振り返ることで、反省の指標となる。


 だが動機は、行動を起こした後は意味を失う。それはただの記憶でしかない。


 振り返ったところで、意味なき記憶は望郷することしか出来ないのだから。

誤字脱字は、今後訂正していくつもりです。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

もしかしたら、続編を書くかもしれませんが……どうしようか、まだ迷ってます。

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