パンダニャンの左手首の場所を知っていますか?
「どうですか?刑務所の生活は?」
「朝早く起きないといけないのは最悪!夜も早いし」
峰は亜理抄の面会にきていた。
亜理抄は精神鑑定の結果……クロと出た。
つまり精神異常者として罪には問われない。
この結果は本人が望むものと違うかもしれないが……
「峰ちゃんも暇だよね、ちょくちょく私に会いにきてさー。仕事は大丈夫なの?」
「うぎぃ!大丈夫です」
本当は亜理抄のアシスタントの仕事がなくなって以来、仕事がなかった。
女装と言う趣味ゆえどこに行っても変な目で見られ耐え切れずにアシスタントが長続きしなかった。
おまけに漫画の仕事も中々貰えず…
亜理抄はそんな峰を察してか言った。
「今回の事件を題材に漫画を描くとかさー」
「猟奇的な絵は苦手です」
「別に描く必要はないよー。1文、そえれば済むんだしさー。」
この人はいつもそうだ。
他人事だと思って無責任な事ばかりを言う。
峰は席を立った。
「時間ですね。帰ります」
「そう。今度は彼氏でも連れてきなさいよー。彼女でもいいぞ?」
「あんたは僕のお母さんか!」
ドアを開けようとした瞬間に亜理抄が思い出したかのように言った。
「そういえば峰ちゃん」
「はい」
「パンダニャンの左手首の場所を知らない?」
それはリストカッター第一の殺人事件の時の……
「人形使い」をモチーフにした時の話であった。
「知りませんよ。先生が持っているんじゃないですか?」
「……だよねー」
峰は思う。
自分が気付かないだけで先生は精神鑑定がクロなのかもしれない。
慣れたが突拍子もない事を言い出すのはそのせいかもしれない。
しかし、胸の奥で何かが引っかかった。
「パンダニャンの左手首の場所を知らない?」
精神異常者用の刑務所の外に出ると一人の女性が立っていた。
峰の方を見ると会釈して近づいてきた。
「えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
「始めまして、初音 綾と申します」
初音初音…
それはリストカッター最初の犠牲者と同じ苗字……
「妹です」
特徴的な名前だから峰の印象に残っていた。
綾は続けて言った。
「あのぅ天才美少女探偵の峰さんですよね?今回の事件を解決したっていう……遠藤刑事にそう聞きました。」
あんにゃろう……
峰はギリギリと歯軋りをした。
そんな峰に少したじろぎながらも綾は聞いた。
「あの、峰さん?」
「女装…」
「はっ?」
「美少女じゃなくて女装探偵ね。僕は」
混乱した峰は変な自己紹介をしてしまった。
綾は目をパチクリした。
「女装なんですか……すごい、こんなに綺麗なのに……」
「え?えへへ、そう?」
「それじゃ天才美少女装探偵の峰さんですね。」
この娘はどうしても美少女にしたいのか……
先生がいたら隣で爆笑していたな。
亜理抄も自分の事を天才美少女装探偵って呼んでいたのを思い出す。
しかし、美少女と呼ばれて悪い気はしなかった。
自然と顔が緩みそうになり慌てて直しながら峰は言った。
「それで何の御用ですか?」
「どうして姉は殺されなくてはならなかったのでしょうか…刑事さんに聞いても分からないって言うし……事件を解決した探偵さんならもしやと思いまして…」
何故殺されたのか?
峰は思い出す。
宮本の家から発見された色紙。
初音 未来
江田 順平
宮本 進
服部 亮
金子 悟
我らは共犯者であり、この秘密を永遠に話さないことをここに誓う
あれこそ動機に違いない。
しかし、亜理抄は聞きたいことは全てはぐらかす。
はぐらかすようになったのは逮捕されてからだ。
あの逮捕の晩に聞いておけば聞き出せたかもしれない。
唯一の生存者である服部の意識はいまだに戻っていない。
「事件は解決していないのか……」
綾は涙を流しながら訴えた。
「お願いします!私、真実が知りたいんです……少ないですが謝礼を払いますから。50万円ですが……」
峰はお金で動く人間で……あった。
「分かりました!調べましょう!」
天才美少女装探偵はお金に困っていた。
亜理抄は看守の後について精神異常者用の監獄を歩いていた。
ここはうめき声や叫び声ばかりでもはやホラー映画のようである。
偽ってここに入った人間も1日で本物の精神異常者になりかねない。
「ほら、入って」
看守に促されて部屋に入った。
ここは全て個室である。
相部屋にしてトラブルが起きたら困るからだ。
殺風景な亜理抄の部屋であったが、部屋の隅に何かが落ちていた。
近づいてみると手紙であった。
「?」
有り得なかった。
ここまで一般人は入ってこられるわけがないのだから。
では一体誰が?
「……」
亜理抄は手紙を開けた。
手紙には短い文章が書かれていた。
亜理抄
覚えていてくれて嬉しいよ。
今度は私の番だね。
手紙とは別に封筒から何かが出てきた。
赤いパンダニャンの左手首であった。
「パンダニャンの左手首の場所を知っていますか?」
亜理抄は目を瞑って呟いた。
同時刻。
事件現場でまたしても遠藤警部補が警察官に足止めを食らっていた。
しかし、今回の遠藤警部補は余裕で言った。
「今回は忘れていませんよ!ほら、警察手帳。」
しかし、警察官は首をブンブンと振った。
「中身が入っていませんよ。」
「何しまった!中身出したらどんなもんか試してみて戻すのを忘れていた!」
「毎度毎度、懲りませんなぁ、遠藤警部補!」
奥から津川警部が出てきた。
なにやら警察官とやりとりして遠藤警部補を中に入れた。
「いやぁ、いつもすみませんねぇ」
軽口を叩く遠藤警部補を無視して津川警部は奥に進んでいった。
亀刑事が代わりに出てくる。
「亀ちゃーん。状況は?」
「……見たほうが早いです。驚かないでくださいよ?」
亀刑事にしては妙な言い回しをした。
現場はバスルームのようであった。
遠藤警部補はデジャブを感じた。
(いや、そんな馬鹿な)
バスルームに飛び込んだ。
嫌な予感は当たった。
手首を切られて絶命している死体がそこにはあった。




