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打ち切り  作者: BALU-R
第一部 リストカッター
6/16

事件は終わりだ、リストカッター。いや、今こそ本名で呼ぼう

遠藤警部補は深夜、自分のデスクの前で頭を掻いていた。

「3人目の犠牲者か……」

出ると分かっていて止められなかった。

それが歯がゆかった。

「まぁ、ここまで預言書通りなら最後に犯人を捕まえられるわけですけどね。がはは。」

自嘲気味に笑う。

それは自分が逮捕するまでにあと一人犠牲者が出ると言う事であった。

「くそったれめ!」

杖の上に置いてあった新聞を投げ捨てた。

新聞の一面には「リストカッター事件特集」と書かれている。

さすがにマスコミも漫画をモチーフにした殺人が行われていることを嗅ぎつけたのであった。

模倣犯である事を分かっていて事件を止められない警察の無能さを叩いている。

最も、そのおかげで作者が人気作家の寿賀 瑠々である事はそれほど大きく取り上げてくれないでいるが。

荒れている遠藤警部補に近づく人物がいた。

亀刑事だ。

遠藤警部補は亀刑事に気付いて声をかけた。

「こんな遅くに悪いね、亀ちゃん。で、どうだった?」

「えぇ、警部補の読みどおりか金子悟のパソコンから書き込みがありました。」

(さすがですね先生。ついでに犯人も見つけてくれるとありがたいんですが。)

そんな自虐的な妄想をしている遠藤警部補に亀刑事は続けて言った。

「金子悟のパソコンからハンドルネーム「ジェームス・ポンド」で書き込みがありました。」

「はいはい。これで条件はそろったわけね。後は足首のないシンクロ死体を捜すと。」

そこで喋るのを止めて遠藤警部補は亀刑事の方を向いて言った。

「何だって?」

「ハンドルネームは「ジェームスポンド」でした。漫画の4人目の犠牲者の名前です。」

遠藤警部補は机をガンと叩いて言った。

「3人目どころか4人目も止めれなかったのか……!俺達は……!」


「もういいんじゃないですかぁ?」

峰が歩きながら文句を言う。

出張が終わっても宮本が帰ってこない。

そんな連絡が出版社からあったのだ。

亜理抄は宮本の住所を聞いて峰と一緒にそこに向かう事にしたのであった。

しかし、今日は暑かったのでゴスロリ服を着た峰には遠出は辛かった。

「もう容疑者は絞れたんだし……第一、宮本さんは直接担当だったわけじゃないんでしょう?瑠々さんのターゲットになるのは担当の服部さんとか編集長なんじゃ……」

「その服部さんの行方が分からないでしょう?」

「宮本さんだって知らないかも……」

「もー、そんな格好しているから歩く気なくなるんでしょ!」

そういって亜理抄はカバンを探った。

中から氷の入ったペットボトルが出てきた。

「飲む?」

「ナイス!いただきます!」

亜理抄は峰の服を引っ張って隙間から冷えたペットボトルを放り込んだ。

「冷たっ!あっぎゃ!」

「これで少しはマシでしょ。」

峰は少し安心していた。

(良かった、いつもの先生だ)

しかし、それは吹っ切れたのかもしれない。

良いことなのか悪いことなのか峰には分からなかった。

「あのアパートね。」

目的地が見えてきた。


「えぇと確か204号室……」

宮本の部屋を探して二人は部屋数を数えながら進んでいく。

「あっ、ここね。」

「先生、これって……」

204号室の表札はこうなっていた。

「安田大地」

その名前は二人が良く知るものであった。

リストカッター3番目の犠牲者。

亜理抄はドアノブを回す。

鍵はかかってなかった。

「ちょ!勝手にはいっちゃまずいって!」

峰の言葉を無視して部屋の奥に亜理抄は入っていった。

部屋は散らかっていた。

誰かが荒らしたのではなく住人がルーズなのだろう。

壁に表彰状が飾ってある。

名前は黒く塗りつぶされていてすぐ下に

「安田大地」

ゴミ箱を漁る。

公共料金の支払い明細等が入っていた。

名前は黒く塗りつぶされていてすぐ下に

「安田大地」

峰が後から入ってきてすぐに状況を理解した。

亜理抄が言った。

「峰ちゃん。すぐに遠藤警部補に連絡。」

「はい!」

峰は外に出て電話をかけ始めた。

その間、亜理抄は部屋を物色する。

出てくるのはエロ本ばかり。

それもSM物。

(良い趣味ね……)

「だからストーカー君は3人目の犠牲者じゃなかったんですよ!えっ?知っている?じゃあ3人目の犠牲者は?そうです。表札の名前とか公共料金の名前とか。」

峰が電話ごしに騒いでいる。

亜理抄は物色を続けた。

奥から小さな箱が出てきた。

(これは……)

開けると色紙が出てきた。

「あー!現場を荒らしちゃまた警察に怒られますよ!」

電話を終えた峰が入ってきた

「ねぇ、峰ちゃん。これを見て?」

色紙には名前と文章が書かれていた。

初音 未来

江田 順平

宮本 進

服部 亮

金子 悟

我らは共犯者であり、この秘密を永遠に話さないことをここに誓う


峰は呆然として聞いた。

「何ですかね、これ?」

「さぁね。でもこれで共通点は分かったわ。瑠々のターゲットもね。」

次に亜理抄は転がっていたDVDをセットして再生した。

「ひゃっ」

峰が目と耳を覆った。

それはAVであった。

亜理抄が笑って言った。

「あらっ、峰ちゃんこういうの駄目?体は男なのに?」

「不潔です!早く消して!」

内容は過激なSMであった。

「共犯って暴力的な可能性が高いわね…」

亜理抄はAVをマジマジ見ながら呟いた。


「雪枝瑠々ですか。」

遠藤警部補と警察署で再び話をしていた。

亜理抄ははきり分かるまでまだ話すべきではないと主張したが峰が説得して遠藤警部補に話すことになった。

遠藤警部補は色紙を眺めながら呟いた。

「そして5人の共犯者……もうすこし早く分かれば4人も犠牲者を出さずに済んだかなぁ。」

峰が言った。

「そんな事よりも5人目の犠牲者を出さないよう似するのが先決じゃないですか?服部さんお行方を追ってください。」

「それは大丈夫ですよ。それと雪枝瑠々の身元もね。」

峰はどうもこの刑事のことが信用できなかった。

亜理抄の言われるままに捜査をしているのがどうも気に入らなかったのだ。

その時、亀刑事が近づいてきた。

この刑事とも顔なじみになりつつある。

そして遠藤警部補に耳打ちをした。

(どうせ下品刑事が喋るんだから聞こえるように言えばいいのに。)

峰の予想通り、遠藤警部補はすぐに耳打ちの内容を喋りだした。

「長野で宮本の遺体が発見されました。足首は切断された状態でシンクロをしていたそうです。それと頭の皮が剥がされていました。」

峰は呟いた。

「ハゲ……」

「それと言うまでもないでしょうが、近くに頭を切り取られたパンダニャンが漂っていたそうですよ。」

遠藤警部補は頭をガリガリと掻きはじめた。

「でも、予言はここまでですね。先生、服部はどうなると思います?漫画には5番目の猟奇殺人は打ち切りで描かれていなかったでしょう?」

「漫画通りなら5番目の殺人の前に犯人は捕まるはずですけど……」

「あっそれは良い。ヒントでもくれるのかな。服部を監禁している場所でも。最後まで犯人の思惑通りありがとう!でもね、先生。あの漫画は打ち切りでその後の展開が描かれていないんですよ?捕まる直前に犯人が逃げ切るオチでしたとかないですよね!」

「いいかげんにしろ!」

峰が叫んだ。

ドスの効いた声に周りの時間が止まる。

「それでも警察官か!少しは自分の頭を使え!……帰りましょう先生。」

峰は亜理抄を引っ張って出て行った。

遠藤警部補はしばらく固まっていたがふと我に返って呟いた。

「…素敵だ」

亀刑事が引いた。


「あーもう!何ですかあの下品刑事は!自分の無能さを棚に上げて!」

マンションに戻ってからも峰はイライラしたままであった。

そんな峰とは対照的に亜理抄は落ち着いている。

いや、峰がそんなだからこそかもしれない。

「ねぇ、峰ちゃん。遠藤警部補の事、どう思う?」

亜理抄の問いかけに峰はキッと睨みつけて言った。

「最初は遠藤新作が漫画から飛び出してきたみたいだと思いましたけど。期待外れもいいとこですよ!遠藤新作も飄々としていましたが無能でもないし、自分のミスを人に押し付けたりは絶対にしなかった!最後に犯人を捕まえる?はっあいつには無理だね!」

「そうよねぇ……」

何やら亜理抄の歯切れが悪い。

「何ですか?あいつに恋でもしましたか?全力で阻止しますよ。」

「じゃなくて……リストカッターは、瑠々はこの事件を最後どうするつもりなのかしら?」

物語は遠藤新作が犯人を追い詰めるところで終わりを告げている。

峰は先ほどの遠藤警部補とのやり取りを思い出しながら言った。

「あの後の展開は描かれていない。じゃあ、犯人は逃げ切る?」

「探偵漫画で犯人が逃げ切る展開を読者が喜ぶと思う?それに瑠々は猟奇的な展開を描くことは多かったけど、あれでオチは万人向けの王道が多いのよ。」

となると雪枝瑠々は自ら捕まる結末を望んでいる?

誰に?

亜理抄は続けて言った。

「多分だけど遠藤警部補がこの事件に関わったのは偶然だと思うの。」

「えぇと、つまり?」

「確実に舞台に上がってくる人物…それが瑠々にとっての探偵役なんじゃないかな。」

確実に舞台に上がってくる人物。

峰は言った。

「先生ですか……」

「そ。遠藤新作役は遠藤警部じゃなくて私だったってわけ。」

確かにそれはあるかもしれない。

手がかりは全て亜理抄が見つけてきた。

まるで待ち構えていたかのように。

亜理抄は少し寂しげに笑って言った。

「リストカッターが捕まるのは確実だと思うの。ただ……」

「ただ?」

「もしも遠藤新作シリーズがリストカッターで綺麗に完結させるとしたら瑠々はどう描いていたかしら?犯人は追い詰められてはいたけど捕まる描写はまだだった。そして遠藤新作の安否も。」

つまり

「犯人の目的は漫画になぞらえた心中……ですか。」

「推測だけどね。でも大丈夫!これは現実なんだから何でも犯人の思惑通りにいくとは限らない!」

それは強がりであった。

ここまで全て犯人の思惑通りなのであろう。

亜理抄は覚悟している。

峰はそう思った。

不自然なくらい明るい声で亜理抄が言った。

「あら、こんな時間!峰ちゃん、帰った方がいいんじゃない?」

「……今日、泊めてもらってもいいですか?」

一人にしたら先生は……

そんな気がした。

亜理抄は気付いてないのか気付かない振りしているのか明るく答えた。

「そう?でももう寝るだけよ?」

(先生は自分が守る!)

強く心に誓う峰であった。

その時、亜理抄がモジモジしはじめた。

「どうしたんですか?」

「泊まるならお願いがあるんだけど」

「はい?」

「私と寝て」

峰の意識が飛んだ。

川を超え海を越え山を超え時間を超え……

あっあれがブラックホールか。

はじめて見る。

「峰ちゃん?」

亜理抄の声で現実に戻る。

顔を真っ赤にして峰は叫んだ。

「いやいや僕、体は男ですけど心は男でして、いやだから男の人の方に興味があるとかではなくてエッチなのはいけないと思いますって考えでして先生とは性別を超えた友情を育みたいと思いまして、いや先生が嫌いって事ではなくて、どちらかというとそういう行為が苦手と言う事でして、いや子作りがいけないことだというわけではなくて、考えてみれば子供が作れなくてもそういう行為をみな好むわけでして、いや子供が欲しくないわけではなくて、どっちかというと子供は好きなほうでして、決してロリコンとかショタコンの気があるわけではなくて、嫌われるのも嫌だし拒んでいるとも思われたくないわけで、かと言って先生を一人にするわけにもいかんわけで、だから帰るわけにもいかんので、でもそういう行為はNGなわけで」

亜理抄は峰のその様子に吹き出して言った。

「そういう意味じゃないって!ただ添い寝して欲しかっただけ!」

峰はプシューと音を立てて倒れた。


二人は一つのベッドで肩を並べて寝ていた。

(親以外の人と同じ布団で寝るなんて始めてだ…)

ドクンドクンと心臓が胸を打つ。

その胸に手が添えられる。

「ひゃぁ!」

何もしないって言ったのに!

亜理抄の方は何事もなかったかのように目を閉じている。

そして静かに言った。

「瑠々にもね、落ち込んでいるときはよくこうして一緒に寝てもらったな。心臓の音を感じていると安心するの。」

その顔はまるで赤子のようであった。

落ち込んでいるとき。

(じゃぁ、やっぱり先生は……)

「瑠々と会うまで私、友達なんていなかったの」

亜理抄が話し始めた。

「瑠々もそうだったみたい。ある日言ったの「亜理抄は私が描いた漫画から出てきた友達ねっ」って。」

子供の頃、自分の書いた作品に友達を作るのは誰にでもある。

遠藤新作と遠藤警部補のように偶然が重なったのかもしれない。

「最初は笑っていたけど、そのうち思うようになったの。本当にそうだったら素敵だなって。いや、本当にそうなんじゃないかなって。私は瑠々が友達欲しさに生み出した存在なんじゃないかって。」

「違います。」

峰ははっきり否定した。

「だって先生は僕の友達じゃないですか。瑠々さんの友達だけって存在じゃないですよ。」

亜理抄は答えなかった。

いつのまにか眠っていたようだ。

峰も目を閉じた。


リストカッターは静かに闇夜を歩いていた。

ここは古い木造のアパート。

今では誰も使っていなかった。

いや、今は住人がいた。

服部亮。

リストカッターが拉致監禁してここに住ませているのだ。

リストカッターは懐からメスを取り出した。

漫画通りなら服部を殺すわけにはいかない。

「殺さないまでも、痛めつけるぐらいは許されるはず……」

恐ろしい事を考えていた。

しかし、無理もなかった。

服部はリストカッターにとって最も憎むべき相手なのだから。

リストカッター早歩きで目的の場所に向かった。

あまり時間はない。

4人目の犠牲者を晒す。

そうしたら次はラスト。

探偵役の「あいつ」に追い詰められるだけだ。

「……上手くいくだろうか。」

ここまでは自力でやれた。

しかし、他人の動きとなるとイレギュラーな事が多すぎる。

「信じよう。」

探偵はリストカッターにとって敵だが同時に信頼もしていた。

「さぁ、はやくしないとお楽しみの時間が減ってしまう……」

リストカッターは、メスを強く握った。

柄の部分を握っているにも関わらず血が流れてきた。

そして目的の部屋の前につく。

大きく深呼吸をする。

緊張しているのではない。

興奮を冷ましているのだ。

襖を開けると布団にくるまった服部が……

いなかった。

代わりに誰かが窓の脇に立っていた。

「!」

最初、服部の薬が切れたのかと思い、リストカッターは身構えた。

しかし、月光がその人物の顔を映し出すとリストカッターは手を下ろした。

「君だったのか……4人目の死体が出ていないのに一手早かったな。やはり他人を動かすにはイレギュラーが多すぎる。」

ゆっくりとその人物は語りだした。

「服部さんは警察に保護してもらいました。それとこのアパートにも警察がくるように段取りしてあります。」

「だろうね。」

「ここから先の展開は漫画には描いてありませんでした。だからここからは僕が仕切らせてもらいます。」

ゆっくりとリストカッターに「近づきながら言った。

「事件は終わりだ、リストカッター。いや、今こそ本名で呼ぼう」

そしてゆっくりと、確実に口にした。

リストカッターの本名を。




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