打ち切り
亜理抄が目を覚ましたのは昼の11時ごろであった。
あんな夢の後だから決して練るまいと思っていたのだが、睡魔には勝てず、結局この時間まで眠っていたのだ。
「まぁ、今日は予定がないから良いけど。」
幸いだったのはあの後、悪夢を見なかったことだ。
それにして前回も今回もリアルな夢であった。
特にあの……
「あーもう、やめやめ!」
亜理抄はテレビのスイッチを入れて新聞を取りに行った。
新聞と一緒に封筒が入っていた。
「珍しいな。何だろう?」
送ってくるとしたら編集部だろう。
しかし、差出人名はなかった。
「……気持ち悪い」
開けずに捨てようと考えていたらテレビのニュースが耳に入ってきた。
「またも猟奇事件です。手首を切断され木に吊るされ失血死している男性の遺体が今朝、発見されました。被害者は土田順平さん」
亜理抄は持っていた封筒を落とした。
封がゆるかったのだろうか。
落とした途端、中身が転がって出てきた。
それは人形の手首……
「……」
何故、それが人形の手首だと分かったのだろう。
普通の人が見たら小さなテルテルボウズとかを連想したはずだ。
しかし、亜理抄は人形の手首だと思った。
なぜなら、最近描いていた漫画に出てきたからだ。
つまり送り主は亜理抄が人形の手首だと理解すると分かっているのだ。
「……」
そして2度目の猟奇事件。
これも偶然ではない。
亜理抄へのメッセージなのだ。
人形の左手首と一緒で。
「……誰が?……何のために?」
それは分からなかった。
しかし、漫画と違って容疑者を絞るのは容易かった。
何しろ「リストカッター」はまだ世に出ていないのだから。
まずは担当の服部さん。
それと服部さんにネームを見せた時に意見を聞きたくて呼んだ宮本さん。
そして安部編集長。
「あの人たちがそんな事をするわけが……」
ないとどうして言えるだろうか。
あの人たちの何をしっていると言うのだろうか。
「……」
容疑者を他にも探す。
「リストカッター」はネームの段階でボツになった。まだ、原稿のコピーも取っていない。
つまりあの3人が他の人に見せたとは考えにくい。
こっそりコピーをとっていなければ。
「……これで全員?」
誰か忘れている……
そうだ。
「この絵の部分、こうした方がよろしくてよ?」
「ねぇ、こないだの漫画、持っている?」
瑠々さんだ。
2回もネームを見せている。
「そんな馬鹿な、瑠々さんがそんな事をするわけがない」
そこでまたさっきの否定が出てくる。
瑠々さんの何を知っている?
「興味があるの。」
あれは本当に漫画を指して言っていたのか?
「楽しい時間をありがとう」
あれは、どの時間の事を言っていた?
「……」
まだ忘れている気がする。
容疑者の存在を。
「リストカッター」の内容を知っている人物を。
それは。
「寿賀亜理抄」
自分自身であった。
昨夜とこないだの夢。
あれは本当に夢だったのだろうか?
手に残る肉と骨を切る感触。
流れ出る血。
昔、夢遊病者の話を聞いたことがある。
そういえば修学旅行の時に
「寝ながら歩き回っていたよ」
と友達に言われた時もあった。
自分は夢遊病者なのではないだろうか?
そして現実と漫画がごっちゃになって、あのような……
「うぉえげー!」
吐き気を催してトイレに駆け込んだ。
食べたものを全て吐き出す。
それでも足りず、胃液も吐き出す。
「私は……」
嗚咽しながら呟いた。
「殺人鬼じゃない……!」
涙が流れてきた。
それは決して嘔吐の辛さからだけではなかった。
亜理抄は着替えて出版社に向かうところであった。
犯人は誰なのか分からない。
でも身近にいる。
それをはっきりさせないと……
させないと?
「私は殺人鬼じゃない……」
再び呟く。
しかし、仮に犯人が自分じゃないとしてどうなるのだろうか?
あの漫画のラストはどうだったろう……
主人公が死ぬような事はなかったが……
「ハッピーエンドでもなかった……」
だが進むしかない。
どんな結末が待ち受けようとも。
「人形の左手首の場所を知りませんか?」
駅に向かう途中でふいに後ろから声をかけられる。
そこにはゴスロリ服を着た美少女がニコニコと笑顔で立っていた。
少女はスカートの裾をチョンと掴んで会釈して言った。
「はじめましてというべきですかね、先生。峰富士男と申します」
丁寧な自己紹介に亜理抄も自己紹介しようとしたがそれを峰は制して言った。
「先生は必要ないです。もう、知っていますので」
それは亜理抄も同じであった。
亜理抄はようやく言葉をひねり出した。
「あなたは一体……」
「助けにきました。」
そして胸を張って言った。
「先生を止めるのが僕の役目です。協力してもらえますよね?先生」
ここで物語は幕を閉じる。
謎を残したまま。
まるで打ち切られた物語のように。
この先の物語は登場人物も知らない。
書かれていなから。
この先の物語は作者も知らない。
書かれていなから。
なぜならこの物語が……
打ち切り
完




