そう、面白くない
亜理抄は警察署に来ていた。
「初めて……でもないか。」
子供の頃に社会見学で来たことはあった。
しかし、犯罪に縁のない亜理抄は警察に来たのはその時ぐらいである。
免許証の更新も試験場でしている。
「つーか、きたのはいいけど……」
素人に事件の事を教えてくれるわけはない。
「現実は本当にままにゃらないにゃー」
勢いできたのを後悔しつつ警察署を後にしようとしたところで目に留まるものがあった。
「あれは……」
遠藤警部補。
亜理抄の漫画に出てくる刑事にそっくりな人物がいた。
その刑事は部下らしき刑事に遠くから声をかけられる。
「遠藤警部補!」
(なぬ?)
名前まで一緒であった。
(こんな偶然あるんだな。)
話をしてみたい衝動にかられた。
亜理抄が近づこうとすると呼び止められた。
「あー君。ちょっといいかな?」
屈強な警察官に連れていかれる亜理抄。
どうやら受付にもいかず警察のロビーをうろうろしている事で不審人物とみなされたようだ。
「くっそ、わからずやのアホ警察官め!」
亜理抄は警察署でこってりしぼられた。
「用もなく警察署をうろついちゃいけないってか!漫画家って職業がそんなに不審か!」
亜理抄は自室のベッドに寝転がり、ぼやいていた。
「私はただ、真実を知りたいだけなのに……」
自分の描いた漫画のネームと同じ事件。
偶然で片付ければいいだけの話。
「でも、それじゃ面白くないじゃん。」
「そう、面白くない」
それにしても遠藤警部補が現実に現れるとは……
これも偶然?
「本人なら私を助けてよー。「美しいお嬢さん、ちょっと話をしませんか?」みたいに捜査状況漏らせよー。」
亜理抄は無茶を言い始めた。
ネームを読み返しながら呟いた。
「でも、天才美少女装探偵はさすがにいないか。」
次の日、亜理抄は殺人現場に行ってみた。
インターネットで調べたら場所はすぐに分かった。
(にしてもだ……)
人が多かった。
住宅街でそんなに人がくるところではないにも関わらず。
「やじ馬どもめ……」
おそらく亜理抄と同じようにインターネットで調べて興味本位でここにきたのであろう。
つまり亜理抄もやじ馬であった。
件のアパートの前は騒がしかった。
警察まで出てきている。
恐らく、誰かが迷惑だと通報したのだろう。
(本当、しらべるのも現実はままにゃ……)
その時、警察官と目が合った。
昨日、警察署でお説教を受けたのを思い出す。
(まずっ)
とっとと退散することにした。
目的地から背を向けて歩いているといい匂いがした。
それはすれ違った人の残り香であった。
一瞬であったが横目で視界に入ってきた。
それはゴスロリ服を着た……
「!」
振り返ったが誰もいなかった。
「……こんな民家にゴスロリ服を着た人がいるわけがないか。」
勝手に納得をして家路に向かった。
「津川警部」
遠藤警部補が津川警部を呼び止めた。
「どうですか調子は?」
「よくないな……目撃情報が全くないんだもんなぁ。そっちは?」
「同じです。進展なし。」
二人してため息をついた。
津川警部が缶コーヒーを開けながら聞く。
「なぁ、これって愉快犯かなぁ?何の必要性があってこんな事を……」
「それにしても手が込みすぎていますよ。あそこまでやるなら刺し殺したほうが早いですから。捜査のかく乱にしても手首じゃなく首を隠すなら分かります。でも、手首を切って隠してもいませんから…」
「例えば手首を切った部分に証拠が……」
「今は科学捜査で切り口のミクロ単位まで調べられますよ。それにさっきも言いましたが手首を放置していくのもおかしいですし」
二人は再びため息をついた。
ふと、遠藤警部補は呟いた。
「メッセージ……」
「何?」
「誰かへのメッセージとは考えられませんか?これが分かる人にだけ分かるメッセージとは」
数日後。
亜理抄は出版社をトボトボと歩いていた。
次の読み切りのネームを持っていったのだが反応は悪かった。
また一から練り直しだ。
「……だから「リストカッター」をボツにしたくなかったのに……」
ブツクサ口に出ていたのをすれ違う人に笑われて、亜理抄は我に戻った。
「あー、考えるのやめやめ!何か甘い物でも食べて気分転換しよう!」
ちょうどよく喫茶店があった。
メニューに「特盛りジャンボパフェ」があった。
やけ食いにはうってつけだ。
最も、体重計に乗ったときに後悔することになるのだが。
「あら、貴女はこないだの」
店の中には瑠々が一人でコーヒーを飲んでいた。
「こ、こにちは」
緊張のあまり、亜理抄変な日本語になった。
席を探してキョロキョロしていると瑠々g手招いて言った。
「どうしたの?一緒にお茶しましょうよ」
「では、甘えてお言葉に。」
店員が注文をとりに来たので
「特……」
といいかけたところで瑠々が言った。
「ここのサンウィッチは絶品ですのよ」
「サンドウィッチをください」
サンドイッチが出てきた。
なるほど、瑠々の言う通り美味しい。
しかし、甘いものを欲しがっていた体には物足りない。
サンドウィッチを食べている間、瑠々は一言も喋らなかった。
きまずい。
(やっぱりこういう高貴な方とは住む世界が違うんだ……共通の話題が見つからない……)
二人とも漫画家なのだが、格の違いからその話題をふるのははばまれる。
しかし、サンドウィッチを食べ終わったところで瑠々が口を開いた。
「ねぇ、こないだの漫画、持っている?」
「ふぇ?」
「興味があるの。ワタクシはあんまりああいったのは漫画に縁がないもんで。」
亜理抄はカバンを探った。
ボツになった事でカバンに放りっぱなしになっていたはずだ。
取り出して渡すと瑠々は真剣に読んでくれた。
読み終えるとニコリと笑い言った。
「面白いです」
亜理抄はホッとした。
「見たところ読み切りのようですけど、続きが気になる世界観でした。連載になることを願っています」
「連載どころか読み切りにもならないんです。似たような事件があってお蔵入りに」
「そうですか……それはお気の毒に……」
瑠々は寂しげに笑った。
時計を見て瑠々は言った。
「あらもうこんな時間。休憩時間を過ぎたらアシさんたちに怒られてしまいますわ」
席を立ちにこやかに瑠々は言った。
「今日は楽しい時間をありがとう。そういえばお互いに自己紹介がまだでしたわね。私は雪枝瑠々。」
知っています。
「私は寿賀亜理抄……」
「素敵な名前ね。では、亜理抄さん。またお会いしましょう」
「でへへへ」
自室のベッドの上で亜理抄は気持ちの悪い声を出していた。
「またお会いしましょうだって……瑠々にゃーん」
気持ち悪い事をいいながら枕にキスをした。
本当なら新しいネームを切らなければいけないのだが、とても手につかない。
「このまま眠っていい夢を見ましょう」
夢の中
亜理抄は知らない道を歩いていた。
(あれ?)
民家の中を歩いているのに周りには人気がなかった。
(あれ、瑠々にゃんは?)
亜理抄は荷物を担いでいた。
それはとても重かった。
普段の亜理抄ならとても持てないような。
しかし、亜理抄は軽々と持っていた。
(このパターンは…)
目的地についた。
木の下に。
カバンから道具を取り出す。
手術用のメスと長い紐のロープが出てきた。
(また強制イベントですか……)
担いでいた荷物を開ける。
男性が眠るように入っていた。
(おーい)
足を縛り、木に吊るし上げた。
そしてメスで右手首をひいていく。
昨日と同じように。柔らかい感触と硬い感触の後に手首は取れた。
逆さになった男性の右手首から血がポタポタと流れ出す。
視線は右手首の断面にあう。
(いやいや、こんなのんびりしていたら警察くるでしょう?私の漫画でもそのために別の場所で殺させていたし)
しかし、誰もこない。
ピクピク動いていた手首の断面が動きを止めた。
「むがっ!」
再び叫んで亜理抄は飛び起きた。
すごい汗だ。
息も荒い。
「何なのよ、もう……」
涙があふれてくる。
怒りも悲しみもどこにぶつけたら良いのかわからなかった。
「遠藤警部補、またですって?」
津川警部が寝ぼけなまこで現場に現れた。
遠藤警部補は会釈をして説明を始めた。
「前回とほぼ同じですね。手首を切断しての失血死。まぁ、今度は右ですが」
「失血死って……どこか別の場所で?」
「いえ、殺害現場はここのようです。一晩中木に逆さで吊るしておいたみたいですね。」
「一晩中って……簡単に言うけど、誰もこなかったの?」
「のようです。不思議なことに」
津川警部と遠藤警部補は二人して首をかしげていた。
「……まぁ、そのへんは後で聞き込みするとして。被害者の名前は?」
「土田順平」




