表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
打ち切り  作者: BALU-R
第三部 打ち切り
14/16

殺人より私を怒らせた罪は重い

「ふー終わったー。」

亜理抄は背伸びして席を立った。

今、次の読み切り

「リストカッター」

を書き上げたところだ。

友人に

「お前のキャラが1番面白い」

とアドバイスを受けたので自分を登場人物の中に埋め込んでみた。

「まぁ、私は殺人鬼じゃないけどね」

それにしてもひどいキャラ設定になったもんだ。

「天才美少女装探偵?催眠術師のライバル?はっ何だこりゃ。」

自虐的に笑った。

とはいえ、その設定は気に入っていた。

「気に入らないのは……」

むしろ自分自身のキャラ。

「もっとキャラ付けしてやれば良かったかなー」

それもまた自虐であった。


その夜

亜理抄は知らない人の家を歩いていた、

(ここどこ?)

しかし、足は勝手に前に進んでいく。

バスルームに向かって。

(もしや……)

思い出されるのは先ほどまで書いていた漫画であった。

(いや……)

バスルームを開ける。

湯船には裸で女性が浸かっていた。

(やめて!)

亜理抄はポケットに手を突っ込んだ。

出てきたのは手術用のメス。

本物を見たことがないのに亜理抄はそれをよく知っていた。

(覚めて!)

亜理抄は湯船に浸かっている女性の手首を持ち上げた。

(夢なら覚めて!)

普段なら悪夢はこう念じれば覚めた。

しかし、今日は目が覚める事はなかった。

亜理抄は手首にメスを押し当て横にひいた。

(やめてお願い!)

嫌な感触が伝わってくる。

それから何度も手首にメスを押し当ててはひいた。

柔らかい感触、硬い感触の後に手首はポロリと落ちた。

亜理抄は手首の断面がむき出しになった腕をゆっくり湯船につけた。

断面の部分から赤い血が広がっていく。

(もう、許して!)

しかし、亜理抄の視線は手首に固定されたままだ。

やがて湯船は真っ赤にそまった。


「いやー!」

自分の叫び声で目が覚めた。

夢でよかったとい安心感と何故、こんな夢をみたのかという憎悪が襲ってきた。

「寝る前にネームを切るもんじゃないね。」

寝なおそうかと思ったが、さっきの夢を忘れたかった。

電気を点けてベッドの下に隠した秘蔵の本をしばらく読むことにした。


「はい、ごめんなさいよー」

「警視庁」と書かれたテープを乗り越えて一人の男性が入ってくる。

津川警部だ。

その表情はとても穏やかだ。

「遅いですよ」

津川警部を迎えたのは遠藤警部補であった。

その言葉とは裏腹に表情は穏やかだ。

津川警部は頭を叩いて言った。

「いや、すまんすまん。警察手帳が中々見つからなくてな……で、どんなあんばい?」

「被害者の名前は初音はつね 未来みく30歳です。この部屋の住人で、妹と二人暮らしです。現在はフリーターをやっているようです。死因は手首を切った事による失血死です」

「手首かー。自殺だね」

「すみません、言葉が悪かったですね。手首を切ったというのは」


「ちょっと猟奇的すぎない?」

亜理抄は編集部近くのファミリーレストランで担当の服部に原稿を見せながらそう言われた。

亜理抄は反論する。

「その方が受けると思ったんですが……」

「まぁ、そこは表現を変えればいいや。それよりもキャラがねぇ……この地味な殺人鬼は何とかならんかったの?」

地味なのは自分を元にしたからであった。

(やっぱ駄目じゃないの。友人Aめぇー)

その時、ファミリーレストランの扉が開いて新しいお客が入ってきた。

服部の同僚の宮本と

「あら、服部さん。御機嫌よう。」

漫画家の雪枝瑠々であった。

瑠々は亜理抄と同じ賞を取り、デビューも一緒であった。

もっとも、瑠々は大賞で巻頭カラーデビュー。

亜理抄はあと一歩賞でデビュー、後ろの隅っこの四コマ。

しかも、瑠々はアニメ化までされた有名作家、亜理抄はいまだに連載すらもらえず作家。

「あら、新人さん?」

そのため瑠々はいまだに亜理抄の事を覚えていない。

もう、2桁は会っているのに。

「ちょっと失礼」

瑠々は亜理抄の前にかがみこんだ。

「この絵の部分、こうした方がよろしくてよ?」

瑠々は素人への指導のつもりなのだろうが、同じプロにとってこれほどの屈辱はあるまい。

担当編集者の宮本に呼ばれて瑠々は去っていった。

服部の方は人事ながら屈辱に満ちた顔で震えていた。

「寿賀君、早く見返してやれるような漫画を描きなさい。」

「はぁ……」


「瑠々さぁん……」

亜理抄は呟いた。

「良い匂いがしたにゃー」

ベッドの上で悶々としていた。

しばらく転がった後にふと我にかえって呟いた。

「現実はままにゃらいにゃー」

漫画の中では瑠々は一緒に漫画を描く相棒であった。

しかし、現実は違う。

女装をしたアシスタントもいない。

「まぁ、殺人鬼になって警察におわれるのはごめんだけど。」

しかし、良い事もあった。

今回の読み切りは少し直せば載せるのは確定のようだ。

「うっし、がんばるぞ!」

ベッドから起き上がり、机に向かった。

そしてテレビを点けた。

静かな空間で仕事はしない主義なのであった。

「…で…あり…」

ニュースが映った。

アニメでも見ようかとチャンネルを変えようとした瞬間に手が止まった。

「衝撃的な事件です。手首を切断され失血死している遺体が発見されました。被害者の名前は初音未来さんで、警察は殺人の線で追っており」


「載せられないってどういうことですか!」

亜理抄は編集部に乗り込んでいた。

服部から読み切りを載せるのをなかった事にして欲しいと言われたのだ。

服部では埒があかないと編集長に直談判しにきたのであった。

亜理抄はなおも叫ぶ。

「昨日の事件ですか?そりゃ、名前まで被っていますけど変えればすむ話じゃないですか!」

安部編集長は額の汗をふきながら言った。

「でもね、死に方までもね……」

「それも変えます!締め切りは明後日ですよね?それまでに何とか……」

「というかね、猟奇的な殺人自体がNGなんだよ。それも変えて明後日までにできる?」

「……」

「無理でしょ?それよりも今回は見送って次の機会のために話を練った方が懸命だと僕は思うな。」


「何が懸命だ!この話を考えるのにどれだけ苦労したと思うんだ!」

出版社をでてからも亜理抄はブツクサ言っていた。

「リストカッター」の世界では漫画を元に犯罪が行われていた。

しかし、現実は違う。

こちらの漫画の方が後発だ。

犯罪を摸倣して漫画を描いたと思われてしまう。

「うー犯人めぇ!私が捕まえてやろうか!」

そこで閃く。

「くくく、そうだよ…次の読み切りまで時間があるんだし、犯人捕まえてやろうじゃないの!殺人より私を怒らせた罪は重い……」

思い込みの激しい亜理抄であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ