きっかけはどうあれ、事件を起こしたのは全て貴方の意思
亀刑事は帰路に向かっていた。
「全くつまらん毎日だ……」
今日は脱獄犯の行方を追うはめになるなんて……
その上、遠藤警部補も津川警部も自分に八つ当たりばかりであった。
「俺の表の顔を信じて言いたい放題言いやがって!」
相手に合わせて常にニコニコ。
それが出世街道から外れてしまった老齢の刑事の世渡り術であった。
「まぁ、今日は家に帰れるのだからよしとするか。」
刑事という仕事上、帰れない日は少なくない。
年齢上、帰らせてもらえる方だが、最近は猟奇事件が多すぎる。
「まぁ、仕方がないか……」
愚痴るのはやめよう。
早く家に帰って「あれ」を見よう。
そしたら夜の街に飛び出そう。
続きをしに。
「あれ」には本当に救われた。
上司への愛想笑いにうんざりし、何度警察をやめようと思ったか。
最近は特にあの遠藤警部補のせいで限界であった。
しかし、「あれ」を見つけて人生が変わった。
さぁさぁさぁ、
ドアノブに手をかける。
ドアを開ける。
「おかえりなさい、2代目リストカッター」
「お前は……」
亀刑事の部屋にいたのは亜理抄であった。
亜理抄は冷たく言った。
「ただいまはどうしたの?老齢の人は挨拶をかかさないって聞いていたけど」
「何故、お前がここに……」
「つれないなー。リストカッター仲間じゃないの」
「何のことだ……」
「これこれ」
亜理抄は顔を潰されたパンダニャンをヒラヒラと振って見せた。
「それとこれ」
部屋には異様に浮いている大きな冷蔵庫があった。
亜理抄はそれに手をかける。
「ばっ!止めろ!」
亀刑事の制止もむなしく冷蔵庫は開いた。
中から出てきたのは首のない死体と、顔を潰された首であった。
亜理抄は言った。
「人のモノを勝手に持ち出してさー。警察がネコババとかいいわけ?」
亀刑事は混乱していた。
「何故、私だと分かった?」
そのため、場違いな質問をした。
亜理抄は気にせず答えた。
「だって峰ちゃんに嘘ついたじゃない貴方。「人が殺されるところを毎日見ていると麻痺して何も感じなくなる」だっけ?有り得ないね!殺人鬼だからよく分かるよ!人の死に何も感じなくなるなんて!」
亀刑事は蛇に睨まれた蛙のように無言で固まっていた。
亜理抄が一人で喋り続ける。
「さてと貴方に聞きたいことがあるんだけど?」
殺される……
屈強な老刑事がか弱な女性を前にそう思った。
そして口が開いた。
まるで勝手に喋るかのように。
「違う……俺じゃない……俺じゃないだ!悪いのは……そうあの女だ!あの時、耳元で変な事を囁かなければ……」
「へぇ」
「あの時……死体の捜索をしていてこれを見つけたんだ。後は上司に報告してリストカッター事件は終焉……のはずだった。それなのにあの女が耳元で「これ楽しそうじゃない?」とか言ったりするから。」
亜理抄は亀刑事に近づいて聞いた。
「あの女って誰」
「分からない……いや、知っているはずなんだ。何度も会っているんだ。でも、顔も名前も出てこない……」
「催眠術か……」
暗示をかけて自分の身元を割れないようにしたのだろう。
亜理抄は亀刑事を睨みつけて言った。
「でも、催眠術で人は殺せないよ。きっかけはどうあれ、事件を起こしたのは全て貴方の意思」
亀刑事はニヘラと笑って言った。
「俺の作品どうだった?あんたみたいに上手くできたかな?」
「雑すぎる。落選」
「亀ちゃーん!」
遠藤警部補が連絡を受けてすっ飛んできた。
それでも遅刻なのだが。
現場に着くといつものように警察官に引き止められる。
「警察手帳は?」
「それどころじゃない!どけ!」
遠藤警部補は警察官を突き飛ばして現場に飛び込んだ。
「かっ……」
そこには首から上がない死体があった。
服には見覚えがある。
亀刑事が普段から愛用していた服だ。
死体の傍らには首から上とパンダニャンの人形が転がっていた。
どちらも顔のパーツをぐちゃぐちゃにされていた。
まるで福笑いのように。
服以外では亀刑事だって分かるものはなかった。
「どうして罪のない亀ちゃんがこんな……」
「果たしてそうかな」
先に来ていた津川警部がそう言った。
遠藤警部補は津川警部を睨みつけて言った。
「どういう意味ですか?」
「こいつの部屋からこいつ以外だと思われる血痕が見つかっている。少し古いものだ。奴さん、死体と生活でもしていたんじゃないか?」
「そんなわけ……」
津川警部はDVDを遠藤警部補に渡して言った。
「帰ったら見てみるんだな。亀の本当の顔が見れるかもしれんぞ」
津川警部の言う通りであった。
そのビデオに写っていたのは今まで見た事の亀刑事であった。
邪悪な笑い方をする亀刑事。
楽しそうに人を切断する亀刑事。
切断した後に自慰行為にひたる亀刑事。
「なんてこった……」
ここで峰の言葉を思い出す。
「猟奇殺人を見て自分もやりたくなったと思いましたか?」
「あれはこういう意味だったんだな……」
遠藤警部補は携帯から峰の番号を呼び出した。
「えぇ、そうですか。嘘をついていたのは亀刑事でしたか。いえ、はい。ありがとうございました」
峰は遠藤警部補の亀刑事の訃報を聞いて携帯を切った。
(先生は亀刑事の嘘を聞きだすために僕にかまをかけさせたんだろうな……)
死体の傍らにはパンダニャンが置いてあったそうだ。
恐らく自己アピールだろう。
今度は雪枝瑠々に対してではなく峰に対しての。
(これが先生の……殺人鬼のやりかたなんですね?)
情報は脅迫して引き出す。
必要なくなったら処分する。
探偵にはできない事であった。
(先生より先に行ってこれ以上の凶行を止めないと……)
しかし、そんな事ができるのであろうか?
正攻法の探偵に。
考え事をしているうちに目的の場所についた。
かつて雪枝瑠々と初音未来の通っていた学校に。
学校には雪枝瑠々の顔の確認と初音が雪枝瑠々をいじめていた事実の確認であった。
亜理抄に比べて進展のあるとは思えない行動であったが他に手がかりがなかった。
学校の場所は綾に聞いていた。
本当は綾に案内してもらえればよかったのだが用事があるとのことで無理だった。
代わりに遠藤警部補に話を通してもらっていた。
どう話を通したのか田舎の教師は饒舌に歓迎してくれた。
(また、天才美少女探偵とか言ったのかな)
「えぇ、雪枝さんは大人しい子で反対に初音さんはやんちゃな子でしたよ。よく覚えています。」
「初音さんが雪枝さんをいじめていたって話は聞きませんでした?」
「さぁ……目立ったことはしていませんでしたわね。裏のことまではわかりませんが」
同時に写真を見せてもらう。
クラスの集合写真が写っている。
「ほら、この子が雪枝さんですよ」
教師の指差した先には休みで右上に写真を貼られた子が写っていた。
しかし、峰には子供の顔はみんな同じに見えた。
(参考にもならないな……)
しかし、この教師がいじめの事実を隠しているような言い方に思えた峰は最後に少し皮肉を言ってやろうと思った。
「写真の右上に写っているのは雪枝さんがいじめを受けていたからですか?」
「ですから貴女、そのような事はなかったと……」
「でも、初音さんは妹を池に突き飛ばしたって聞きましたよ?やりかねないんじゃないですか?」
教師は少しカチンと来たのか声を荒げて言った。
「そんな事、言うものじゃありません。あれは事故だったんですから。突き飛ばしたなんて言い方……」
「でも、本人が言っていましたよ?」
「本人?でも私が聞いた時には……」
どうも話が食い違う。
その食い違いを正したときに、今回の事件のピースは全て揃うのであった。




