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打ち切り  作者: BALU-R
第二部 寿賀 亜理抄
10/16

私は分かっちゃったわよ

次の事件の連絡を受けて警察署に峰が行ったのは数日後であった。

「いや、今日もお美しい。どうです、今夜食事でも?」

遠藤警部補は毎回食事に誘ってくる。

性別を明かそうかとも何度も思ったが止めた。

名前を言っても気付かなかったぐらいだ、それすらも通じない気がする峰であった。

「それで、今回は吊るされ?」

「はい。被害者は大久保 太一。前回の被害者との接点はなさそうですね」

「杭とかパンダニャンは?」

「前回と同じく、今回も省略。」

被害者に接点がない…

亜理抄の事件の時も最初はそう思われていた。しかし、あの色紙が出てきた。

今回も…

しかし、亜理抄の言葉が蘇る。

「横で見ていて自分もやりたくなった」

快楽殺人ならば殺した相手に意味はないのかもしれない。

峰は遠藤警部補にかまをかけてみる事にした。

「遠藤警部補は他にも猟奇殺人に遭遇した事はありますか?」

「まぁ、一番は今回のですが」

「それを見て自分もやりたいと思った事はありますか?」

「んな?見ただけで脳裏に焼きついて食事が喉を通らなくなるってのに……見ていて警察をやめたくなった事は何回もありますがな!」

本当だろうか。

(嘘だったら大した策士だよね。悪い意味で遠藤新作みたい)

近くで聞いていた亀刑事が口を出す。

「脳裏に焼きつくのは最初だけですよ……仕事で毎日見ているとだんだん、感じなくなる」

峰はあんぐりして聞いた。

「そういうもんですか」

「お嬢さん、人が殺されるところを見て自分もやりたくなるんであれば、警察官はみんな殺人鬼ですよ」


「容疑者は増えたわね」

峰はここまで捜査を亜理抄に報告しにきていた。

「いや、増えすぎでしょう。先生の言葉を参考にすると警察官全部が容疑者になりますよ?」

「個人の感想よ」

突然、一昔前のCMのような事を言い出す亜理抄に峰は唖然とした。

「例えば漫画を読んだ人、全員が漫画家になりたくなるわけではないじゃない?仮に80%がなりたいと思っても実際に行動を起こすのはほんの一握り。漫画家になれるのはもっと少ない」

「漫画と殺人は……」

違うと言おうと思ったが止めた。

漫画で人が殺せると信じている亜理抄には禁句だと峰は思ったからであった。

しかし、亜理抄はそれを察して続けた

「例が大きすぎたわね。漫画と殺人じゃ違いすぎる。漫画家とタクシーの運転手ぐらいにね。しかも殺人は人間の倫理観が否定する。でもね、ここで個人の感想よ。漫画と殺人、殺人を選ぶ人もいるって事よ」

峰はこんがらがってきて言った。

「まぁ、動機は納得しました。でも、特定は難しそうですね。」

「そうかしら?私は分かっちゃったわよ」

峰が驚いて言った。

「マジっすか?誰?」

「教えてあげない。峰ちゃんには無理かな?」

その言い回しにカチンときたが峰は再び聞いた。

「せめてヒントをくださいよ」

「今のもヒントなんだけどな……じゃあ、もう一つおまけ。嘘をついた人がいる」

峰は頭をガリガリと掻いた。

毎日洗っているのでふけは出てこない。

その様子を亜理抄は笑って言った。

「遠藤警部補のくせがうつったのかな?」

「……やめてくださいよ」

席を立とうとする峰に再び亜理抄が声をかけた。

「峰ちゃん、これ以上この事件を調べるのはおよしなさい」

「それって警告ですか?」

「違うわ。時間の無駄だから。キリがないわ」

キリがない……

どういう意味であろうか?

峰の疑問に構わず亜理抄は続ける。

「調べるなら手紙の主」

「手紙?」

「ほら、話したでしょ。パンダニャンの左手首を送った人物」

そういえばこないだ尋ねた時に言っていた。

自然と今回の殺人事件と同一犯だと思っていたが。

亜理抄は別の人間だと考えているのだろうか?

「私物預かり所に手紙あるから……帰りに持って行きなさい。まぁ、あの手紙からは何も出ないだろうけど……」


「亜理抄

覚えていてくれて嬉しいよ。

今度は私の番だね。」

自室に帰って峰は手紙の内容を読み上げた。

「うーん」

「私」というのは雪枝瑠々の事であろう。

それとも雪枝瑠々を装った別人?

「番」というのは殺人を差していると思ったが亜理抄は手紙の主と犯人は別だと考えているようだ。

「うーん。先生にからかわれているのかなぁ?」

しかし、峰は気になっていた。

亜理抄の「時間の無駄」という言葉に。

天井を見つめながら呟いた。

「…そういえば僕は何を調べていたんだっけ?」

そもそも調べるようになったのは最初の被害者の妹、綾にお願いされて…

「そうだよ、謝礼をもらえるからじゃないか!」

綾の依頼は「何故、姉が殺されなければならなかったのか」

その直後にリストカッターと思わしき事件が起きてそちらを調べる事になっていたのだ。

峰は資料棚を探り出す。

「確かここに……あった!」

それは宮本の家で見つかった「共犯者の誓約書」のコピーであった。

「綾さんのお姉さんが殺された理由はここにあるはず……先生が教えてくれればいいんだけどねー」

亜理抄は嘘をつかないが聞きたいことも喋ってはくれない。

「…やっぱり浮いているなー。」

5人の中で一人だけ女性の名前。

最もそれは婦女暴行で考えた場合だ。

「でもなぁ……」

他の犯罪だとどうだろう?

横領?

しかし、この5人から共通点が浮かび上がってこなかった。

「4人ならなぁ……」

一番最初に名前を書かれた初音未来の名前を手で覆う。

4人ならば共通点が浮かび上がってくる。

雪枝瑠々への劣情が。

峰は4人の名前から初音未来の方へ目をうつす…

「……」

もちろん手で覆っているので見えない。

宮本の部屋の状況が蘇ってきた。

全ての名前を塗りつぶされて「安田大地」に書き換えられていたあの部屋。

この色紙は塗りつぶされていない。

亜理抄が書き換えなかったのは何故だろう?

第一発見者は亜理抄だ。

手帳を塗りつぶす時間があったくらいだ、色紙の名前を塗りつぶす時間もあったはず。

もっと言えば、二人で宮本の家を訪ねる前に一人で宮本のところに来ていたのだ。

(今思うと手帳もこの時に書き換えられた。忘れていたのか峰に気付かせるためだったのかは分からない)

亜理抄は何故、書き換えなかったのだろう?

「塗り潰す…書き換える…」

峰はブツブツと言い出した。

「書き加える?」


「筆跡鑑定ですか?」

遠藤警部補は峰に聞き返した。

峰の本音としては遠藤警部補に頼るのは嫌であった。

それは遠藤警部補が嫌いだからではない。

亜理抄の言葉から遠藤警部補が怪しいと思っているからであった。

しかし、他に頼る人がいなかったのでこうしてお願いしにきたわけだ。

「そうです。例の色紙、本人のサインかどうか筆跡鑑定していませんよね?」

「えぇ、まぁ……」

「それじゃあ、お願いします。特に初音未来のところを。」

遠藤警部補はため息をついて言った。

「構いませんが……時間かかるかもしれませんよ?犯罪者でもない人の筆跡ですからサンプルを集めるのも一苦労で……」

「構いません」

遠藤警部補は再びため息をついて言った。

「それじゃやる代わりに今夜、食事でも付き合ってもらえますか?」

「事件が解決しましたらね。それよりも進展はありましたか?」

遠藤警部補は残念そうな顔をしながら言った。

「進展かどうかは分かりませんが……首のない死体が出てきましたよ。廃線になった電車の車庫から」

「首のない……?あぁ、先生の事件の方ですか」

「そ。今、DNA鑑定をしています。本人が喋ってくれないから苦労しましたよ。これで亜理抄さんの方は全部解決ですね」

解決……

峰にとってはまだ動機が謎のままだ。

警察は亜理抄の「漫画で殺した」を動機として鵜呑みにしているのだろうか。

それともその発言から「精神異常者」を理由付けているのだろうか。

峰の胸の奥で何かが引っかかる。

その疑問を聞いてみた。

「パンダニャンは?福笑いだから顔をグチャグチャにされたパンダニャンが傍らに……」

「ん?そういえばなかったみたいですね。まぁ些細な事でしょう」

些細なこと?

亜理抄は必ずパンダニャンを置いてきた。

まるでサインのように。

その時、亀刑事が走ってきた。

いつものように遠藤警部補に耳打ちをする。

遠藤警部補の顔色が変わった。

峰は確信して言った。

「死体、金子悟じゃなかったんですね」

「えっ?えぇ。一体何が……」

やったのは今、事件を起こしている犯人と同一犯だろうか?

それともまた新たな殺人者?

「横で見ていて自分もやりたくなった」

再び亜理抄の言葉が頭をかけめぐる。


数日後。

峰は自室のベッドに寝転がって週刊誌を読んでいた。

普段、漫画雑誌しか読まない峰だが今回は別だ。

「増殖するリストカッター」

週刊誌にはそんな見出しで記事の特集が組まれている。

あの後、リストカッターに似た事件が3件ほど出てきたのだ。

再現したのは4つのうちランダムだが。

週刊誌には愉快犯が模倣しているのではないかと書かれている。

亜理抄の事件とその後のリストカッター……

この二つの事件がきっかけで遠藤新作シリーズは注目されてしまった。

特にリストカッターの回は単行本化されていないにも関わらず、ネットでアップされて誰よりも知られるエピソードになった。

それまでは見向きもされなかったのに。

「んー!」

峰はベッドの上でバタバタ悶えた。

「キリがない」

亜理抄が言いたかったのはこの状況の事ではないだろうか。

「んー!」

再び悶える。

この展開は亜理抄の狙い通りではないか?

おかげで遠藤新作シリーズは注目されている。

「漫画で人を殺せる」

まさにこのために亜理抄は犯罪を起こしたのではないだろうか。

動機は……

「違う!人は漫画で殺せない!」

峰は飛び起きた。

そして点に向かって手を伸ばし叫んだ。

「先生は最愛の人を亡くした復讐で犯罪に手をそめたんだ!」

その途端ビリッと嫌な音がした。

「あっ、やば」

ゴスロリ服のどこがが裂けたのかもしれない。

峰は自室でもゴスロリ服でいることが多い。

「1番落ち着く服だからって、部屋着と外出用は分けるべきかな……」

しかし、段々冷静になってくる。

そして先ほどの自分の発言を思い返した。

「最愛の人を亡くした……?」

雪枝瑠々は死んだと何となく思っていた。

しかし、誰がそう言った。

テーブルの上に置いてある亜理抄宛の手紙を読み返す。

瑠々を装った手紙……

しかし、ストレートに考えれば瑠々が出した手紙とも考えられる。

「雪枝瑠々が生きている……?」


「……また君かね」

峰は安部編集長をたずねてきた。

考えてみれば雪枝瑠々の顔を自分は知らないのであった。

知るための宛が安部編集長しか思いつかなかったのでここを尋ねたのであった。

しかし、今日は邪険に扱われる。

いつもは歓迎オーラ満開な安部編集長が。

前回、口を滑らせた事を警戒しているのかもしれない。

(滑らせた?)

峰は少し安部編集長と話をしてみることにした。

「編集長、雪枝瑠々は今でも生きていると思いますか?」

「何だい、やぶからぼうに」

「答えてください」

「あの前向きな子が自殺するわけないよ」

「自殺?」

安部編集長はまたしても失言したとあせりだした。

峰は突っ込んで聞く。

「本当のことを話してください」

「……」

「では、質問を変えます。服部亮、宮本進、江田順平、金子悟。この4人に共通点はありませんか?」

安部編集長はタバコの火を消し、周囲を見回した。

「ここでできる話じゃないから」

そして別室に案内した。



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