Scene 1. Cut 2
「家が……ローンが……」
リストラリーマンの嘆きを胸に、高校生・白銀ギン、瓦礫に立つ。
新居に家族を呼ぶはずだったのだ。バイトをして貯めに貯めた頭金で、こんなに安い家があるのかと驚いて、急いで連絡を取って、父と、母と、妹にそれぞれ連絡を入れた。返事を待たず、家を買った。それなのに、これじゃあ、また。
「民間人!? どうしてこんなところへ……」
パールカラーの巨大ロボの腰部分が開き、人が顔を覗かせる。上から見下ろしやがって! 瞬間、ギンは沸騰する。
「どういうことだよ! アンタが責任者か! ふざけてんのか! 弁償しろ! 200万だぞ! 一瞬で!」
「エステリオン・コリンより、セレスへ! 民間人がいます! ……えーともしかして、これって仕込みのトラさん? ……違う? ガチのやつ? オーケーオーケー、それならそれで! 逆にね!」
「わぁっ」
急にギンの目前で片膝を付く虹色の巨人。ふわっと、身軽に降りてくるのはさっきのパイロット。女性だろうか? ヘルメットをしているため細かいことはわからないが、ギンと同年代くらいだろうか。
「さ、民間人! ここにいると危ない。早くコクピットへ!」
「え、ちょ、ちょっと! なんだよ!」
「狭いけど、我慢してね!」
文句を言う間もなく、ギンは学生服の襟首を捕まれ、柔道の肩車のように担ぎ上げられ、座り込むロボットの太ももを通って下腹部のコクピットへ運び込まれる。パイロットシート後部の狭っ苦しい補助いすへ座らされると、ぽいぽいぽい、とフルフェイスのヘルメット、救命胴衣、クリアファイルを一冊放り投げられ、慌ただしくコクピットが閉じられる。
照明が灯り、計器類に火が入る。たちまち流れる機械音声。
『警告:コクピット内のEST純度が下がっています、稼働に支障をきたす恐れあり、今すぐ美しからざる不純物を排除してください』
「排除、しない!」
「注意:実績解除――民間人の保護! 足手まといの存在! 脇役に対する寛容! 以上が加算されました」
「チッ、減点の方が大きいか、逆にピンチかな?」
なんて荒っぽい女だ。
『警告:美しからざる行為によりEST純度低下しています。例:舌打ち等』
「わかったわかったわかりましたよ! 了解! 『くっ……これだけ機能が低下してしまっては苦戦は必至……、でもわたしまけない! 民間人を見捨てるなんてできない! 弱い人をわるいグレースたちからまもる、それがエステリオンの使命だから!』」
見事な、棒読みであった。
「――EST純度微増――」
「0.1ポイントだけやないかーい!」
関西弁でもあった。