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にあっているのかいないのか

R15未遂…

 メイドさんたち数名にまわりを囲まれ、逃げられなくなったわたしは、観念してドレスに着替えることになった。


 でも、まさか。


 下着まで全部取り替えられるとは思ってもみなかったので、そのときばかりは激しく抵抗した。


 けれど、あっという間に裸に剥かれ、新しい下着を身につけさせられてしまう。


 わたしはやせっぽちなためコルセットは巻かなくてよかったけれど、かわりに胸元にこれでもかというほど詰め物をされた。


 たしかに胸はまな板なんですが…こんなに詰めなきゃいけないですか?


 メイドさんたちはきびきび動き、ダークオリーブグリーンのドレスを着せたあと、次にわたしを鏡台の前に移動させようとした。


 かかとの高い靴を履き慣れていないわたしは、ドレスの裾を踏みそうになったりつまずきそうになったりしながら、手をひかれ、なんとかそこまでたどり着く。


 大きな鏡にうつし出される、貧相な娘の姿。


 ドレスが美しいだけに、余計にみすぼらしく見える。


 わたしは、目の前の自分をできるだけ正視しないように、目線を下のほうへずらした。


「きれいな蜂蜜色の髪ですね」


 髪を結いながら、メイドさんの1人が話しかけてきた。

 他のメイドさんたちは、無言で仕事を続けている。


「この柔らかでふわふわした感じを残したまま結わせていただきます」


「は、はい。お願いします」


 他人に髪を結われることなどなかった。


 自分でも結ったことはない。


 いつも、洗いっぱなしの乾かしっぱなし。たまにブラシでとかす程度。


 髪をのばしているのだって、切りに行くのが面倒なだけ。


 ちらりと鏡に目をむけると、すごい速度でメイドさんがわたしの髪を複雑に結い上げていた。


後ろはおろしたまま、両横の部分を編み込んでいる。


「すごい…」


 髪形ひとつでこんなにかわるなんて。

 見慣れた自分の顔のはずなのに。


「なんて愛らしいんでしょう!」


 いつの間にか横に来ていたロシュミット夫人が感嘆の声をあげた。


 それなりに見られるようになったのは、ドレスと髪型のおかげだとわたしは思う。


「早く仕上げて、テオに見せてあげたいわ。みんな、急いでちょうだい」


 はい、とメイドさんたちが揃って返事をする。




 非常に、歩きにくい。


 衣装部屋からテオの部屋までの道のりが、途方もなく遠く感じる。

 否、実際に遠い。


 それでもなんとか、広間までやってきた。

 あと一息。


 テオは、部屋にいるだろうか。


 着飾ったわたしを見て、どう思うだろう。


 もし、もしも。

 似合ってない、とか言われたらどうしよう。


 こんなわたしのために色々してくれたメイドさんたちに申し訳ない。


 思考がどんどん後ろ向きに。


 ロシュミット夫人にうまくのせられたけれど、このドレスは元々娘さんたちのために仕立てられたもの。

 わたしのような平民が着ていいはずがない。

 ドレスを仕立てたドレスメーカーのかたが見れば、さぞやがっかりすることだろう。


 そうこうしているうちに、テオの部屋の前まで来てしまった。


 覚悟を決めて、ドアをノックする。


「入っても、いい?」


 遠慮がちに声をかける。


「どうぞ」


 テオの返事にわたしは深呼吸をしてからドアをゆっくりと開け、なかへ入った。


 テオは読書中だったようで、はじめはドアに背をむけて座っていた。

 わたしがなかに入り、ドアの閉まる音を確認すると手に持っていた本を机の上に伏せ、ゆっくりと振り返る。


 目と目が合った。


 みるみる彼の目が大きく見開かれていき。

 そこに浮かぶ驚愕の表情。


「テオ…」


 わたしは、彼の目にどううつっているのだろうか。


 普段のわたしに比べて少しはましになっているだろうか。


 テオはなにも言わずに立ち上がると、こちらに歩いてきた。

 なぜか、難しい表情で。


 わたしの正面に立ち、編み込まれた髪に触れる。


 太くて節くれだった指が、髪からわたしの耳へと移り、サファイアのイヤリングのついた耳たぶを軽くつまむ。


 わたしの瞳の色に似ているからと、ロシュミット夫人に選んでいただいたものだ。

 これとお揃いのネックレスとが、「あげるわ」という夫人の鶴の一声でわたしのものになってしまった。


「テオ…」


 わたしを見て、どう思ったのか知りたい。

 なのにさっきから一度も口をきかない。


 似合ってる?

 それとも、変?


 固い表情を崩さず、テオはドレスの襟を指でなぞり。


 笑ってくれないってことは、気にいらなかったのかな。

 わたしにドレスなんか、まだまだ早かったんだ。

 しかもこんな高級なものを…

 やっぱり、あとで夫人にお返ししよう。


 暗く沈んだ気分になり、それをテオに悟られないようにうつむこうとした瞬間。


 体がふわりと宙に浮き。


 わたしは軽いめまいをおぼえる。


「あ…」


 テオに横抱きにされていた。


 いわゆる、“お姫さまだっこ”という抱きかたで。


「テ、テオ…」


 わたしを抱き上げたテオの眉間にしわが寄る。

 どこか、苦しそう。


 その態勢のまま、彼はくるりと向きをかえると急ぎ足で歩きだした。


「ちょっ…どこへ…?」


 無言のままテオは部屋の奥へ進むと、そこにあったドアを開ける。


 なかは、寝室だった。


 どうやらテオに与えられた部屋は2部屋がつながったものだったらしい。


 ベッドは森のテオの家にあるものと大きさこそかわらなかったけれど。

 装飾が見事で、天蓋までついていた。


 わたしが通された部屋は普通のベッドだったのに。

 天蓋つきとか、一度は寝てみたかったのに。


 そんなことを考えていたら。

 ぽん、とベッドのうえに投げ出され。

 仰向けに寝転がった状態のわたしに、テオがその体ごとかぶさってきた。


 テオの熱い吐息がわたしの鼻にかかり、唇が重なる。


 欲の色を宿した黒の双眸は、濡れて妖しい光を帯びていた。


 わたしの頭の中で、警告するだれかの声が響く。


 危険、危険、危険―――!


 テオの顔から目をそらせず、かといって目を閉じることもできず。

 身をよじっても、おさえこまれている体はびくとも動かず。


「テオ、待って…」


 角度をかえ、何度も重ねられる唇の合間をぬって、わたしは言葉を紡ぐ。


「わたし、まだ、未成年、だよ」


 一言ひとことのあいだにもキスをされてしまっている。


 しかもだんだん、唇を重ねている時間が長くなっていって…


「だめだって!」


 抵抗の意志をしめすために、口をかたく閉じ、両手でテオの厚い胸板を押す。


 テオのキスの嵐が去った。


 依然として瞳はうるんでいるし、顔も近かったけれど。

 なんとか理性は取り戻してもらえた、らしい。


「ノアザ…」


 テオの声は低く、ひどくかすれていた。


「怖かった、か?」


 テオの問いに首を横に振る。


「びっくりしただけ。でも…どうしていきなり?」


 わたしはドレスを着た姿を見てもらいたかっただけ。


 似合う―――そう言ってもらえるだけでよかった。


 それが、どうしてこうなった?


 テオはわたしから体を離し、起き上がるとベッドの端に腰かけた。

 わたしもなんとか上半身を起こし、ベッドのうえに座る。


「可愛すぎるんだよ」


 テオは片手でぐしゃぐしゃと自分の頭をかいて、ぽつりとこぼす。


「え?」


「その格好、反則だ」


 拗ねたようなまなざしで見つめられる。


「反則…って」


「約束はまもるつもりだった。だが、そんなドレス姿を見せつけられて、冷静でいられるはずがない」


 テオの手がわたしの腰にのばされる。


「いまのその姿をみて、おまえを好きにならない男はいないだろう。おれはおまえをだれにもとられたくはない。だから、いっそ…」


 既成事実を作ってしまおうか、と。

 いま、ここで。


 おれのものだと知らしめたら、手を出す輩はほぼいなくなる。


 苦しげにそう告白され。


「じゃあ、ドレス姿は変じゃなかったのね?」


 わたしはとっさに訊ねてしまう。


 テオはきょとんとした顔をし、次の瞬間、くすくすとおかしそうに笑った。


「なにがおかしいのよー。知りたいんだもん」


 真っ赤になりながら、頬をふくらませるわたし。

 テオは、腰にのばした手でわたしを抱き寄せると


「まるでおまえのためにあつらえたのかと思うほどよく似合ってる。でなきゃこんなに欲情するか」


 サファイアの光る耳許で低く囁く。


 わたしは、テオの胸をぽかりと叩いて、顔をうずめた。



いちゃいちゃあまあまを目指してみたのですが…

お粗末です(泣)

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