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【蛇足】まいあさのにっか

朝の光景。


ちょっと下品?

 寝返りを、うつ。


 なにかに、手があたる。


 さわる。


 あたたかい、なにか。


 なにかは動き、わたしのからだを引き寄せる。


 わたしはなにかにほおずりする。


 なにかのあたたかさが、わたしのからだに伝わってきて。


 うれしくなる。




「…!?」


 わたしは飛び起きた。


 隣で規則正しい寝息がきこえる。


「テオ…」


 わたしは頭を抱えた。




 バルタザルの王宮から戻ってきて2か月。


 あれからテオは毎晩わたしのベッドへ入ってくるようになった。


 わたしの隣で寝るだけで、なにもしてこないのだけれど。


 始末が悪いのは、わたしが寝ついてからこっそり忍びこんでくること。


 いっしょに寝ることについては、わたしは嫌じゃないから(むしろ嬉しい)、「これからは同じベッドで寝るぞ」と一言断ってくれればいい話なのだ。


 わたしがそう言うと、テオは


「夜這いは男のロマンなんだよ」


 と、わけのわからないことを返してきた。


 夜這いって…


 なにもしないのに?


 寝間着が乱れていたことも、体に違和感があったことも一度もない。


 だから、多分、なにもされていない。


 それでも夜這いというの?


 まあ、なにかされたらされたでまた困ることになるから、横でおとなしく添い寝してくれているいまの状況はわたしの貞操という観念においては、とてもいいことなんだけれど。


 …意味がわからない。


 相変わらず、普段はわたしの部屋には一切立ち寄らず、わたしがなかにいるときはドア越しに声をかけるだけ。

 居間での態度も以前と変わらず、わたしが話しかけないかぎり、ほぼ無口。


 なのになぜか夜だけ。


「テオ…起きて…」


 わたしはテオの腕を揺する。


 テオは眼を閉じたまま、揺すられたほうの腕をゆっくり上げると、わたしの背中に手を回し、そのまま自分のほうにわたしの体を引き寄せ。


 わたしはテオの体の上に腹ばいになってしまう。


「テオ!」


 これも毎度のこと。


 わたしが怒ったような声を出しても、それがポーズだとわかっているから。


「軽いな」


 体重のことを言っているのだろう。

 テオのおかげで食事量は増えたけれど、それが体型に反映されている感覚はいまのところ、ない。


 細い手足に平らに近い胸、あばらの浮いた脇腹にこじんまりとしたお尻…女性としての魅力はまるでない。

 体型だけみると、少年といっても差し支えない。


 テオの背中に回した片手とわたしの全身をつかっての攻防。

 わたしは両腕を突っ張りテオの体の上からどこうとし、彼は逆に押し留めようとする。


 悔しいのは、テオは片手なのにまったく歯がたたないこと。

 自分の非力さを思い知らされる。


 テオと腹部同士が密着した状態で、わたしが顔を真っ赤にする。


 下半身に、なにかかたいものが…


 これも毎朝のことで、男のひとの生理現象だとわかっていても。


 恥ずかしい。


 なぜ、わざとあたるような抱きかたをするの。


「テオ…放して」


 テオはわたしが恥ずかしがっていることを重々承知の上、意図的にしているのだ。


 だってにやにやしながらわたしの顔を見つめているもの。


「いやか?」


 抱かれるのはいやじゃない。テオの体温やにおいを感じることも、太い腕にすっぽりと包まれ、愛されていると感じることもとても好きだ。


 でも、そこに露骨に性的なものを介入させるのはやめてほしい。


「だって…あたってる、もん」


 わたしたちは恋人同士。


 わたしは15歳のまだ子どもだけれど、テオは成熟したおとなの男性だから、そういう行為をしたくなるのはわからなくもない。


 このわたしの未発達の体に反応する特殊な性癖のことはこの際棚に上げておくとして。


 直接的な恋愛表現はいかがなものか。


「あててるしな」


 くすっと笑う。


 その精悍な顔立ちについつい騙されそうになるけれど。


 していることは、セクハラだ。


「やめてよ…こういうことするの…」


 テオはこんなことをしないひとのはず。

 もっとこう、おとなで、包容力があって、余裕があって…


 とにかく、こんな下ネタは似合わないの!


「はいはい」


 これ以上なにかを言うとわたしの地雷を踏むとわかっているテオは、わたしの細い腰を両手でつかむと、自分の体の上からひょいとどけた。


 猫かなにかのような扱いである。


「さて、朝食の準備でもするか」


 いままでのやりとりが夢だったかのようにテオの顔つきが保護者のそれにかわる。


 その落差に、翻弄される。


 テオは腹筋をつかって起き上がると、まだ顔を赤くしたままのわたしの頭をぽんぽんと叩き、父親のような慈悲深い微笑みをむけた。


「愛している」


 この笑顔、反則…


 だからわたしはなにをされても許してしまう。




 ここまでが毎朝の日課。



ただ、2人のいちゃいちゃが書きたかっただけです…



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