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あらしのあと

基本的にいちゃいちゃしています。

 国王さまの執務室から部屋へ戻る途中、テオはレビンソンさんが働いている事務室に寄って、自分たちが明日森の家に向けて発つことを告げた。

 移動用の魔方陣で転送してほしいことも。


 レビンソンさんは、事前にテオのお兄さんから話を聞いていたみたいで、上級の魔導師を紹介してくれる。

 そのひとはレビンソンさんの職場の上司で、結構なお年寄りだった。


 テオはそのおじいさんと面識があるらしく、二言三言言葉を交わしていたけれど、疲れてぐったりしていたわたしは、興味がないのもあって何を話しているのか聞き取れなかった。


 おじいさんは上級の魔導師だけあって、中継を挟まずに森の家の前につくられた魔方陣にわたしたちを転送できるとのこと。


 出発の時刻を決めると、テオは長居は無用とばかりにすぐに部屋を出た。


 わたしが廊下に出たとたん、すぐにまた抱っこされる。




 その夜。


 自分の荷物を持ってテオがわたしの部屋に来た。


 わたしのことが心配で、ひとりきりにさせたくないから、らしい。


 わたしといっしょにいたいから来たんじゃないかな。

 って、ちょっとうぬぼれてみたり。


 いま、テオは机の前に座り、明日朝一番に提出する報告書を書いている。


 テオしか知らない事柄もあるから、必ず本人が書くようにとお兄さんから厳しく言われたって。


 難しい顔で文面を考えている。


 わたしはそのあいだに別の場所にある来賓用の浴室で体を洗い、寝間着に着替えた。


 わたしが部屋に戻ったときも、テオは書類とにらめっこをしていたから、できるだけ邪魔しないように静かにベッドのへりに腰かける。


 そういえば、半年近くいっしょに暮らしているけれど、同じ部屋で寝たことは一度もないなあ。


 ふとそう思って。


 そうしたら、急に心臓の鼓動が早くなった。


 テオを変に意識してしまい、顔まで赤くなってくる。


 どうしよう…


 静まれ、わたしの心臓。


 とりあえず、テオに気づかれないように、背を向けて反対側に座りなおす。


 明日、森の家に帰る。


 一度は諦めかけた日常が戻ってくる。


 王女さまの存在とテオの出生のことを知って、鉄槌で頭をがんと殴られたような衝撃を受けた。


 仲睦まじく中庭を歩く2人の姿は、年の差はあれど理想の恋人同士に見えたし、テオの出自からしてみれば彼の気品漂う姿は当然のことなのだ。


 …森の家ではくまさんだったのに。


 次に、王女をまもる勇敢な騎士の絵が脳裏に浮かぶ。


 テオはかつて英雄と呼ばれた騎士だったとオーランシュさんは言っていた。


 もし、まだ現役だったら…


 わたしと出会うことはなかった。


 わたしがテオを知る機会はなく、ましてや恋心を抱くこともなかった。


 こんなに苦しい思いはしなくてすんだのだ。


 でも。

 それでも。


 わたしはテオに出会うほうを選ぶ。


「なにをじめじめしてるんだ」


 ふいに、背中越しに声をかけられて。驚いたわたしの体がびくんと跳ねた。


 両肩に手を置かれ、肩越しに顔をのぞきこまれる。


「泣いてるのかと思ったぞ。どうせまた、暗いことを考えてたんだろう」


 わたしの頬にテオの息がかかる。


 顔が、近い、です…


 何度もキスをしているから、慣れている距離のはずなのに。

 しばらくのあいだ離れていたせいか、はじめてのときにみたいにどきどきする。


 後ろから抱きしめられた。


 わたしの体は両腕ごとテオの太い腕に拘束され、彼の大きな体にすっぽりと包まれる。


 布越しとはいえ背中にテオの体温を感じ、わたしはうつむいてなんとか平静を保とうと努力した。


 テオの体がわたしの体に密着しているせいか、全身が熱くなってきて戸惑う。


「難しく考えなくていいんだよ。おれはおれだしノアザはノアザ、それだけだ」


 しゃべるテオの唇がわたしの頬に軽くあたる。

 それだけで、もう、意識が飛びそうで。


 どうしよう…

 どきどきしてるのが、テオにばれちゃう。


「なあ、ノアザ」


 頬にテオの唇が押し付けられ。


「おまえが欲しいよ」


 テオの熱をもった瞳は潤み。


「…成人するまで我慢はするが」


 テオはそう呟くと、わたしの体から離れ、ベッドから下りる。

 そしてわたしの正面に回り、おもむろにシャツを脱ぎはじめた。


「!!」


 わたしは慌てて両手で眼をおおう。


 な、なにをする気なの!?

 成人まで我慢するっていま言ったとこじゃないっ!


「おれを見ろ」


 テオの声にわたしはゆっくりと手を下ろし、眼を開けた。


 言葉が出ない。


 テオの体は岩のような筋肉でおおわれていた。

 どれだけ鍛えたらそうなるのかなんて予想もつかない。


 これが、英雄と呼ばれた騎士の体、なのか。


 けれどわたしがびっくりしたのは、鍛え上げられた体のせいじゃない。


 その体をはしる大小さまざまな無数の傷痕に。


 何度その身に刃を受けたのか。


 傷つけられ、血を流すその痛みに堪え、進む。


 痛かっただろうとわが身に置き換えてみると、もういけない。


 涙がじんわりと眼に浮かんでくる。


「いずれは見せるつもりでいたが…ひどいもんだろ?」


 だからずっと長袖のシャツを着ていたのだ。

 全身の傷痕を隠すために。


 お風呂上がりのときも、テオはきちんと服を身につけていた。

 半袖も、ゆったりした服も決して着ようとしなかった。


 わたしは泣きながら、ぶんぶんと音がするくらい首を横に振る。


 涙があたりに飛び散ったけれど気にしない。


「よく…生きて…」


 たくさん戦場におもむいたのだろう。


 なかには、重傷を負ったときだって。


「悪運だけは強くてな。なんとか生き残れた」


 わたしは思わず立ち上がり、テオに抱きついた。


 いなくなってしまいそうで。


 体に負った傷はすべて過去のものなのに。


 失うのは両親だけでたくさん。


「生きててよかった…テオがいままで生きてて、本当によかった…」


 もう、年の差だとか身分違いだとかはわたしにとっては些細な事柄になった。


「戦争で死ななくてよかった。生きててくれて…」


 ぎゅっと抱きしめられる。


 わたしも負けじとテオの体に回した腕に力をこめる。


「積極的なノアザもいい…」


 見上げると、そこには普段の表情のテオの顔があった。


 先ほどまでの張りつめた空気も霧散し、ほのぼのとしたものが漂う。


「あれ?」


 わたしが発した疑問をのみこむようにテオの唇が重なり、息ごと吸われる。


 やーん。

 わたし真剣だったんだよ。


 テオはどこまで本気なの?




 テオとわたしは同じベッドで寝たけれど。

 わたしはテオに背を向けて、寝た。

 2人の間にありったけの枕やクッションをつめて。



とりあえず、本編はここで終了です。

あとは、蛇足となりますが、ノアザ以外の登場人物の話をいくつか入れて完結しようかな、と。


設定を活かしきれていないのは充分承知しています(泣)

王女さまとか、もっと嫌な性格で話に絡ませてもよかったのですが…如何せん文章力のなさと執筆時間のなさにそこまでできず…ドロドロしたのを期待されていたかた、すみませんでした。


ほぼ毎日の更新を心掛けていましたが、これからは少しペースを落として、細々とやっていきたいと思っています。


しつこいようですが…読んでくださったかた、お気に入り登録してくださったかた、評価してくださったかた、感想くださったかた、本当にありがとうございました。


まだ、ちょっとだけ続きますので、お暇なかたはときどきのぞいてみてください。

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