帰郷
●異世界 レグムンドの丘
異世界と現実世界を結ぶ丘。
山の上に張り出した岩場のような場所。
空は晴れていて、下弦の月が浮かぶ。
蒼司郎「十年ぶりか…レグムンドの丘。…まぁあの時はそれ所じゃ無かったからな」
ミリア「良い眺めだね。村の明かりがあんなに遠いや」
後ろから歩み寄ってくる腹違いの妹ミリア。
蒼司郎「……」
一拍の沈黙の後、ミリアの頭を殴りつける蒼司郎。
ミリア「痛った~い!酷いよ兄ちゃん」
蒼司郎「ミリア…何でお前がここにいるんだ」
疲れたように蒼司郎は言う。
ミリア「だって~私も父ちゃんや兄ちゃんの故郷に行きたいもん」
蒼司郎「…もんって、俺は遊びに行く訳じゃないんだぞ。…今の状況。お前にだって分かるだろう?それに、お前…師匠にはちゃんと許可とったのか?」
あきれ顔の蒼司郎。
ミリア「バッチシ!」
ミリアは親指を立てて、いい笑顔をする。
師からの手紙「ブチブチ文句言われるのもメンドイからアンタに任せた。PS姉さんによろしくね」
蒼司郎(まぁ、こういう人だな)
ため息を吐く蒼司郎。
蒼司郎「いいぜ。連れてってやる。俺の生まれた世界に。だけど分かってるんだろうな。向こうに渡るって事は、数年、下手すりゃ十年はこっちに渡れないんだぜ。友達との別れとか済ませたのか」
ミリア「ぬかりなし。ほら、頼まれたおみやげリスト。みんなに書いて貰ったの」
誇らしげに掲げてみせるミリア。
おみやげリスト。
ちんすこう 熊の置物 眼鏡 酒 猫耳 セーラー服 カッパのミイラ 可愛い男の子 超泉水 髪飾り 刀 カスタネット モビルスーツ ギロチン タイムマシン 綺麗なお花
蒼司郎(大体誰が書いたか分かる自分が嫌だ)
蒼司郎は気を取り直し、
蒼司郎「そうかよ…で、ちゃんと持ってきてるんだろうな?」
ミリア「勿論」
蒼司郎はそうミリアに尋ねる。その時、腕時計のアラームが鳴る。
蒼司郎「そろそろか…」
蒼司郎は胸に架けている青色の石を首から外す。取り出したケースの中の赤いと取り替え首に架ける(蒼司郎とミリアは二種類のタイプの魔力を混在させている不安定な存在。世界ごとに二種類のリミッターであるネックレスを付け替えなければならない)。
ナレーション「二つ世界を繫ぐ丘。互いの世界の月が上弦と下弦。半円を為す時―」
ミリアもおそろいの箱から取り出したネックレスを交換する。
すると、下弦の半月だった筈の月が青い満月に見える。
ミリア「おっ…ホントにお月様が蒼色に見える」
蒼司郎「気を引き締めて行けよ。こっちを隊長達に押しつけて行くんだ…はい、失敗しましたじゃ、みんなに会わす顔がねーぞ」
ミリア「任せといてよ!」
はしゃぐミリアの横でため息を吐く蒼司郎。表情を切り替え、空を見上げる蒼司郎。
蒼司郎「良い月だ…蒼い満月。刻限は定まった」
蒼司郎は目の前に手をのばす。するとそこに光の穴が開く。
ナレーション「深紅と蒼の満月が、世界を繫ぐ標べとなる」
●現実世界。 茉莉の通う高校 放課後
ジーッと夕焼けの空を見上げる茉莉。
茉莉「……」
陽菜乃「ねぇ、茉莉ちゃん。どうしたの?」
陽菜乃の声で正気に戻る
茉莉「うんん。何でも無い。なにか変な感じがしたんだけど気のせいみたい」
陽菜乃「今日は確かあのお店でバイトだよね」
茉莉達が歩く後ろでもう一人、空を見上げる人物。茉莉と同じ制服を着たエニス。
エニス「誰か…渡ってきた?」
エニス「全く…仕事を増やしてくれる?」
煩わしそうな顔で言う。
●山の山頂
二人はヘロヘロになって地面にへたりこんでいる
蒼司郎「相変わらず…堪えるな」
ミリア「こんなの…聞いてない」
蒼司郎「勝手について来たんだろ?…文句言うな」
二人で肩で息をしながら、地面に寝っ転がる。
そこに近づく足音に気づき、蒼司郎が寝転がってる姿のままで声をかける。
蒼司郎「だれだ?アンタ?」
エニス「神術協会、特務課所属、エニス・ラングレー。ここの管理を任されてる人間よ」
蒼司郎「管理者?んな話、聞いてないけどな…っと」
飛び起き、エニスと対峙する蒼司郎。
エニス「彼方からの来訪者は敵と見なせってのが神術協会の方針でね」
蒼司郎「成る程、やっぱり色々と面倒な事になってるんだな」
わずかに、顔を顰めるエニス。蒼司郎は表情の変化を目ざとく拾う。
エニス「…話す事は無い。とりあえず大人しくついてきてもらう」
蒼司郎「了解。俺達は別に争う気は…」
両手の掌をエニスに向け掲げる蒼司郎。そんな蒼司郎の横をミリアが猛スピードで駆け抜ける。そして、エニスに跳び蹴りを食らわす。
ガードをしたが、吹き飛ばされるエニス。
エニス「ッツ…」
蒼司郎「んな!」
驚く蒼司郎。ミリアは堂々と戦闘態勢を取る。そんなエニスの頭を叩く蒼司郎。
蒼司郎「馬鹿野郎!お前一体なにしてんだ?」
ミリア「だって、戦いは先手必勝だって師匠が…」
エニス「そう…正面切ってやり合おうって言うのね…いいわ…相手になる」
転げたせいてついた、土を払いながら不敵な笑みを浮かべるエニス(滅茶苦茶怒ってる)
蒼司郎「アレは地元の治安警護の人間だ。お前のせいで被疑者から犯罪者になっちまったじゃねーか!とりあえず逃げるぞ」
エニス「逃がさない」
エニス「エレメンタル・バインド」
地面から生えた光に拘束されそうになるがかろうじて交わす。
エニス「ッチ」
舌打ちをして、蒼司郎を追いかけるエニス。
蒼司郎は走りながら、首のネックレスを外す。
エニス「止まらないのなら手加減はしない。雷蛇蹂躙」
エニスの放った雷鳴の大蛇が追いかけてくる。
蒼司郎は、こちらでは使ってはダメな力の封を解いたため、体中に負荷がかかる。そんな中、蒼司郎はエニスに警告を呼びかけただの光の玉を雷鳴の大蛇に投げる。
蒼司郎「ッチ…おい!広範囲に連鎖爆発が熾きる。避けろよ!」
防御の術式を発動。しかし、広がる爆発に触れた瞬間、防壁を巻き込み拡大。
エニス「なっ!」
エニスは肉体強化で後ろに跳躍。爆発から難を逃れる。
エニス「なんなの…これ」
爆発を驚愕の表情で見るエニス。
爆発はすぐに収まる。しかし、当然ながらそこには誰もいなかった。
エニス「逃がした」
そこで、エニスの携帯が鳴る。
●少し離れた山中を走る二人。
右手を押さえながら走る蒼司郎。
ミリア「兄ちゃん。手が!」
蒼司郎「心配ない義手の方だ!とりあえず逃げるぞ!」
●山から下り、町にでて一息つく二人
蒼司郎「怪我は無いか?」
蒼司郎はミリアに訊く。ミリアは力なく垂れ下がる蒼司郎の右腕を見て、元気無く申し訳なさそうな様子で、
ミリア「…ごめんなさい」
蒼司郎はぽんとミリアの頭の上に手を置き、優しい表情と口調で、
蒼司郎「俺は大丈夫だ。それに、おれはお前に怪我が無いかと訊いているんだ」
ミリアはパーッと表情を明るくして、
ミリア「うん。大丈夫」
蒼司郎「ならいい。とりあえずここから離れよう」
ミリア「うん」
嬉しそうに、蒼司郎の後をついて行くミリア。
ミリア「…お家…何処にあるのお兄ちゃん?」
蒼司郎「あれ…ここじゃなかったっけ」
頭を掻く蒼司郎。
ナレーション「迷いました。そして―」
フラフラと歩く二人
ミリア「まだ…」
蒼司郎「…もう少しだ」
ミリア「それ!三日前から言ってるじゃん」
蒼司郎「知るかよ!よく考えてみれば俺、当時六歳だぜ!道なんて覚えている訳無いだろうが!」
ミリア「逆ギレないでよ!」
その場にへたり込むミリア。
ミリア「もう…だめ。異界へ渡って早々、不甲斐ない兄のせいで餓死するなんて。私の人生何だったんだろう?」
蒼司郎もへたり込む。
蒼司郎「うるさい。喋るな。腹が減る」
そこに偶然通った陽菜乃が、恐る恐る歩み寄る。
陽菜乃「あの…大丈夫ですか?」
ミリア「…食べる…物」
潤んだ瞳を陽菜乃に向けるミリア。
陽菜乃「わっ…分かりました!」
●公園
近くの公園に移動して、ベンチの上でコンビニで買ってきたパンなどを黙々と食べる二人。
蒼司郎「いや、助かったよ。三日前から水しか飲んでなくて」
ミリア「ありがとう。この恩は一生忘れないよ」
陽菜乃「そんな、大げさな」
陽菜乃はモジモジしながら質問をする(隠れコスプレイヤーで、声をかけたのも二人がコスプレをしていると思ったから)。
陽菜乃「それって…なんのコスプレですか?」
ミリア「ん?コスプレなにそれ?」
蒼司郎の方を見るミリア
蒼司郎「分からん」
そんな返答をする二人に、陽菜乃は自分の質問に気恥ずかしさを覚え、その場から立ち去ろうとする。
陽菜乃「それじゃ、私はここで」
蒼司郎はそんな陽菜乃の後ろ姿に呼びかける。
蒼司郎「ちょっと待った。君さ、望月槭樹って人の家を知らないか?」
陽菜乃「えっ?」
驚いた顔をする陽菜乃。
蒼司郎宅。
玄関のチャイムを鳴らす陽菜乃。
玄関から出てきたのは母の槭樹。
槭樹「あら、陽菜乃ちゃん。どうしたの?あの子はまだ帰ってきてないわよ?」
陽菜乃「いえ、楓さん違うんです。実は…」
気恥ずかしそうに、姿を見せる蒼司郎。槭樹は真顔で、
陽菜乃「…どちら様ですか?」
蒼司郎「うぉーショック。俺の存在。綺麗サッパリ忘れられている?たしかに十年たってるけど、なんかフィーリング的なもので分かってくれると信じてたのに」
槭樹「嘘よ。ウ・ソ。お帰り蒼司郎」
十年ぶりの再会なのに滅茶苦茶軽いかんじ。
蒼司郎「相変わらず冗談きついぜ母さん」
陽菜乃「お母さんって事は茉莉ちゃんのお兄さん?…って、えーー!」
一人驚きの声があげる陽菜乃。
●数時間後。帰宅する茉莉
茉莉「ただいまー」
槭樹はご馳走を作ると買い物に出かけている。そこに出迎える蒼司郎。
蒼司郎「よっ…お帰り」
軽い感じで挨拶をする蒼司郎。陽菜乃は怪しげな瞳を蒼司郎に向ける。
茉莉「…誰です…貴方」
瞳に警戒の色が浮かぶ。
蒼司郎「なんだ…お前もか…」
蒼司郎「兄貴の事を忘れるなんて薄情だ―」
言い終わる前に、蒼司郎に顔に向け、貫手が飛ぶ。頬を掠め、一筋の血が流れる。
蒼司郎「って…おい。なんだよ、いきなり」
茉莉「…ざけないで」
蒼司郎「はぁ…?」
茉莉「巫山戯ないで!」
もう一度言い直す、強い口調で、瞳に涙を浮かべながら。
茉莉「お兄ちゃんは死んだの!私が小さい頃に!」
蒼司郎「いや、死んでねーし!」
必死に弁明する蒼司郎。
茉莉「あの時に…私のせいで…」
一人の世界に入り、ボロボロと涙を流す茉莉。
蒼司郎(母さん…俺の事、コイツになんて説明したんだ?)
蒼司郎「だから、俺は望月蒼司郎本人だ!」
茉莉「やめて…それ以上…私の前で…お兄ちゃんの事を語らないで!」
体に炎を纏う茉莉。
蒼司郎(ったく、母さんといい、師匠といい、コイツといい…このピンホールテスターみたいな気質は遺伝だな。絶対)
炎を纏った手刀。それをかわす蒼司郎。
蒼司郎「おいぃぃ!殺す気かお前!」
蒼司郎(こうなったら防御術式を…)
蒼司郎「……」
沈黙する蒼司郎。そこに茉莉は容赦なく切り込んで来る。
蒼司郎「こっちじゃまだ力使えないんだった~。仕方ねー」
蒼司郎は茉莉の体が伸びきった所を狙い左手で小手返しで地面に押さえつける。
茉莉「放せ!」
体に纏う炎の火力を上げる茉莉蒼司郎の上着に飛び火する。
蒼司郎「うわちちち!止めろ家を燃やす気か!おいミリア!おい!」
ミリア「さっきから騒がしいな…」
一人ガリガリ君を食べているミリア。
ミリア「…なに遊んでるの?」
二人の組んず解れつを見て、そんな感想を言うミリア。
蒼司郎「遊んでるように見えるか!?いいから深紅の双璧をこっちに投げろ」
ミリアはポケットから赤い石を蒼司郎に投げる
ミリア「はい」
蒼司郎は左手は茉莉を押さえている。右手は動かないので、口で石についている鎖をキャッチ。茉莉の背中に落とす。
茉莉「なっ!」
石が触れた瞬間、茉莉の体から炎が消失。
蒼司郎「ったく、一張羅が台無しじゃねーか」
燃えた服の間から見える、右腕の義手。茉莉はそこに目が釘付けになる
茉莉「その…腕…」
槭樹「何やってるのかしら…」
買い物袋を抱えた槭樹が、満面の笑み。
母にボコボコにされた蒼司郎。ダイニングのテーブルに四人がけで座っている。
蒼司郎の正面に茉莉。横にミリア。斜め前に槭樹の配置。
槭樹「もう…再会の喜びに浸るのはいいけど。あまりはしゃいだらダメでしょ」
蒼司郎「だからって…何で俺が一方的に殴られなきゃならないんだ?」
槭樹「こういう時はお兄ちゃんが責任をとるものでしょ」
蒼司郎「仕掛けたのは茉莉だぜ。納得いかねー」
茉莉「お母さん!どういう事!?」
茉莉が机を叩き立ち上がる。
槭樹「何が?」
茉莉「何がじゃないでしょ!お兄ちゃんの事よ!」
槭樹「だから何が?」
槭樹はあくまで分からないと首を傾げる。
茉莉「私にはお兄ちゃんが…死んだって言ったじゃない」
槭樹「えっ!私、そんな事言ってないよ」
驚く槭樹。茉莉は苦虫をかみ殺すような顔で、
茉莉「嘘言わないで!だって!あの時」
●過去 回想 十年前
茉莉「お兄ちゃん…お兄ちゃんは…何処にいるの?」
泣きながら兄を捜す幼い頃の茉莉。
槭樹「茉莉ちゃん。よく聞いて。蒼ちゃんは遠くへ行ってしまった」
槭樹は茉莉の両肩に手を置き、しゃがみ込み目線の高さを合わせ、諭すように。
茉莉「何処に居るの?そこに茉莉も連れて行って!お兄ちゃんに…茉莉…謝らないと…」
槭樹「それは出来ない…その場所には茉莉ちゃんは行く事が出来ないから…でも大丈夫。またきっと会えるから」
慈愛に満ちた顔で、そう告げる槭樹。
●回想 終わり
茉莉「―って!」
槭樹「だから、遠くに行ってたんだよ。異世界に行ってたからすぐに会えないって意味で言ったんだけど…成る程、だからあれ以来、茉莉ちゃん蒼ちゃんの話をしなくなったのね」
茉莉の話を気楽に流す槭樹
蒼司郎「母さん。それ、俺が聞いたって同じ事思うぞ?」
槭樹「そう?まあ良いじゃないこうして蒼ちゃんは生きてるし、また会えたんだから」
茉莉「全ッ然よくないけど、この話はひとまず置いておくとして、そっちの子は一体誰なの」
槭樹「あっ、それ、私も聞きそびれてたんだけど。蒼ちゃんのいい人なんでしょ?」
蒼司郎「そういやまだ紹介してなかったな。コイツ、親父の隠し子」
槭樹・茉莉『は?』
二人の声がハモる。
蒼司郎「自己紹介しろよ」
ミリア「あっ、うん。ミリア・リンクスです。ママやお兄ちゃんに色々な話を聞いて面白そおうだからついて来ました。よろしくお願いします」
茉莉「って…事は…妹?」
蒼司郎「そうそう、確かお前十五だよな」
ミリア「妹の歳位ちゃんと覚えておいて欲しいな。ちなみに来月誕生日…でもこっちとは少し暦がずれてるんだよね…あれ、後何日で私十六歳になれるの?」
蒼司郎「しらねーよ、そんなの」
ミリア「あっ、無責任!可愛い妹の誕生日なんだよ。全身全霊をもって祝うのが兄としてあるべき姿だと思います」
蒼司郎「具体的には?」
ミリア「美味しい物が沢山食べたいです!」
茉莉と槭樹が沈黙している事に気づくミリア。
ミリア「あれ、二人ともどうしたの?」
蒼司郎「まあ、みんなお前ほど単純に出来てないって事だ」
ミリア「それって、どう言う意味?」
ミリアはムッとする。そんな中、槭樹が恐る恐る口を開く。
槭樹「ミリアちゃん…だっけ。リンクスって名前から察するに貴方のお母さんって…」
ミリア「リーナ・リンクスだよ」
槭樹「はっ…ははっ…」
槭樹(あんぉ女か…天然ぽい癖に、要所要所計算しているとしか思えない抜け目の無さ…そう…)
引きつった笑みを浮かべる槭樹。
ミリア「…ひょっとして…私、迷惑かな」
脳天気から一転。急にシュンとするミリア。槭樹は慌てて、
槭樹「そんな事無いわよ。貴方みたいな可愛い子なら大歓迎」
槭樹(全く、毒気の無いところまでそっくりね。まぁ、この子には罪は無い…悪いのは全部あの節操なし)
笑みの奥に仄暗い憎しみが渦巻く。そんな事とはつゆ知らず、急にモジモジし始めるミリア。
ミリア「…あの、ママって呼んでいいかな?」
突然の申し出に戸惑う槭樹。
槭樹「えっ、それは…リーナさんに悪いわよ。そうそう、リーナさんは元気かしら」
ミリア「ママは…小さい頃に死んじゃった…」
ミリアがただ寂しがってるだけだと分かり、槭樹は柔らかな表情で、
槭樹「そう、うん。ゴメンね。辛い事思い出させちゃったかな」
ミリア「そんな事ない。昔の事だから。ごめんなさい変なこと言って」
槭樹「ママの称号はリーナさんから横取り出来ないけど、お母さんって呼んでくれると嬉しいかな」
ミリアは恥ずかしそうにそう呼ぶ。
ミリア「お…お母さん…」
槭樹「なーにミリアちゃん」
ミリアは顔をパーッと明るくして、槭樹に抱きつく。
蒼司郎はそんな様子を感慨深く頷きながら見ている。
そんな中、一人取り残される茉莉。
茉莉「……」
茉莉(何、この展開…感動するところなの?私も相づちうたなきゃダメなの?もう、訳から無いんだけど。トンデモ事実の発覚の連続で、理解が追いつかないんだけど。何?実はお兄ちゃんは死んで無くて、実は腹違いの妹がいて、そのうえ異世界って何?)
槭樹「それじゃあ、新しい家族も出来た事だし。今日は張り切ってご馳走作らないとね」
ミリア「わーい」
蒼司郎「いいな。久しぶりに母さんの食事」
茉莉「異議あり!」
槭樹「何?」
蒼司郎「何だ?」
ミリア「何なの?」
茉莉「私一人取り残されてるんですけど、何なのこの状況。せてめ説明位してよ!」
槭樹「ん~長くなるからまた暇な時にでも話してあげるわ」
茉莉「もう知らない!三人で勝手に仲良くやっていればいいのよ!」
部屋から飛び出る茉莉。後を追いかける蒼司郎。
蒼司郎「おい、待てって!何処いく気だよ」
玄関で靴を履いている茉莉。
茉莉「うるさいーい!」
そう言い残し、茉莉は玄関の扉を乱暴に閉め出て行く。
槭樹「あらら、怒らせちゃったか」
槭樹も後ろから現れる。
蒼司郎「悪のりが過ぎるぜ。わざと勘違いするように言ったんだろ?」
槭樹「私も流石にそこまで悪趣味じゃ無いわ。確かに、あの状態の蒼ちゃんに会わせる訳にいかなかったから、どこに行ったかはぐらかそうとはしたけど、まさか死んだと思っているとは予想外だったわ」
蒼司郎「どうだかね」
槭樹「アレは私の軽率な行動が招いた結果だからね…なんと言われても仕方ないわ」
急に真面目な顔になる槭樹。
蒼司郎「やめてくれよ。俺はもちろん。茉莉だってそんな事思ってない。責任を被りあっても仕方無いだろ。この話は終わりだ」
槭樹「そういう所はあの人譲りね」
微笑む槭樹。
槭樹「でも、気の多い所は真似しちゃダメよ」
微笑んだまま、暗いオーラを纏う槭樹。
蒼司郎「んな事真似するわけ無いだろ」
槭樹「そう?」
疑わしそうな顔を向ける槭樹。
槭樹「でも、あの子には悪いけど都合はよかったかな」
槭樹「何があったの?まだ、戻って来るべき時じゃないでしょ」
蒼司郎「それ、十年振りに帰ってきた息子にかける言葉か?」
おどける蒼司郎に、槭樹は真顔で返す。
槭樹「それは、会いたかったわよ。でも。それより元気に生きていてくれるならそれに勝る事は無いわ」
逆に照れる蒼司郎。
蒼司郎「ほらよ。師匠から預かっていた手紙だ」
精読する槭樹。
槭樹「なる…ほどね…。これは…思っている以上に…厄介だな~」
●陽菜乃宅
陽菜乃「何かあったの茉莉ちゃん」
茉莉「ふんだ。どうせ私はいらない子ですよ」
部屋の片隅で体育座りをしている茉莉。思いっきりいじけている。
●蒼司郎が編入する中等部の教室
蒼司郎「今日から皆さんと勉学を友にさせて頂く、望月蒼司郎です」
エニス「同じく、リーナ・リンクスです。よろしくお願いしまーす」
一同(どう見ても中一には見えないんだけど)
クラスの一同がドン引きする。蒼司郎とミリアは実力主義の世界で生きてきた。自分たちはビギナーと自覚しているから別に違和感は持っていない。
司「えー、二人は兄妹で長らく外国で生活をしていました。魔力操作の基礎過程学ぶために変則的な処置ですが中等部に編入する事なりました」
気怠さを全面に押し出した女性教師(エニスの上司)の四宮司。が説明。
変な空気になる教室内。そんな事を気にせず、満里奈が元気よく手を上げ質問をする。
満里奈「なんで、兄妹なのに名字が違うんですか。ていうか、ぶっちゃけ兄妹に見えません」
一同(いきなりそれ訊くか!?)
ミリア「ママが違うからだよー」
一同(いきなり爆弾発言きたー!)
司「はい、みんな仲良くしましょうね。二人は後ろに席は…用意し忘れた」
満里奈「はい。私が二人を机が置いてある準備室まで案内してあげます」
またも元気よく手を上げる満里奈。
司「ん?ああ、それじゃあ見澤、任せた」
司はけだるそうに満里奈に任せる。
●準備室から机と椅子を持って帰る帰り。
蒼司郎は机と椅子の一式を持って、ミリアは机。満里奈は椅子を持って移動中。
満里奈「突然転入してくる生徒がいるって情報をキャッチしていたからさ、どんな人が来るのか楽しみだったんんだ。なんか、楽しそうな人たちで嬉しいよ」
ミリア「いや~」
照れるミリア。
蒼司郎(いや、褒めて無いだろう)
満里奈「まぁ、そんなわけで私は見澤満里奈。何か分からないこととか、面白い情報が知りたかったなんでも訊いてね。よろしくね。ご両人」
ミリア「よろしく~」
蒼司郎「よろしく頼むよ」
●茉莉のクラス 昼休み
ナレーション「茉莉はあれから一週間。陽菜乃宅に厄介になっており、まともに蒼司郎と話が出来ていない。というよりも―」
陽菜乃「茉莉ちゃん。お昼食べよう」
茉莉「放っておいて。いいのよ。どうせ、私なんていらない子なんだから」
ナレーション「自暴自棄になっていた」
自暴自棄になり、目が据わっている茉莉。陽菜乃はどう対応していいのか分からない。
美里「茉莉ーお客さんが来てるよ」
茉莉「えっ…」
ミリア「姉ちゃん。母さんから姉ちゃんの分のお弁当も預かって来たの。兄ちゃんと三人でお昼食べよ」
お弁当の包みを持ったミリア
陽菜乃(今は不味いよ)
顔から血の気が引く陽菜乃。心配性の陽菜乃。茉莉の事を自分の事のように心配する。
クラスメート女子1「今姉ちゃんって…」
クラスメート男子1「でも、外人だぜ」
クラスメート女子2「望月さんって一人っ子なんじゃ」
みんながミリアに注目する。
茉莉「…あんた、こんな所まで何しに来たのよ」
にこやかなミリアとは対照的に、不機嫌な表情の茉莉。
ミリア「だから、お昼を一緒に食べようって」
茉莉「…そんなのいらない」
ミリアから顔を背ける茉莉。
ミリア「でも、折角母さんがつくってくれたんだし」
なおも食い下がるミリア。茉莉はその手を払う。
茉莉「そんなのいらないって言ってるでしょ!ヘラヘラ笑って、そんなに私の事が可笑しい?それに何、母さんって図々しいのよ」
ミリアの手を払う茉莉。ミリアの持っていた弁当が床にひっくり返る。
ミリア「あっ…」
茉莉「つっ…」
一瞬、辛そうな顔をして、教室から出て行く茉莉。
しゃがみ込んで弁当の中身を拾うミリア。
慌てて陽菜乃も手伝う。
陽菜乃「ゴメン。茉莉ちゃん。普段はあんな子じゃないの」
ミリア「うん…分かってる。私が…ダメなんだよね」
打って変わってミリアのテンションが変わったことに驚く陽菜乃。
ミリア「茉莉姉ちゃん…私のせいで…私なんかが居るせいで」
ミリアは微かに身を震わせている。
陽菜乃「ねぇ、大丈夫」
ミリアは無言で、弁当を戻し終えると、足場やに教室を後にする。
●ミリアが心配になりの後を追いかける蒼司郎。
廊下を歩く蒼士郎。
蒼司郎「アイツ」
ミリア回想「私に任せて。私がお姉ちゃんを連れてくる」
蒼司郎「アイツが簡単について来るとは思えないんだよな」
エニス「こんな所で会えるとは奇遇ね」
後ろを振り返る蒼司郎。後ろには仁王立ちするエニス。
蒼司郎「ん?」
蒼司郎「アンタはあの時の…」
エニス「こんな所まで潜りこんでいるとはね…」
蒼司郎「いや、アレはちょっと勢い余っただけで、別に俺はアンタらと争うつもりは無いんだ」
両手を軽く挙げる蒼司郎
エニス「そう」
ニッコリと笑うエニス。手を掲げるエニス。
蒼司郎「話は詰め所でゆっくりと訊かせてもらうわ」
光の鎖が蒼司郎を雁字搦めになる
蒼司郎「ぐっ」
が、次の瞬間突然鎖が切れる。
蒼司郎「これは…」
そこに新たな声。
司「はい、はい。そこまで。校内で騒いだらダメだろ」
●進路指導室
エニス「班長。この男は私に攻撃をして来たんですよ。それなのに―」
不服そうな態度で、今の状況に文句を言おうとするエニス。司はそれを遮る。
司「大方、お前がお得意の早とちりで先に手を出したんだろう?」
エニス「早とちりって…越境者は即捕獲せよって命令出したのはそっちじゃないですか」
司「ああ?そうだったか?まあ、どうでもいい。とりあえずコイツ等はいいんだ。私の友人の息子だからな」
蒼司郎「最近の協会員は副業を持たないといけない程薄給なんですか?」
エニスとの一件でどうも、いい気がしないので
司「ははっ、ある意味正解。教員の仕事もしてるのに、協会の基本給しか貰えないんだぜ。正直転職も考えたくなるよ」
エニス「あんないい加減な仕事振りでお金を貰おうなんて図々しい」
ボソリと呟くエニス。しっかり訊いていた司はけだるそうな顔のまま、両手の拳骨で側頭部を万力のように締め上げる。
司「なんだって?」
エニス「痛っ…いたたたっ…すいません。口が過ぎました」
司「分かればよろしい」
余程痛かったのか蹲り頭を抱えるエニス。
蒼司郎「でっ、そんな愉快なコントを披露するために俺をここに呼んだのか?」
エニス「なんですって!」
蒼司郎を涙目で睨むエニス。司はそんなエニスを無視して、
司「単刀直入に言うが、協力を頼みたいんだよ」
蒼司郎「協力?」
顔を顰める蒼司郎。
●屋上
ボーッと遠くを見る茉莉。そこに陽菜乃がやってくる。
陽菜乃「ああいう態度はよく無いと思うよ」
茉莉「分かってるわよそんな事!でも…どうしたらいいのか分からないのよ」
苛立ちを露わにする茉莉。
陽菜乃「あの子。貴方に拒絶されて凄く動揺してた」
茉莉「あの子が…嘘」
信じられないといった様子の茉莉。
陽菜乃「私も付き合うからさ。一緒に謝りに行こう」
その言葉を聞いた瞬間、茉莉は兄がミリアと仲良くしていたシーンが思い浮かぶ。
茉莉「そんな必要無いよ。あの子にはお兄ちゃんが居るんだから。…お兄ちゃんだって私なんかより、あの子の方が大切なんだ」
地面に落ちる涙の滴。
陽菜乃「茉莉ちゃん…」
●学校の外
茉莉の台詞の回想「そんなのいらないって言ってるでしょ!ヘラヘラ笑って、そんなに私の事が可笑しい?それに何、母さんって図々しいのよ」
ミリア.「私、ここに来ちゃダメだったんだ」
涙を流すミリア。
ミリア「私は矢っ張り生きていらたダメなんだ…」
見開いた双眸は絶望的なまでに空虚だった。