脅迫
遅れてすみません。
誰かに揺さぶられているような感覚で目が覚める。
ゆっくりと目を開けると冬花が今にも殴ってきそうに構えている。
「え?」
そしてその握った拳は段々と俺に近づいてきた。
「ちょっと!?」
一気に頭が覚醒するも間に合うはずもなかった。
次に目が覚めた時、目の前に川があった。
「また会っちゃいましたね」
隣にはいつの間にか魔王の娘がいた。
「ほらあっち見て」
娘が指を指す方を見てみると凄く楽しそうな世界が広がっている。
「楽しそうだな」
「はい!
だから......一緒に行って貰えませんか?」
そう言って手を掴んできた。
凄く可愛くて一緒に行ってあげようかと思ったとき川の向こうで変化が起きた。
楽しそうにしていた人が下に落ちたのだ。
「あ、あれは?」
「天国のような楽しさから地獄のような苦しみに落としたほうが、より良いとお父様が言ってましたので」
それは絶望する顔が好きな奴がする事で別にやらなくてもいいのでは......
「一緒に行って貰えませんか?」
「あんなの見せといていいですなんて言えるか!」
「あなたを連れてこないと......今度は周りを巻き込んででも殺さないといけなくなっちゃうんです」
今までのも十分巻き込んでたと思うがそこは言うまい。
「だからお願いします」
「お願いというより脅迫じゃないかそれ」
どうしたってそっちに行くしか方法がないじゃないか。
......ちょっと待て、こいつがここにいるって事は伊織はどうした?
「これはお願いなんです!」
「わかった。でもその前に一つ聞いていいか?」
「はい?」
「伊織はどうした?」
「あの男ですか?
あの男ならほら向こうに」
指差す方を見ると伊織が確かにいた。
伊織は俺に向かって何かを叫んでいた。
しかし声はきこえない。
「......何て言ってるんだ」
「早くこっちに来いって言ってますよ」
試しに一歩近づくと叫びがさらに強くなったような気がする。
伊織は来るなって叫んでいるのか?
その気づいた時、強い光が後ろからくる。
「何だあれ」
眩しいほど強い光が徐々に近づいてくる。
帰れる。何故かそう思ったとき。
「あの男を返して欲しかったらこっちに来てくださいね?」
後ろからそう言われ、振り向く前に光に包まれた。