独りの理由
「この私が! 生徒会長『椎名 緋華李』よ!」
堂々と宣言したが、全く様になっていない。どう見ても小さな子が「俺は強い!」って言っているような感じだ。少なくとも、威厳はない。
というか、三年生の方からは「かわい~」とかいう声も聞こえる。いろいろ台無しだ。
「ま、まあ兎に角! 来週からは私が生徒会長を務めます! そういうわけで、よろしく!」
どの辺がよろしくなんだ。
「……以上、新生徒会長挨拶でした」
現生徒会長が締めくくる。椎名とかなり差がある。
「まさか椎名が生徒会長だったとは……」
「人は見かけによらないって本当だよねー」
「あ、でも図書館であんなんなってるくらいじゃ、可能性はあったかもなぁ」
「……それって直接の原因になるの?」
「いや、可能性の一部分としてだけどな?」
キリアは全く参加していないが、話しながら教室に戻る。
「あ」
唐突に思い出した。
「なんだミソラ。いきなりアホみたいな声出して。それと急に止まるな。ぶつかっただろうが」
「え? ああ、悪い。いやさ、椎名が言ってたじゃん。『私は友達がいないから』、とか。どういうことなのかなと思ってさ」
「そんなこと言ってたか?」
「ああ。最初に会ったときな。それで気になって何度か聞こうとしたんだけど……」
「スルーされたと?」
北崎が話に加わる。それには首を振って応える。
「なんか、タイミングが合わないというか……うまく煙にまかれたというか……。とにかく、聞き出せなかったんだ」
「……そういうことは」
「ん?」
鳴神がまっすぐこちらを見据えて言う。
「……そういうことは、聞かないほうがいい時もある」
「……分かってるよ」
やはり鳴神もなんとなく分かるのだろうか。似たもの同士。だからあんなになついているのか……いや、椎名の場合はあやすか。
「んじゃみんなで聞こっか!」
考え込んでいた北崎は唐突にそんなことを言い出した。
「「は?」」
「そうすりゃセイラも共犯じゃん?」
「そんなこと、お前らで勝手にやれ」
キリアは不参加を表明するが、
「そしたら寝させないよ?」
「……チッ」
一瞬で押さえ込まれた。
北崎の言う寝させないとは、部屋中(見えないところ)に目覚まし時計をかけて延々と鳴らし続ける仕掛けを起動させるということだ。壁は一応防音なので他の部屋には聞こえないがその分俺は次の日超不機嫌なキリアと遭遇することになる。実に北崎らしい嫌がらせだ。
「でもみんなで聞くってどういうことだ?」
「んー……。せーの! で?」
「なにがせーの! なの?」
「うぉ! 椎名!?」
「別にいたって不思議じゃないでしょ? ていうか、みんな帰らなくていいの? みんな掃除とか、もう帰ったりしてるけど」
言われてあたりを見回すと、廊下でいつまでも喋っているのは俺たちだけでなんか逆に目立っている。
「あー……そういえば、生徒会長挨拶のあとはそのまま下校だったっけねぇ……」
北崎が遠い目でつぶやく。
「で? なんの話をしてたの?」
「いや……」
北崎の方を見てみる。頷いた。聞いていいと言っているはずだ。
「椎名はさ――」
「ひかりんはなんで友達がいないの?」
…………………………ひかりん?
「なにそれ?」
「あだ名! なんかこっちの方がしっくり来るから!」
「……。まあ、いいわ。それは置いておいて。なんでいないかだけど……」
その間の置きようにどうしても鳴神の言っていたようなことかと思わされる。
「……ま、単純に引っ越してきて日が浅いからね」
「それだけかよ!」
「他に何があるの?」
……ま、まあ。考えてみれば椎名はこんな容姿じゃなにかと目立つからな。孤立したりはしまい。
「いやーやっぱりひかりんは人気者だったか! 良かった良かった!」
「すげぇ脱力したけどな」
「もう気は済んだか? さっさと帰ろうぜ」
「ん? ああそうだな。じゃあな」
「じゃぁね」
「また明日ー」
「……じゃあ」
「……なんかバカみたいだったな」
「まあお前はバカそのものだ」
「お前にはいわれたくねぇよ。……転校生なんて知らなかったぞ」
「だが椎名を元々知らなかった俺たちだ。考えれば分からなくもないことだったな」
台詞は頭の切れそうな感じだが、こいつは底辺です。
「まあ、そんなことはどうでもいい。早く食って寝るぞ」
「作るのは俺の仕事なんだけど」
そう言って俺は先を行くキリアを追いかけた。