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計画実行

 土曜日。窓を開ければ柔らかな日の光が差し込んでくる。

 ……相変わらずの快晴にちょっと清々しさを超えて面倒になってくる。

「……いい加減雨降ってくれないかな。あまり快晴続きだと植物が……」

 そう言いながら中に戻り、朝食の準備を始める。

「……ふぁ」

「お、お早うキリア」

「ああ」

 欠伸をしながらキリアが登場する。テーブルにつくとテレビをつけた。画面上に朝のニュースが流れる。

「もう少しで出来るから待ってろ」

「ああ」


 朝食を食べて一息吐くと着信があった。ディスプレイにはセイラと出ている。

「おう、どうした?」

『……明日』

「は?」

『ライカが演奏会』

「あー。そう言えば北崎は吹奏楽だったな。それでどうした? みんなで応援でも行くのか?」

『……そのつもり。明日は七時に学校前。緋華李には言ってあるから』

「おう、そうか。じゃあキリアにも伝えておくから」

『……じゃあ』

 そう言って通話が終わった。

「……キリア」

「あ?」

「明日北崎が演奏会だって、知ってるだろ?」

「ああ」

「それの応援に行こうってさ」

「……俺の睡眠を奪う気か?」

 なんか真面目に返された。

「いいじゃん。今日早くに寝れば」

「そうだな。俺今日は四時に寝るから」

「早っ!?」

「うるせぇ。俺には睡眠が必要なんだよ」

 そこでキリアはテーブルを立った。

「どうした?」

「決まってるだろうが。課題をやっちまうんだよ」

「……ああ、なるほどな」

 だったら俺もやってしまおう。そう思い、食器を洗うため席を立った。



 で、次の日。

「……」

「まだ眠いのか?」

「いや、ちょっと課題がな」

「……難しかったとか?」

「……学校に置いてきちまった」

「なるほどな」

 俺達の暮らす寮は一応学校内にあるが、公平性を図るために休日は教室の鍵が閉まっている。

「終わった……」

「……確かに」

 少なくとも放課後残ることになるだろう。

 そんなブルーな空気をスルーしながら、というか有る意味で自身もブルーなセイラが登場する。

「……おはよ」

「おう。あれ、椎名は?」

「……もうすぐで来ると思う]

 そう言って俺の隣に並ぶ。というか、二人とも獣人なもんだから全然喋らない。なんだこの空気。微妙すぎる。

「きょ、今日はいい天気だなぁ!」

 舌を噛みながらもなんとか話題を切り出す。でも、沈黙に慣れた獣人様はそんな俺の努力を真っ向からなぎ倒した。

「そうだな」

「……確かに」

 ……泣きたい。というか、この狭間から抜け出したい。

 そんなことを思いながら、椎名の到着を待つ。あーそういえば椎名も獣人なんだっけか。

「おはよう! ……何ミソラ。そんな悲しそうな顔して」

「おう、おはよう。いや、別にどうこうってわけじゃないんだけど……。では、そろそろ行く?」

「……そうする」

「いいんじゃねぇか?」

「いいわよ!」

 で、この獣人三:人間一というなんかもういろいろ酷い組み合わせで北崎の応援へと出発した。


 会場に着けばそこはもう、人で溢れかえるようだった。それもそのはず。全国的に有名な『黄鶯学園』。そして全国大会常連の吹奏楽部の演奏会だ。中にはテレビ局の人間もいる。

「……何回か来たけど、毎回驚かされるな。この人数」

「へぇー。吹奏楽部ってこんなに凄い部活だったのね。初めて来たからビックリだわ」

「椎名は初めてか」

「ええ。元々黄鶯学園では友達もいなかった(・・・・・)し、興味もなかったしね」

 友達がいない。そこが妙に引っかかった。いくら新学期で日が浅いといっても去年からいるはずなのだ。編入試験を受ければ別だが、その場合は事前に俺たちに連絡が回る。だが、まだ一度もなかった。

「……なあ、椎名――」

「おー!! 本当に来てくれたのかい! 嬉しいねぇ! でー? そのちっちゃいのが椎名ちゃんかい?」

「ちっちゃい言うな!」

「あ……」

 椎名に聞こうと思ったら北崎が登場してきた。……仕方ない。また今度にするか。


「……北崎はまだ準備しないのか?」

「うん。私が出るのはこの次の曲からだから最初は袖で待機なんだー」

「へぇ……。ちなみに楽器は何を演奏するんだ?」

「んー? 私はトライアングルとか、タンバリンとか、そう言った曲のアクセント的な位置かなぁ」

 手をひらひらしながら答える。でも、幾つもあるのか……。

「大変そうだな」

「そうでもないよ。殆ど単音だし、リズムさえしっかり取れれば何の問題もないよ」

「なるほどなぁ……」

「……っと。そろそろ時間だ。んじゃみんな、後でねー!」

「おう、頑張ってこいよ」

「……頑張って」

「ミスったら奢りね!」

「……せいぜい頑張れよ」

 俺達の応援を受けながら、北崎はステージへ続く通路へと入っていった。

「じゃあ、俺達も席に着くか。椎名、迷うなよ?」

「なんで私が迷うのよ!」

「だって、ミニチュアサイズだし……」

「……それ、オブラートに包んだつもり?」

「いや、ちっちゃいっていうのが気に入らないみたいだから、言い方を変えてみた」

「うっるさーーい!!」

 大声で否定(?)する椎名。明らかに椎名の方がうるさい。

「……じゃあ、行くぞー」

「……分かった」

「迷うわけないからね!」

「……ふん」



 それからはもー凄かった。弦楽器を使わないクラシックや、最近良く耳にするポップ系の曲、それら全てが他とは比べ物にならない程に圧倒的だった。最早高校生の部活とは思えない。

「こりゃ有名にもなるよな……っと」

 飲み物が切れた。買ってこよう。

「ちょっと飲み物買ってくるから」

「……ん」

 鳴神に伝え、一度会場を出る。

「流石に演奏中は誰もいないのか……」

 ロビーフロアは本当に誰も居なかった。

「……早く買っちゃおう」

 沢山の人がいる会場とここでは異様なまでに雰囲気が違う。少し怖くなって、自然と足が速くなる。

「……よし」

 買った時、後ろで足音がした。

「ん?」

「やぁ。今日は」

「お前は……っ!?」


バチィッ


「……さぁ、これからパーティーの始まりだよ……」




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