獣人の性質
なんだか教科書の目次みたいなサブですが、中身は普通ですから……はい
「……ん?」
目を開けて時間を確認すると、六時五分前を指していた。
「……目覚ましより前に起きちまったな。まあいいや。朝ご飯作るか」
キリアと朝食をとり、仲良く登校……でもない。ぶっちゃけ獣人って結構睡眠時間を必要としているので、ご機嫌は最悪である。
「くそっ、獣人の事も考えて登校時間を決めろってんだ」
「ていうかさ、獣人って1日どの位寝てるの?」
「……休日の俺を思い出せ」
「…………なるほどな」
休みの日は夜九時に寝て、起きたのは昼過ぎだった。なんかもう、寝過ぎなのだが。
「でもお前、他の獣人みたいに授業中とか、休み時間とかに寝てないよな」
「ああ。休みの日に纏めて寝ちまうんだよ。だからまあ、休日の俺よりは獣人は一日十時間寝るのが普通だな」
「へぇ……」
獣人の中には、鳴神のように休み時間だけ寝る者、喋りたいとか言って授業中に寝る者、午前中一杯か午後一杯寝続ける者がいる。
と言っても、鳴神のような獣人は学年でも数えるほどしか居ない。そのせいで成績が悪くなっていくのもまあ、当然と言えば当然だろう。
「そういや鳴神は部活の朝練もあったよな? 良くあいつ両立出来てるよなぁ」
「そこは個人の特徴だろ。あいつの親は獣人と人間じゃなかったか?」
「そういうもんか? ……まあ、本人に聞こうにも思い出したくもない過去だよなぁ……」
忘れていたが、親が獣人と人間の場合、子供はそのどちらかの性質を受け継ぐ。つまり、人間の性質を受け継いだら、獣耳や尻尾は生えてこないし、逆に獣人の性質を受け継いだら、獣耳や尻尾が生えると言うことだ。
ただ、遺伝子配列には人間と獣人の配列両方が見られ、どちらが多いかで子供が人間か獣人か決まる。
鳴神には昔、いろいろあったのだが、まあ、その内語る日がくるだろう。
「……お、北崎。おはよう」
「おう! キリアは相変わらず眠そうだねぇ!」
「……で、鳴神は相変わらず寝てるんだな」
「まあ、この子は寝るのが本分だから! 授業以外」
まあ、本人がいいならそれでいいだろう。
「そうそう、北崎。ここの問題が分からないんだけど……」
「んー? ああ、課題かぁ。えとね、ここは……こうして……」
「ほー……」
えーまあ、恥ずかしいことだが、じつはさして頭がいいわけではない。中の上、まあ、普通レベルなのだ。って前にも言ったような……。
「……で、最後にこうすれば……ほら出来た!」
「お、ありがとうな」
「このくらいはね!」
と言って胸を叩いた所で何かに気付く。
「どうした?」
「……ごめん。このくらいとか言って」
「俺か!? 俺のことか!?」
「さぁー誰だろうねぇ」
苦し紛れ……のふりをして目を逸らす北崎。
「仕方ないだろ? 難しいんだし!」
「うるせぇぞミソラ。新学年初っ端から騒ぐな」
「お前は俺より悪いだろうが! 少しは勉強しろ!」
「んーでも、キリアは運動能力抜群じゃない?」
「……ぐっ」
確かにキリアは成績は可哀想なくせに、運動だけは異様なまでに得意なのだ。それはすでに他の獣人の比では無いほどに。
「だけど! 普通が一番だろ! 普通が!」
「まあ、みんなそう言うよね」
「……おはよ」
そんな中、今まで寝ていた鳴神が目を覚ました。
「おう。よく眠れたか?」
「……ん。ミソラが死ぬ夢を見た」
「えぇ!? 俺なんか恨まれることしたか!?」
「……前世で嫌がらせを受けた」
「知るか!」
「騒ぐな。目立つだろうが」
言われて気付くが、皆心なしかこちらに聞き耳を立てているような気がする。
「あはは。みんなごめんねー」
流石に恥ずかしいのか、苦笑いしながら北崎は席につく。
「……悪い……」
「はんっ」
思いっきり鼻で笑われました。
「……ミソラ」
「んー?」
「……今何時?」
鳴神が目を擦りながら時計を見る。が、針がよく見えないらしい。
「えっとな……今、八時二十分だ」
「……そう」
「つか、そろそろ先生くるんだから、準備しな」
「……ん」
そう言ってセイラはロッカーへと向かう。
「さて、俺もそろそろ準備するか」
授業も終了し、下校時刻。それでも鳴神と俺は図書委員なので現在図書館にいる。
「……今日は暇だなぁ……」
「……あと四日間の辛抱だから」
「そうだな……」
その後四日間が長いんだがな……。
残りの時間を喋ったり、勉強を教えてもらいながらつぶす。
「・・・・・・で、ここに三を代入すれば……」
「……出来た。なるほどな……って今何時だ?」
壁にかかっている時計を見ると、当番の終了時刻をとうに越していた。
「おっと、もう終わりだ。鳴神、帰るぞ」
「……ん。……鍵は……」
「俺が持ってくから。鳴神は北崎を迎えにいくんだろ?」
鳴神はいつも北崎と一緒に下校している。
「……分かった。じゃあ」
「おう。またな」
鳴神を見送って、軽く周りを掃除してから図書館を出る。
「……すっかり遅くなっちまったな……」
早く帰らないとキイラが五月蝿そうだ。
そう思いながら、夜の街を駆けていった。
そんな当たり前の光景を、冷徹に見下ろす影があった。
肩まで伸ばした黒髪、切れ長の目、そして獣人であることを主張する獣耳と尻尾。
「……園山 ミソラ。篠原 キイラの数少ない友人」
その影をミソラを見下ろしながら確認するようにつぶやく。
「……まずはあれにするとしましょうか……」
少し微笑みながら、その影は言った。