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有名人



「どうも。そいつの友達の園山って言います」



「……ミソラ……」

 鳴神が不安そうな顔で小さく呼びかける、いや、呼びかける訳じゃないかも知れないが。

「……友達? こいつの?」

 三人組の一人が聞いてくる。

「当たり前だろ。お前らと友達になった覚えはねーよ」

「あぁ!?」

 ああ、余り刺激しない方がいいんだっけ。一応鳴神も向こうにいるわけだし。

「……あー、まあとにかく。何で今更鳴神に会いに来たんだ?」

「いやまあ、特にこれといって理由はないんだが……。暇でさぁ、で、ここ今文化祭だろ? ちょうどいいし暇つぶしにでもと思ってな」

 何ともはた迷惑な理由だ。まあどうせそんなもんか。こいつら見た感じ学校行ってなさそうだし。

「さて、と。とりあえず、鳴神を離してやってくれない? まだ仕事残ってるんだ。ていうか既に予定狂ってるし」

「あー悪いな。ちっと今から案内してもらうんだわ。な?」

「……あ……えっと……」

 顔など見なくとも、鳴神が怯えているのが分かる。

「どう考えても嫌そうなんだが。ていうか文化祭では自分のクラスの仕事が優先されるからさ」

「うるせぇぞ! ちっとは黙ってろ!」

 気の短い不良は、そう言うといきなり殴りかかってくる。

「危ねっ」

 身をかがめてそれを避ける。

「こいつッ!」

 奥にいたもう一人の不良も加勢するように向かってくる。

 姿勢を低くしたまま、足を払って拳を避ける。

「痛っ! おい! 桐島! お前もやれよ!」

 どうやら唯一まともそうな奴は桐島というらしい。

「無理だよ。俺セイラ掴んでる訳だからお前らでどうにかしろって。みた感じあんま強くなさそうだし」

「チッ。亮也、一気に片すぞ」

「へいへい」

 二人が一旦距離を取る。自分も居住まいを直してから相手を見据える。

 出来れば平和的に解決したかったんだが……まあこうなっては仕方ないだろう。俺だけでは倒せずとも、キリアが来るまでの時間稼ぎくらいは出来るかもしれない。

「ぶっ殺してやるよ!」

 亮也とか言う男がこちらに走り出す。

 向かってくる拳の軌道をしっかりと見て、いなすように腕にぶつける。

 続いてもう一人の蹴り。避けようがないので、左腕で腹部を守る。

 当てられる度に腕が痛むが、別に腕は使わないのでこれくらい何ともない。

「じゃ、俺の番な」

 相手の攻撃が止むと、左腕を下げたまま亮也の腹を蹴る。

「うぐっ!」

 いいところに入ったか、亮也はその場にうずくまる。

「桐島! コイツ普通に強いじゃねぇか!」

「何だよ。そいつが強いんじゃなくてお前が弱いんだろ?」

「何!?」

 持ってろ、と言って桐島が不良に鳴神を引き渡す。

「なんでわざわざ俺がやんなきゃなんだよ……」

「鳴神を離せば済む話だろ」

「まぁそうなんだがな……ここまできたらそう言うわけにもいかねぇだろ」

 結局こうなるのか……。なんか強そうだよなぁ……。言動とか。

 ニット帽で分からなかったが、よく見ると尻尾がある。どうやら獣人のようだ。

「ちっとめんどいし、さっさと終わらせるか……」

 桐島がだるそうな雰囲気を纏ったまま、姿勢を低くする。

 来る、と思ったときには腹に蹴りが入っていた。

「がっ」

「な? やっぱそんなでもないだろ」

「そりゃお前……獣人じゃん」

 いや、関係ないだろ。と言いながら殴りかかる。

「……殴るのは意味なさそうだな……」

「そりゃ生憎だな」

 間一髪、避けきれなかったら顔が変形するところだった。防ぐけど。

「ていうか。なんで、お前、一人で来たんだよっ」

 一句一句に蹴りを挟みながら桐島は言う。こちらは防ぐので精一杯。攻撃の糸口なんて掴めない。

 どうする。どうやれば、鳴神だけでも助けられる……。

 次々と迫り来る蹴りを防ぎながら、状況を打開する策を考える。

「なんでこいつこんなに防げるんだよ。桐島の蹴りって結構速いはずだろ?」

 亮也の問いに、攻撃を防いだまま答える。

「そりゃお前、キリアに教わったからな」

「……キリアだと?」

 それまで一切緩めずに蹴っていた桐島が攻撃をやめた。凄いなキリア。まさかここまで有名人だとは。

「お前キリアと知り合いなのか?」

「じゃなきゃそんなことしないだろ」

「それもそうだな……」

 桐島が頭を掻きながら言う。

「ったくよー。こんな所で再会とかしたくねぇってのによー……なんだってお前なんかが出しゃばってくるんだか……」

 そんな時だった。聞き覚えのある声と共に登場してきた闖入者がいた。

「お前……キリアじゃねぇか。久しぶりだな」

「黙っとけ。お前みたいな人間、いや獣人のクズがミソラなんかにつっかかってんじゃねぇよ」

「おい、軽く俺まで馬鹿にしただろ」

 なんかってなんだよ。

「どうでもいいだろそんなの。それよりも……」

 キリアはゆっくりとこちらに向かってくる。

「ぐわっ!」

 キリアはいきなりスピードを上げて、鳴神を掴んでいた男の手を蹴飛ばす。

「ミソラ! さっさと逃げろ! 仲間が来るかも知れん!」

「え!? あ、おお! ここは任せるぞ!」

 男が怯んでいるうちに鳴神の手を引いて走り出す。

「教室には行くな! ほとぼり冷めるまで隠れてろ!」

「了解! しくじるなよキリア!」

 そう言い残して教室を出る。なんで先生には言わないんだろうか。どうせ不良なんて先生を無視してくるんだろうけど。



「……ったく……俺がしくじる訳ねぇってのに……なぁ?」

 キリアが桐島に話かける。

「まさか……ここにいたとはな。しかもあんな仲間まで作りやがって……。お前一匹狼気取ってたんじゃなかったのか?」

「気取るつもりはなかったんだがな……。アイツには色々と助けられたからな……。借り作っとく訳にもいかねぇだろ」

「へぇ……気になる複線だな」

「ハッ。終わったらいくらでも話してやるよ」

 キリアは相変わらず自然体で、それでいていつでも動けるような重心で立っている。

「桐島……いい加減テメェとはケリつけなくちゃだしな……。まあ、もう勝負は見えてるか」

「ああ、お前の負けだろ? ……はぁっ!」

 桐島が姿勢を低くしてキリアに向かう。それに対してキリアは僅かに足を後ろに引いた。



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