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中等部一階空き教室よ!

 さて、文化祭も最終日、三日目である。

 天気はまあ、快晴とまではいかないが晴れだし、天気予報も雨は降らないと言っていた。

「さー皆の衆! 今日も頑張っていこー!」

 相変わらずのハイテンションでクラスメイトに指示や、チェックなどを済ませていく。

「あーねみー」

「なんだミソラ。今日はお前が眠いのか」

「え? キリアは?」

「ああ、昨日あれだけ寝たしな。今日は平気だ」

「珍しっ」

「……るせぇ」

「……おはよ」

「おう、鳴神か」

「……ん」

「最終日だし、お前も頑張らなきゃだな」

「……ん」

 短い会話だが、一応は張り切っているようだ。ガッツポーズなんてしてみせる。

「さぁーそろそろだ! みんなー! 頑張ろー!」

 時刻は九時。恐らくもう始まっているだろう。

 ……さて、俺も働くか……。

「ミソラ」

「ん?」

「俺オーダー取らなきゃいけないのか?」

「いやホールですからね? 当たり前だろ」

「めんどい」

 もういいや。キリアは無視しよう。

「よし、じゃ皆、今日も頼んだ」

 ホール班のメンバーがそれぞれ仕事を始める。……俺もやるか!



「あ、ミソラ!」

「ん?」

「あの、今ミルク切れちゃったみたいで……買い出し班を至急で作ったんだけどまだ届かないからさ。気を付けといて」

「あいよ」

 ……切れたなんて誰か買い忘れたのだろうか。

「……おいミソラー。アイスティーを二つだと」

「いやさ、俺、オーダー纏める役とかじゃないから。ていうかその仕事で定着しつつあるのは気のせいだよな?」

「気のせいだろ」

「……はぁ。とにかく、本物のオーダー纏める役の北崎に言ってこい」

「えー」

 文句を言うキリアを無理やり北崎に引き渡し、持ち場に戻る。

 その後も、ホール班のメンバーにミルクが切れている事を伝える。

「ミソラー! これ5番テーブルにー!」

「はいはい!」

 北崎から受け取り、テーブルへ運ぶ。さっきからこの往復ばかりだが、まあ気にしなくていいだろう。

「北崎、ミルクはまだ届かないのか?」

「んー……遅いねぇ。そろそろ帰ってきてもいいんだけどなぁ」

「その買い出し班ってのは誰なんだ?」

「んー? 福原さんとセイラに頼んだよ?」

「……二人?」

「うん。だってそんなに人数割けないからね」

「なるほどな」

 それにしても、学校の隣なのに時間がかかるものなのだろうか。

「あーでも」

「どうした?」

「いやさ、他にもいくつか頼んでるから時間掛かってるのかもなー」

「どう考えてもそれが原因じゃねぇか!」

「いやぁ、はっはっは。どしよっか」

 俺はそれに答えずに、教室を飛び出していた。

「ってミソラ!? どこにいるか分かんない敵を追いかけるのかい!?」

 敵じゃないだろ。

「ちょっと探して、見つかんなかったら連絡するよ!」

「あっちょ……全く……一人で勝手に行ったりしてー」

 後ろで北崎のそんな声が聞こえてくる。……すまん。マジで。

 単純に遅れているだけならいいが、キリアから聞いた話もある。

 他に何を頼んできたのだろうか。聞いとけばよかったか。

「店に行って居なかったら連絡するか……」

 とにかくあの二人を探さないと……。……ん? 二人?

 ここにきて致命的なミスに気付く。

 ……福原さんって誰? どんな顔?

「ミスったぁぁぁ!!」

 重要な項目がぁぁぁ! 別行動してたら分かんないじゃないか!

 いやでも! 別行動しているとも限らないし! 探せばいいだけだもんな! ……二人でいれば。

「買い出ししてる店はここのはずだよな……」

 もはや可能性だけを頼りに捜索開始。

 とりあえずミルクが置いてあるであろう食品売り場から探すか……。

 棚の端から順番に見ていく。すると、三列目で鳴神の姿を発見する。

「良かった……二人でいるみたいだな」

 隣の人と話しているようだが、背が小さいのか鳴神に隠れて顔までは分からなかった。

「おい、鳴神に福原さん……って、椎名!?」

「ん? あらミソラじゃない」

 鳴神と話していたのは椎名だった。

「あれ? 福原さんは?」

「……ミルクを渡しに先に行った」

 ってことは気づかぬ内にすれ違いになっていたのか……。

 いや、顔分かんないから見かけても気付かないけど

「……で、椎名は何でここに?」

「ああ、私は生徒会の仕事よ。お茶の葉をね。テレビに出るようなお偉いさんの接待よ面倒くさい……」

「へぇー……。そんな人も来るんだ」

 素直に驚く。しかし椎名は握り拳でお怒りだ。

「そんな人達なんかね、いい面してんのは外だけなんだから! 『可愛いねー』って頭撫でやがって! 私は子供じゃないのに!」

「いやそれは完全に子供だと思われてるだろ」

「……緋華李はマスコット」

「うっさい!」

「まあまあ落ち着け椎名。ところで鳴神は何を買うんだ?」

「……ん」

 カゴの中を見せてくる。……これで全部ってことか?

「……お金払ってくる」

 くるりと回れ右をしてレジに向かった。

「……で、椎名はお茶の葉買わなくていいのか?」

「え!? ああ、そうね。買ってくるわ。じゃあねミソラ」

「おう」

 …………さて。

「完全に徒労になっちまったなぁ……」

 取りあえず、俺も何か買ってから帰るか。



 少しだけ見て回るつもりだったのに……二十分も時間を喰ってしまった。恐ろしき本屋。

 とにかく流石に戻らないと色々まずいと思い、手に持っていた本を戻す。

「……ん? 着信?」

 時間を確認しようと携帯を見ると、電話で着信があった。合計二件。いずれも北崎だ。

「どうせいつまで遊んでるんだとかだろうな……。戻ったら謝らないと……」

 携帯を閉じて急いで教室へ向かった。


「……鳴神がいない?」


「そうなんすよ! ミソラが居たって連絡してきたから待ってたのに、帰ってきたのは福原さんだけなんですぜ!」

「……」

 戻ってきたら北崎は開口一番そんなことを言い出した。

「……まあ、うん。探してくるわ。キリア、お前もだ」

「寝させろよ。面倒くせぇ」

「黙っとけ。さっさと行くぞホラ」

「ちょ、ミソラ!」

 北崎が呼び止める。

「ん? なんだ?」

「……セイラがどこにいるとか分かんの?」

「分からんが?」

「えー。あ、私も探すよ!」

「ダメだ」

「なにゆえ!?」

「お前……このクラスをまとめなきゃだろうが。それなのにここを離れてどうするんだ」

「いやでもそれくらいみんなが何とかしてくれるさ!」

「呆れるほどポジティブ思考だなオイ」

 とにかくダメだ、と言って北崎を引き下げる。

「……うし。キリア、お前左だ。俺は右にいく」

「ふん。俺が見つけたら色々面白いことになりそうだな」

 憎まれ口を叩いてキリアは左を探し始めた。

「……さて、と。俺も行くか」

 自分でも驚くほど焦ったりしなかった。……だから。

「見つけた時はぶっ飛ばす……!」



 そう心に決めてから教室を出た。

「……あーもう疲れちゃった……」

 生徒会室、その生徒会長である椎名緋華李は自分のイスで伸びをしていた。

「ミソラはホントに無理するのが好きよねぇ……」

 セイラの件についてはライカからのメールで大体の状況は掴んでいる。

「あ、緋華李さん」

「ん? 何?」

 遠慮気味に入ってきたのは副会長だ。ちなみに緋華李と同じクラス。

「あの、2-5の出し物の予算に狂いがあると……」

「あーまたー? どうせ嘘でしょ。てことで、頼んだ」

 そう言って緋華李は立ち上がる。

「あれ……? 会長見回りでしたっけ?」

「ん?」

 扉のところで振り返り、一言。


「少しあのバカのお手伝いをしてくるわ」


 そのまま出て行ってしまった。

「……あのバカ……?」

 取り残された副会長は呟いた。



 やべぇ、やべぇよ。全然見当もつかね。

 タイムリミットはないが、余り時間を掛けていては鳴神に危害が及びかねない。

「あー……二人じゃこんな広いところ探し切れねぇ……」

 余り人気のないところを回ってみてはいるが、どれも外れだった。

「あと見てないところは……」

 手元のパンフレットの地図が描かれているページを見ながら適当に進んでいく。

 ……いや、待て。何で人気のないところ? 普通は連れ込まれるからか? ……考えてみろ。

「……むしろ、人気の多いところ……?」

 小説やマンガでは絶対ありえない。|小説やマンガなら。

「ちっと試してみる……っと」

 携帯が震えだした。ポケットから取り出し、確認する。

「また電話か……何の用だよ」

 発信者は椎名。

『中等部一階、空き教室よ!』

「へ?」

『だから、セイラの居場所よ!』

「え? えっちょ、何で? つかなんで知ってるんだ!?」

『ふっふーん。会長権限でね。少し学校のカメラを使わせてもらってるのよ!』

「うわぁ……」

 でかいなー。会長権限。

『ま、嘘だけど。『迷子の子供を探したいので少しの間貸して下さい』って言ったらあっさり貸してくれた』

 なるほど。そういう使い方もあるのか。

「悪いな! えーと中等部一階の空き教室だっけ!?」

『そうよ! 今はまだ無事みたいだから急ぎなさい! 何かあったら覚悟してなさいよ!』

「はいはい! じゃーな!」

 中等部って言うとキリアが探している区域のはずだ。だがさっきの椎名の口振りからして発見は出来ていないのだろう。連絡しとくか。

『……お掛けになった電話番号は、現在電波の届かない位置にいるか……』

「電源切ってやがるー!」

 何でだよ! おかしいだろ! 何のための携帯だよ!

 とにかく、こうなっては仕方ないので一人で向かうことにする。

 途中でキリアに出会うかもしんないし。



 それから、言われた中等部一階に行ってみると空き教室は3つ程あった。どうやら空き教室というよりは机や椅子などの物置みたいになっているらしい。

「どれだよ……」

 今更遅いので、見つからないようにしながら一つずつ確認していく。

「……ロッカーやらでよく見えないな……」

 教室の中には机や椅子の他に掃除用具、ロッカーも放置されている。ああいう陰でやられては見つかることもないだろう。

「もういっそ開けていくか? めんどいし 」

 その時、二つ向こうの教室から話し声が漏れているのに気付く。

 ああ、そういう探し方もあったな。

 とにかく場所さえ分かれば簡単だ。真っ直ぐ教室に向かっていく。

『何か言ったらどうだよ? なあ?』

 中から気味の悪い声でそんなことを言っているのが聞こえてくる。だが、それを気にせず、勢いよく扉を開く!

 相手は……三人か。驚いてこちらを見ている。

 どうみても不良っぽいのが二人と一見普通の身なりをしているのが一人。

 なるべく自信がありそうに、相手を見下すように見据えて第一声を発する。


「どうも。そいつの友達の園山って言います」




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