自分の気持ち
「うっはー! 中々怖かったねぇひかりんよ!」
「そう? 私はそうでもなかったわ」
「あ、お帰り二人とも」
鳴神と外で待つことしばらく。北崎達が出てきた。
「いやーこれからどうしよっか! 何か回ってみるかい?」
「その前にお昼にしないか? そろそろいい時間だろ」
「んー?」
北崎が携帯を確認する。
「十一時四十五かぁ。ちっと早いけどまあいっか! んじゃ何食べるよ?」
「それは適当でいいんじゃないか?」
「じゃ回りながら決めよー!」
ああ……もうホントテンション高ぇ……。
「……あ。鳴神立てるか?」
俺がそう聞くと、鳴神は無言で手を出した。
……ここで? 公衆の面前ですよ?
「あ、あの北崎。鳴神支えてくれるか? くじいたみたいで……」
「ぬっ!? セイラ怪我したの!? なんでどして!?」
「あ、言ってなかったっけか。ちょっとまあ、色々あってな」
「……色々? なんだか気になる伏線ですなぁダンナ」
しまった。頼む相手ミスった。
「いやまあ、ちょっと倒れただけだ」
「どうやって?」
それを聞くか。
「鳴神が驚いてな。そのままバランス崩して」
「バランス? そんなに驚いたの?」
う。中々鋭いところを……。流石は成績上位者ということか。
でもまあ嘘じゃないし……。
「ああ、本当本当」
「ふぅーん……。まあいいや。じゃセイラー私の肩につかまるがいい!」
鳴神は頷くと北崎の肩につかまった。
「うっしゃーじゃ出発だー!」
……食い倒れになりそうで怖いんだが。
……まあ、結局そこら辺の出店で昼食を済まし、あとはなんだか模擬的な縁日や、カジノ的な出し物などを回り、以外とあっさり二日目も終わりを迎えようとしている。
「ふぁぁ……。いやーちっとばっかし疲れたねぇー」
「悪い……俺ちっとどころじゃないかも……」
「なんだか校内全部回ったような気がするわ……」
「……限界」
「なんだー皆。明日はある意味一番盛り上がるイベントがあるではないか!」
そんなのあったっけ?
「……何だよそれ」
「え? 後夜祭」
「盛り上がるのかぁ?」
「まぁーとにかく! その為にも体力とかその他もろもろの温存をね……うん、図る訳だよ」
とゆーことでさらばっ! と言って鳴神、椎名を引き連れて去っていく。
「……俺、今日振り回されるだけ振り回されて終わり?」
その事実が、俺の止めとなった。
……嫌になる……。
「とにかく、もうここにいても仕方ないし、帰るか……」
大人しく帰路につかせてもらおう。疲れたし。
「……キリアー。起きてるか?」
…………返事がない。寝てるのか。
「つかもしかして一日中寝てたのか? 逆によくそんな寝れるよなぁ……」
ある意味尊敬に値する。
仕方ない。夕飯を作っておくか。
そう思い、台所へ向かおうとすると、ポケットの携帯が震えた。
「メールか……」
『忘れてたけど、明日の食料、下に書いてある分買って! みんなで分担してるから無理じゃないっしょ? by北崎』
下には買うリストが作られていた。
「まあ、じゃあついでに俺達の食料も買っておくか……」
財布を確認してから出発する。
……キリアは……いいか。どうせ起きないだろうし。
「うぉ。すっかり夏近い感じだなぁ」
だいぶ日も延びてきただろうか。5時過ぎでも、そこまで暗くない。
目的のスーパーに着くと、クラスメイトがちらほら見かけた。分担しているのは本当らしい。
……ま、余り面識ないが。ていうか、北崎達と行動しすぎて周りにどんな感じの人間がいるのか分からない。致命的じゃね?
「えーっと……? まず野菜類は……」
リストと頭の中で買うべきものを決めていく。カゴは意外と早くいっぱいになっていった。
「キリアにも頼めば良かったな……」
持てるんだろうか。この量。
そんな事を今更思っても後の祭りというものだ。諦めるしかない。
手早く会計を済ませ、袋に入れる。
「……ミソラ」
「ん? おう」
聞き覚えのある声に振り向くと思った通り鳴神がいた。
何故だろう。最近鳴神との遭遇率高いんですが。
「「……」」
……何だこの沈黙。
「あ、そういえば! 鳴神はもう足平気なのか?」
「……ん、大丈夫」
「そ、そうか……良かったな」
「……ん」
また沈黙。……俺にどうしろと。
「……あ……」
「ん? どうした?」
「…………」
俺がそう聞くと、鳴神は言いにくそうな顔をした。
「……えっと……あ……」
「あ……?」
「……明日、上手く行くといい」
……へ?
「……じゃあ」
「え? いやちょ、待って! どういう意味!?」
聞かず、そのまま走り去ってしまった。
「……なんだぁ? ……一体……」
心に疑問を抱いたまま、元来た道へと帰る。
「……ふぅ……ただいまっと……」
「今まで行ってたのか?」
「うぉ。キリアも起きたのか」
「ああ……」
「なら丁度いい。夕飯にすっぞ」
部屋へ上がり、支度を始める。
……作りながらどうしても今日一日の事がフィードバックされる。
まぁ、北崎や椎名もあるが、一番記憶が新しいのもあるのか鳴神のことが頭から離れない。
……余計な場面もあったと思うが……。
「おい」
「うお! キリア! お前テレビでも見てろって!」
「焦げてんぞ」
「え? あ! やべ!」
焼いていた野菜類が少し焦げてしまった。
「……何があったかは知らねぇが、もちっとシャキッとしやがれ」
「なっ」
何があったって……色々ありすぎて困るくらいなんだが。
「セイラのことか」
「ばッ! 違ぇよ!」
「黙れ」
真っ直ぐに眼を射抜かれる。こういう時、キリアの眼力は凄い。何も言えなくなる。
「……いい加減認めたらどうだ? 少なからず気付いてるんだろ? お前自身の気持ちは」
「…………」
「……意地を張るのは勝手だが、そんなんじゃいつまで経っても強くなれねぇよ」
「……別に、強くなりたいって訳じゃ……」
「いいか。強いってのは単純に、力があるだとか喧嘩が強いとかじゃねぇ。そんなのは俺から言わせればただのバカだ。本当に強い奴ってのは、守りたい物を守れる奴なんだよ。金でもいい、他人から見ればゴミみたいなものでもいい。自分にとって一番大切な物……お前にとってそれはなんだ?」
「…………」
「……お前が最後まで守りたい物……それは何だ」
俺が……守りたい物……。
「……お、俺は……」
北崎? 椎名? 鳴神? キリア?
率直に言うなら全員だ。俺にとってあいつら全員が大切だ。
でも、その中でも一番……?
「……俺は……!」
そうか……いい加減素直に……自分に正直に……。
ならば答えなど決まっている。
「俺は……キリアを守る!」
「……え……いや……悪い……俺そういうの無理だし……」
引かれた。
「まあ冗談だけどな。そうだな。もう二年だし、いい加減……」
「くっ。ようやく認めたかこのツンデレが」
「うっせー! ツンデレ言うな! つかもう飯なんだから準備しろ!」
「わーったよ」
皿を運び、箸を並べていく。
「なんか……お前には助けられてばっかだな」
「くっ。お前なんか助けるつもりはねぇんだがな」
「ひでぇな……」
「何……お前なら、俺とは別の道で強くなりそうだ……」
「お前……なんか変わったな……」
「? なわけねぇだろいつだって俺の周りは雑魚だと思ってるぜ?」
「いやその認識もどうかと思うが」
実際キリアは変わったと思う。前より話すようになったというか……。
みんな変わっていくもんだな。そう考えると、やっと俺も変われたのかもしれない。
「……何笑ってんだ? 気持ち悪い」
「いや、なんか足枷になっていたものが外れたというか……」
知らぬ内に笑ってしまっていたらしい。憎まれ口を叩かれる。
「明日もあるんだろ? 仕事。さっさと寝ようぜ」
「ああ、そうだな。鳴神も何もないといいんだが……」
「大丈夫だろ」
「え?」
「何があっても……お前が守れ。俺に頼るなよ」
「んー……どうしても無理だったら……」