文化祭一日目(後半)
1ヶ月も経っていたっていう奇跡
「ミソラー! こっちも運べー!」
「はいはいはい! 分かったよ!」
お客は昼を境に一気に増えた気がする。休む間もなく働く。
「……あ、ミソラ! ちょっとこっちも来てくれるか?」
「……今度こそ注文か?」
「いや?」
「注文しないなら呼ぶな!」
おまけに知り合いが冷やかしで俺ばかり呼ぶ。全くはかどらない……。
「おら。さっさと動けよミソラ」
「お前も休憩ばっかすんなよな!」
キリアは十分程前から働いている所を見てないぞ。
「バカ。俺はラストスパートに向けて温存してんだよ」
「俺は無しか!」
「リーダーだしな」
なんだそりゃ。
とにかく、キリアもいないと回りそうもないので叩いて急かす。
「ほらお前もさっさと動け!」
「って。ったく、別に俺いなくても十分だろ? 寝させろ」
「この状況で寝たら後が怖いわ!」
「いや、俺なら気にするな。この学園の連中なんざ敵じゃねぇぜ」
「そういう問題か!」
もう仕方ないので引っ張り起こして引きずっていく。
「だからやめろっつの。分かったよやりゃいいんだろやりゃ」
丁度呼び出しがかかったのでキリアを向かわせる。
『……注文』
「えーと、アイスティーを一つ」
『……』
何も言わずにこちらへ戻ってきた。
酷い! さっきより酷くなってる!
「……アイスティー1個だと」
「俺に言うな! つか、応対が酷すぎる!」
「文句の多いやつだなぁ……」
「誰のせいだコラ。とにかく、今の注文を調理班に伝えてこい」
「ああ」
キリアを取り敢えず復帰させた後、流石に疲れたので俺も休憩をはさむ。
とは言っても五分程度だが。
さて、なんとか昼を乗り切り、ようやく客足も落ち着いてきた。
「うーん、今日はこれだけ儲ければ十分かな! とゆことで最終日も頑張っていこうぜ!」
見切り早くないか?
「や、最終日も頑張らなきゃだがな、まだ今日あと三時間もあるんだが」
「いやー多分今日これ以上は期待出来ないっしょ。てことで諦めました」
潔いな。確かに余り増えないかも知れないが。
「せめて最後まで頑張ろうぜ。今見切りつけるとか色々申し訳ないから。マジで」
「勿論これからのお客さんも精一杯出迎えるぜ! と、言うわけで、ミソラ。ガンバ」
「俺だけ!?」
北崎に背を押され、ホールに出る。……窓際、前から二列目に見知った顔があった。
「……おや、園山君じゃないか。ああそっか。キリアと同じクラスなんだっけ」
「なんでこんな所にいるんだよ」
華月(苗字は忘れた)、この前の件でキリアにあっさり負けた奴だ。
「ん? まあ生徒会の仕事だよ。別に今更どうこうって訳じゃないよ。ところで注文いいかい?」
「ん? おう」
注文を受け、調理班に伝える。最初は警戒していたものの、どうやら生徒会の見回りとかいうやつらしい。考えてみれば華月の前にも生徒会の人間は出入りしていたし、信じてもいいだろう。
「ミソラ。後三十分ぐらいで今日のプログラムは終了だ。頑張れ」
「おい。つかなんでお前もう着替えてるんだよ」
「俺はもう上がったんだよ。半分くらいはもう上がってる」
キリアは既に制服に着替えていた。
「てことは、最終日は俺らが早上がりって事か」
「まあそうだろうな」
じゃあ、後三十分くらい頑張ってみるか。
「よしみんな! お疲れ! 中々手応えあったし、これなら最終日も期待できるかもねー。明日は休みな訳だけど、あんまりはしゃいで最終日ダウンとかしないよーに!」
そんなアホいるのかよ……。
北崎の合図を受けて、各々帰り始める。
「ミソラ。帰るぞ」
「あ、おう。ちょっと待ってろ」
鞄に荷物を片付けてキリアの後に続く。
「眠ぃ……。俺飯いらねぇ。さっさと帰って寝る」
「はいはい。ったく。どんだけ寝れば気が済むんだか……」
寮に入ると、流石に文化祭期間中だからか、通路やロビーに人がいた。先生も見回っているようだが。
「っち……。きゃーきゃーはしゃぎやがって……大人しく出来ねぇのかよこいつらは」
「そういう発言やめてくれない?」
目付けられるから。
「……まあ他人なんてどうでもいいが」
キリアは不機嫌そうにそういうとさっさと歩き始めてしまった。
「……明日は休みだろ? お前どうすんだ?」
「ん? 北崎達と見て回るけど。お前は?」
「寝る」
だと思ったよ。
「ま、いいか。あ、どうせお前の事だから今いらないとか言ってても夕飯の時には腹減ったとか言うんだろうし、作っとくからな」
「……勝手にしろ」