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守る力

 前日。ややだらだらしていた昨日とは打って変わって、皆真剣に準備にとりかかっていた。

「おいキリア! あそこにここに書いてある野菜類があるから何がなんでもとってこい!」

「言ったな? どうなっても知らんからな」

 メモを受け取り、流れるように人を避けて目的地点に向かう。……身体能力が高いだけに無駄がない。むちゃくちゃに速い。

「よし、俺は比較的人のいない食器売り場に向かうか」

 メモ通りの食器を選び、レジへ向かおうとしたとき、見知った顔を見かけた。

「鳴神ー」

「……あ、ミソラ」

 ボーッとしていた鳴神がこちらに気付き、近付いてくる。

「お前何か買うものあったっけ? つか装飾班は買い出ししないだろ」

「……ん。そうなんだけど、今朝ライカに言われた」

「ホールになれと?」

「……ん。『装飾班って良く考えたら当日仕事ないよね。って事でセイラ頼んだ』って」

「アイツ……ホント何なんだ……」

「……班長、宜しく」

「よし、まずその認識から改めようか」



「……みんな! 準備お疲れ! けど、本番は明日からだよ! 気合い入れてけぇぇ!!」

 なんか一番盛り上がってるな北崎は。ホントにお祭り好きだな。

 ともあれ、全ての準備は完了だ。後は期間中儲けるのみだ。

「おいミソラ」

「ん?」

「契約を発動してやる。前に捕まった廃工場に来い」

「え、ちょ……」

 言い返す間もなくキリアは去っていった。

「何だアイツ……」

 キリアがいうには何か考えがあるような気もするが、とにかく行ってみないことには分からない。手短に荷物を纏めると、キリアに言った廃工場へと向かった。



「……ようやく来やがったか」

 廃工場にはすでにキリアが立っていた。

「それで、こんなとこでどうするつもりだ?」

「ハッ。薄々気付いてるクセに。だがまあいいだろう。さっきも言ったろ? 契約を発動すると」

「それはこの前のだろ? 協力するってやつ」

「そうだ。だからこうしているわけだ」

「ちょ、ちょっと待った。え? どういう事?」

「お前……まさか俺が一緒に助けてやるとでも思ってるのか?」

「それは……」

 言葉に詰まる。実際そうだと思ってたし。

「甘いな。そもそも面倒くさい」

 七割方そっちの理由だろ。

「いいか? てめぇが俺に頼ってる時点でお前は弱い。本当に助けたい奴がいるなら少しは自分でもカッコ付けてみやがれ。このヘタレが」

「おい。さりげなく罵倒すんな」

「とにかくだ。てめぇも男なら少しは努力しろって事なんだよッ」

 猛スピードで突っ込んできたキリアが腹部に蹴りを放つ。気付けば俺は地面に伏していた。

「ぐぅッ」

 初めて喰らったキリアの蹴り。想像以上に痛ぇ。

「立て。お前にはとりあえず普段の鬱憤を晴らしたい」

「随分酷い……理由で蹴るな……」

 多少痛みが収まり、立ち上がる。

「お前とは喧嘩なんてしたことないからしらねぇかも知れないが」

「……何だ」

「俺結構強いからな」

 言われなくても知ってる。

「だがな。俺だって最初からそうだった訳じゃねぇ。『あるきっかけ』で俺はここまで来た。それはお前も知っている事だろ?」

「ああ……」

 キリアは少し構えを解き、話し掛ける。

「ここまで言えば分かるよな? 後はそうだ。きっかけだけだ。だったら俺を敵だと思え」

「?」

「セイラを昔可愛がった奴(・・・・・)だと思え」

 そう言ってキリアは再び構えた。

「……」 こいつの言っていることは何となく分かる。後は言われたとおり実行するだけだ。

「……ハッ。中々いい顔しやがるな。それでいい。俺はお前さえ倒せばセイラも巻き込んでやるよ」

 それをさせないために、今俺は、こいつと対峙しているのだ。

「……こいよ」

 それを合図に、キリアの懐に真っ向から突っ込む。

「おぉぉぉ!」

 拳を握り、キリアの腹部を狙って放つ。

 それを簡単に避けたキリアは、太ももでまた俺の腹部を蹴る。

「ぐっ!」

 体が折れた状態の俺を後ろから足払いする。

 右側面をしたたかに打ちつけ、その場にうずくまる。

 クソ……本当に強え……勝てる気がしねぇ……。




「おい」




 酷く冷たい声。見れば、表情さえ氷のようだ。



 そうだ……。こいつは本気でやってる。



 不器用だから、こんな形でだけど。こいつなりに本気で考えてくれているんだ。



 それなら……



 俺はッ!



「くっ……はははっ!」

「何だお前。気が狂ったか?」

 ゆっくりと立ち上がる。体中痛いし、ひざも震えてる。

「そうだ……貴様には負けない。|お前如きに守るべき大切なモノは奪わせない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》!」

「ハッ! 面白ぇ! やっと言いやがったか! それなら手を抜く必要もなさそうだッ!」 言うと同時に走り出すキリア。先程までとは比べ物にならない程スピードが上がっている。

「あぁぁぁぁあ!」 同じく、キリアに向かって走り出す。出来るだけ体勢を低くして。

 キリアが蹴りを放つ。やはり速いが、それに対して、俺もキリアに蹴りを放った。

 お互い当たった。でもやっぱり俺のはまるで効いていないようだ。こっちは吐き気すらしそうなのに。

 倒れそうになるのを何とか堪え、さらにもう一発放つ。

「って!」

 蹴りがキリアに届く前に俺の足を平手打ちした。おかげで勢いを削がれ、随分と軽い蹴りになってしまった。

 やはり経験の差以上の差がありそうだ。

「どうした。あれだけ啖呵を切っておきながらもう終わりか?」

「そんな訳あるかい」

 笑いながらキリアに返す。頭を切り替えよう。全神経をコイツの動きに集中させて、僅かな隙を見つけるか。最も、隙があればだけど。

 キリアの攻撃はほぼ蹴り技だ。まず手はほとんど使わない。そして、足は上手く使えば手より厄介だ。共通の弱点、頭に攻撃を当てにくい為に相打ち、などが出来ない。手よりリーチが長くなるためなおさらだ。

 再びキリアが蹴りを放つ。かなり速い。

 わざと当たりに行く。

「? バカかお前」

「いや……違うな」

 キリアの足を思いっきり掴む。そうだ。コイツに限らず、蹴りっていうのは当たった後に僅かだが力の反動ですぐに引く事は出来ない。

「そして……」

「チッ。離せバカ」

 抵抗するが、絶対離さないよう押さえつける。

「分かったぜお前の弱点!」

 満面の笑みで言ってやる。

 キリアの足を叩きつけるように戻し、その体勢が崩れた一瞬でキリアの後ろをとる。

「チッ! ふざけやがって!」

 すぐに後ろを向こうとするが、もう遅い!

「ここが貴様の弱点だぁぁぁぁ!」

 言いながら、(やっぱり恐らく)弱点の尻尾を掴み上げ、思いっきり引っ張る!

「いててて! おいバカ! 攻撃方法明らかにおかしいだろ!?」

「うるせーこれでしか勝てねぇんだよ!」

「卑怯すぎるだろ!?」

「しかしどうだ! もっと引っ張ってやってもいいんだぞ!」

「ふざけんじゃねぇ! 離さねぇと全てが終わったあとで殺すぞ!」

「……分かったよ」

「なんでそんなにつまんなそうな顔しやがる。ったく……こういう予定じゃなかったんだがな……」

 こちらを向いて、頭を掻きながら言う。

「そうなん? でもキリア手抜きしただろ」

「まあ、少しな。まさか足を掴んでくるとは思わなかったが」

 キリアはあの蹴りの時、わざと足を引くのを遅くしていた。そうでもしなきゃ掴むことなんて出来なかったが。

「まあ、何にせよ。……中々良かったんじゃねぇか?」

「え? ああ、そうだな」

 まあちょっと終わりがアレだが、コイツが伝えたかったのはつまり、

「守る為の力は、場合によっては単純な怒りの力なんかよりよっぽど強いんだよ」

 キリアが言ったがまあ、そうだろうとは思っていた。

「じゃあお前は単純な喧嘩が弱いってことか?」

「ああ、まあな。まあ弱くなる、というのは肉体的じゃなくて精神的な意味だがな」

「ふぅん……」

 何でだ。キリアの方がよっぽど頭悪いのになんか頭良さそうに見えるぞ。

「さてと」

 キリアが言った。

「仕上げするぞ」

 そして再び戦闘モードに入る。

「おう……ってえぇ!? なんで!?」

「なんでってお前……」

 キリアがため息混じりに言う。

「お前力なさすぎだ。よって蹴りの強化をしてやる」

 えー……



「よし、こんなもんか」

「この鬼め……」

「言ってろ」

 ていうか本当に強化したんだろうか……。

「おら、さっさと帰るぞ。腹減った」

「はいはい……」

 そう言って立ち上がる。

 ああそうだ。

「キリア」

「何だ」

 キリアがこちらを振り向く。

「……ありがとな」

「……ふん。そう思うならさっさと飯作りやがれ」

「おう」

 そういってキリアの後を追いかけた。


「つかさ、今何時?」

「八時すこし前だな」

「四時間近くもやってたのかよ!?」


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