鳴神二学年での初試合
前回と打って変わって今回長めです……
「おいキリア。さっさと起きる!」
「あー……あと二日」
「お前はどれだけ寝れば気が済むんだ! 最早死んだようだぞそれは!」
「あーうるせぇ。分かったよ後百分で手を打ってやる」
「そういう問題じゃないだろ!」
キリアから布団を奪い取る。これじゃキリアがまるで子供だ。
「つか、今日休日だろ? いいじゃねえか寝てても」
「そーいう甘い考えがゴールデンウィークぼけを生むんだよ! ……あるか知らないけど」
「分かったよ起きればいいんだろ起きれば」
説得のおかげでようやくキリアがベッドから出る。
「思ったんだけど獣人て尻尾やら獣耳やら生えてんのに抜け毛が少ないな。普通の犬とか凄いのに」
「あーまあそれ自体が髪の毛みたいなもんだからじゃねぇか?」
なるほど。芯がしっかりしているってことだろう。
「他人に興味のないお前のことだから一応言っておくけど、明日は鳴神が試合だからみんなで応援行くぞ?」
「……めんどい」
「そういうと思ったぞ……。とにかく決定事項だから拒否権ないし」
「えーお前だけで行けばいいじゃねぇか」
「やだよ! お前も引きずってでも連れてってやる!」
「あーはいはい」
面倒くさそうに返事するキリア。とりあえず朝食をとらせるためにリビングへと引っ張っていく。
「あーやめろ尻尾にゴミつく。自分で歩くっての」
「なら早く食べちゃえ。この後買出し行くからな。お前もついてくるように」
「寝たい」
コイツ……。
「引きずっていくしかないか」
「せめてもっとマシな方法とれよ」
「ほい。これも持って」
「あー重い。ギブギブ」
「安心しろ。お前なら十分持てる量だから」
「俺蹴りは強いけど握力三なんだよ」
「じゃあ足で持て」
「無茶言うな」
下らない会話をしながらてきぱきと買い物を済ませていく。
「これで、よしっと。キリア。会計行くぞー」
「お前は何も持ってねぇくせに……」
「毎日料理作ってるんだから許容しろよ」
「ちっ」
キリアと会計を済ませると、同じく会計を済ませ、袋に荷物を入れている鳴神の姿があった。
「よう鳴神。ってお前一人なの?」
「……あ、ミソラ。……今日は私が当番」
「明日試合なんでしょ? 頑張って」
「……ん」
試合前日でも全く緊張していないかのようにいつも通りの鳴神。少しホッとする。
「おい早く帰るぞそこのバカップル」
「なっ! おいバカ!」
鳴神の反応をうかがうと何もないかのようにボーっと立っている。……いや、嫌がられるよりはいいんだけれど、無反応というのもまたキツイな……。
「あれ、鳴神部活は? 前日って調整とかするものじゃないの?」
「…………」
……あれ?
「おーい。鳴神ー」
「……あ」
やっと反応があった。何か考え事か?
「聞いてた?」
首を横に振る鳴神。やはり聞いていなかったか……。
「部活はないのか?」
「……午後からある。ただし自主練」
「あー。そういうことか。……ま、明日はみんなで応援行くからさ。頑張れよ」
「……ん」
先にまとめ終えた俺たちは鳴神と別れる。本当は手伝ってもよかったのだが、残念ながらというか当然というか、異性の寮へは入ることができない。
「ふぁ~あ……。さっさと帰って寝ようぜ」
「お前は本当に寝るのが好きなんだな……」
「お前は本当にバカなんだな」
「どういう意味だ!」
「別に。ほらさっさと歩け」
「お前が荷物を持ってるんだろうが!」
帰りも騒ぎながら帰っていく。実に賑やかだ。
あまり寝付けなかった俺はとりえず本を読んで過ごした。
「あー……俺生きてるよな? これ死んでないよな?」
なんとか二時には寝たものの普段はそんなに遅くまで寝られなかったせいか、頭がボーっとしている。
「……うしっ。おいキリア! 起きろ!」
頬を叩いて気合を入れてからキリアを起こしにかかる。というか、昨日はずっと寝ていたわけだし、一体何時間寝ていたのだろうか。
「起きてるよ」
「おう。やっぱ流石にずっと寝てたわけじゃないか」
呼ぶと案外すんなりとベッドから出てきた。起きてはいたがベッドからは出なかったようだ。
「朝飯は?」
「リビングだ。食べ終わったら準備しとけよ」
「お前もな」
「当たり前だろうがっ」
と言っても鳴神の応援なのであまり準備するものはない。
余所行きの服を着た後、キリアから食器を受け取り、洗っていく。その間にキリアに着替えてもらう。なんて効率的なんだ……。いつもはキリアが寝ているせいでここまで上手くはいかないと言うのに……。
「着替えたぞ」
「おう。こっちも終わりだ。じゃあ、集合場所へ向かうぞ」
試合会場はここからバスで三十分行ったところらしい。今から行けば集合時間には十分間に合いそうだ。
キリアと無言で横に並びながら集合場所へと向かう。横目で確認すると、音楽を聴きながら熱心に本を読んでいる。
「何読んでるんだ?」
やっと勉強しはじめたのかと思い、題名を見てみる。
『獣人向け~どうすれば睡眠時間を増やせるか~』
「だらっしゃぁぁ!!」
「うぉ! なんだお前!」
キリアから本を奪い、ゴミ箱へ投げる。実にすばらしい角度へ吸い込まれるように入った。
「なにサボりの本読んでるんだよ! 熱心に勉強してるのかと思った!」
「生きるために必要だろ。アレ」
「そんな生死を分ける魔法の書物じゃねぇよ! 大人になったら読め!」
そんな風に爽やかな朝にふさわしくない、というか完全に近所迷惑な会話を繰り広げていたらいつの間にか集合墓所に着いていた。
「あ、ミソラにキリア! 朝から賑やかだねぇ!」
「おう、北崎。椎名もいるな」
「ええ! ……ちなみにセイラってどのくらい強いの?」
椎名が聞いてくる。確か鳴神は……。
「レギュラーには入ってるが強いわけでもないから、普通だな」
「セイラは頭はいいけど運動は普通レベルだもんねぇ」
「なるほど……うん。セイラが何でもできる完璧獣人じゃなくて安心したわ」
うんうん頷きながら椎名が言う。
「ていうか、誰だって欠点はあるだろ。俺も料理はそこそこ出来るけど頭はそれほどじゃないし」
「それもそうね。……あ、バスが来たわ。早く行きましょう!」
「お前は無邪気にはしゃぐ子供か」
あきれながらバスに乗り込む。ここから三十分。どうするか……。
適当に窓の外を見ていると、だんだん眠くなってきた。特にやることもない俺は、それに逆らわずに眠りへと落ちていった。
「おい! ミソラ!」
「うわっ!」
慌てて目を覚ます。目の前には三人が俺を覗き込んでいた。
「あ、生きてた」
「勝手に殺すな!」
素で驚いている椎名に突っ込む。確かに朝は俺も自分の生死を疑ったが。
「もう着いたんだから、早く降りるぞ」
「あ、もう着いたのか。分かった」
キリアに返事をし、料金をはらってからバスを降りた。