俺の周りは
櫻木町の約三分の一の広さを誇る「黄鶯学園」。周りを森に囲まれ、そこでは小中高の生徒達が学問を学びにやってくる。そして、その広大な学園は入学式と同時に、新学期という儀式を行っていた。
「っていう冒頭聞くとさ、なんかシリアスっぽくね?」
俺は前の席に座る長い耳と尻尾を生やした獣人、キリアに話しかける。
「何がだよ」
そっけなく答えるキリア。茶色がかった髪に、茶色の目。おまけに獣人なので、獣のような毛色だ。
「あー、そういやもう二年なんだな」
「さっきからお前は何なんだ?」
「いや、感慨深くなっただけだ」
「しかし、俺ら全員同じクラスだったとはな」
「ホントだな。ま、知らない奴ばっかよりはいいんじゃねぇか?」
「……まあな」「おいそこの二人組ー。お喋りはよそでしなぁ」
教壇の上から声がかかる。教師だったら最悪の対応だ。
「北崎。お前なんでそこにいる?」
教壇に立っていたのは俺と同じ人間、北崎がいる。
「んー? 聞きたいかい?」
「……早く言えよ……」
北崎は大きく息を吸って宣言した。
「……何となくだっ!」
「やっぱりか!」
「おいライカ。そろそろ担任来るんじゃねぇか?」
「おっとー。マジ? んじゃ戻ろっと」
そういって北崎は短めの金髪を揺らしながら小走りで大人しく席に戻っていった。
「はぁ。全くあいつは何がしたいんだか……」
「さぁな。あいつの考える事は分からねぇからな」
「確かに……」
呆れながら頬杖をつく。
「……つーかさ」
「あ?」
「俺らの周り、知り合いばっかじゃね?」
「……まあな」
前にキリア、俺の左隣には先程の北崎、おまけに右隣には緑色で、一本のほつれもない糸のような髪を肩に広げて眠りこけている獣人、鳴神もいる。いずれもよくつるむ、友人ばかりだ。
「……なにかしらのご縁だろ。ラッキーだと思え」
「そういうもんかな」
ちなみに俺の席は一番後ろなので三方を囲まれている形になる。
「ほらほら二人とも! 担任がくるぜぇ? お喋りはまた後でな。そしてミソラ、セイラを起こしてあげな」
「へいへい。……おい鳴神。おーきーろ」
「んー……」
「ほら起きろって。担任来るぞ」
「……ふぁぁ」
まるで本物の獣のように欠伸をする鳴神。
「……おはよ」
「おはよう。ほらシャキッとしろって。つか、なんで新学期初日から寝てんだよ」
「……昨日寝てなくて」
「なんで」
「……緊張してて」
今時珍しい奴もいたもんだ。新学期で緊張するとは。
「皆さん。席について下さい」
丁度先生が入ってきた。結構年齢はいってて、優しそうなイメージの男性教師だ。
「ではこれからHRを始めます」
それからは定番とも言える担任紹介があり、時計の針は十一時を指していた。
「では今日はこれで終わりなので各人帰る用意をして下さい。寮を使っている方は部屋が移動しますので昇降口にて確認下さい」
「……キリア。お前は寮か?」
「ああ。ここからは遠いんでな」
「そういえばそうだったな」
キリアとは小学からの仲でよく遊んでいた。因みに、北崎も小学から、鳴神は中学からつるんでいる。
「じゃあ、見に行くか。俺も寮だし」
「……私も寮」
鳴神が話に入ってくる。
「おいおい。私を忘れてもらっちゃぁ、困るねぇ」
「なんだ。結局みんな寮か」
「そーなるねぇ」
みんなで教室を出て、部屋割りを確認しにいく。
「やっぱり同じ部屋か!」
何となく予想はしてたけどな!
「おー。セイラと私も同じ部屋だぜ?」
「何だこの法則」
「……運命共同体?」
「人生十六年目にして早くも終末確定!?」
いやまあ、こいつらでも悪くはないが。
「じゃ、私達はあっちだから、セイラ、行こうか! ミソラ! キリア! また明日!」
「おう。また明日な」
「早く行こうぜ。疲れちまった」
「お、おう。じゃあ行くか」
二人並んで廊下を歩く。男子寮は昇降口を出て左側だ。
荷物を受け取り、割り振られた部屋を目指す。
「えーっと……。二階の一番端っこだな。ここだ」
「ふぅん……。ホテルみたいなところだな」
周りを見渡して見ると、清潔感のある白い壁に掃除の行き届いた廊下。しかもおまけにカーペットだ。一年の時は普通にマンションぽかったしなぁ。大変だろうな。維持費。
「こりゃ、慣れるのに時間掛かりそうだな」
「確かにな。よし、開いた。入るぞ」
扉を開ければ、予想した通り、ホテルの一室のようなレイアウト。わざわざダブルベッドで御座います。男二人なんですが?
「机はちゃんと二つあるみてぇだな」
「ああ、勉強机っぽくねぇ位高級そうだな。予算ちゃんと回ってんのか?」
軽く机を叩いてみる。何となくだが。
「んじゃ、荷物まとめるか。キリアはそっちのクローゼット使えよ」
「ああ」
荷物を引っ張り出して、クローゼットに詰めていく。中々面倒な作業だ。
「…………よし、大体片付いたな」
そういやご飯は……。やっぱ一年の時と同じで自炊か?
「おいキリア。お前自炊できるか? 出来ないなら俺がやるぞ?」
「……じゃあお前やれ」
「……分かったよ」
言うんじゃなかったな。余計な面倒事押しつけられた。
「仕方ねぇ……。まあ、今日はご飯もねぇし……ってそうだよ! 買い出し行かなきゃじゃねぇか!」
早速仕送りを使っちまう訳か。
「金はどうすんだ?」
「二人でワリカンな」
「ち。まあいい。じゃあレシート持って来いよ」
「おう。行ってくる」
軽く手を振って部屋を出る。他の生徒達も買い出しに行くようで、廊下には何人か生徒がいた。
ここには、人間と獣人の二種類の「種族」がいる。
一つは人間。一般的に知能に優れ、政治等、戦略的なものが得意だ。
もう一つは獣人。一般的に運動能力に優れ、スポーツでは、上位のほとんどが獣人で埋まっている。
だが、勿論これらには例外も存在する。例えばセイラだ。あいつは獣人にして、運動能力、知能共に高い数値を出している。
前にも言ったが、俺とライカは人間、キリアとセイラは獣人だ。
少し前は差別もあったが、現在は改善された。
「……取り敢えず昼は……軽めにするか。よーし全部揃ったな。戻るとするか」
別に種族があっても、小説で読むような魔法もなければ異世界の生物と戦う訳でもない。当たり前の日々を過ごすだけだ。今までも、これからも