【第4話】マスコット系アイドル、誕生
爆弾工兵部隊の区画は、独特の匂いがした。
火薬と油、それから――甘い匂い。
「……なんだ、この匂い」
「クッキーだね」
即答したのは、アーヴィンだった。
今日も俺は、「メンバー集め」という名の強制召集に付き合わされている。
「クッキー?こんな所でか?」
「計量の訓練を兼ねてるらしいよ。爆弾とお菓子を同じ感覚で扱うんだって」
「いや、どんな奴だよ……」
そう言いながら、奥へ進む。
そこで見たのは――
床に座り込み、楽しそうに爆弾を分解している少年だった。
金髪に金の瞳。
年齢はまだ幼い。
それでも胸元には、場違いな階級章が光っていた。
「ここをこうして……あ、ちょっとズレた」
独り言を言いながら、楽しそうに調整している。
「……やあ」
アーヴィンが声をかけると、少年はぱっと顔を上げた。
「はい?」
そして、にこっと笑う。
「こんにちは!ええと、ボクに何かご用ですか?あ、それとも隊長に取り次ぎましょうか?」
勢いよく、ぴょんと立ち上がる。元気がいい。
金色の瞳がキラキラと輝き、笑うとより幼く見えた。
「ミカエル・フォルテーノ軍曹」
アーヴィンが少年の名前を呼ぶ。
「今日で、ここは終わりだ」
「え?」
ミカエルは、手に持っていた爆弾を抱えたまま固まる。
「アイドル戦士部隊に異動してもらうよ」
「…………」
数秒、沈黙。
それから。
「えっ、アイドル戦士部隊?なんですかそれ?」
きょとん、とした顔。そりゃあそうだろう。
アーヴィンはこれまでのいきさつをざっと説明し、最後に付け加える。
「可愛いマスコット枠が必要なんだ」
だから枠で決めるな。
出かけた言葉を飲み込む。言っても無駄だ。
「ええと……」
ミカエルは、爆弾を見て、俺を見て、アーヴィンを見る。
「この子たちは連れて行っていいですか?」
そうして掲げて見せたのは、さっきまでいじっていた爆弾。
「キャラ付けとして問題ないよ。戦闘に巻き込まれる可能性もあるしね」
「ほんとですか!じゃあ行きます!!」
あまりにもあっさり納得したので、俺は拍子抜けした。
「即決だな」
「あ!でも、もうすぐクッキーが焼けるんです!食べてからでいいですか?」
屈託のない笑顔。
なのに、どこか少しズレている。
そのまま、流れでまた楽屋へ行くことになった。
衣装合わせ。
一面の鏡に映るミカエルは――
黄色の半袖短パン軍服。
手には、ピンク色の爆弾。
「どうですか!」
くるっと一回転。
「……完全にマスコットだな」
俺が正直に言うと、ミカエルは嬉しそうに笑った。
「やった!バッチリ可愛い枠ですね!」
「自覚あるのか……」
「あります!」
そして、例のごとく曲と歌詞が流れ始める。
爆弾が起爆する直前のような電子音に、速いテンポ。
「これが、ボクの曲ですか?」
ミカエルは、歌詞を読み上げる。
《♪Cute&Dangerous 恋は兵器》
《♪ハートを狙って 必中です》
「『守ると決めたら全部消す あなたの涙も 敵も』……」
一瞬、間。
それから、顔を上げて笑った。
「……あれ?これ、ちょっと怖くないです?」
「君の情報をもとにプログラムが出したものだよ」
アーヴィンが悪びれずに答える。
「……へえ」
ほんの少しだけ、ミカエルの声が低くなったような気がした。
一瞬、手に持ったピンクの爆弾を見つめ――歌い始める。
声は澄んでいて、まっすぐで。
子どものようなのに、妙に感情が乗っている。
歌い終えたミカエルは、ぱちぱちと自分で拍手。
「うん、とてもステキな曲ですね!」
「それは良かった。じゃあ、ステージネームを発表するよ」
アーヴィンが、いつもの調子で言った。
端末を操作し、ミカエルの前に差し出す。
「……?」
画面を覗き込んだミカエルは、ぱちくりと瞬きをする。
《ボンバー☆エンジェル軍曹》
「……えっ」
一拍。
「……えへへ、かわいいですね!」
満面の笑みで、そう言った。
「いや、いいのかよ……」
俺が呟くと、
「だって、ボク天使みたいってよく言われますし!」
胸を張る。
「楽しそうですね、アイドル!」
俺は、なんとも言えない気持ちでそれを見ていた。
爆弾を愛でる天使。
可愛いマスコット枠。
なのに。
なぜか、目を離したらいけない気がした。
「よろしくお願いしますね、大尉!」
無邪気に差し出された手を、俺は自然に握り返していた。




