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【第2話】マッスル☆ピュアハート☆大尉初ステージ

――数日後。

俺は、人生で一番意味がわからない部屋に立っていた。


鏡張りの、控室……らしき部屋。

そして、目の前の全身鏡に映るのは――


「…………誰だよ、これ」


筋肉はそのままだ。

顔も俺だ。

だが。


赤と金を基調にした、シンプルな装飾の軍服風衣装。

いや、そもそも軍服風と言っていいのかすらわからない。


二の腕は剥き出し、胸元も完全に開いている。しかも肌の上から直接着ている。


つまり……筋肉、丸出し状態。


「完璧だね」


背後から、聞き慣れた声。

振り返ると、アーヴィンが腕を組んで満足げに頷いていた。


「どこがだよ!?何をどうしたらそう見える!!?」


「大丈夫。機能性はちゃんと考えてあるよ。耐弾繊維、可動域、全部前線仕様」


「問題はそこじゃねぇ!!そもそも、大事な部分が丸出しじゃねえか!!」


俺の叫びを完全無視して、アーヴィンは淡々と端末を操作する。


「はい、決め台詞の練習いこうか」

「やらねぇぞ!?」


「やるよ」

「やらねぇ!!」


「やらないなら、もっと露出を増やそうかな」

「やる!!!!」


俺は即答した。


くそ……!

こいつ、昔から俺の扱いがうますぎる。


「じゃあ、いくよ」


アーヴィンが指示を出す。


「胸を張って、拳を握って、カメラ目線」


「……こうか」


「いいね。そのまま、はい」


俺は息を吸い込み――


「……守るぜ、みんなの命と国境線☆マッスル☆ピュアハート☆大尉、参上だ!!」


沈黙。


耐えきれず目を閉じると、


「……最高」


アーヴィンが、心底楽しそうに言った。


「最悪だろ!!!!」


※※※


「じゃあ次」


アーヴィンは、さらっと言った。


「次?」


嫌な予感が、背中を駆け上がる。


「テーマソングの練習」


「は?」


「アイドル戦士なんだから、歌が必要でしょ」


「……待て。俺、歌うなんて聞いてねぇ」


「聞いてないだけだよ」


アーヴィンが端末を操作すると、控室のスピーカーから前奏が流れ始めた。

上部にあるモニターと連動しているのか、同時に歌詞が表示される。


――やたら壮大で、熱血で、無駄にかっこいい音楽。そして……。


「……いや待て待て待て!!」


「大丈夫。多少の音程のズレは、プログラムが補正する」


「そこじゃねぇ!!」


俺は、画面に表示された歌詞を、呆然と眺める。


《♪震える筋繊維が まだ行けって吠えてんだ》

《♪この速度 誰にも止められねえ 胸の鼓動がエンジンを焼き切る》

《♪アイアン・マッスル・ブレイズ!》


「……これ、誰が書いた」


「僕」


「おい!!」


「正確には、君の情報をもとにプログラムを組んで出した。ぴったりでしょ?」


「なんで誇らしげなんだよ!!!」


「ほら、行くよ。準備して」


「たまには俺の話聞け!!」


「レオン」


名前を呼ばれただけで、反射的に背筋が伸びる。


「……はい」


「じゃあ、3、2、1」


音楽が鳴る。

俺は、恐る恐る口を開いた。


「♪ふ、震える筋繊維が……」


――ひどかった。


自分でもわかる。

音程は迷子、リズムは行方不明。


戦場での咆哮なら誰にも負けないのに、歌になるとどうしようもない。


「ストップ」


アーヴィンが即座に止めた。


「……だろ?無理だって言った」


「無理じゃない」


「どこがだよ!?」


「もう一回。今度は、仲間の顔を思い浮かべて」


その言葉に、一瞬言葉を飲み込む。

俺は、無意識に訓練場の光景を思い出していた。


疲れ切った顔、それでも前に出る背中。


「……わかった」


もう一度、歌う。

今度は、腹から声を出した。


「♪アイアン・マッスル・ブレイズ!」


音楽が止まる。


沈黙。


恐る恐る見ると、アーヴィンが小さく息を吐いていた。


「それでいい」


アーヴィンは真顔で言った。


「音程は修正できる。でも『守りたい』って感情は、本人じゃないと出ない」


「……」


「……やっぱり、君で正解だ」


……真面目なのか、ふざけてるのか。


「やめろ、そういう言い方」


心臓に悪い。


※※※


場所は、いつもの訓練場。

だが今日は、簡易ステージとスピーカーが設置されている。


俺の「アイドル戦士」としてのお披露目……データを取るのだと、アーヴィンは言った。


集められたのは、俺の率いてきた近接戦闘部隊の仲間たちだけ。


「……大尉、何を始めるつもりなんだ?」

「俺も聞きてぇよ……」

「なんだこのステージ?こんなのあったか?」


ひそひそとした声が聞こえる。

俺は深呼吸し、ステージに上がった――あの、二の腕と胸元が剥き出しの衣装で。


その瞬間、ざわめきが広がる。


「なんだ、あの服?」

「どうしたんだ、大尉?」


――覚悟を決めろ、レオンハルク。


「……えー、まず言っとく」


全員の視線が、集まる。


「これは、上からの命令だ」


どよめき。


「俺も意味がわからん。正直、今でもわからん」


一体何事かと、ざわつく仲間たち。


「でも」


拳を握る。


「お前らを、これ以上、折れさせたくない」


静かになる。


「えー……その……だからな」


視線が痛い。


「今日から俺は……その……」


ステージ袖から、アーヴィンが小さく合図を出す。


(言え)


くそっ。


「マッスル☆ピュアハート☆大尉だ!!!!」


一瞬、世界が止まった。


次の瞬間。


「………………は?」


誰かが呟いた。


終わった。

俺の軍人人生、終わった。


――誰も、すぐには反応しなかった。


音楽が流れる。

力強いビート、胸に響く低音。


俺の身体が、勝手に動く。

鍛錬で染みついた動きに、アーヴィンが組み込んだ振り付け。


《♪限界のその先に 火花が散るだろ》

《♪お前を守る そのために燃えるんだ》


歌詞が、喉から自然に溢れた。


……あれ?


歌いながら、俺は気づいた。

仲間たちの顔が――感極まったように、歪んでいる。


「大尉……!」

「……俺たちの、大尉だ……!」


誰かが拳を握り、誰かが歯を食いしばり、誰かが、声を上げて泣いていた。


曲が終わる。


静寂。


次の瞬間、割れんばかりの拍手。


腕に着けた通信機から、アーヴィンの静かな声が聞こえた。


「レオン、ナイスパフォーマンス。士気、過去最高潮」


俺は――ただ呆然と呟いた。


「……いや、なんでだよ」


通信機の向こうで、アーヴィンが小さく笑った気がした。


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