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20代最後のゲイのエッセイ  作者: 赤井獺京


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「四月から社会人の人へ ゲイより」 珈琲を飲むことすらかっこいいと思っていた僕の話。

「四月から社会人の人へ ゲイより」


珈琲を飲むことすらかっこいいと思って苦いのを我慢していた僕は、いつの間にか珈琲しか飲まなくなって大人への憧れも無くなっていた。


高校三年生の僕は早く大人になりたかった。


僕は同級生という「くくり」が嫌いで、同じクラスだから仲良くしなさい、その押し付けが嫌いだった。


だから早く大人になりたかった。働けば同い年だけの空間は無くなる。押し付けは無くなる。僕は年上の相手をする方が気楽だ。


その考えは半分当たっていて、半分間違いだった。


高校を卒業して、地元の発電施設で働きだした僕は上手いこと上司の懐に潜り込むことには成功した。だけど同期なんだから仲良くしなさい、そういった押しつけは無くならなかった。


東京で研修中、同期は40人いた。社会人研修と言って挨拶から、名刺交換の練習、電話対応をした。みんな真面目に取り組んでいた。グループを作って何かのゲームもした。得点を競い合って順位を決めるようなくだらないゲームを。


みんなそれに本気で取り組んでいた。今思えば、くだらないことに真面目に取り組めた方が大人なのかもしれない。


だけど当時の僕は、そのくだらないゲームに本気で取り組む同い年の奴らが嫌いだった。見ていて寒気すらした。


こいつらはなんでこんなゲームに本気で取り組めて楽しめるのだろうか。それは正直、今でも分からない。


それは根本的な、人間性的なものかもしれない。


社会人研修で覚えているのは、やりがいのない仕事でもその中でやりがいを見つけましょうという内容だ。


僕は心の中で言った。


「はあああ?」


よくわからない話を講師はしていた。上司へのお茶くみでも、その中でやりがいを見つけようだとかくだらない話。その中で講師は言った。

「僕は転職をして今の講師の仕事をしているんですが」


こいつ自身やりがい見つけられなくて転職してるじゃん。


そこから講師の話を全てシャットアウトした。全く必要のない話だし、いまだにくだらないと思う。


その講師の授業の最後に感想を書く時間があった。僕は我慢できずに書いてしまった。


「僕はそう思わない」


やりがいのない仕事でやりがいを見つける。そんな無駄なことをする時間は今だってないと思う。


そう書いて提出すると、講師の男は終了後に僕のもとに来た。


「〇〇君、怒ってる?」


僕は笑ってしまった。


「怒っていませんよ、感想なんで正直に書きました。正直に書いてダメなら、感想にもお世辞を書きましょうって講習に入れた方がいいですね」


とは言えずに、怒ってませんよ、とだけ笑顔で返した。


その研修中に、僕は苦くて不味い缶コーヒーをずっと飲んでいた。何も美味しくない。だけど早く大人になりたくて飲んでいた。


僕にとって大人というのは自由で、自分の意見を押し通せるもの。自分が仲良くなりたい人と仲良くすればいい。そういうものだと思っていた。


だけど現実はそんなものではないし、尖っていた僕も大人になったなと思うしかないほどに落ち着いた。


この春から社会人になる人へ。


自分を押し通して生きて行けばいつか、落ち着ける場所は見つかる。


だから早く大人になりたいなら、不味い缶コーヒーを飲んで大人ぶるところから始めよう。


何も考えなくていい僕はそこから大人になった。


そして珈琲の苦さも感じないほどに苦虫を噛み潰してきて、珈琲の苦さは感じなくなった。


その時が大人になったということ、かもしれません。


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