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第1話 二つの封筒

除隊寸前のポンコツ隊員・神上由紀は、長官により“最後の選択”を迫られる。

退職か、未知の領域“海域No.82”での極秘任務か。

精神崩壊、四肢の欠損、最悪死亡—古代生物・異常気象・得体の知れない穴

世界中から集められた問題児たちが挑むのは、人類未踏の海域。

これは、"最底辺"の隊員たちによる“最前線”の戦い。

 カモメがキャーキャーと騒ぎ立てる中、太平洋の中心で大きな母船と小さな小型船がプカプカと浮かんでいた。


「神上由紀、最後のチャンスだ。あそこのブイを中心に旋回しろ!」

「はい隊長!」


メガホンで拡大された声が海に響く。

由紀は小型船の舵を力強く握りしめ大きく回した。


「待てまだ早い!そのままじゃ…」

「あっ」


ドンと大きな音を立てブイは沈んでいった。


「もういい。舵から手を離せ」


隊長が呆れを通り越した顔で俯きながら言った。


「戻ってこい。船にぶつけるなよ」

「はい隊長!あ…」


母船に小さな穴を開けた由紀は隊長に首根っこを持たれ引き上げられた。


「神上。もうお前は失格だ」

「そ、そんな…。もう一度、もう一度だけチャンスをください…!」

「もうチャンスは五回も与えた。もうこれ以上はなしだ」

「じゃあ私はこれからどう食べていけば…。」

「違う職でも探せ!お前みたいな奴に仲間の背中は預けられん!」


由紀には仲間達の励ましも、隊長の怒号も聞こえていなかった。

由紀が潜水装備を外していると甲板に取り付けられている無線が鳴った。


「はいこちら第二母船ガーネル。ただいま試験中である」

「こちら松乃。山下隊長。試験の方は順調かな?」

「松乃長官!試験は…あー、ある者を除き順調であります」

「また神上君の再試験かね」

「はい!ただいま最後の再試験が終わったところであります」

「結果は?」

「残念ながら…除隊となります」


無線の音声は小さかったが山下の声の大きさで会話内容はダダ漏れだった。

少し会話が続き由紀が潜水装備を脱ぎ終える頃、山下が眉間にシワを寄せ由紀の方をチラチラと見ていた。


無線での通信が終わると山下は憂いを含んだ表情で由紀に近づいて言った。


「神上、松乃長官がお呼びだ。早く着替えるんだ」

「え、退職の手続きですか?」

「いいから早くしろ、行けば分かる。」


白いセーラー服に着替えた由紀は、山下と一緒に小型船へ乗り込んだ。

隊長自ら操縦する小型船は大波をものともせず凄まじいスピードで海を滑走し、三十キロほど離れた海上基地に十五分ほどで到着した。


「隊長なぜオリエント基地へ…?」


移動中、しつこいほどの由紀からの質問に沈黙を貫いた山下はここでやっと口を開いた。


「神上。いくら相手が長官でも、嫌なことは断って良いんだからな」

「あの…どうしてここに…?」


その時の山下はやけに優しかった。

基地へと降り立った由紀は山下と共に長官室へと向かった。


木製とは思えない重々しい扉を前に二人は数秒間固まっていた。

いよいよ扉を叩くと中からハスキーな高い声で「入りなさい」と聞こえた。

扉を開けるとそこには大きな机に大きな椅子、そして小さな男が座っていた。


「久しぶりだね山下君。さあ座って」

「失礼致します!」


身長は由紀と同じくらいの百六十センチほど。

しかし、胸には無数の勲章が煌びやかに光り輝いていた。


「神上君。先程映像で君の訓練を見てきたが船の操縦は大層酷いもんだね」


松乃は長い顎髭をいじりながら言った。


「君は船の操縦だけでなく、海図も読めないそうだね」

「か、海図は少しだけ読めます!」

「じゃあこの海図は読めるかな?」


松乃は机に置いてあった海図を由紀に手渡した。


「えー、こっちが南で…いやこっちが北で…」

「上下逆さまだ」


山下が海図を取り上げ机に戻して言った。


「しかし長官、先程の無線での話なんですが…」

「そうだね。本題に入ろうか」


松乃は机の引き出しから二種類の封筒を出した。

片方には白封筒に『退職届』もう一方には茶封筒に『推薦状』の文字が書かれていた。


「単刀直入に言おう。君は右の白封筒か左の茶封筒か。どっちを取りたい?」


由紀は迷わず答えた。


「茶色い封筒の方で!」

「じゃあもうこっちは要らないから捨てちゃうね」


松乃は白封筒をゴミ箱に投げ入れたあと茶封筒を開封した。

中からは二枚の紙が出てきた。


「こっちは私が書く推薦状。そしてこっちは君が書く誓約書。同意の意向があれば名前を書くだけでいい」

「あの、なんの推薦ですか?」

「今は詳しいことは言えない。名前を記入した後に説明することになっていてね」


その誓約書には細い文字がびっしりと書かれていた。しかし、最後の文章だけがとりわけ大きく目立つように書かれていた。


【精神の衰弱、四肢の欠損、または命を失うことがあっても必ず任務を遂行することを誓う】


これを読んだ山下は由紀に囁いた。


「嫌なら断れ…。家族が悲しむぞ…」

「大丈夫です。私に家族なんていませんから」


由紀は書面の右下に自分の名前を書いた。

それを見ていた松乃は先程までとは違った声のトーンで話し始めた。


「よし、この話を聞いたらもう後には戻れないからね。じゃあ最初にこれを」


松乃は小さな四角いバッジを由紀に渡した。


「今から君は新設立チームの一員だ。おめでとう」


そのバッジには太文字でこう書かれていた。


【BOTTOM】 


「ボトム…?」



海域No.82はじっくりと投稿する予定です。

不定期更新(できるだけ開かないよう書きます)ですが、どうぞ読んでってください

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