#7
「やっしゃっしゃっしやっす!!」(初めましてよろしくお願いします!!)
「初めまして君が白咲君かい?」
「はい、よっしゃっしゃっす!!」(はい、よろしくお願いします!!)
「そう緊張することはないさ。」
「うぇっす! しゃっす!」(了解です。お願いします!)
俺は今、初めて生の超大物政治家を見ている。
沢渡修悟、噂に聞いていた、写真でも見たことあるが、随分な色男だこったい。
堀の深い顔に鼻筋が通っており、目は切れ長だが優しさも持ち合わせているが、どこか強い信念を感じる。
Eラインも整っており肌も34の俺より綺麗だ。この人56歳らしいけど嘘やろ。それに、生え際強すぎやろこんなんチートや遺伝子チートや!!
おまけに190cmの長身ときた。警察官僚上がりのバリバリシゴデキのまじ最強男。
「川先生には随分お世話になってね。」
「ああっす、ええっす!!」(そうなんですか、素晴らしいですね!!)
川先生ってのは俺が代議士になる前の宮城3区の衆議院議員だった人だ。
そういやその人と選挙期間中一度も会ってないな。
「帰りは川先生の病院に寄ってからにしようと思う。今日はどこまでですかな?」
「やっしゃっせっす!」(刈田郡までです。)
「彼はなんと?」
「さあ、でも本日は刈田に行きます。実は刈田の方でかなり手こずってまして。」
沢渡先生は今の選挙状況について移動中に聞いてくれた。
今から行くところは、世にも恐ろしい罵詈雑言集団だと伝えた。
先生は君はまだ当選もしてないのに大変なことになってるね、と優しい声で言ってくれた。
大物なだけあって人の心を掴むのが上手いというかなんというか、これが派閥の領袖かと納得させられる。
「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。衆議院議員の沢渡修悟です。」
「……」
俺が最初にミスって以来、全く話を聞いてくれなかった人たちが、沢渡先生がくるからといって集まってくれた。
俺が壇上に上がるや否や何も言ってないのに色々言ってきた人たちでも、先生を前にしたら何も言わないのか。
男性はそのオーラに圧倒され、女性はその妖艶さにうっとりしている。
「彼はこの逆風の中、自由民衆党から出馬すると名乗りを上げてくれました。
私は彼の長いモノに巻かれない強い精神力は政治家としてなくてはならないものだと思うのです。」
「多くの政治家が我が党に見切りをつけ離党していきました。私の派閥の領袖だった人もそうです。
私は彼の裏切りにひどくショックを受けました。今までともに苦楽を共にした仲間が牙を向けてきた、こんなに苦しいことはない。」
やはり、先生の中でもかなりショックだったのだろう。
「皆さんの怒りは当然、我々にも、そしてまだ議員でもない彼にも伝わったいる。むしろ、その怒りのみを知っている純粋な政治家が必要なんじゃなんでしょうか。」
「一番素直に気持ちを受け止めた彼こそ皆さんの心中をそのままぶつけてくれるのではないでしょうか。」
「我々は常々初心を忘れないように心がけております。しかし、感覚というものは記憶ではない、思い出すことはできない。彼はまだ、政治家の感覚が養われてはいないでしょう。」
「だからこそ、一番国民目線の政治家になれると私は思っております。
皆さん、知っていますか? 彼、比例代表の枠を蹴っているんですよ。」
実は、そうだ。
これは慢心とかではなく、純粋に比例復活という制度が気に食わないから。小選挙区で落ちたなら、信はない。
資格がないと思ったから、丁重に断った。
「たくさん新人がいる。閣僚経験者だって当三役経験者だって比例代表に名を連ねている。
こんな肝の据わった男に投票できるのは、簡単に訪れるもんじゃない。」
「確かに、」
「新人のくせ、俺たちの言葉噛み付くこともせず、ただ真摯に向き合って気がするぞ。」
「どうか、彼、白咲義隆をお願いします。」
先生は額を地面につけお願いした。
その姿に、誰もがなにも言えなかった。
弱々しい土下座ではない、票に縋る姿でもない。
ただ、真摯に訴えかけている。
政治が始まった瞬間だった。
***
「白咲くん、ときに政治家の仕事とはなんだと思う?」
「政治家の仕事、ですか、、、。」
なんだ、政策立案、法整備、国民生活をよくする、、、。
こんなところか。
「政策立案でしょうか。」
「それもあるな。」
「では法整備ですか?」
「それもある。」
「なら国民生活を豊かにさることです?」
「それもそれも。」
「ではいったい、何が政治家の仕事なんですか。」
先生は目を閉じ、少し息を吸ってから
「政治家の仕事は、責任を取ることだ。あらゆる選択や結果に、ケジメをつける職業だ。」
「なぜ我々自由民衆党が責任政党であるか、君はこれからの政治でよくよく理解するだろうなあ。」
「????」
先生、もっとわかるように説明してくんなまし。