#6
「沢渡先生、、、って旧浅倉派、峻山会の領袖じゃないか。そんな人がどうして?」
浅倉宗弥の腹心と呼ばれる人間だが、彼の造反には乗らず、最後まで説得を試みていた人。
なぜそんな人が俺なんかのところに。
しかもあの人の選挙区は岡山県で別に深いつながりもないし。
「それは私たちにもわからないことだよ。でもせっかく先生が来てくれるだ。喜ぶべきことだよ。」
「ですね。ところで、日程は。」
「それが、刈田郡に行くときなんだけど、、」
「ああ、」
あの罵声を先生に聞かせるのか。本当に大丈夫なのだろうか、、、、。
*
「いいですか。皆さん、期日前投票はクソジミに票を操作されるかもしれません。必ず、必ず当日、ボールペンを持参しましょう!!」
あんな陰謀論まがいの演説でも俺の演説より拍手喝采、応援が多いのはなぜでしょう。
答えは簡単、みんな不安だからです。
政治への不信感が、人々の感覚を鈍らせるからです。
Q、そんな、じゃあ誰もが錯覚することがあるのですか?
A、YES YES。きっとそれはリテラシーとかの問題じゃないYO。
「さっきから変な動きしてるけど、よしたか君大丈夫?
暑さでおかしくなったのかな。それとも頭をぶつけたのかな。」
「いえ、大丈夫ですよ。安心してください。俺はいつも通りっす。」
「うわっ、正常なのか異常なのか。」
「おーい、義隆くん!!」
「あ、麺王!!」
俺が子供の頃から家族と食べに行く温麺屋の職人、通称麺王こと佐野武則。
遭遇したが最後、麺を押し付けてくるぞ!!!
「いやー選挙に出るんだってね。」
「そうですね。ちょっと忙しくて顔出せてなかったです。」
「いやいや全然いーのいーの。ウチでも応援してるからさ、頑張りなよ。」
「ありがとうございます。」
この人は父の応援もしてくれている白咲家のつながりの深い人のうちの一人だ。
人間関係のパイプの太さや広さも世襲の強いところではあると思う。
この強みを捨てるわけない。
「あとこれ、最近食べてなくて恋しくなってたからだろ。」
「温麺。はい。ありがとうございます。あとでみんなで食べますね。」
箱で渡される。何キロあるんだろう。
*
「お! 義隆研究員じゃないかい!!」
「お久しぶりです、千賀博士。」
エントリーNo.2!! 千賀慎介!!!
とある会社で研究開発をしているマジ博士!
彼はちゃんとすごい人だぜ!
子供の頃はそんなこと知らずに遊んでもらっていたぜ!!
経歴だけで食ってける(適当)だろうぜ!!
「なんかまあよしたか君がおかしくなっている。」
「おかしくないですよ。」
「わぁ、また急に戻った。」
「博士、最近はどんなところですかね。」
「んん、冷却装置ってわかるかい?」
「わかりませんね。」
「OK、最近は君の応援ばかりだよ。選挙頑張ってくれたまえよ。」
「ありがとうございます。」
個人個人単位なら応援してくれている人も確実に存在する。
しかし、それでは高峰の票には遠く及ばず、追いつける気がしない。
彼女の人気にどうやって追いつくのか。
「難しい顔をしているね。」
「そうですかね。」
「ああ、君も色々考えるようになった証拠だよね。」
「そうなんですかね。」
「選挙状況は、、、外から見ていてもわかるよ。」
「やっぱり、厳しいっすよね、、、。」
街に出れば罵声を浴びせられる。
それでもやり切ると、戦い抜くと決めた。
そして、多くの人が預けてくれる権利を、無駄になんてできない。
そう思えば思うほど、現実とのギャップに目を背けたくなる。
「なんだ、政治家じゃないけど、私も研究者で、結果が振るわないなんてのは当然の世界。
ただ、それでも、応援してくれている人がいたから続けてこれた。見てくれている人は必ずいる。
前だけ見てろ、政治家がクヨクヨしてちゃ、みんな不安になるだけだぞ。堂々としてろ!!」
「そう、ですね。」