#5
「白咲義隆です。白咲義隆はこれまでの自由民衆党を変えていきます。どうぞよろしくお願いします。」
「死ねーーー!!」
「消えろー!!!」
「白咲義隆です。〜」
「よしたか君。今日もすごい不人気ぶりだね。」
「やめてくださいよ。冗談でも効きますから。」
「聞いたかい、東京で出馬してる人が襲われたって。」
「なんですかそれは。」
「ジミン憎しで候補者を殴ったんだとさ。犯人はその場で取り押さえられたけど、所持品の中には刃物も
あったそうな。」
「都会は怖いですね。」
「そうだね。ここはまだ言葉だけだからね。」
少しづつではあるが、応援してくれている人も増えてきている。
しかし、状況は未だ悪いままだ。
「皆さん聞いてください。私と同じ選挙区のクソジミの候補、世襲らしいんですよ。
皆さんで落選させましょ〜!!」
「おおおおお!!!」
「高峰さんに攻撃され始めましたね。」
「仕方ないよ。実際世襲だしね。」
県議と代議士では少し世襲と呼ぶべきか迷うが、ここで言い訳するのは違う気がするしね。
「しかも特に考えなしの、絶対温室育ちのボンボンですよ。
あんなのが国民に寄り添えますかね。絶対金目当て。見え見えすぎですよ。
有権者ばかにしてるでしょ。」
「そーだそーだ!!」
「温室育ち、ね。」
「そんなことはないと思うけどね。」
俺だって世襲だ。そういう目で見られてもおかしくない。
でも親父は県議になるまで二度落選している。
小学生の頃なんて叔父さんが食べ物分けてくれてたらしてた。
そんな裕福ではなかったこともあり、少し反論したくはなる。
「我慢だね。」
「よしたか君は忍耐力が売りだからね。」
「皆さん、私は組織票や利権や癒着、、、に負けません。厳しい審判を下しましょう!!!」
*
最近、やたらとたかねねと演説地域が被る。
特に都市部で顕著だ。
白石や名取ではしょっちゅう遭遇する。
ただ、柴田や刈田、伊具ではまあ見ない。
そういえば、いつも同じような地域で演説してたっけ。
「世襲、世襲を許さない。たかねねに任せてください!!
必ず皆さんの生活を良くしますから!!」
「やっぱり人気あるよね、たかねね。」
「だね、容姿も演説も悔しいけど抜きん出てるって言うか。」
「中年男性を中心に根強い人気を誇っているね。ありゃ剥がさないよ。」
彼女が俺に対するネガティブキャンペーンを始めてから、世襲批判が増えるばかりだ。
このままだと本当に落選してしまう。
「でもな、なにも武器がないし。
地道に努力するのが一番いいのかもな。」
まだまだ認知なんてされていないだろうし、一部の人に世襲だと知れ渡ったくらいか。
たぶん、宮城3区の自由民衆党の候補は誰ですか? って聞けば「世襲の人! 名前は知らない!」くらいの知名度。
うん、名がないね。知だけだ。しかも悪評。
「そんなよしたか君にも、実は頼んでた応援演説が一人だけ、来てくれるそうなんだ。」
「マジすか。どちらさんでしょう。」
「沢渡修悟先生ですよ。」