#16
「当選おめでとう」
この声は
「沢渡先生!!」
「厳しい選挙戦だったのによく勝ち抜いたね。」
「はい!!」
と、そう言えば、たかねねが言っていた話、踏み込むべきか否か。
思い切って聞いてみようか。
彼女に言われたことを先生に話すと、先生は不思議そうな顔をして
「そんなことは絶対ない」
「会ったっていうのは」
「それは本当だ。しかし、君の選挙区の敵として激励を送っただけなんだが。」
2人の会話がどんなものか教えていただくと、おそらく、彼女が思い込みが激しくて誤解しているだけなんだろう。
ちょっと話通じない時あったしね。
沢渡先生とたかねねどっちの話信じるかって言われたら当然先生だ。
「晴れて君も自由民衆党の議員として当選したわけだ。」
「いえいえ、」
「自由民衆党には四つの派閥があるな。」
「そうですね。」
「君はウチの派閥に来るんだよ。」
「………………」
そんなこったろうと思ったよ!!
沢渡派は浅倉元会長が大勢の仲間を引き連れて離党した。
いわば大幅な弱体化を受けたわけだ。
少しでも仲間を増やそうとするのは自然、、、だ。
「どうだい?」
あくまでもこちら側に主導権があるように振る舞うが実際は、当然真逆だ。
こんなの恩の押し売りだ。
しかし、受けた恩を仇で返すってのは違う、、、よね。
だが、派閥に入ることが、今の自由民衆党をよくすることに直結することとは到底考えられない。
「派閥に入るのは、、、まだまだ実力不足かと」
「誰だって最初は半端者だ。入ってから学べることもある。」
「先生、とても心苦しいですが、お断りします。」
「そうか、、、。」
先生は表情を少しだけ寂しそうなものにした。
その変化は一瞬だったが、とても悪いことをしているような気になった。
「ただ、先生の派閥に入らず、他の派閥に入るということは有り得ませんから!!」
「はは、そんなことを気にしていたのか。」
「そりゃ、、、」
「いやぁ、当選していきなりの勧誘で怖い思いをさせてしまったね。素直に申し訳ない、すまなかった。」
「そんな、頭をあげてくださいよ。」
一年生ながら幹部に話しかけてもらえるのは今だけかもしれないのに、惜しいことをしたかもな。
だが、俺は別にいい思いしたくて政治家になったんじゃない。
応援してくださる人たちを、幸せにできるか、そんな力があるのか、わからないができる努力は欠かさない。
「そう言えば、他の3人はどうしたんだい?」
「原さんは司総裁に連れて行かれましたね。日宮さんと夢川さんは2人でどこかへ。
私は原さんが帰ってくるのを待っているところでして。」
「そうか、」
司総裁は中継で見た時よりもずっと疲れてそうだったな。
そりゃあそうだよな。交代論は当然出てきているが、きっと参議院選挙が終わるまでは司総裁でいくだろう。
俺たちが次の選挙でできることって何もないしなー。
「沢渡さん、こんなとこでなにやってんですか!!」
先輩の議員たちが沢渡先生を探していたようだ。
「こんなところにいたらマスコミに捕まりますよ。さっさと中に入っちゃいましょう。」
「ちょっとゴタゴタしてて悪いね。それじゃあ私はこれで。」
「はい。」