#11
選挙戦は佳境を迎えていた。
「皆さん、国民の皆さん。私に関する情報は全てデマ!!
今まで騙されてきたじゃないですか。こんな卑怯な手口は与党の仕業に決まってる!!!」
「嘘つけ!」
「よっ、不祥事頻発女王!」
「他にはどんなパワハラしてるんだ〜!」
政治家に対する国民の視線や態度は冷たいものだ。
「見てください!! 皆さん、彼らはジミンから金をもらっているんですよ!!!
そんな悪党に、悪党に乗っ取られた、ままでいいんでしょうか!!」
俺の方はというと似たようなものだ。
「たかねねを狙い撃ちにしたクズ!!」
「よくもぬけぬけと顔を出せたな!!」
「潰れろゴミ野郎が!」
「白咲義隆です。白咲義隆をどうぞよろしくお願いします。」
「白詐欺~!!」
「詐欺やめろー!」
いったい、いつ俺が詐欺をしたんだか。
聴衆はいつも、話を聞いてくれない。論舌もしない。お互い一方的なやりとりだ。
「かなり好調気味ではないか。これは絶望的な差が埋められるかもしれない。」
「たかねねが勝手に自爆しましたからね。それに、沢渡先生の影響も大きい。」
俺は着実に票を積み重ねているのとは対象に、少しづつ票を減らしているたかねね。
全てが俺に流れるとは思わないが、一票流れるだけで差が2票縮まる。約15000人の意思を変えることができるか。
「本当びっくりするよね。実は、川先生が地盤に強く働きかけてくれたらしく、たかねねに不満のある人が君の真摯な姿勢を見て支持を入れ替えつつあると。」
選挙は一人で勝てるほどやわじゃない。
「あ、代表!!!」
それは当然、俺だけの話ではなかった。
たかねねなんて霞む人気者、住山仁。
勢いの萎む彼女への最強の支援者。
「あんなに批判だらけだったのに。」
住山が来ると聞いて、東北や関東、ひいては全国から人が集まる。
それは、俺たちやたかねね個人が集まる人数の比じゃない。
何百、何千人と集まる、集まる。
「彼女は今の日本にとって、かけがえのない存在。腐り切った与党へ切り込む若い力、その中でも彼女にしか果たせないものがある!!
私はそう思っている。」
彼女の不祥事にはなにも触れていなかった。
陰謀論紛いの言い訳もしない。
さすがは国政政党の代表といったところか。
「皆さんも忘れたわけではないでしょう。自由民衆党のこれまでの日本にしてきた行いを、ここでNOを突きつけなければ、彼らはさらに増長しますよ!!」
あれは日本人にはどう映っているのだろうか。
「政治家の仕事は責任を取ることだ。」
沢渡先生の言葉が思い起こされる。
他党批判に明け暮れる野党が政権を握るのは、もう避けようがない。
「俺には、何ができる。」
議員歴もない、強い志も技術や知恵もない俺に。
「俺には、何があるんだ。」
地盤も看板もカバンも親のもの。
「俺は、誰だ。」
上がった評価も先輩のパスありき。
何も持たない俺が勢いづいた他党に何ができるんだ。
「何言ってんだー!! パワハラはどうなってるんだ!!」
たかねねの応援演説中、一人が住山に投げかける。
その声は増幅し、やがて何百何千人という声になる。
「パワハラってなに?」
「さあ? ちょっと調べてみよ。」
「うわ、この音声まじならやばくね?」
今までの声援が反転、急転、怒号が止まなくなる。
住山代表は少し狼狽えており、的確な回答ができずにいた。
その姿を見ていた聴衆にはこう映った。
「ジミンと同じだ。」