異人
僕らはあれら偉人を毛嫌いしていた。生まれながらに恵まれているから僕らを努力不足と好き勝手言い、いざ自分の立場が危うくなるとどこまでも非人道的になる。あれはまさしく生まれながらに貧相を知らないゆえの恐怖だろう。あるいは――大概僕らを虐めているのは生まれ、親、血筋であったのかもしれない。
城塞は変わらず上の豪華、中の危惧、下の衰退。僕らはその字のごとく太陽から身を隠し、ネズミの糞と寝そべって暗い天井を見上げていた。
それくらいの頃だったか。ある人の半端な人生が認められある人でなくなって、その後に続いて上に向かう人が目立った後、それくらいに、どこかからその数多を凌ぐ超人がやってきた。
彼は意味不明な力を自在に使いこなし、思いのままに世界を作り変えていった。上にいた鼻の高い奴らを一掃し、中にいた不貞腐れていた民衆を煽った――けれど下にいる僕らには血の無い目をした。無関心でありながら侮辱する、可哀そうと思いながら蔑む、ひどい目だ。かつての貴族は見向きもしない、しても蔑むのみだったが、あれはそこに偽善的、妄想的、自己満足的な同情を含んでいた。それでなにかしてくれればいいものの、ついにあの日まであれはそうしなかった。
初めは城壁の皆が崇めていた。彼の才能に、変わりつつある歴史に期待していた。それも長くは続かなかった。彼の政策は脆弱であった。ゆえの乱心、戦争。しかし大きくなった土地を平和にする腕などすでになかったのだから、彼はついに役割を放棄して、城に引きこもった。その寸分も開かないカーテンは廃れていく都市に興味を示さなかった。
ついに民衆の不満は爆発した。彼の才能を恐れず立ち向かった。この革命は都市を焼きつくし、多数の死人を出しながらも、城を廃墟とし、あれをひっ捕らえた。
彼の死人よりも顔色悪い様、その血色の無い薄紫の唇はその最後に、弁明した。
「こんなことに意味は無かったんだ」
血が噴き出し、彼の首が転がったとき、民衆は歓喜に溺れた。長きに渡る独裁に終止符を打った。これから平和になるとそう期待した。
がそののち、すぐに都市は崩壊した。次の王を決めると、それを悪人と決めると、また吊って、それを繰り返した。彼らは決して敵わない災いの前に狂乱するしかなく、その果ての無意味に横たわった。
僕にとってこの誰もいない都市は嬉しいものだった。無残に転がる死体もネズミの糞の下。いい様ではないか。その期待、僕は階段をあがって城に、その玉座に座ってみた。一望するはその美しいほどに悲惨な人の末路。ここにある嬉しみはその程度で、僕の期待していた、支配感は無かった。これは僕に力が無いからだろうか。簡単に階段をのぼってしまったからなのだろうか。
いいや、そんなことはどうでもいい。僕にとってこの玉座が思ったよりも大したものではなかっただけなのだから。それにあんな馬鹿を見る強さなど僕には無い。この生まれゆえか。