第十四話
︎︎王国歴725年、王城の大広間にて、その年の叙爵式が盛大に行われていた。
大理石の床に足音が響き、豪華な装飾が施された天井からは、王国の紋章が刻まれた絨毯が広がる。
列を成す若い騎士達は皆緊張した面持ちで待機していた。
彼らの胸元には、まだ磨き上げられたばかりの新たな騎士の徽章が輝いている。
式の始まりを告げる鐘の音が広間に響き渡り、玉座から立ち上がった王がひとりずつ名前を呼び上げていく。
「ウィリアム・ド・モンフォール」
「はっ!」
「トマス・ブラックウッド」
「はっ!」
「ユリウス・セラフィン」
「──はっ!」
次々と呼ばれる騎士の中に、あの日泣いていた少年──ユリウスはいた。
彼の一つに束ねられた栗色の髪が、陽光を受けて柔らかく揺れる。
長いまつ毛が影を作り、鋭い瞳は前だけを見据えていた。
その後、同じく他の騎士達も次々と叙爵され、宣誓を行う。
式典は荘厳な空気の中で続き、王国の新たな騎士達が誕生した。
「久しぶり。来るのが遅くなってごめん」
かつての聖セリア教会だった場所──あの事件から閉鎖されたままの建物の裏庭に、ユリウスは一人立っていた。
隅にひっそりと隠す様に建てられた、三つの墓に向かって静かに声をかける。
「本当はもっと早く来たかったんだけど、休暇を申請する暇もなくて」
「……いや、ごめん。そんなの言い訳だ。ただみんなに会う決心が付かなかっただけ」
ユリウスはどこか居心地悪そうに少し顔を伏せて、爪先で地面の小石を弄った。
「名前、貰ったんだ。前にシスターが三人の大切な人の名前だって言ってたから……勝手に、ごめんなさい」
叱られた子供の様に、言葉の語尾が徐々に小さくなっていく。
「……本当にもう、みんな死んじゃったんだね」
一際小さな声で呟くようにそう口にしたユリウスが、強く唇を噛みしめた。
まるで泣くのを堪えるかの様なその表情には、あの頃の面影が僅かに滲んでいる。
ユリウスは爪先を遊ばせるのをやめ、そっとひとつずつ墓石に視線を移した。
「神父様、ユリウスって名前をくれて……ありがとう」
「シスター……怖い夢を見て眠れない時に、ずっと抱きしめてくれて……ありがとう…っ」
「騎士様……っ…あの、地獄から……救い出してくれて…、ありがとう……っ」
ついに溢れ出した涙が彼の頬を伝って落ちた。
嗚咽をもらしながらも、最後までそう言い切った後──ユリウスは誰もいない裏庭で、気が済むまで泣き続けた。
「これ持ってきたんだ。ぴったりだと思って。花瓶もほら、忘れてないよ」
散々泣き腫らした赤い目で微笑み、手にしていた一輪の花を、中央の墓──リリーの元へとそっと供えた。
「僕、みんなの事ずっと覚えてるよ。あれは正しい事だった。誰がなんと言おうと──僕の中では絶対の正義だ」
その瞳に、ほんの僅かに影が落ちる。
拳を固く握り締め、確かめる様に強く言葉を発し、「また来るよ」と言い残してからその場を去った。
柔らかな風に撫でられ、花が優しく揺れている。
───その夜、王都でまたひとりの貴族が死んだ。




