第十三話
アイヴァンは食堂の隅、一人スープを前に座っていた。
湯気の立たないそれをただ無意味にスプーンでかき混ぜている。
程なくしてすぐ近くの席に、彼と同じ近衛騎士団に所属している三人の騎士が腰掛けた。
「あの作戦今日だよな?」
「ああ、廃棄区域の」
二人は互いに言葉を交わし、一人は遠慮がちにアイヴァンへと視線を向ける。
「君、大丈夫なのか?酷い顔だぞ」
「……ああ。事件の事後処理に追われて寝る間がないだけさ。…ってなわけで、午後まで俺はひと休みとさせてもらうよ」
顔に笑顔を貼り付けそう返事をすると、ほとんど口をつけていない食事を手に立ち上がる。
アイヴァンは彼らを残して一足先に食堂を出た。
彼が去ったのを確認する様に、二人が顔を見合わせる。
「……なぁ見たかあの目の下。酷いなんてもんじゃないぜありゃ」
「仕方ないだろ。相棒があんな事件おこしちゃなぁ」
「だがあの件で今やあいつも時期隊長様だぜ?」
そこへ先程アイヴァンへ声をかけた騎士が口を挟んだ。
「おい!やめないか!不謹慎だ」
そう窘められた二人が軽くあしらう様に手を振り、尚も会話を続けていく。
「へいへい。あの異端も死んだらしいし事件は一件落着だもんな」
「あの例の?死んだのか?」
「自殺だとよ」
「へーそりゃまた結構なこって」
男は肩を竦め、スープの最後を飲み込んだ。
十三時過ぎ、廃棄区域の一角にある旧倉庫にて大規模な摘発作戦が決行された。
非公認の商人の一味が数十名程次々と制圧される中、アイヴァンは倉庫内に山積みにされた違法品の数々を目にする。
中には見るからに異様な品も混ざっており、彼の眉間には次第に深い皺が刻まれていく。
倉庫の奥へと歩みを進め、重ねられた木箱の隙間──その陰に、"それ"を見つけた。
濡れたように黒く流れる長い髪。
ボロ布に包まれた、色のない小さな手足。
幼い顔にはくっきりと涙のあとが残り、その胸元には微かな呼吸の気配すらも感じられない。
──アイヴァンの脳裏にリリーの面影が過る。
見た事もないはずの、幼いリリーの死んだ姿が重なった。
──「あの日の私が救われた…っ!!!!」
──「──ええ、あるいは」
── 上層部は事件を猟奇的な連続殺人として処理し──
── 「かえせ……!かえせよぉっ!!」
アイヴァンの頭の中を、これまでの記憶が渦巻くように回り続ける。
「……はぁ……はぁ……っ」
鼓動が耳を打つ。呼吸が浅く、速くなる。
アイヴァンは立ち尽くしたまま、片手で顔を覆った。
どうすればこの子を助けられた?
どうすればリリーは死なずに済んだ?
彼女を殺したのは間違いだったのか?
一体何が正しかった?
正しいとは何だ?
正義とは────
「…………ああ、そうか。簡単な事じゃないか」




