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第十話


「……なんという事だ…」



 ユリウスに呼ばれてここへやってきたオレアは、この場の異様さに息を飲んだ。


 激しく打ち合うリリーとアイヴァン、腿に槍が貫通し、横たわるローザ。



 この光景を見た瞬間に、彼はすぐに悟った──自分たちが犯してきた罪が、今まさに暴かれようとしている事を。



 それでもオレアは一瞬足を止めるに留め、すぐにローザへと駆け寄り、手にしていた木箱を開いた。


 中には縫合用の針や、包帯、薬草などがぎっしりと詰められている。



「ローザ。このままでは傷が縫えないから、まずはこの槍を抜かなければならない。わかるね?」


 オレアは、心の中で痛みを押し殺しながら続ける。


「……ただ、ここには強い酒もケシもないんだ。君の苦痛は計り知れない」



 青白い顔で小さくローザが頷いた。


「……平気よ…っ、やって……っ」



「……わかった。せめてこれを」


 オレアが薬草の束を包んだ布をローザに噛ませる。



 その薬草には多少の鎮静作用はあるが、この傷では殆ど意味をなさない事を二人とも理解していた。

 ただ、ほんの僅かでもローザを楽にしてやりたい一心で彼は手を動かしていく。



 オレアは槍の柄に手をかけ、深く息を吐いた。


「……いいね?」



 もう一度、ローザが小さく頷く。



 次の瞬間──ゴリッ、と鈍く骨をこする音がした。


 一気に引き抜かれた槍が床に転がり、ローザの体がびくりと跳ねる。



 けれど、彼女は声ひとつあげない。


 ただ脂汗を浮かべ、噛みしめた布の隙間から微かな呻き声をもらすばかりで、一人その苦痛に耐えきった。



 その姿が、返ってオレアの胸を締め付けた。



 木箱から塩水の入った小瓶を取り出しながらローザへそっと声をかける。


「少し沁みるよ。でもこれで化膿は防げるはずだから──ああ、気絶してしまったんだね」



 涙と鼻水で顔を汚した彼女の横顔が目に映り、オレアの頬に睫毛の影が落ちた。


「……その方が幾分か楽かもしれない」



 しばらくして、ローザの傷を縫い終えたオレアがふと気付く。



 ──音が、止んでいる。



 先ほどまで礼拝堂に響いていた金属のぶつかり合いが、いつの間にか終わっていた。

 そこに広がるのは、ただ重く澱んだような静寂。


 その静けさの先、視線を向けた彼の目に映ったのは、アイヴァンに抱かれたリリーの姿だった。


 その胸は、深々と刃に貫かれている。



「……あぁ…っ!リリー……ッ!」


 絶望の叫びをあげたオレアの横を、小さな影が横切った。



「うわぁぁぁぁぁっ!!!」



 ユリウスが、今しがたローザの身体を離れた槍を拾い上げて走り出す。


 その顔を涙で濡らし、重さで足をふらつかせながらも、真っ直ぐにアイヴァンへと迫って行った。



「ユリウス……っ!?」


 走るユリウスに気付き、オレアも咄嗟に身体を動かす。

 だが、彼の引き摺る足では追いつけるはずもなかった。



 ユリウスは、もう止まらない。



 その勢いのまま、短く構えた槍の切っ先をアイヴァンの腕に突き刺す──けれど、子供の僅かな力では少しの傷を残すばかりで、彼は微動だにもしない。


 ただ黙って静かにリリーを抱きしめ続けているだけだった。



「かえせ……!かえせよぉっ!!」




「……うぅ、わぁぁぁぁぁん……っ!!」



 深夜の礼拝堂にユリウスの泣き声だけがいつまでも響き渡っていた。



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