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気がつくと、保健室のベッドの上にいた。足の下に挟まれた枕が少しばかり邪魔だ。起き上がると保健室内のデスクで仕事をこなしていたらしい養護教諭が近づいてきて、気分はどうかと聞かれた。「大丈夫です。」と答えると、来室記録用紙と鉛筆を渡されたので、簡単に書いて渡すと、もう少し寝ていなさい、と言われてしまった。布団を被り直して横になり、倒れた時のことを思い返して、思わず胸が高鳴る。なかなか上手くいった。想定より大事になってしまったが、ほぼ思い描いたとおりにことが進んだ。
私がそのことに気が付いたのは三日前の夜だ。いつものように某サイトにななちゃんシリーズの投稿を終え、他の人の投稿を漁っていた時、それは不意におすすめ欄に表示された。無題で、ハッシュタグも何も無い。ただ、制服姿の女子高生のシルエットが描かれた表紙に惹かれ、開いてみた。アカウント名は「@777.27」で、かなりの投稿数だ。たまに短編もあったが、主にシリーズ物の小説を投稿しているらしい。シリーズの一話目を開くと、登場人物の設定が事細かに書かれていた。主に二人の人物の視点で進む物語のようで、一人目の名前は「莉保」、二人目は「菜々子」とある。莉保と実保、自分と似た名前だからか、なんとなく、もっと読んでみよう、という気持ちになり、二ページ目の「あらすじ」に進む。内容はこうだ。「莉保と菜々子は高校生で、仲が良く、同じ二年B組の生徒である。ある日、莉保が貧血を起こして、菜々子がそれを介抱することになるが、その時、菜々子は自分が莉保の体調不良に性的興奮を感じていることに気がつく。特別仲がいいだけに罪悪感と高揚感が入り交じった複雑な気持ちになりつつも、魅了されてしまう。」
面白そう、かも。
@777.27さんは色んなシチュエーションで莉保の体調不良を描いていて、文章に好みが滲み出ていた。日常に沢山ころがっていそうな、ちょっとした体調不良だ。頭痛、貧血、立ちくらみ、などなど。読みやすいし、なんだかストーリーに妙な生々しさがあった。
莉保が体調を崩す度に菜々子は嬉しくなってしまうのだが、同時に大きい罪悪感を抱えていて、読んでいる側も複雑な気持ちになってくる。たしかに、莉保側からすれば菜々子はただの親友でしかないわけで、そんな難しい感情を抱かれているなんて夢にも思わないだろう。
短編の方も覗いてみると、これも莉保と菜々子が主役だった。同じくシリーズで小説を書いている身としてはよく分かるのだが、多分、不意に書きたいシチュエーションが思いついたものの、ストーリーの構成上シリーズにねじ込むことが難しい、というような物を短編で投稿しているのだと思う。短編作品は大体十作品ほどあり、ひとつひとつみていると、不意に『低気圧』という題のものに目がとまった。私も低気圧は大の苦手なので、これも読んでみる。すると、ある違和感に気がついた。以下は『低気圧』の文章を抜粋したものだ。
「六月二日、今日は生憎の曇天である。二時間目の授業中、菜々子は莉保を見ていて、彼女の体調を察した。いつも授業中はほぼ真面目に前を向いている彼女が、机に突っ伏している。起き上がる度、こめかみを抑えている。不調の滲む彼女の仕草に、思わず菜々子は自らのショーツを濡らした。授業開始から約30分、残り20分の授業を残して、莉保は保健室へ向かった。」
すごいデジャブ感。六月二日、二時間目の授業中、私は低気圧不調を原因に、多分残り二十分くらいの授業を途中退出したのだった。授業時間が残り半分も無かっただけに無念だったので印象に残っている。そう思うと、他の作品にも身に覚えのあるシチュエーションがいくつかあった。あまりにも一致する点が多いのである。莉保、実保、名前が似ているのも私がモデルの小説だからなのではないか。私は少しの恐怖感を覚えた。偶然にしては少し不自然だ。二年B組なのも同じ。ということは、これを書いたのは同じクラスの誰かだろうか。もしこれがただの偶然でないのならば、私をこういう目で見ている人がクラスにいるのか。菜々子が女子なので、投稿主も女子の可能性が高い。
菜々子、菜々子、、二年B組には菜々子に似た名前の女子が四人いる。一人目は奈々子、二人目は美那子、三人目は直子、そして雛子、朝稲雛子だ。もし、莉保を私の名前である「実保」と近い名前にする目的で莉保としたのならば、きっと「菜々子」も投稿主の名前と似ているのではないかと考えたのだ。
一人目の奈々子は多分違う。読みが一緒なので真っ先に頭に浮かんだ人物なのだが、違うと思う。なぜなら、きっと彼女は文章を書くこと自体好きじゃないから。根拠としては、いつかの国語の授業のグループワークで、五人一組にテーマだけが与えられ、短めの小説を合作するというものがあったのだが、そのとき、たまたま同じチームだった彼女の作文に対する姿勢である。思わず、そんなに嫌?と聞きたくなるほどのものだった。五分に一度は「私こういう作業嫌いなんだよねぇ」という旨の発言を繰り返していたし、完成したものも、言っちゃ悪いが駄文だった。そんな人間がこんなに大量になるまでマメに小説を投稿するわけが無い。ので、おそらく違う。




