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六月の、日曜の昼下がり。自宅の自室でパソコンに向かう三保谷実保の表情は、その日はじめての甘味を口にした時くらい緩んでいた。なぜなら、好きな人のことを考えていたから。
うん、今回のはいいかんじ。
パソコンに表示された無数の文字。好きな人がモデルの小説を不定期でネットの小説投稿サイトに投稿するのが、私のささやかな趣味だった。
私の好きな人というのは、高校のクラスメイトで親友の朝稲雛子という女子だ。好きになるのは人間性なので性別はあまり気にしていないというだけだが、あえて分類するのならばバイにあたる。
私の小説に深みなどはない。ななちゃんのどこが可愛いとか、ここが好きだとか、そういうことしたいだとか、ただの手に余る感情のはけ口だからだ。投稿頻度もまちまちだし、すごくゆるい感じでやっている。とはいえ、物語の構成はちゃんとこだわっているし、読書は好きなので文章力にもそこそこ自信がある。たまに気まぐれで昔書いたものを読みかえしてみても、なかなか読み応えのあるものになっているのではないかと思う。実際、この「ななちゃんシリーズ」の読者はまあまあいる。三日前にサイトの作品詳細欄を確認したときには三百くらいブックマークがあったと思う。
まだ日曜の十四時だなんて絶望的だ。それは、明日が月曜日で、つまりななちゃんに会える日で、つまり幸せだからだ。